人材確保等支援助成金とは?7つのコース・助成額・申請時の注意点を公認会計士・税理士が解説
- 安田 亮
- 6月30日
- 読了時間: 12分
こんばんは!代表の安田です。
人手不足が続く中で、多くの中小企業にとって「人材の採用」と「定着」は大きな経営課題になっています。
せっかく採用してもすぐに退職してしまう、外国人労働者の受け入れ体制を整えたい、テレワークを導入して働きやすい職場にしたい、建設業で若年者や女性が働きやすい環境を整備したい。
このような課題に取り組む事業主が活用を検討したい制度が「人材確保等支援助成金」です。
人材確保等支援助成金は、魅力ある職場づくりに向けて、雇用管理の改善、労働環境の整備、人材確保、職場定着に取り組む事業主や事業協同組合等を支援する助成金です。
本日は、人材確保等支援助成金の概要、主なコース、助成額、申請時の注意点、会計・税務上の取扱いについて、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。
人材確保等支援助成金とは
人材確保等支援助成金とは、労働環境の向上や雇用管理の改善を通じて、人材の確保・定着を図る事業主等を支援する助成金です。
近年は、採用難、人件費の上昇、離職率の高さ、働き方の多様化、外国人労働者の増加、建設業における担い手不足など、企業の人材に関する課題は複雑になっています。
人材確保等支援助成金は、単に人を採用した場合に支給される助成金ではありません。
賃金制度や人事評価制度の整備、職場環境の改善、外国人労働者への配慮、テレワーク制度の導入、建設分野における人材確保など、職場の魅力を高める取組を支援する制度です。
事業主は雇用保険に加入していることが前提
人材確保等支援助成金を活用するには、原則として事業主が雇用保険の適用事業主であることが前提です。
雇用保険の加入手続きが適切に行なわれていない場合や、労働保険料の滞納がある場合などは、助成金の対象外となる可能性があります。
また、各コースごとに細かな要件が設けられています。
たとえば、計画届の提出が必要なコース、離職率の低下が必要なコース、過去に同種の助成金を受給していると一定期間申請できないコースなどがあります。
そのため、「制度を導入した後に助成金を申請すればよい」と考えるのではなく、取組を始める前に要件を確認することが重要です。
人材確保等支援助成金の主な7つのコース
人材確保等支援助成金には、複数のコースがあります。
2026年6月時点で確認しておきたい主なコースは、次の7つです。
雇用管理制度・雇用環境整備助成コース
中小企業団体助成コース
建設キャリアアップシステム等活用促進コース
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース
作業員宿舎等設置助成コース
外国人労働者就労環境整備助成コース
テレワークコース
以下、それぞれの概要を見ていきます。
1.雇用管理制度・雇用環境整備助成コース
雇用管理制度・雇用環境整備助成コースは、雇用管理制度や業務負担軽減機器等を導入し、雇用管理の改善と従業員の離職率低下に取り組む事業主を支援するコースです。
対象となる雇用管理制度には、主に次のようなものがあります。
賃金規定制度
諸手当等制度
人事評価制度
職場活性化制度
健康づくり制度
職場活性化制度には、メンター制度、従業員調査、エンゲージメントサーベイ、1on1ミーティングなどが含まれます。
また、従業員の直接的な作業負担を軽減する機器・設備等を導入する場合も対象となることがあります。
令和8年度の最新情報では、賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度については1制度あたり40万円、職場活性化制度や健康づくり制度については1制度あたり20万円が助成される場合があります。賃金要件を満たす場合には、助成額が上乗せされることがあります。
業務負担軽減機器等の導入については、対象経費の2分の1を助成し、一定の賃金要件を満たす場合には助成率が上がることがあります。
このコースで特に重要なのが、離職率の低下です。
制度を導入するだけでなく、評価時離職率を計画時離職率より低下させることが求められます。人数規模が10人以上の場合は、原則として評価時離職率を計画時離職率より1%ポイント以上低下させる必要があります。人数規模9人以下の事業所では、離職率を現状維持することが求められます。
また、評価時離職率は30%以下である必要があります。
2.中小企業団体助成コース
中小企業団体助成コースは、事業協同組合等の中小企業団体が、構成中小企業者の人材確保や職場定着を支援するための事業を行った場合に利用できるコースです。
たとえば、構成企業のために合同企業説明会を実施する、採用支援事業を行なう、職場定着に関する研修を実施するなどの取組が考えられます。
助成額は、支給対象経費の一定割合とされ、団体の規模に応じて上限額が設定されています。
このコースは、個別の会社が単独で申請するというより、事業協同組合や業界団体などが、構成企業全体の人材確保・定着を支援する場合に活用しやすい制度です。
