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関連者間取引の書類保存特例、青色申告取消しはどう判断される?国税庁の事務運営指針と弾力的運用の方向性

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 12 分前
  • 読了時間: 6分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正で創設された「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」について、実務上もっとも気になるのが、書類を保存していない場合に青色申告の承認取消しとなるのか、という点です。


この特例では、関連者間取引に係る契約書等に一定の記載事項がない場合、その不足部分を明らかにする書類を取得・作成し、保存する必要があります。未保存の場合は青色申告の取消事由に該当しますが、制度の趣旨が関連者間取引の実態解明にあることを踏まえ、国税庁は事務運営指針を通じて、一定の弾力的な運用を行なう見通しです。


本日は、公認会計士・税理士の視点から、関連者間取引特例の概要、青色申告取消しの判断ポイント、今後公表予定の事務運営指針で注目すべき内容を整理します。


1. 関連者間取引に係る書類保存特例とは

関連者間取引に係る書類保存特例は、青色申告法人が、関連者(親会社等)から次のような取引を受けた場合に関係します。

  • 工業所有権等の譲渡・貸付け

  • 経営管理など一定の役務提供


これらの取引について、法令上保存すべき契約書等に、対価の額や算定根拠等の記載がない場合には、その不足部分、すなわち「特定事項」を明らかにする書類(特定事項記載書類)を取得・作成し、保存しなければなりません。


そして、特定事項記載書類が保存されていない場合には、法人税法上、青色申告の承認取消事由に該当します。


2. 青色申告取消しになると何が問題か

青色申告の承認が取り消されると、企業にとって影響は非常に大きくなります。

代表的には、次のような税務上のメリットを受けられなくなる可能性があります。

  • 欠損金の繰越控除

  • 研究開発税制の特別控除

  • その他、青色申告を前提とする各種税務上の恩典


青色申告承認取消しによる影響を踏まえ、法人は特定事項の範囲や、特定事項記載書類として作成すべき情報の詳細を理解しておく必要があると言えるでしょう。


単なる書類保存の不備に見えても、結果として税負担や税務ポジションに大きな影響を及ぼすため、制度開始前から社内体制を整えることが重要です。


3. 国税庁の事務運営指針は6月末公表予定

国税庁は、関連者間取引特例に関する事務運営指針を6月末に公表予定とされています。

この指針では、実務上の参考となるよう、次のような内容が盛り込まれる見込みです。

  • 制度趣旨

  • 基本的な対応方針

  • 弾力的な運用に関する取扱い

  • 取引ごとに求められる記載内容の考え方


また、この特例は法令上の解釈を伴い、税務職員と納税者の間で見解の相違が生じる可能性があるため、通常の「法人の青色申告の承認の取消しについて」の事務運営指針とは区別し、特例専用の事務運営指針として別途公表される見通しです。


4. どのような場合に青色申告取消しの可能性が高いのか

実務上の最大の関心は、どのような場合に青色申告が取り消されるのかです。


この特例は関連者間取引の実態解明を目的とする制度であるため、法令上保存すべき書類に対価の額等の算定根拠がなく、さらに特定事項記載書類の取得・作成・保存をまったく行なっていない場合には、青色申告が取り消される可能性が高いとされています。


つまり、

  • 契約書にも書いていない

  • 補完資料もない

  • 関連者に確認しても説明できない

という状態は、非常にリスクが高いということです。


5. 直ちに取消しとならない可能性があるケース

一方で、企業への過度な事務負担にも配慮し、一定の場合には、直ちに青色申告取消しとはしない弾力的な運用が予定されています。資料では、次のようなケースが挙げられています。


(1)手元に書類がなくても、関連者に問い合わせて情報提供できる場合

特定事項記載書類そのものが手元に保管されていなくても、関連者に問い合わせることで必要な情報を提供できる場合には、直ちに取消しとはならない運用が想定されています。


(2)グループ内システムから取引詳細を把握できる場合

グループ内のシステムにより、取引の詳細が分かる情報を入手できる場合も、弾力的に扱われる可能性があります。


この点は、グローバル企業やシェアードサービスを利用している企業にとって重要です。紙の書類として保管されていなくても、システム上で必要情報を追跡できるかどうかが実務上の鍵になります。


6. ローカルファイルとの関係:同じレベルの詳細までは求めない方向

国税庁は、ローカルファイル作成に当たっての例示集で示される範囲の事項等が記載されていれば、対価の算定根拠等の記載を満たすことを示す一方で、ローカルファイルと同じレベルで詳細な事項の記載を求めるものではないことも明らかにする方向とされています。

これは実務上かなり重要です。


関連者間取引の実態や対価算定根拠を確認できる必要はありますが、すべての対象取引について移転価格文書のローカルファイル並みの詳細資料を作成するとなると、企業負担が非常に大きくなります。今回の指針では、そのバランスが示されることが期待されます。


7. 企業が今から準備すべき実務対応

(1)対象取引を棚卸しする

まずは、関連者から受けている無形資産取引や役務提供取引を洗い出します。対象になりやすいものとしては、グループ本社からの経営管理料、ITサービス料、研究開発費配賦、ブランド使用料、ノウハウ提供料などが考えられます。


(2)契約書・請求書・システム情報を確認する

法令上保存すべき書類に、対価の額や算定根拠が記載されているかを確認します。記載が不足している場合には、補完資料を作成するか、関連者・グループ内システムから必要情報を取得できる体制を整える必要があります。


(3)「説明できる状態」を作る

形式的に書類が存在するかだけでなく、税務調査時に取引実態や対価算定根拠を説明できるかが重要です。事務運営指針で弾力的運用が示されるとしても、「後から調べれば分かる」ではなく、どこに情報があり、誰が取得できるのかを社内で明確にしておきましょう。


(4)6月末公表予定の事務運営指針を確認する

現時点では詳細が未公表のため、国税庁の事務運営指針が出た段階で、社内ルールや保存資料のレベル感を再確認することが必要です。


8. 実務チェックリスト

  • 関連者から受ける無形資産・役務提供取引を一覧化しているか

  • 契約書等に対価の額・算定根拠・取引内容が記載されているか

  • 記載が不足している取引について、特定事項記載書類を作成・取得できるか

  • 関連者への問い合わせで必要情報を取得できる体制があるか

  • グループ内システムから取引詳細を確認できるか

  • ローカルファイルと同程度の資料作成を前提にしすぎていないか

  • 6月末公表予定の事務運営指針を確認し、社内ルールに反映する予定があるか

  • 税務、経理、法務、事業部門で役割分担が決まっているか


まとめ:青色取消しリスクはあるが、目的は取引実態の解明。説明可能な体制整備が重要

関連者間取引に係る書類保存特例では、特定事項記載書類が未保存の場合、青色申告の承認取消事由に該当します。ただし、制度趣旨が関連者間取引の実態解明であることから、国税庁は事務運営指針を通じて、一定の弾力的な運用を行なう見通しです。


書類が手元になくても関連者に問い合わせて情報提供できる場合や、グループ内システムから取引詳細を把握できる場合には、直ちに取消しとならない可能性があります。


一方で、契約書等に算定根拠がなく、補完資料もまったくない状態はリスクが高いといえます。企業としては、6月末公表予定の事務運営指針を確認しつつ、関連者間取引について「説明できる状態」を整えておくことが重要です。

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