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IPO準備会社は「通報窓口の周知」に要注意|不正防止と上場審査で求められる実務対応

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 5月31日
  • 読了時間: 6分

おはようございます!代表の安田です。


東京証券取引所は、新規上場時の会計不正を受けた対応として、上場審査において、上場準備会社が取引所通報窓口を役職員等にどの程度周知しているかを確認する取組みを始めています。


目的は、不正の端緒を早期に発見し、上場直前ではなく審査段階で問題に対応できるようにすることです。IPO準備会社にとって、内部通報制度や取引所通報窓口の周知は、単なるコンプライアンス対応ではなく、上場審査・ガバナンス・レピュテーション管理に直結する重要テーマになりつつあります。


本日は、公認会計士の視点から、IPO準備会社が押さえておきたい「通報窓口の周知」と不正防止体制のポイントを整理します。


1. なぜIPO準備会社で「通報窓口の周知」が重要なのか

IPO準備会社では、上場準備の過程で、売上計上、取引実在性、関連当事者取引、原価・外注費、広告宣伝費、資金繰りなど、さまざまな論点が審査・監査の対象になります。


その中で、不正や不適切な会計処理の兆候は、経営陣や管理部門ではなく、現場の役職員が先に気づいていることもあります。そのため、取引所としても、役職員等が問題を把握した場合に適切に声を上げられる環境を整えることを重視していると考えられます。


今回の取組みは、新規上場時の会計不正を踏まえ、不正の早期発見と審査段階での是正を目的とするものです。


2. 実務上の悩み:上場準備を従業員にどこまで知らせるべきか

一方で、IPO準備会社にとって悩ましいのが、上場準備そのものを社内のどこまで周知するかです。


一部の証券会社や監査法人から、役職員等への通報窓口の周知が足りない場合に上場の障害にならないか、不安視する声があります。


実際、上場準備会社では、情報管理やインサイダー情報管理の観点から、限られたメンバーだけで上場準備を進め、従業員等には上場を目指していることを伝えていないケースも少なくありません。


この場合、従業員等への通報窓口の周知が、上場直前になってしまう可能性があります。


3. 東証の考え方:周知範囲の限定には理解、ただし「過度な絞り込み」は避ける

東証は新規上場ガイドブックにおいて、情報管理等のために、上場承認前の周知範囲を限定することには理解を示しています。ただし、その一方で、過度な周知範囲の絞り込みは避けるよう記載しているとされています。


ここが実務上のバランスです。

  • 上場準備情報を広げすぎると、情報管理リスクが高まる

  • 周知を絞り込みすぎると、不正の端緒を拾えず、上場直前に問題が発覚するリスクが高まる


つまり、IPO準備会社には、情報管理と不正防止の両立が求められます。


4. 上場直前の通報は大きなリスクになる

過去に上場承認後、取引所に社内から通報があり、上場までの期間が延長したケースがあったとされています。このような事態になると、単にスケジュールが遅れるだけでなく、投資家・取引先・従業員に対するレピュテーションリスクにもつながります。


IPOでは、上場承認後から上場日までの期間は、マーケットへの説明や投資家対応が集中する重要なタイミングです。その段階で不正疑義や内部通報が出ると、上場延期、追加調査、開示対応、主幹事証券・監査法人との再協議など、極めて大きな負担が生じます。


だからこそ、東証は、上場直前ではなく審査段階で不正の端緒を発見し、対応できる体制を重視しているといえます。


5. IPO連携会議でも「範囲・タイミング」の検討を要請

東証は3月のIPO連携会議において、通報窓口の周知について、上場直前に問題が発覚するリスクに留意しながら、周知範囲やタイミングを検討してほしいとしています。


これは、形式的に「周知しました」と言えば足りるという話ではありません。

上場準備の進捗、社内体制、機密情報管理、内部統制の成熟度を踏まえ、どのタイミングで、誰に、どのような内容を伝えるかを設計する必要があります。


6. IPO準備会社が今から整備すべき実務対応

(1)内部通報制度と取引所通報窓口の位置づけを整理する

まず、自社の内部通報制度と、取引所通報窓口の違いを整理する必要があります。従業員に対しては、社内通報窓口、外部通報窓口、監査役等への通報ルートなどと併せて、どのような場合にどこへ相談できるのかを明確にしておくことが重要です。


(2)周知範囲を段階的に広げる

上場準備初期から全従業員へ広く周知することが難しい場合でも、段階的な周知は検討できます。

例としては、次のような進め方が考えられます。

  • 初期:役員、管理部門、主要部門長

  • 中期:経理・営業・購買・開発など重要業務部門

  • 上場承認前後:全役職員への周知

大切なのは、「なぜその範囲・時期なのか」を説明できることです。


(3)周知した証跡を残す

上場審査で確認されることを考えると、周知の証跡も重要です。

  • 社内通知メール

  • 研修資料

  • 参加者リスト

  • FAQ

  • 社内ポータル掲載履歴

  • 役員会・経営会議での報告資料


こうした証跡を整理しておくことで、「制度はあるが、実際に周知されていない」という評価を避けやすくなります。


(4)通報を受けた場合の対応フローを整備する

通報窓口を周知しても、通報後の対応が不十分では意味がありません。以下のようなフローを事前に整備しておくべきです。

  • 通報受付

  • 初期評価

  • 調査担当の決定

  • 監査役等・主幹事証券・監査法人への報告要否判断

  • 是正措置

  • 再発防止

  • 通報者保護


IPO準備会社では、調査対応の不備そのものがガバナンス上の懸念になり得ます。


7. 実務チェックリスト

IPO準備会社は、次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 取引所通報窓口の周知方針を作成しているか

  • 上場準備情報の管理方針と、通報窓口周知の範囲が整合しているか

  • 周知を上場直前まで遅らせることによるリスクを検討しているか

  • 周知対象者・時期・方法を段階的に設計しているか

  • 周知した証跡を保存しているか

  • 通報発生時の調査・報告・是正フローが整備されているか

  • 監査役等、主幹事証券、監査法人と事前に方針を共有しているか


まとめ:IPO準備では「上場直前に初めて周知」では遅い可能性も

東証は、新規上場時の会計不正を受け、上場審査において、上場準備会社の役職員等に対する取引所通報窓口の周知状況を確認する取組みを始めています。情報管理の観点から周知範囲を一定程度限定することには理解が示されているものの、過度な絞り込みは避けるべきとされ、上場直前に問題が発覚するリスクを踏まえた範囲・タイミングの検討が求められています。


IPO準備会社にとって、通報窓口の周知は単なる形式対応ではありません。不正の早期発見、審査段階での対応、上場延期リスクの低減、そして上場会社にふさわしいガバナンス体制の構築につながる重要な取組みです。


主幹事証券・監査法人・監査役等とも連携しながら、早めに周知方針と運用体制を整えておくことが大切です。


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