税務調査で見られる債権・債務のポイント|売掛金・買掛金・未払金・前受金の注意点を税理士が解説
- 安田 亮
- 6月11日
- 読了時間: 16分
おはようございます!代表の安田です。
税務調査というと、売上や経費など、損益計算書の項目を中心に確認されるイメージがあるかもしれません。
たしかに、税務調査では売上計上漏れや経費の過大計上など、所得金額に直接影響する項目が重点的に確認されます。
しかし、実際には貸借対照表の項目である 債権・債務 も重要なチェック対象です。
売掛金、未収入金、貸付金、仮払金、買掛金、未払金、前受金、預り保証金などを確認することで、売上計上漏れ、費用の二重計上、未計上収益、役員への経済的利益などが見つかることがあるためです。
本日は、税務調査で債権・債務がどのように見られるのか、売掛金・未収入金・貸付金・買掛金・未払金・前受金などの実務上の注意点を解説します。
なぜ税務調査で債権・債務が見られるのか
法人税の税務調査の目的は、申告内容に誤りがないかを確認し、必要に応じて課税標準や税額を是正することです。そのため、調査では売上や仕入、外注費、役員報酬、交際費など、損益計算書の項目が中心になります。
しかし、売上や費用の誤りは、貸借対照表の債権・債務に表れることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
・売掛金が少なすぎる → 売上計上漏れの可能性
・未収入金が計上されていない → リベートや受取賃料の計上漏れの可能性
・買掛金が長期間残っている → 仕入や外注費の二重計上の可能性
・未払金に高額な期末処理がある → 実際には納品や役務提供が完了していない可能性
・前受金が長期間残っている → 本来は売上計上すべき収益の可能性つまり、貸借対照表は単なる残高表ではありません。
税務調査では、債権・債務の残高や動きから、売上・費用・収益計上時期の誤りがないかを確認されます。
売掛金で見られるポイント
売掛金は、商品販売やサービス提供により売上が実現しているものの、まだ代金回収が済んでいない債権です。税務調査では、売掛金の取引先別残高が確認されます。
調査官は、会社の売上回収方法、締日、入金条件、現金回収・手形回収・売掛金回収の流れなどを把握したうえで、正しく売上や売掛金が処理されているかを確認します。
特に見られやすいのは、次のような点です。
・前期と比較して売掛金残高が大きく増減していないか
・残高が大きい取引先に不自然な動きがないか
・会社と関係性の深い取引先に売上計上漏れがないか
・決算日後の入金に対応する売上が当期に計上されているか
・売掛金台帳と総勘定元帳の残高が一致しているか売掛金は取引先ごとに管理されるため、前年との比較で残高の増減が確認されます。残高が大きく動いている取引先については、その理由を説明できるようにしておく必要があります。
売掛金の計上漏れに注意
税務調査で典型的に確認されるのが、売掛金の計上漏れです。
たとえば、決算日前に商品を引き渡している、または役務提供が完了しているにもかかわらず、請求書発行や入金が翌期であることを理由に売上を翌期計上しているケースです。
この場合、税務上は当期の売上として計上すべき可能性があります。
調査官は、決算日後の入金状況を確認し、その入金が当期以前に発生した売上に対応するものではないかを確認します。
特に、決算日直後に大きな入金がある場合には、その売上計上時期がチェックされやすくなります。経理上は、請求書発行日や入金日だけでなく、商品の引渡日、検収日、役務提供完了日などを確認することが重要です。
未収入金で見られるポイント
未収入金は、通常の営業取引以外で発生した未回収債権です。
たとえば、受取賃貸料、リベート、保険金、固定資産売却代金などが該当します。
添付資料では、未収入金について、受取賃貸料やリベートなど毎年計上されるべきものが計上されているか、決算日以降に入金があるものについて益金計上時期が正しいかがチェックされると説明されています。
特にリベートや仕入割戻しは注意が必要です。
契約内容によって、益金に計上すべき時期が異なるためです。
添付資料では、仕入割戻しについて、算定基準が購入価額や購入数量に基づき、契約等で明示されているものは購入した日の属する事業年度に計上し、それ以外は割戻額の通知日の属する事業年度に計上すると整理されています。
そのため、リベートがある会社では、契約書、覚書、通知書、入金明細を保存し、いつ益金計上すべきかを確認しておくことが大切です。
売掛金台帳と帳簿残高の不一致
税務調査では、売掛金台帳や得意先元帳などの管理資料と、総勘定元帳・決算書上の売掛金残高が一致しているかも確認されます。