3.建設キャリアアップシステム等活用促進コース
建設キャリアアップシステム等活用促進コースは、建設分野において、建設キャリアアップシステム、いわゆるCCUSを活用した雇用管理改善の取組を支援するコースです。
建設キャリアアップシステムは、技能者の資格、就業履歴、社会保険加入状況などを登録し、技能や経験に応じた適切な処遇につなげるための仕組みです。
このコースでは、建設技能者の能力や経験に応じた処遇改善を目的として、CCUSを活用した雇用管理改善を行う中小建設事業主や、構成員に対してCCUS登録費用等を補助する建設事業主団体などが対象となります。
建設業では、若手人材の確保や技能者の定着が大きな課題です。CCUSを活用して技能者の処遇改善やキャリアの見える化に取り組む企業にとって、検討余地のある制度です。
4.若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コースは、建設分野において、若年者や女性労働者の入職・定着を図るための取組を支援するコースです。
たとえば、職場見学会、現場体験、研修、広報活動、女性が働きやすい職場環境づくりなどが考えられます。
建設業では、長時間労働、体力的な負担、現場環境の問題などから、若年者や女性の採用・定着に課題を抱える企業も少なくありません。
このコースは、建設業界における人材不足への対応として、若年者や女性にとって魅力ある職場づくりを後押しする制度です。
5.作業員宿舎等設置助成コース
作業員宿舎等設置助成コースは、建設分野における作業員宿舎、賃貸住宅、女性専用作業員施設などの設置・整備を支援するコースです。
たとえば、建設工事現場に女性専用作業員施設を賃借する場合や、一定の地域において作業員宿舎・賃貸住宅を確保する場合などが対象となることがあります。
建設現場では、遠方の現場で働く作業員の宿舎確保や、女性が安心して働ける施設整備が重要です。
このコースは、建設労働者の就業環境を整備し、人材確保や職場定着につなげることを目的としています。
6.外国人労働者就労環境整備助成コース
外国人労働者就労環境整備助成コースは、外国人労働者が安心して働ける就労環境を整備し、職場定着に取り組む事業主を支援するコースです。
対象となる取組には、次のようなものがあります。
雇用労務責任者の選任
就業規則等の多言語化
苦情・相談体制の整備
一時帰国のための休暇制度の整備
社内マニュアルや標識類等の多言語化
このうち、雇用労務責任者の選任と就業規則等の多言語化は必須とされています。
助成額は、1制度導入につき20万円、上限額は80万円とされる場合があります。
外国人労働者を雇用する場合、言語の壁、文化の違い、労働条件の理解不足、相談体制の不足などが離職の原因になることがあります。
就業規則や労働条件を母国語等で理解できるようにすること、相談窓口を整備することは、外国人労働者の定着だけでなく、労務トラブルの予防にもつながります。
このコースでは、就労環境整備措置の実施後一定期間の外国人労働者の離職率が15%以下であることなど、離職率に関する要件もあります。
7.テレワークコース
テレワークコースは、適切な労務管理のもとでテレワークを制度として導入・実施し、人材確保や雇用管理改善の効果をあげた中小企業事業主を支援するコースです。
テレワークは、育児や介護との両立、通勤負担の軽減、遠隔地人材の活用、採用力向上などにつながる働き方です。
令和7年4月1日の改正により、テレワークコースでは、事前にテレワーク実施計画を提出して認定を受けることが不要となっています。
助成には、制度導入助成と目標達成助成があります。
制度導入助成は、テレワーク制度を導入し、一定の取組を実施した場合に支給されます。
目標達成助成は、テレワーク制度の導入後、離職率等の目標を達成した場合に支給されます。
テレワークコースの目標達成助成では、制度導入後離職率が制度導入前離職率以下であること、制度導入後離職率が30%以下であることが必要です。
また、過去3年以内にテレワークコースの支給を受けていないことや、令和4年度以降にテレワークコース実施計画書の認定を受けていないことなど、過去の受給・認定状況も確認が必要です。
計画届の提出が必要なコースが多い
人材確保等支援助成金では、多くのコースで、事前に計画や計画届を作成し、所轄の都道府県労働局に提出する必要があります。
助成金は、制度導入後に「そういえば使えるかもしれない」と気づいても、原則として間に合わないことがあります。
たとえば、雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでは、雇用管理制度等整備計画を作成し、管轄労働局の認定を受ける必要があります。そのうえで、計画に基づき制度や機器を導入し、離職率低下などの要件を満たす必要があります。
一方、テレワークコースのように、近年の改正で事前の実施計画認定が不要となっているコースもあります。
このように、コースごとに手続きが異なるため、必ず最新のパンフレットや支給要領を確認することが大切です。
離職率要件に注意
人材確保等支援助成金では、離職率に関する要件が設けられているコースがあります。
