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欠損填補の決議が無効に?その他資本剰余金で赤字を補填する際の上限額を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 7月28日
  • 読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


会社の決算で繰越利益剰余金がマイナスになっている場合、「その他資本剰余金を使って欠損填補できないか」と検討することがあります。


特に、過去の赤字が累積している会社、資本政策を整理したい会社、配当可能額や財務体質を見直したい会社では、欠損填補は実務上よく出てくる論点です。


しかし、その他資本剰余金による欠損填補は、自由にできるわけではありません。補填できる金額には上限があり、この上限額を誤ると、取締役会や株主総会で行なった決議が無効と判断される可能性があります。


実際に、利益剰余金のマイナス残高の計算を誤り、補填可能額を超えて欠損填補を行おうとした事例では、決議が無効とされています。


本日は、その他資本剰余金による欠損填補の基本、資本剰余金と利益剰余金の違い、補填可能額の考え方、決議無効になり得るケース、実務で確認すべきポイントについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


欠損填補とは

欠損填補とは、会社に生じている利益剰余金のマイナス残高、いわゆる欠損を、他の剰余金などで補う手続をいいます。


たとえば、過去の赤字が積み重なり、貸借対照表の純資産の部にある繰越利益剰余金がマイナスになっている会社があります。このような状態では、外部から見た財務内容が悪く見えるだけでなく、配当や資本政策にも影響することがあります。


そこで、会社が保有しているその他資本剰余金を使い、利益剰余金のマイナスを解消することがあります。これが、その他資本剰余金による欠損填補です。


ただし、ここで注意が必要です。その他資本剰余金があるからといって、どのような金額でも利益剰余金に振り替えられるわけではありません。


会社法や会計基準では、資本剰余金と利益剰余金を明確に区別する考え方が採られているためです。


資本剰余金と利益剰余金は混同してはいけない

純資産の部には、資本金、資本剰余金、利益剰余金などの項目があります。


このうち、資本剰余金は、株主からの払込みや資本取引に関連して生じる剰余金です。代表的なものとして、資本準備金やその他資本剰余金があります。


一方、利益剰余金は、会社が事業活動によって獲得した利益の蓄積です。利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金などが含まれます。


資本剰余金は資本取引から生じたもの、利益剰余金は損益取引から生じたものです。この性質の違いがあるため、会計上、両者を安易に混同することは認められていません。

そのため、原則として、資本剰余金を利益剰余金へ振り替えることはできません。


もし資本剰余金を自由に利益剰余金へ振り替えられると、会社が事業活動で獲得した利益がないにもかかわらず、利益があるかのように見えてしまう可能性があります。これは、財務諸表利用者に誤解を与えるおそれがあります。


例外として認められる欠損填補

もっとも、利益剰余金がマイナスになっている場合に、そのマイナスをその他資本剰余金で補填することは、一定の範囲で認められています。

なぜなら、これは資本剰余金を利益として扱うものではなく、過去の損失によって生じた利益剰余金のマイナスを解消するための処理だからです。


つまり、利益剰余金がマイナスの状態を、その他資本剰余金を使ってゼロに近づける処理であれば、資本剰余金と利益剰余金の混同には当たらないと考えられます。


ただし、認められるのはあくまで「利益剰余金のマイナス残高の範囲内」です。

ここを超えてその他資本剰余金を利益剰余金へ振り替えると、資本剰余金と利益剰余金を混同することになり、会計基準に反する可能性があります。


欠損填補できるのは年度決算時のマイナス残高

その他資本剰余金で補填できる利益剰余金のマイナス残高は、年度決算時の残高に限られます。


つまり、期中に一時的に利益剰余金がマイナスになったからといって、その都度、その他資本剰余金で補填することはできません。


欠損填補の対象となるのは、年度決算において確定した利益剰余金のマイナス残高です。

たとえば、期中に赤字が発生して繰越利益剰余金がマイナスになったとしても、年度末までに業績が回復し、利益剰余金全体がプラスになった場合には、欠損填補の対象となるマイナス残高は存在しないことになります。