通常であれば、管理資料と帳簿残高は一致しているはずです。
しかし、実務では次のような理由で不一致が生じることがあります。
・値引き処理の漏れ
・返品処理の漏れ
・売上の二重計上
・現金売上との混同
・買掛金との相殺処理漏れ
・システム連携ミス
・過去から残っている原因不明残高売掛金管理資料と帳簿残高が不一致の場合、値引きや返品処理の失念、二重計上、現金売上との混同、債務との相殺処理漏れなど、さまざまな原因があるとされています。
帳簿残高が正しければ大きな問題にならない場合もありますが、管理資料の方が正しい場合には、決算書の売掛金残高が誤っている可能性があります。
売掛金残高が少なければ売上計上漏れ、逆に多ければ売上過大計上が疑われます。
不一致を修正する場合は発生時期に注意
売掛金残高の不一致が見つかった場合、単純に当期で雑損失や雑収入として調整すればよいとは限りません。重要なのは、その不一致がいつ発生したものかです。
売掛金の不一致について、原因の発生時期が法人税法上の更正期間を経過している場合には課税されない一方、売上過大として減額処理しても認められないことがあると説明されています。
たとえば、10年以上前に発生した売掛金の過大計上が原因で、当期に売掛金を減額して損失処理した場合、その損金算入が認められない可能性があります。
したがって、売掛金残高を調整する場合には、差額の原因と発生時期を必ず調べる必要があります。「残高が合わないから当期で落とす」という処理は危険です。
貸付金で見られるポイント
会社が取引先、役員、従業員、関係会社などへ資金を貸し付けている場合、税務調査では貸付金利息の計上が確認されます。
法人が貸し手となる場合、無利息または低利で貸し付けていると、適正利息との差額が税務上問題になることがあります。
たとえば、貸付先が取引先であれば寄附金や交際費、役員や従業員であれば給与として問題になる可能性があります。
利率を決める際は、金融機関からの借入利率、市中金利、会社の平均調達金利などを参考にし、契約書を作成しておくことが重要です。
仮払金が実質貸付金と見られることがある
次に注意したいのが、仮払金です。
経費精算などの一時的な仮払金で、短期間で精算されるものは通常問題ありません。
しかし、目的が不明確で、長期間精算されていない仮払金は、実質的な貸付金と見られることがあります。
特に、役員や同族関係者への仮払金は調査で問題になりやすい項目です。
仮払金等の科目であっても、目的がはっきりしないものや長期にわたり精算されていないものは、実質的な貸付金とみなされる場合があると説明されています。
実質貸付金と見られれば、利息計上の有無や、役員に対する経済的利益が問題になります。
役員仮払金がある場合は、決算までに精算する、貸付契約を整備する、相殺処理を明確にするなどの対応が必要です。
役員借入金と仮払金を勝手に相殺しない
中小企業では、会社が役員から借入れをしている一方で、役員に対する仮払金や貸付金が残っていることがあります。
この場合、「役員からの借入金と役員への仮払金は実質的に相殺されている」と考えてしまうことがあります。
しかし、借入金と仮払金は別々の取引です。
個人が会社に貸付けをした場合に利息を受け取らなくても通常は課税問題が生じない一方、会社が貸付けをした場合は利息の計上が必要であり、相殺の意思表示が確認できない以上、抗弁は難しいとされています。
実務上は、相殺するのであれば、決算前に相殺処理を行い、相殺合意書や取締役会議事録など、意思表示を確認できる資料を残しておくことが望ましいです。
買掛金で見られるポイント
買掛金は、仕入や外注費などの債務です。
税務調査では、取引先ごとの買掛金残高、特に長期間動きのない残高が確認されます。理由は、動きがない買掛金には、仕入等の二重計上の可能性があるためです。
たとえば、次のようなケースです。
・同じ請求書を二重に仕入計上している
・現金で支払ったのに買掛金も残っている
・相手先から請求がないまま古い残高が残っている
・仕入計上と支払消込が一致していない
・相殺処理を忘れている買掛金の滞留残高は、決算前に取引先別に確認し、原因を説明できるようにしておきましょう。
未請求の買掛金を自動的に雑収入へ振り替える必要はない
長期間支払いがない買掛金について、「時効だから雑収入に振り替えるべきでは」と考えることがあります。
しかし、消滅時効は、時効期間が経過すれば自動的に債務が消えるわけではありません。
相手方に対して時効を援用する意思表示をして、はじめて効果が生じます。
ただし、社内管理上、長期滞留買掛金をどう扱うかのルールは必要です。
たとえば、一定期間動きがない買掛金については、取引先へ照会する、支払義務を確認する、稟議により整理するなどの手続きを決めておくとよいでしょう。
