おはようございます!代表の安田です。
責任限定契約とは、会社法第427条第1項に基づき、非業務執行取締役等(取締役のうち業務執行を行なわない者、会計参与、監査役、会計監査人など)の会社に対する損害賠償責任を一定額に制限する契約です。
この契約は、悪意や重過失がない場合に限り、定款に定めた額の範囲内で、会社があらかじめ決めた額または最低責任限度額のいずれか高い額を上限として締結できます。
現行の対象者
責任限定契約を締結できるのは、以下の役員に限定されています。
非業務執行取締役(業務執行を行なわない取締役)
会計参与
監査役
会計監査人
一方で、業務執行取締役(経営の執行を行なう取締役)や執行役が責任限定契約を締結することはできません。仮に、非業務執行取締役が業務執行取締役や執行役に就任すると、責任限定契約の効力は将来に向かって失われます。
責任限定契約の制約と課題
1.業務執行取締役の責任免除は厳格
現行の制度では、業務執行取締役が損害賠償責任を一部免除するためには、株主総会の特別決議が必要となるなど、ハードルが高くなっています。これは、取締役の責任を軽減することで経営判断の透明性を確保するための措置ですが、一方で企業経営の柔軟性を損なう可能性も指摘されています。
2.D&O保険(会社役員賠償責任保険)の限界
経済産業省の委託調査によると、上場企業の9割以上がD&O保険を契約しているものの、補償上限額や支払除外事由の存在により、必ずしも十分な補償を提供できているとは言えないとの指摘があります。このため、D&O保険があっても経営者個人のリスクが完全にカバーされるわけではありません。
3.経営者のリスク回避傾向
責任限定契約が業務執行取締役に適用されないことにより、企業経営者が過度にリスクを回避する傾向があるとの指摘もあります。リスクを恐れるあまり、大胆な経営戦略が実行できなくなるという懸念が浮上しています。
経済産業省の研究会報告書が提案する見直し案
経済産業省が設置した研究会では、「業務執行取締役や執行役も責任限定契約を締結できるようにすべき」という提案がなされました。この提案が実現すれば、以下のような変化が期待されます。
経営判断の自由度が向上
D&O保険の補完として機能
リスクテイクを促進し、企業の成長を支援
ただし、責任の限定が過剰になれば経営者のモラルハザード(不正や無責任な行動)につながる可能性があるため、慎重な議論が求められます。
今後の展望
責任限定契約の対象拡大については、今後の会社法改正や経済産業省の動向が鍵となります。特に、日本の経済成長を促進するためには、経営者が積極的にリスクを取れる環境整備が不可欠です。
株主や投資家とのバランスを取りながら、適切な範囲で責任限定契約を導入することが望ましい
D&O保険との組み合わせにより、取締役の責任と保護のバランスを最適化する必要がある
法改正の動向を注視し、企業経営者や取締役が適切な対応を検討することが求められる
まとめ
現在の会社法では、非業務執行取締役や監査役などにのみ責任限定契約が適用可能ですが、業務執行取締役に対しても適用を拡大するべきという議論が進んでいます。経済産業省の研究会でも、リスクテイクを促進する観点から法改正の必要性が指摘されています。今後、責任限定契約の範囲拡大が企業経営にどのような影響を与えるか注目されます。
企業の経営者や取締役、投資家は、会社法の改正動向を注視し、適切なガバナンス体制を整備することが求められるでしょう。

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