グループ間取引の「書類保存特例」とは?シェアードコスト等の実態確認に備える実務ポイント
- 安田 亮
- 4月7日
- 読了時間: 5分
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正で、企業グループ内取引に関する新しいルールとして「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」が創設されます。これは、関連者との一定取引について、支払額の算定根拠などが請求書・契約書等に十分記載されていない場合、不足情報を補う書類の取得・作成・保存を義務付けるものです。
ここで重要なのは、この特例が取引価格の妥当性(高い/安い)を直接問う制度ではなく、取引実態を客観的に確認することが目的とされている点です。
一方で、保存が不十分だと青色申告の承認取消事由等に該当し得るため、企業側(特に支払側)は早期の体制整備が不可欠になります。
本日は、制度の概要と、実務で準備すべきポイントをわかりやすく解説します。
1. いつから対象?適用開始は「令和8年4月1日以後」の関連者取引
本特例は、令和8年4月1日以後に行なわれる関連者との取引が対象となります。
グループ内取引は毎月・毎期継続するものが多いため、「制度開始後に慌てる」のではなく、2026年4月に間に合うように事前に棚卸ししておくのが現実的です。
2. なぜ新設?「経費配賦の根拠が出ない」問題への対応
制度の背景として、税務調査でグループ内取引を確認しようとしても、請求書や契約書等だけでは
何の役務(サービス)かが抽象的
どういう基準で配賦したのかが不明
親会社(特に国外親会社)が根拠資料を保有しており、子会社から提出できない
といった理由で、支払額の実態確認ができないケースが把握されていたことが挙げられています。そこで、クロスボーダー取引に限らず国内も含め、実態確認のための書類保存を強化する制度として整理されています。
3. 何が義務?「記載が足りない場合」に補完資料の取得・作成・保存が必要
特例の基本構造はシンプルです。
関連者との特定取引について、注文書・契約書などの取引関連書類に、
資産・役務提供の明細
対価の額の計算の明細(算定根拠)
など、対価算定に必要な事項の記載・記録がない場合、その不足事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得または作成し、保存しなければならない、というルールです。
そして、保存されていない場合は青色申告の承認取消事由等になり得ます。罰則っぽく見えない条文でも、実務インパクトは大きいので注意が必要です。
4. 「関連者」の範囲は国内外を問わない(移転価格の考え方を援用)
特例でいう「関連者」は、移転価格税制における関連者と同様の基準で判定するとされます。移転価格税制が「国外関連者」を対象とするのに対し、本特例の「関連者」は国内外を問わない点がポイントです。
つまり、日本国内のグループ会社間取引でも、条件を満たせば対象になり得ます。
5. 対象取引は?「無形資産」と「一定の役務提供」が中心
本特例の対象となる「特定取引」は、取引実態が分かりづらく、対価算定の根拠が曖昧になりやすい領域に絞られています。
<無形固定資産の譲渡・貸付け>
工業所有権や技術に関する権利、著作権等が例示されています。
<一定の役務提供(サービス)>
経営管理・指導等のほか、関連者の知識経験等の経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動に関する役務が挙げられています。
とくに実務で問題になりやすいのが、いわゆるシェアードコスト取引(共通業務の集約・費用配賦)です。研究開発、広告宣伝、システム維持管理などの共通業務を一社に集約し、費用を他社へ請求する取引として説明されています。
6. 企業が今からやるべき準備:保存すべき“根拠資料”の設計
制度趣旨は「価格の妥当性」ではなく「取引実態の確認」である以上、対応の肝は、何に対する支払なのかを客観的に示すことです。そのために、次のような資料を“取れる形”に整えておくのが実務的です。
<シェアードコスト(配賦)の場合に用意したいもの>
対象業務の説明(何の業務を誰が提供したか)
配賦対象範囲(どの会社が受益者か)
配賦基準(人員数、売上高、利用量、工数など)とその合理性
元費用の内訳(勘定科目・明細)と、配賦計算シート
グループ内契約(サービス契約/SLA)や社内規程、稟議・承認記録
<無形資産(著作権・技術等)の場合に用意したいもの>
対象権利・使用範囲・期間・地域などの条件
対価の算定ロジック(定額、ロイヤルティ率、売上連動など)
根拠資料(評価資料、計算過程、比較情報の整理 など)
「詳細は親会社が持っているから出せない」状態は、制度の想定する課題そのものです。
国内子会社側でも説明できるよう、取得できる資料・作成すべき資料をあらかじめ決めることが重要になります。
7. 実務チェックリスト(導入前の棚卸し用)
最後に、導入前に確認したいチェック項目をまとめます。
関連者(国内外)の取引で、対象になりそうなものは何か
請求書・契約書に「役務明細」「算定明細」が十分に書かれているか
書かれていない場合、補完資料を「取得できる/作成できる」設計になっているか
保存は電子で足りるか、社内の保管場所・責任者は明確か
税務調査時に、説明できる形で資料を提示できるか
まとめ:2026年4月開始に向け、グループ内取引の説明可能性を高める
令和8年度税制改正の書類保存特例は、グループ内の無形資産取引や一定の役務提供(シェアードコスト等)で、対価算定の根拠が見えにくい場合に、補完資料の取得・作成・保存を求める制度です。目的は取引実態の確認であり、対応のポイントは「何に対する支払か」を客観資料で示せるようにすることです。




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