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大胆な投資促進税制とは?取締役会等の意思決定が必要となる設備投資税制を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 7月1日
  • 読了時間: 10分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正により、国内で高付加価値化型の設備投資を促進するため、特定生産性向上設備等投資促進税制、いわゆる大胆な設備投資促進税制が創設されました。


この制度は、一定の投資計画に基づき、生産性向上に資する設備投資を行なう青色申告法人に対して、税額控除または即時償却を認めるものです。国内での大型設備投資を後押しする制度として注目されますが、適用には投資下限額、投資利益率、資金調達計画、取締役会等の意思決定など、複数の要件を満たす必要があります。


特に実務上重要なのが、対象設備の投資計画が取締役会等の適切な機関の意思決定に基づくものであることです。税務メリットを受けるためには、単に設備を取得するだけでなく、社内意思決定のタイミングや証跡管理にも注意が必要です。


本日は、公認会計士の視点から、大胆な投資促進税制の概要、対象設備、適用手続、繰越税額控除制度、大企業の不適用措置、実務対応のポイントを解説します。


1. 大胆な投資促進税制とは

大胆な投資促進税制とは、正式には特定生産性向上設備等投資促進税制と呼ばれる制度です。


青色申告法人が、一定の投資計画に基づいて対象設備を取得等し、事業の用に供した場合に、一定の税額控除または即時償却を認める制度です。


対象となるのは、国内における高付加価値化型の設備投資です。企業が生産性の高い設備を導入し、競争力を高めることを目的とした税制といえます。


具体的には、経済産業大臣から投資計画の確認を受け、その確認を受けた日から5年以内に対象設備を取得等して事業供用した場合に、税制上の優遇措置を受けることができます。


2. 適用期間と手続の流れ

制度の適用には、まず投資計画について経済産業大臣の確認を受ける必要があります。

対象期間は、改正産業競争力強化法の施行日から令和11年3月31日までの間とされています。この期間内に、投資計画が一定の基準に適合することについて確認を受ける必要があります。


その後、確認を受けた日から5年以内に対象設備を取得等し、事業の用に供した場合に、税額控除または即時償却を適用できます。次のような流れになります。


① 改正産競法施行後、指定期間内に経済産業大臣の確認を受ける

② 確認を受けた日から5年以内に対象設備を取得等・事業供用する

③ 事業供用日を含む事業年度の確定申告で税制適用を行なう


設備投資を実行してから後追いで確認を取る制度ではないため、投資計画段階から税務・経理・設備投資担当部門が連携することが重要です。


3. 税制メリット:税額控除または即時償却

制度の適用を受けると、対象設備について次のいずれかを選択できます。

  • 税額控除

  • 即時償却


税額控除は、対象設備の種類によって控除率が異なります。

機械装置、工具、器具備品、ソフトウエア等については、原則として7%の税額控除が認められます。一方、建物、建物附属設備、構築物については4%の税額控除とされています。


ただし、税額控除には法人税額の20%という上限があります。

一方、即時償却を選択すれば、対象設備の取得価額を事業供用年度に大きく損金算入できるため、初年度の税負担軽減効果が大きくなります。


どちらを選択すべきかは、会社の利益水準、税額控除の上限、今後の課税所得見込み、キャッシュ・フロー計画などを踏まえて検討する必要があります。


4. 対象設備と規模要件

対象となる設備は、生産等設備を構成する一定の資産です。

具体的には、次のような資産が含まれます。

  • 機械装置

  • 工具

  • 器具備品

  • 建物

  • 建物附属設備

  • 構築物

  • 一定のソフトウエア


ただし、すべての設備が対象になるわけではありません。資産ごとに取得価額の規模要件があり、主な規模要件は次のとおりです。

  • 機械装置:1台または1基の取得価額が160万円以上

  • 工具・器具備品:1台または1基の取得価額が120万円以上

  • 建物:一の取得価額が1,000万円以上

  • 建物附属設備・構築物:一の取得価額が120万円以上

  • 一定のソフトウエア:一の取得価額が70万円以上


工具・器具備品や建物附属設備については、個別の取得価額が一定額以上で、同一投資計画に記載されたものの一事業年度における取得価額合計が一定額以上である場合に対象となる取扱いもあります。