代表的なものは次の3つです。
雇用管理制度・雇用環境整備助成コース
外国人労働者就労環境整備助成コース
テレワークコースの目標達成助成
雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでは、評価時離職率を計画時離職率より低下させること、かつ評価時離職率が30%以下であることが必要です。
外国人労働者就労環境整備助成コースでは、外国人労働者の離職率が15%以下であることが要件となります。
テレワークコースの目標達成助成では、制度導入後離職率が制度導入前離職率以下であること、かつ制度導入後離職率が30%以下であることが必要です。
なお、離職率要件が明示されていないコースであっても、一定期間において雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないことが求められる場合があります。
助成金の活用を検討する場合は、制度導入の内容だけでなく、直近の退職者の状況や退職理由も確認しておく必要があります。
過去に助成金を受給している場合の制限
人材確保等支援助成金では、過去に同種の助成金を受給している場合、一定期間は再度申請できないことがあります。
たとえば、雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでは、過去に雇用管理制度助成コース、人事評価改善等助成コース、介護福祉機器助成コース、設備改善等助成コースなどの助成金を受給している場合、最後の受給決定日の翌日から3年間が経過していなければ支給を受けられないことがあります。
外国人労働者就労環境整備助成コースでも、過去に同コースの助成金を受給している場合、最後の支給決定日の翌日から3年間が経過している必要があります。
テレワークコースでは、過去3年以内に同コースの支給を受けていないことや、令和4年度以降にテレワークコース実施計画書の認定を受けていないことが求められる場合があります。
過去の助成金受給歴は、申請前に必ず確認しましょう。
税務上の取扱い
人材確保等支援助成金を受け取った場合、法人であれば原則として収益に計上され、法人税の課税対象となります。
個人事業主の場合も、原則として事業所得の収入金額に含まれます。
助成金は「税金がかからない収入」と誤解されることがありますが、通常は課税対象です。
また、人材確保等支援助成金は、雇用管理改善、職場環境整備、制度導入等に対する助成金です。設備や機器を導入する場合には、その支出が消耗品費、修繕費、工具器具備品、機械装置、ソフトウェアなど、どの勘定科目に該当するかを確認する必要があります。
固定資産に該当する機器等を取得し、その取得費に対して助成金を受け取る場合には、一定の要件を満たせば圧縮記帳の適用を検討できるケースもあります。
ただし、すべての助成金で圧縮記帳が使えるわけではありません。助成金の交付目的、対象経費、取得資産の内容を確認したうえで、税務処理を判断する必要があります。
消費税については、助成金収入そのものは通常、課税売上には該当しません。一方で、助成対象経費に係る消費税の仕入税額控除や、税込・税抜の取扱いには注意が必要です。
人材確保等支援助成金が向いている事業主
人材確保等支援助成金は、次のような事業主に向いています。
従業員の離職率を下げたい
賃金制度や人事評価制度を整備したい
メンター制度や1on1ミーティングを導入したい
従業員の健康づくり制度を整えたい
業務負担を軽減する機器を導入したい
外国人労働者が働きやすい環境を整備したい
テレワークを制度として導入・拡大したい
建設業で若年者や女性が働きやすい職場をつくりたい
建設キャリアアップシステムを活用したい
一方で、助成金を受けることだけを目的に制度を導入するのはおすすめできません。
雇用管理制度やテレワーク制度は、導入後も継続して運用していく必要があります。形式的に規定を作るだけでは、従業員満足度や離職率の改善にはつながりません。
助成金はあくまで、職場環境改善や人材定着の取組を後押しする制度と考えることが大切です。
まとめ
人材確保等支援助成金は、人材の確保・定着を目的として、雇用管理改善や労働環境整備に取り組む事業主等を支援する助成金です。
主なコースには、雇用管理制度・雇用環境整備助成コース、中小企業団体助成コース、建設キャリアアップシステム等活用促進コース、若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース、作業員宿舎等設置助成コース、外国人労働者就労環境整備助成コース、テレワークコースがあります。
多くのコースでは、事前に計画届の提出や労働局の認定が必要です。また、離職率の低下、過去の助成金受給歴、事業主都合による離職の有無なども重要な確認ポイントになります。
助成金を活用する場合は、制度の導入内容だけでなく、就業規則・賃金規定・雇用契約書・出勤簿・賃金台帳・離職状況・過去の受給歴まで含めて、早めに確認しておくことをおすすめします。




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