給与所得の源泉徴収票は令和9年1月から税務署提出不要に?みなし提出特例と中途退職者の取扱いを解説
- 安田 亮
- 4月26日
- 読了時間: 6分
おはようございます!代表の安田です。
年末調整や法定調書の時期になると、給与担当者にとって大きな負担になるのが、給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書の作成・提出です。とくに書面や光ディスク等で提出している会社では、「同じような内容の書類を税務署と市区町村にそれぞれ出す」ことに、手間の大きさを感じていた方も多いのではないでしょうか。
こうした事務負担を軽減する見直しとして、令和5年度改正により、「源泉徴収票のみなし提出の特例」が設けられました。令和9年1月1日以後に提出すべき令和8年分以後の給与所得の源泉徴収票については、給与支払報告書を各市区町村長に提出することで、税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされるため、所轄税務署長への別途提出が不要になります。
今回は、この「みなし提出の特例」の内容と、実務で見落としやすい中途退職者の取扱い、そしてeLTAX活用のポイントまで整理して解説します。
これまでは税務署と市区町村の両方に提出が必要だった
現行実務では、給与支払者である事業者は、従業員等ごとに作成した書類をそれぞれの提出先へ出す必要があります。資料によると、給与所得の源泉徴収票は、従業員等に対してその年に支払の確定した給与等を記載し、所轄税務署提出用と受給者交付用の2枚を作成して、翌年1月31日までに提出・交付することになっています。
一方、給与支払報告書は、従業員等の前年中の給与所得の金額等を記載し、1月1日現在の住所地等の市区町村ごとに作成して、同じく翌年1月31日までに市区町村長へ提出する必要があります。
資料では、これらの記載内容は概ね同一であるため、実務上は兼用様式が定められていると説明されています。通常は、
税務署提出用の源泉徴収票
受給者交付用の源泉徴収票
市区町村提出用の給与支払報告書
の計3枚を作成することになります。
みなし提出特例とは何か
今回の改正で導入された「源泉徴収票のみなし提出の特例」は、事業者の提出事務の削減と税務行政コストの削減を目的としたものです。資料によると、この特例では、給与所得の源泉徴収票に記載すべき一定の事項が記載された給与支払報告書を市区町村長に提出した場合、所轄税務署長に給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなすとされています。
つまり、市区町村提出用の給与支払報告書を出していれば、税務署提出用の源泉徴収票は不要になるということです。ページ2の図でも、事業者が各市区町村へ給与支払報告書を提出すると、所轄税務署に給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされる流れが示されています。
いつから適用されるのか
この特例が適用されるのは、令和9年1月1日以後に提出すべき令和8年分以後の給与所得の源泉徴収票からです。資料でも、令和5年改正法附則に基づき、その適用開始時期が明記されています。
したがって、令和8年分の年末調整後に令和9年1月に提出する書類から、実務上の変更が始まることになります。会社によっては、令和8年中の給与計算や年末調整準備の段階から、提出フローの見直しを検討しておく必要があるでしょう。
受給者交付用は引き続き必要
ここは誤解が非常に多いポイントです。
この特例はあくまで税務署提出用のみを不要とするものであり、受給者交付用の源泉徴収票は引き続きすべての受給者に対して作成・交付が必要であると明記されています。
つまり、「源泉徴収票そのものがなくなる」わけではありません。
なくなるのは、税務署へ出す1枚です。従業員へ渡す源泉徴収票は従来どおり必要なので、社内の案内や業務フローでもこの点を混同しないよう注意が必要です。
中途退職者分はどうなるのか
今回の実務で特に気になるのが、令和8年中に退職した従業員の取扱いです。なぜなら、法令上、年の中途で退職した従業員等に係る源泉徴収票は、退職日以後1か月以内に所轄税務署長へ提出することとされているからです。
この条文だけを見ると、令和8年中途退職者分は令和9年1月提出ではないため、みなし提出特例の対象外に見えます。しかし、実務上の運用として、翌年1月末までに取りまとめて提出してよいことになっており、この運用に基づいて令和9年1月1日以後にまとめて提出する場合には、中途退職者分も「令和9年1月1日以後に提出すべきもの」として特例対象になるとされています。
中途退職者分の実務対応で何に注意すべきか
この取扱いは、給与担当者にとってかなり大きな意味があります。
令和8年中の退職者分についても、退職の都度税務署へ提出するのではなく、翌年1月にまとめて処理する運用を採ることで、みなし提出特例の対象に乗せやすくなります。
ただし、ここで注意したいのは、これは運用上の取扱いを前提とした整理だという点です。会社の実務フローとして、退職時点で都度提出している場合と、年明けに取りまとめて処理する場合とで対応が変わり得るため、社内運用を一度確認しておく必要があります。
改正後は提出範囲も給与支払報告書と同範囲に
資料によると、この改正に伴い、給与所得の源泉徴収票の提出範囲が給与支払報告書と同範囲とする見直しも行なわれています。
つまり、単に提出先が簡略化されるだけでなく、制度全体として、税務署提出用と市区町村提出用の整合性を高める方向で整理が進んでいると理解できます。
公的年金等の源泉徴収票も同様に見直し
この改正は給与所得だけに限られません。
公的年金等の源泉徴収票についても同様の見直しが行なわれ、改正後は、市区町村長に公的年金等支払報告書を提出していれば、公的年金等の源泉徴収票を所轄税務署長に提出する必要はなくなるとされています。
したがって、給与実務だけでなく、年金関係の支払報告実務に関わる場合も、同様の制度理解が必要です。
eLTAXを使うメリットも大きい
今回の特例とあわせて実務上注目したいのが、eLTAXの活用です。
給与支払報告書は従業員等の住所地ごとの市区町村へ提出する必要がありますが、eLTAXで一括提出すれば、
提出先の各市区町村へ自動で振分提出される
マイナポータル連携の対象になる
というメリットがあります。
会社の従業員が複数の市区町村にまたがる場合、紙提出では相当な事務負担になります。みなし提出特例とeLTAXを組み合わせることで、実務の省力化効果はかなり大きくなると考えられます。
国税庁も特設ページを開設予定
国税庁が「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」を開設し、今後そのページでQ&Aやリーフレットを公表予定であることも紹介されています。
制度開始直後は、細かな実務疑問が出やすいため、今後の国税庁公表資料もあわせて確認していくことが大切です。
まとめ
令和9年1月1日以後に提出すべき令和8年分以後の給与所得の源泉徴収票については、給与支払報告書を市区町村長に提出すれば、税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされる特例が適用されます。これにより、税務署提出用の源泉徴収票は不要となりますが、受給者交付用の源泉徴収票は引き続きすべての受給者に交付が必要です。
また、法令上は退職後1か月以内提出とされる令和8年中途退職者分についても、運用上、令和9年1月に取りまとめて提出する場合には特例対象となります。さらに、給与支払報告書をeLTAXで一括提出すれば、市区町村への自動振分提出やマイナポータル連携のメリットもあります。
今回の改正は、年末調整後の提出実務をかなり効率化する可能性があります。一方で、受給者交付用は残ることや、中途退職者分の運用整理が必要なことなど、細かな注意点もあります。令和8年分の対応に向けて、今のうちに社内フローを見直しておくと安心です。




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