5. 投資計画の主な要件

大胆な投資促進税制では、対象設備そのものの要件だけでなく、投資計画についても一定の基準を満たす必要があります。主な要件として次のような項目が示されています。


(1)投資下限額

投資計画に記載された生産等設備を構成する対象設備の取得価額合計額が、原則として35億円以上であることが求められます。

なお、中小企業者等については、取得価額合計額が5億円以上とされています。

この制度は、一定規模以上の大型設備投資を想定した税制であるため、まず投資規模が要件を満たすかを確認する必要があります。


(2)年平均投資利益率

投資計画における年平均の投資利益率が15%以上見込まれることも要件とされています。

ここでは、単に設備投資額が大きいだけではなく、その投資が将来の収益性や生産性向上に結びつくことを示す必要があります。

実務上は、投資回収計画、売上増加見込み、原価低減効果、生産能力向上、労務費削減、エネルギー効率改善などを踏まえ、投資利益率を合理的に算定する必要があります。


(3)資金調達手段の記載

投資計画には、その実現に必要な資金調達手段を記載する必要があります。

自己資金、借入金、社債、補助金、リース、グループ内資金など、どのような方法で投資資金を確保するのかを明確にしておく必要があります。


(4)取締役会等の意思決定

投資計画は、取締役会等の適切な機関の意思決定に基づくものであることが求められます。

これは、設備投資が会社の将来に大きな影響を与える重要な経営判断であるため、適切な社内意思決定を経ていることを確認する趣旨と考えられます。


6. 取締役会等の意思決定で注意すべき点

今回の制度で実務上特に注意したいのが、取締役会等の意思決定です。


税制適用を検討する企業では、いつの時点の意思決定から対象となるのかが重要になります。たとえば、令和8年度税制改正大綱の公表後に行った意思決定が対象となるのか、改正産競法施行後の意思決定が必要なのか、といった点です。

この点については現在検討中であり、近日中に公表される経済産業省令で明らかにされる予定とされています。


したがって、制度適用を検討する企業は、経済産業省令の公表内容を確認したうえで、取締役会決議や経営会議決議のタイミング、議事録の記載内容を慎重に整理する必要があります。実務上は、少なくとも次のような資料を整備しておくことが望まれます。

  • 取締役会議事録

  • 経営会議資料

  • 投資計画書

  • 設備投資稟議書

  • 投資採算資料

  • 資金調達計画

  • 投資利益率の算定資料

  • 対象設備の一覧

  • 経済産業大臣確認申請書類

  • 税額控除・即時償却の検討メモ


7. 繰越税額控除制度は別手続が必要

大胆な投資促進税制では、控除しきれなかった税額控除限度超過額を、3年間繰り越すことができる制度も設けられています。


ただし、この繰越税額控除制度は、通常の投資計画確認とは別に、厳格な要件を満たす必要があります。


具体的には、青色申告法人が、改正産競法で新設された国際経済事情激変事業適応の認定を受けた認定事業適応事業者に該当する場合に適用できるとされています。

国際経済事情激変事業適応とは、予見し難い国際経済事情の急激な変化に対応して行なうものとされています。たとえば、厳しい経営状況が見込まれる中でも設備投資を行うケースなどが想定されています。


もっとも、この認定を受けることは簡単ではないとされており、要件は今後、省令や告示で定められる予定です。したがって、税額控除を使い切れない可能性がある企業は、繰越税額控除を当然に使えるものと考えず、別途認定手続と要件充足を慎重に確認する必要があります。


8. 大企業は不適用措置に注意

大企業が大胆な投資促進税制を適用する場合には、いわゆる不適用措置にも注意が必要です。


大企業については、当期の所得が前期の所得を超えているにもかかわらず、一定の賃上げ要件または国内設備投資要件のいずれかを満たさない場合、この税制の適用が認められません。なお、この不適用措置は、繰越税額控除制度を除く部分について適用されます。

