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関連者間取引の書類保存特例とは?特定事項記載書類にどこまで書けばよいかを税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 6月25日
  • 読了時間: 11分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正により、法人のグループ内取引や親子会社間取引に関する書類保存ルールが強化されました。


新たに設けられたのが、関連者間取引に係る書類の整理保存の特例です。

この制度では、内国法人が関連者との間で一定の取引を行う場合に、契約書や請求書などに対価の額の明細や計算方法などが記載されていないときは、その不足している事項を明らかにする書類を取得または作成し、保存する必要があります。


実務上、特に気になるのは、「特定事項記載書類には、どこまで詳しく書けばよいのか」という点です。


結論からいうと、過度に詳細な資料を一律に作成しなければならないわけではありません。基本的には、第三者の立場から見て、価格設定の考え方や取引内容を客観的に確認できる程度の記載があれば足りると考えられます。


今回は、関連者間取引の書類保存特例の概要と、特定事項記載書類に求められる記載内容の程度について、実務目線で整理します。


関連者間取引の書類保存特例とは?

関連者間取引の書類保存特例とは、内国法人が関連者との間で行なう一定の取引について、契約書等に必要な記載がない場合に、その不足事項を補う書類の保存を求める制度です。

対象となる取引は、主に次のようなものです。

  • 工業所有権等の譲渡

  • 工業所有権等の貸付け

  • 役務提供


ここでいう役務提供には、たとえば親会社から子会社に対する技術指導、マーケティング支援、会計・税務・法務支援、システム利用支援、研究開発支援、広告宣伝支援などが含まれます。


グループ会社間では、こうした取引が日常的に行なわれていることがあります。しかし、契約書や請求書の記載が簡略で、対価の計算方法や役務の内容が十分に分からないケースも少なくありません。


そのような場合に、後から取引内容や対価の根拠を確認できるようにするため、特定事項記載書類の保存が求められることになりました。


いつから適用されるのか

この関連者間取引の書類保存特例は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行なう関連者間取引について適用されます。したがって、3月決算法人であれば、令和8年4月1日開始事業年度から本格的に対応が必要になります。


制度開始後は、関連者との契約書、請求書、見積書、注文書、計算メモなどを確認し、必要な事項が記載されているかをチェックする必要があります。


特定事項記載書類とは?

特定事項記載書類とは、契約書や請求書など、法人税法等で保存が義務付けられている書類に、本来記載されるべき一定事項がない場合に、その不足事項を明らかにするために取得または作成する書類です。


たとえば、親会社から子会社が技術指導を受け、技術指導料を支払っているとします。契約書に「技術指導料を支払う」とだけ書かれていて、具体的な計算方法が記載されていない場合、対価の額の計算方法を明らかにする資料が必要になります。


この場合、別途作成した計算メモや価格算定資料などが、特定事項記載書類に該当する可能性があります。


保存期間は7年間

特定事項記載書類は、取得または作成して終わりではありません。一定の起算日から7年間保存する必要があります。


起算日は、原則として事業年度終了日の翌日から2か月を経過した日などとされています。

つまり、通常の税務関係書類と同様に、税務調査時に確認できる状態で保存しておく必要があります。電子保存する場合は、電子帳簿保存法との関係も問題になるため、保存形式にも注意が必要です。


保存がないと青色申告取消リスクも

この制度で特に注意すべきなのは、特定事項記載書類の保存がない場合、単なる書類不備では済まない可能性があることです。


青色申告法人において、特定事項記載書類が保存されていないことは、青色申告の承認取消事由等に該当するとされています。青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除、各種特別控除、税務上の特典などに大きな影響が生じるおそれがあります。