実務上は、決算確定後の貸借対照表に基づいて、利益剰余金全体がマイナスかどうかを確認する必要があります。


「繰越利益剰余金のマイナス額」だけを見てはいけない

欠損填補で最も誤りやすいポイントは、補填可能額の計算です。


利益剰余金のマイナス残高を判定する際には、繰越利益剰余金だけを見るのではありません。利益剰余金は、利益準備金とその他利益剰余金で構成されます。その他利益剰余金には、繰越利益剰余金や任意積立金が含まれます。


したがって、欠損填補の上限額を計算する際には、利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金などを合算して、利益剰余金全体の残高を確認する必要があります。


たとえば、次のような会社を考えてみます。

利益準備金:100百万円

繰越利益剰余金:△700百万円

この場合、繰越利益剰余金だけを見ると700百万円のマイナスです。しかし、利益準備金が100百万円あるため、利益剰余金全体では△600百万円です。


したがって、その他資本剰余金で補填できる上限額は700百万円ではなく、600百万円です。この計算を誤ると、補填可能額を超える欠損填補を決議してしまう可能性があります。


決議が無効となった事例のポイント

ある会社の事例では、年度決算において、利益準備金が128百万円、繰越利益剰余金が△1,040百万円となっていました。


この場合、利益剰余金全体の残高は、128百万円と△1,040百万円を合算した△912百万円です。したがって、その他資本剰余金で補填できる上限額は912百万円となります。


ところが、その会社では、繰越利益剰余金のマイナス額である1,040百万円を補填する決議を行なっていました。


これは、利益剰余金全体のマイナス残高である912百万円を超えています。つまり、補填可能額を上回る欠損填補を決議していたことになります。そのため、この決議は会計基準に反し、会社法の定めにも反すると解され、無効とされています。


この事例からわかるのは、「繰越利益剰余金のマイナス額=補填可能額」と考えるのは危険だということです。


なぜ上限額を超えると問題なのか

上限額を超えてその他資本剰余金を利益剰余金へ振り替えると、利益剰余金のマイナスを解消する範囲を超えて、資本剰余金を利益剰余金に移すことになります。


これは、資本剰余金と利益剰余金の混同に当たる可能性があります。


利益剰余金がマイナスである範囲内であれば、過去の損失を資本剰余金で補う処理として説明できます。しかし、マイナスを超えて利益剰余金を増やすことは、資本取引から生じた剰余金を利益として扱うことに近くなります。


そのため、会計基準上認められないだけでなく、会社法上の手続としても問題が生じる可能性があります。特に、欠損填補は取締役会や株主総会の決議を伴うことが多いため、金額を誤ると決議そのものの有効性が問題になります。


実務では、決議前に補填可能額を正確に計算し、議案や決議書の金額と整合しているかを慎重に確認する必要があります。


会社法上の手続にも注意

その他資本剰余金による欠損填補を行なう場合、会計上の処理だけでなく、会社法上の手続も確認する必要があります。


会社法では、準備金や剰余金の額の減少、剰余金の処分などについて、一定の機関決定が求められます。会社の機関設計や定款、対象となる剰余金の内容によって、取締役会決議で足りるのか、株主総会決議が必要なのかを確認する必要があります。


また、議案の記載内容も重要です。

欠損填補の目的、減少するその他資本剰余金の額、増加する繰越利益剰余金の額、効力発生日などを明確にしておく必要があります。


ここで補填可能額を超える金額を記載してしまうと、決議の有効性が問題になる可能性があります。決議後に誤りが判明した場合、訂正や再決議が必要になることも考えられます。


欠損填補を行なうメリット

欠損填補には、一定の実務上のメリットがあります。


まず、貸借対照表上の繰越利益剰余金のマイナスを解消または圧縮できるため、財務諸表の見た目が改善します。


また、過去の損失を整理することで、将来の配当政策や資本政策を検討しやすくなる場合があります。


さらに、金融機関や取引先に対して、財務体質の改善に向けた対応を説明しやすくなることもあります。


ただし、欠損填補を行なっても、会社の資金繰りが直接改善するわけではありません。あくまで純資産の部の中での振替であり、現金が増える取引ではないためです。


そのため、欠損填補を行なう際には、財務諸表の表示改善だけでなく、今後の収益改善、資金繰り、事業計画とあわせて検討する必要があります。


欠損填補を行なう際の実務チェックポイント

その他資本剰余金による欠損填補を検討する場合には、次の点を確認しましょう。


まず、年度決算時点で利益剰余金全体がマイナスになっているかを確認します。期中の一時的なマイナスではなく、年度決算時の残高が対象です。


次に、利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金を合算し、利益剰余金全体のマイナス残高を計算します。繰越利益剰余金だけを見て判断してはいけません。