主な要件は次のとおりです。


<賃上げ要件>

  • 賃上げ率1%以上

  • 特定の大企業は2%以上


<国内設備投資要件>

  • 国内設備投資額が当期の減価償却費の額の30%超

  • 特定の大企業は40%超


ここでいう特定の大企業とは、たとえば資本金の額等が10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上の法人、または常時使用従業員数2,000人超の法人などが該当します。


つまり、大型投資を行なって対象設備要件を満たしていても、賃上げや国内設備投資に関する要件を満たさなければ、税制適用が制限される可能性があります。


9. 会計・税務・経営管理が連携すべきポイント

この税制は、単なる税務申告上の制度ではありません。大型設備投資の意思決定、投資採算、資金調達、税務メリット、会計処理、取締役会資料が密接に関係します。

そのため、実務では次の部門が連携する必要があります。

  • 経営企画部門:投資戦略・事業計画の策定

  • 設備投資担当部門:対象設備の選定・取得スケジュール管理

  • 経理部門:会計処理・固定資産計上・減価償却管理

  • 税務部門:税額控除・即時償却・不適用措置の確認

  • 財務部門:資金調達計画の策定

  • 法務・総務部門:取締役会決議・議事録管理

  • 人事部門:賃上げ要件の確認

  • 監査人:会計処理・開示・税効果への影響確認


特に、投資計画の確認申請と設備取得のスケジュールがずれると、制度適用に影響する可能性があります。早い段階でプロジェクトチームを組成し、要件確認と証跡整備を進めることが重要です。


10. 実務チェックリスト

大胆な投資促進税制の適用を検討する企業は、次の点を確認しましょう。

  • 青色申告法人に該当するか

  • 投資計画の対象設備が制度対象資産に該当するか

  • 取得価額の規模要件を満たしているか

  • 投資計画全体の取得価額合計が35億円以上か

  • 中小企業者等の場合、取得価額合計が5億円以上か

  • 年平均投資利益率15%以上を合理的に説明できるか

  • 資金調達手段を投資計画に明記しているか

  • 取締役会等の意思決定を適切に行っているか

  • 取締役会議事録や投資計画書を保存しているか

  • 経済産業大臣の確認を指定期間内に受けるスケジュールを確保しているか

  • 確認日から5年以内に取得等・事業供用できるか

  • 税額控除と即時償却のどちらが有利か試算しているか

  • 繰越税額控除制度を使う場合、別途認定要件を確認しているか

  • 大企業の場合、不適用措置に該当しないか確認しているか

  • 賃上げ要件・国内設備投資要件を満たすか確認しているか


まとめ

令和8年度税制改正で創設された特定生産性向上設備等投資促進税制、いわゆる大胆な投資促進税制は、国内での高付加価値化型設備投資を後押しする重要な税制です。


制度の適用を受けると、対象設備について7%の税額控除、建物等については4%の税額控除、または即時償却を選択できる可能性があります。ただし、投資計画の取得価額合計35億円以上、年平均投資利益率15%以上、資金調達手段の記載、取締役会等の意思決定など、満たすべき要件は多岐にわたります。


特に、投資計画が取締役会等の適切な機関の意思決定に基づくものであることは、実務上の重要ポイントです。いつの時点の意思決定から対象となるかは、今後公表される経済産業省令で明らかにされる予定であるため、制度適用を検討する企業は最新情報を確認しながら慎重に準備する必要があります。


また、税額控除を使い切れない場合の繰越税額控除制度は、通常の投資計画確認とは別に、国際経済事情激変事業適応の認定が必要となるため、当然に利用できるものではありません。大企業については、賃上げ要件や国内設備投資要件を満たさない場合の不適用措置にも注意が必要です。


大型設備投資は、税務だけでなく、経営戦略、資金調達、会計処理、取締役会運営に関わる重要なテーマです。大胆な投資促進税制を活用するためには、早い段階から経理・税務・経営企画・財務・法務・人事が連携し、投資計画と証跡整備を進めることが大切です。


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