したがって、関連者間取引がある法人では、制度開始前から契約書や請求書の記載状況を確認しておくことが重要です。


どのような事項を記載する必要があるのか

必要な記載事項は、取引の種類によって異なります。

工業所有権等の譲渡・貸付けの場合

工業所有権等の譲渡や貸付けについては、主に次のような事項が必要になります。

  • 工業所有権等の明細

  • 工業所有権等が内国法人において果たす機能

  • 対価の額の明細

  • 対価の額の設定の方法


たとえば、特許権や商標権、ノウハウなどをグループ会社から利用している場合、その権利の内容、利用目的、対価の算定方法などを確認できる資料が必要になります。


役務提供の場合

役務提供については、内容に応じて次のような事項が必要になります。

親会社等の経営資源を活用して行なう研究開発や広告宣伝、親会社等のシステム利用・維持管理などの場合には、主に次の事項が必要です。

  • 事業活動の内容

  • 内国法人が負担する費用の額の計算方法


一方、技術指導、マーケティング支援、会計・税務・法務支援などについては、主に次の事項が必要です。

  • 役務提供の明細および内容

  • 対価の額の明細

  • 対価の額の計算方法


記載内容はどこまで詳しく必要か

実務で最も気になるのは、これらの事項について、どこまで詳しく書けばよいのかという点です。この点については、制度上、記載内容の細かさが一律に定められているわけではありません。


制度の趣旨は、過度に詳細な資料を一律に保存させることではありません。基本的には、対価の額の計算方法や役務提供の内容などを踏まえ、実態に応じて個別に判断されることになります。


目安としては、第三者の立場から見て、価格設定の考え方や取引内容を客観的に確認できる程度の記載があれば足りると考えられます。つまり、取引に直接関与していない税務調査官や第三者が見ても、「何の取引なのか」「何の対価なのか」「どのように金額を計算したのか」を確認できる資料であることが重要です。


技術指導料の記載例

たとえば、親会社が子会社に技術指導を行い、子会社が技術指導料を支払うケースを考えてみましょう。


この場合、必要となる事項の一つが、対価の額の計算方法です。

もし、技術指導料を売上高に対する一定割合で計算しているのであれば、計算メモなどに、「技術指導料=売上高の○%」と記載されていれば、対価の額の計算方法として必要な程度を満たすと考えられます。


必ずしも、長文の詳細な分析レポートや複雑な算定書が必要になるわけではありません。

ただし、売上高のどの範囲を基準にするのか、対象期間はいつか、税抜・税込の別など、実務上の計算に必要な前提は明確にしておくべきです。


金額の妥当性まで問われる制度ではない

ここで誤解しやすいのが、関連者間取引の書類保存特例が、対価の金額そのものの妥当性を直接判定する制度なのかという点です。


たとえば、技術指導料を「売上高の○%」としている場合、この特例に基づいて、その○%という比率が高すぎる、低すぎるといった金額の妥当性まで問われるわけではありません。

この制度で求められているのは、あくまで契約書等に記載がない事項を明らかにし、取引内容や価格設定の考え方を確認できるようにすることです。


もちろん、関連者間取引である以上、移転価格税制、寄附金課税、役員給与、交際費、経済的利益など、他の税務論点で金額の妥当性が問題になる可能性はあります。しかし、関連者間取引の書類保存特例そのものは、まず書類保存と記載内容の確認が中心です。


「対価の額の明細」とは何か

役務提供において必要となる「対価の額の明細」とは、何の対価として支払う金額なのかを把握できるものをいいます。たとえば、次のような資料に記載されることが考えられます。

  • 見積書

  • 注文書

  • 請求書

  • 価格明細書

  • 精算書

  • 契約別・サービス別の一覧表


単に「業務委託料」や「管理料」とだけ書かれている場合、何の対価か分かりにくいことがあります。そのような場合は、技術指導料、マーケティング支援料、会計支援料、システム利用料など、支払いの内容を把握できるように整理しておくとよいでしょう。