未払金で見られるポイント
未払金は、期末までに物品の納品や役務提供が完了し、債務が確定しているものの、まだ支払いが済んでいない債務です。
税務調査では、未払金について主に次の2点が確認されます。
・実際に物品が納品されたか
・納品されたものが決算日までに使用されたか、または事業の用に供されたか期末近くに未払計上された高額な支出は、特に調査で確認されやすい項目です。
請求書だけで未払計上している場合には、納品書、検収書、作業完了報告書、現場写真など、事実を証明する資料を保存しておきましょう。
請求書だけで未払計上するのは危険
期末の決算作業では、請求書が届いていることを理由に未払金を計上することがあります。
しかし、請求書の日付が決算日前であっても、実際に納品や役務提供が完了していなければ、当期の損金にできない可能性があります。
取引先からの請求書のみで納品の事実を証するものがない場合は問題とされやすく、必要に応じて取引先への反面調査が行なわれることがあります。
さらに、納品の事実がないにもかかわらず、決算期内の日付で納品書や請求書の発行を受けて損金計上した場合には、重加算税の対象となる可能性があります。
経理担当者は、請求書の日付だけで判断せず、現場に納品・完了の事実を確認する必要があります。
期末の未使用品は貯蔵品になることがある
期末に消耗品や備品を購入した場合、未使用で残っているものは原則として貯蔵品として資産計上する必要があります。
ただし、事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物などで、毎期おおむね一定量を取得し、経常的に消費しているものについては、継続適用を前提に購入時の損金算入が認められる場合があります。
この取扱いは「一定量の取得と経常的な消費」を前提としており、決算対策として一時的に大量購入した場合には適用できないと説明されています。
特に次のような購入は注意が必要です。
・通常月より明らかに多い量の消耗品を期末に購入した
・前回購入から短期間で再度大量購入している
・購入後、未開封のまま保管されている
・商品券や切手を期末に大量購入した切手や商品券はこの通達の対象ではないため、期末残高は常に貯蔵品として計上する必要があります。
修繕費の未払計上は完了確認が重要
修繕費を未払計上する場合には、決算日までに修繕が完了しているかが重要です。
調査では、完了報告書、現場写真、工事スケジュール、検査書、作業日報などが確認されることがあります。
また、決算日後に追加工事が行なわれている場合には、当初の工事と一体のものなのか、それとも別工事なのかが問題になります。当初工事が完了していなかったと判断されれば、未払計上した修繕費が当期損金として認められない可能性があります。
機械購入の未払金は「事業供用日」に注意
機械装置などを購入し、代金が未払いになっている場合には、単に納品されたかだけでなく、決算日までに事業の用に供したかが確認されます。
減価償却費は、資産を事業の用に供した日から計上します。
そのため、機械が納品されていても、まだ据付けや試運転が終わっておらず、事業用として稼働できる状態になっていない場合には、減価償却費を計上できないことがあります。
特に、特別償却や税額控除の対象となる設備投資では、事業供用日の判定が税額に大きく影響します。納品書、検収書、稼働開始記録、試運転記録、社内使用開始報告などを保存しておきましょう。
未払では損金算入できないものもある
税務上、債務が確定していても、原則として未払計上だけでは損金算入できないものがあります。
調査で指摘されやすいものとして、使用人賞与、社会保険料、退職金共済掛金、寄附金、同業団体の会費、分掌変更等の場合の役員退職金、短期前払費用の特例などが挙げられています。
これらは、それぞれ税法上の個別要件があります。
たとえば、使用人賞与は一定の要件を満たせば未払計上で損金算入できる場合がありますが、その賞与に係る社会保険料は同じタイミングで損金算入できない場合があります。
「未払計上したから損金になる」と一律に考えないことが重要です。
前受金で見られるポイント
前受金は、商品の引渡しや役務提供の前に代金を受け取った場合に計上する負債です。
税務調査では、前受金がいつ収益に振り替えられるべきかが確認されます。
たとえば、次のようなケースです。
・商品の申込金
・工事代金の分割入金
・役務提供前に受け取った着手金
・予約金
・証拠金前受金について、受け取った代金がいつの収益となるのかを確認し、工事で分割金を受領して収益計上していない場合には、その工事に係る経費が未成工事などとして資産計上されているか確認すると説明されています。
