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分掌変更に伴う退職給与該当性

安田 亮

おはようございます!代表の安田です。


企業の役員変更に伴う退職給与の取扱いは、税務上の重要な論点の一つです。2024年5月23日に関東信越国税不服審判所が下した裁決(関裁(法)令5第43号)は、分掌変更に伴う退職給与の損金算入可否に関する重要な判断を示しました。

本記事では、その裁決内容を整理し、企業が取るべき対応について解説します。


1.裁決の概要

本件は、不動産賃貸業等を営む法人が、代表取締役から取締役への分掌変更に伴い、退職給与として金員を支給し損金算入したところ、税務当局がこれを否認し、法人税の更正処分を行ったことから争いとなったものです。関東信越国税不服審判所は、「本件は実質的に退職したと同様の事情に該当しない」として、納税者の請求を棄却しました。


2.退職給与として認められるための要件

法人税法では、役員の退職給与は、実際の退職がなくとも「実質的に退職と同様の事情」がある場合に損金算入が認められることがあります(法基通9-2-32)。具体的には、以下の要件を満たすことが求められます。

  • 分掌変更後の役員給与の激減(概ね50%以上の減少)

  • 役職・職務内容の大幅な変更(経営上の主要な地位からの退任)

  • 経営への関与の大幅な低下


この基準を満たす場合、退職給与としての支給が認められる可能性があります。


3.本件の争点

本件における最大の争点は、分掌変更後も「実質的に退職と同様の事情」に該当するか否かでした。

審判所は以下の点を考慮し、「実質的に退職とは言えない」と判断しました。

  • 分掌変更後も経営上主要な地位を保持

    • 役員報酬の額が変更されておらず、現代表者の5倍の報酬を得ていた。

    • 会社の資金管理および経理業務を継続して担当し、経営に引き続き深く関与していた。

  • 役職の変更は形式的なもの

    • 分掌変更前後で業務内容がほぼ変わらず、実質的な退職とは認められなかった。


4.企業が取るべき対応

この裁決から、企業が役員の分掌変更に際して適切な税務処理を行なうために留意すべきポイントを整理します。

(1) 退職給与の支給基準を明確化

  • 退職給与として損金算入を行なう場合、役職変更後の給与や職務内容の変化を明確にし、適正な基準を設けることが重要です。

(2) 分掌変更の実態を示すエビデンスを確保

  • 退職給与として認められるためには、単なる役職の変更だけでなく、実際に経営から退いたことを証明できる資料を準備する必要があります。

(3) 適切な税務アドバイスの活用

  • 役員変更や退職給与の支給に関しては、税務当局の判断が厳格になりつつあるため、専門家と相談しながら慎重に進めることが求められます。


5.まとめ

本件の裁決は、形式的な役職変更だけでは退職給与として認められないという重要な教訓を示しています。企業が適切に税務処理を行なうためには、分掌変更の実態を明確にし、合理的な根拠を持って退職給与の支給を判断する必要があります。


このような税務判断は、企業の財務戦略にも影響を与えるため、慎重な対応が求められます。税理士と相談しながら、リスク管理を徹底することが重要です。



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