「対価の額の計算方法」とは何か

「対価の額の計算方法」とは、対価の額をどのように算定したのか、その算定根拠を確認できるものをいいます。たとえば、次のような記載が考えられます。

  • 売上高の○%

  • 利用人数×月額単価

  • 作業時間×時間単価

  • 実費相当額+一定のマークアップ

  • グループ共通費を売上比で配賦

  • システム利用料を利用ID数で按分

  • 広告宣伝費を販売数量比で配分


重要なのは、金額の計算過程を第三者が追えることです。単に最終的な金額だけが書かれている場合、計算方法が分からないため、追加資料が必要になる可能性があります。


「役務提供の明細および内容」とは何か

技術指導やマーケティング支援などの役務提供では、役務の明細および内容を記載する必要があります。

これは、提供された役務の内容や範囲を把握できるものを意味します。

たとえば、技術指導であれば、次のような事項を記載しておくとよいでしょう。

  • 指導対象となる製品・技術

  • 指導内容

  • 実施期間

  • 実施頻度

  • 担当部署

  • 提供方法

  • 成果物の有無

  • 対象となる拠点やプロジェクト


マーケティング支援であれば、支援対象市場、広告戦略、販売促進施策、レポート作成、キャンペーン支援などを具体的に記載すると、取引内容を確認しやすくなります。


契約書に書くか、別資料で補うか

必要事項は、必ずしもすべて契約書に記載しなければならないわけではありません。

契約書、請求書、見積書、注文書、計算メモ、価格明細書など、法人税法等で保存が義務付けられている書類や、別途作成する特定事項記載書類によって、必要事項を確認できれば足ります。


たとえば、契約書に技術指導料の計算方法が書かれていない場合でも、別途、「技術指導料=売上高の○%」と記載した計算メモを作成・保存していれば、契約書の不足を補うことができます。


ただし、後から作成する場合は、作成日や対象取引、対象期間、作成者などを明確にしておくことが望ましいです。


実務で起こりやすい不備

関連者間取引では、次のような書類不備が起こりやすいです。


1. 契約書が古いまま更新されていない

グループ内契約では、何年も前の契約書をそのまま使っているケースがあります。実際の取引内容や金額の決め方が変わっている場合、契約書だけでは説明できない可能性があります。


2. 請求書の記載が抽象的

「管理料」「業務委託料」「支援料」など、抽象的な名目だけでは、何の対価か分かりにくいことがあります。


3. 計算方法が担当者の頭の中にしかない

実際には売上比や人数比で計算しているのに、計算方法を明文化していないケースです。担当者が異動・退職すると、根拠が分からなくなります。


4. 親会社側資料に依存している

海外親会社やグループ本社が計算しているため、日本法人側では根拠資料を保管していないケースがあります。日本法人側で保存義務がある場合は、自社で確認できる資料を保存しておく必要があります。


今のうちに確認したいチェックポイント

関連者間取引がある法人は、次の点を確認しておくと安心です。

  • 関連者との取引を一覧化しているか

  • 工業所有権等の譲渡・貸付け、役務提供があるか

  • 契約書、請求書、見積書、注文書を保存しているか

  • 対価の額の明細が分かるか

  • 対価の計算方法が分かるか

  • 役務提供の内容や範囲が分かるか

  • 契約書に不足がある場合、計算メモ等で補完しているか

  • 保存期間7年を前提に管理しているか

  • 電子保存する場合、電子帳簿保存法の要件も確認しているか


制度開始後に慌てて資料を探すよりも、事前にグループ内取引を洗い出し、必要書類を整備しておくことが重要です。


まとめ

令和8年4月1日以後開始事業年度に行なう関連者間取引について、契約書等に一定の記載事項がない場合には、その不足事項を明らかにする特定事項記載書類を取得または作成し、保存する必要があります。対象となる取引には、工業所有権等の譲渡・貸付けや、技術指導、マーケティング支援、会計・税務・法務支援などの役務提供が含まれます。


特定事項記載書類にどこまで詳しく書くべきかについては、一律の細かな基準があるわけではありません。基本的には、第三者の立場から見て、価格設定の考え方や取引内容を客観的に確認できる程度の記載があれば足りると考えられます。


たとえば、親会社から子会社への技術指導料について、対価を売上高に対する一定割合で計算している場合には、計算メモ等に「技術指導料=売上高の○%」と記載されていれば、対価の額の計算方法として必要な程度を満たすと考えられます。


ただし、特定事項記載書類が保存されていない場合には、青色申告の承認取消事由等に該当する可能性があります。関連者間取引がある法人は、契約書や請求書の記載内容を確認し、不足事項がある場合には、計算メモや明細資料を作成・保存しておきましょう。


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