前受金を負債に残している場合でも、実際には商品引渡しや役務提供が完了しているなら、売上計上が必要です。決算ごとに、前受金残高の内容と進捗状況を確認しましょう。
預り保証金で見られるポイント
預り保証金は、不動産賃貸借契約や取引契約などで、債務履行を担保するために預かる金銭です。税務調査では、契約書に基づき、返金義務があるのか、または一定時点で返金不要になるのかが確認されます。
預り保証金について、契約解消時に全額返金する場合もあれば、契約当初や一定期間後、または一定条件を満たした場合に返金しないケースもあり、返金しないこととなった時点で収益計上が必要とされています。
不動産賃貸では、保証金や敷金のうち、一定額を償却する契約がよくあります。
この場合、契約書で返金不要となる時期や金額を確認し、適切な時期に収益計上する必要があります。
預り保証金は、長期間そのまま残りやすい科目です。
決算時には、契約書と残高を照合し、返金不要となっているものがないか確認しましょう。
決算前に行いたい債権・債務チェック
税務調査で慌てないためには、決算前後に債権・債務を整理しておくことが重要です。
特に次の項目は確認しておきましょう。
・売掛金台帳と総勘定元帳が一致しているか
・決算日後の入金に対応する売上計上時期は正しいか
・未収入金に計上すべきリベートや賃料はないか
・長期未精算の役員仮払金はないか
・貸付金利息を適正に計上しているか
・長期滞留している買掛金の原因は分かっているか
・期末未払金について納品・完了の事実を確認しているか
・期末購入の消耗品に未使用在庫がないか
・前受金の収益計上時期は正しいか
・預り保証金のうち返金不要となったものはないかこれらは、税務調査のためだけでなく、正確な決算書を作成するためにも必要な確認です。
税務調査で指摘されないための実務対応
債権・債務については、残高だけでなく、その残高の中身を説明できることが重要です。
次のような資料を整備しておくと、税務調査で説明しやすくなります。
・取引先別売掛金残高表
・売掛金台帳、得意先元帳
・決算日後の入金一覧
・未収入金の契約書、通知書、入金明細
・貸付契約書、利息計算表・仮払金精算書
・取引先別買掛金残高表
・未払金一覧表
・納品書、検収書、作業完了報告書
・現場写真、工事スケジュール
・前受金管理表
・保証金契約書、償却条項の確認資料特に期末近くの取引は、調査で重点的に見られます。
「請求書があるから大丈夫」ではなく、納品・使用・役務提供完了・事業供用の事実を確認できる資料を残しておきましょう。
よくある誤解
税務調査では損益計算書だけ見られる
誤りです。債権・債務などの貸借対照表項目から、売上計上漏れや費用の過大計上が発見されることがあります。
売掛金残高が合わない場合は当期で損失処理すればよい
原因と発生時期を確認せずに処理すると、損金算入が認められないことがあります。
役員仮払金は役員借入金と実質的に相殺されているから問題ない
相殺の意思表示や処理が確認できなければ、会社から役員への実質貸付金と見られる可能性があります。
請求書があれば未払金として損金計上できる
請求書だけでは不十分な場合があります。決算日までに納品や役務提供が完了していることを確認する必要があります。
長期滞留買掛金は時効で自動的に雑収入になる
消滅時効は、相手方への援用があって初めて効果が生じます。年数経過だけで自動的に雑収入へ振り替える必要があるわけではありません。
まとめ
税務調査では、売上や経費だけでなく、売掛金、未収入金、貸付金、仮払金、買掛金、未払金、前受金、預り保証金などの債権・債務も重要な確認対象になります。
売掛金や未収入金からは、売上計上漏れやリベート計上漏れが見つかることがあります。
貸付金や仮払金では、利息の計上漏れや役員への経済的利益が問題になることがあります。
買掛金では、長期滞留残高から仕入や外注費の二重計上が疑われることがあります。
未払金では、決算日までに納品や役務提供が完了しているか、期末購入品が未使用のまま残っていないかが確認されます。
前受金や預り保証金では、本来収益計上すべき時期が到来していないか、契約書に基づき返金不要となった金額がないかが見られます。
債権・債務は、残高が残っているだけでは問題にならないこともあります。
しかし、その残高の原因、発生時期、契約内容、入出金状況、納品・完了の事実を説明できなければ、税務調査で指摘につながる可能性があります。
決算時には、取引先別残高表や未払金一覧を作るだけでなく、長期滞留残高、期末近くの未払計上、役員仮払金、前受金、預り保証金について、内容を確認しておきましょう。




コメント