また、その他資本剰余金の残高が十分にあるかを確認します。補填可能額は、利益剰余金全体のマイナス残高と、その他資本剰余金の残高の範囲内で検討する必要があります。


さらに、会社法上必要な決議機関を確認します。取締役会、株主総会、定款の定め、会社の機関設計により手続が異なる可能性があります。


最後に、決議書や議案の金額が、会計上の補填可能額と一致しているかを確認します。端数処理や単位表示の誤りにも注意が必要です。


中小企業でも注意が必要

欠損填補というと、上場会社や大企業の資本政策の話に聞こえるかもしれません。


しかし、中小企業でも十分に関係する論点です。

たとえば、過去の赤字で繰越利益剰余金が大きくマイナスになっている会社が、増資や資本準備金の減少を行なった後に、欠損填補を検討することがあります。


また、金融機関への説明、事業承継、M&A、組織再編、配当可能性の整理などを目的として、純資産の部を見直すケースもあります。


中小企業の場合、会計上の処理と会社法上の手続が十分に整理されないまま、顧問税理士や司法書士、経営者の判断で進めてしまうこともあります。


しかし、欠損填補は、会計基準、会社法、登記実務、税務の観点が交差する論点です。金額を誤ると、後から手続の有効性や財務諸表の適正性が問題になる可能性があります。


欠損填補は税務にも影響するのか

その他資本剰余金による欠損填補は、基本的には純資産の部の中の振替です。そのため、通常はそれ自体で課税所得が直接増減するものではありません。


ただし、税務上の繰越欠損金とは別の概念である点に注意が必要です。

会計上の利益剰余金のマイナスを補填しても、法人税法上の繰越欠損金が当然に消えるわけではありません。税務上の欠損金は、法人税申告書上で別途管理されます。


つまり、貸借対照表上の繰越利益剰余金が改善したとしても、税務上の繰越欠損金の利用可能額や期限は別途確認する必要があります。


また、資本剰余金や利益剰余金の変動は、将来の配当、自己株式取得、組織再編、株主間取引に影響する場合があります。そのため、欠損填補を行なう際には、会計処理だけでなく税務上の影響もあわせて検討することが望ましいでしょう。


専門家に相談すべきケース

次のような場合には、欠損填補を実行する前に、公認会計士、税理士、司法書士、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

  • その他資本剰余金の金額が大きい

  • 利益準備金や任意積立金がある

  • 繰越利益剰余金のマイナス額が大きい

  • 上限額の計算に不安がある

  • 株主総会決議や取締役会決議が必要

  • 資本準備金の減少とあわせて行なう

  • M&Aや事業承継を控えている

  • 金融機関や株主への説明が必要

  • 過去に行なった欠損填補の金額が正しいか確認したい


特に、利益準備金や任意積立金がある会社では、繰越利益剰余金のマイナス額だけを見て補填可能額を判断しないよう注意が必要です。


まとめ

その他資本剰余金による欠損填補は、利益剰余金がマイナスの場合に、そのマイナス残高の範囲内で認められる処理です。


資本剰余金と利益剰余金は性質が異なるため、原則として資本剰余金を利益剰余金へ振り替えることはできません。しかし、利益剰余金のマイナスを補填する範囲であれば、資本剰余金と利益剰余金の混同には当たらないと考えられています。


ただし、補填できるのは年度決算時の利益剰余金全体のマイナス残高に限られます。期中に発生したマイナスをその都度補填することはできません。


また、補填可能額を計算する際には、繰越利益剰余金だけでなく、利益準備金や任意積立金を含めた利益剰余金全体の残高を確認する必要があります。


繰越利益剰余金のマイナス額だけを見て欠損填補額を決めると、補填可能額を超えてしまうことがあります。その場合、会計基準や会社法に反するとして、決議が無効と判断される可能性があります。


欠損填補は、単なる会計上の振替ではなく、会社法上の決議や財務諸表の適正性にも関わる重要な手続です。実行する際には、年度決算時の利益剰余金全体の残高、その他資本剰余金の残高、必要な決議手続、税務上の影響を確認し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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