個人の税理士事務所も社会保険の強制適用に?常時5人以上雇用する士業事務所の手続きを税理士が解説
- 安田 亮
- 4 日前
- 読了時間: 12分
こんにちは!代表の安田です。
個人で税理士事務所を営んでいる場合、「法人ではないから社会保険は任意加入」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、令和4年10月1日以後、税理士、公認会計士、社会保険労務士、司法書士、弁護士など一定の士業の個人事業所について、健康保険・厚生年金保険の適用対象が拡大されています。これにより、個人事業として運営している税理士事務所であっても、常時5人以上の従業員を雇用している場合には、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。
対象となるのは正社員だけではありません。
パート・アルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば、被保険者になる可能性があります。
本日は、個人の税理士事務所が社会保険の強制適用事業所になる要件、対象となる士業、常時5人以上の判定、パート・アルバイトの取扱い、新規適用届などの必要手続き、国民健康保険組合を継続する場合の注意点を解説します。
個人事業所と社会保険の基本
健康保険・厚生年金保険では、一定の事業所が「適用事業所」となります。
法人の場合は、業種や従業員数にかかわらず、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。一方、個人事業所については、以前からすべてが強制適用の対象だったわけではありません。
製造業、土木建築業、物品販売業など、一定の法定業種に該当し、かつ常時5人以上の従業員を使用する個人事業所が、強制適用事業所とされてきました。
これに対し、弁護士、税理士、社会保険労務士などの士業の個人事業所は、従来は法定業種に含まれていませんでした。
そのため、個人で営む士業事務所は、従業員が一定数いても、原則として任意適用によらなければ健康保険・厚生年金保険の適用事業所にはならないケースがありました。
しかし、令和4年10月1日から、この取扱いが変わりました。
令和4年10月から士業の個人事業所も対象に
令和2年6月に公布された年金制度改正法により、令和4年10月1日から、個人事業所における健康保険・厚生年金保険の適用業種が拡大されました。
具体的には、税理士等の資格を有する者が行う法律・会計に係る業務を行う事業が、適用対象の業種に追加されました。
日本年金機構も、令和4年10月1日以降、対象士業に該当する個人事業所のうち、常時5人以上の従業員を雇用している事業所は、健康保険および厚生年金保険の適用事業所になると案内しています。つまり、個人事業の税理士事務所であっても、要件を満たせば、社会保険への加入手続きが必要です。
対象となる12士業
令和4年10月1日以後、適用対象に追加された士業は、法律・会計に係る業務を行う一定の士業です。
日本年金機構の案内では、対象士業として次のものが示されています。
・弁護士
・沖縄弁護士
・外国法事務弁護士
・公認会計士
・公証人
・司法書士
・土地家屋調査士
・行政書士
・海事代理士
・税理士
・社会保険労務士
・弁理士これらの士業を個人事業として営み、常時5人以上の従業員を雇用している場合には、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所に該当する可能性があります。
なお、法人化している税理士法人、社会保険労務士法人、司法書士法人などは、法人である時点で原則として適用事業所です。
今回の改正で特に注意が必要なのは、個人事業として士業事務所を運営している場合です。
常時5人以上の従業員を雇用しているかがポイント
士業の個人事業所が強制適用事業所になるかどうかは、常時5人以上の従業員を雇用しているかが重要です。
ここでいう従業員には、正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、アルバイトなども含まれます。ただし、すべての短時間勤務者をそのまま人数に含めるわけではありません。
日本年金機構は、従業員とは名称を問わず、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上ある人をいうと案内しています。
たとえば、通常の正社員が週40時間・月20日勤務であれば、週30時間以上かつ月15日以上程度の勤務者は、4分の3基準を満たす可能性があります。
事務所の人数を確認する際は、単に雇用契約の名称を見るのではなく、所定労働時間と所定労働日数を確認しましょう。
個人事業主本人は通常、被保険者にならない
個人の税理士事務所が健康保険・厚生年金保険の適用事業所になった場合でも、個人事業主本人が健康保険・厚生年金保険の被保険者になるわけではありません。
日本年金機構は、個人事業所の事業主およびその家族については通常、被保険者とはならないと案内しています。ただし、家族については就労実態等により被保険者となる場合があります。したがって、個人事業主である税理士本人は、通常、国民年金や国民健康保険などの取扱いが続きます。
一方、雇用している従業員については、要件を満たせば健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。
個人事業所では、事業主本人と従業員で社会保険の取扱いが異なる点に注意が必要です。
パート・アルバイトも被保険者になる場合がある
社会保険の加入対象は、正社員だけではありません。
適用事業所で働くパート・アルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。
たとえば、税理士事務所で次のような勤務をしている人は、加入対象になる可能性があります。
・週5日、1日6時間勤務のパート職員
・週4日、1日7時間勤務の事務スタッフ
・繁忙期だけではなく通年で通常勤務に近い時間働く補助者
・契約社員として正社員に近い勤務日数・時間で働く職員一方、週2日勤務や短時間勤務など、4分の3基準を満たさない人は、原則としてこの基準では被保険者になりません。
ただし、企業規模や短時間労働者の要件により、別途加入対象となる場合もあります。
士業事務所では、繁忙期だけ勤務時間が増えるスタッフや、扶養内勤務を希望するパート職員も多いため、雇用契約書や実際の勤務状況を確認しておきましょう。
必要な届出
常時5人以上の従業員を雇用する士業の個人事業所が、新たに健康保険・厚生年金保険の適用事業所になった場合、事業主は日本年金機構へ届出を行なう必要があります。
主な届出は次のとおりです。
・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
・健康保険 被扶養者(異動)届
・国民年金第3号被保険者関係届
・必要に応じて、健康保険 被保険者適用除外承認申請書日本年金機構も、新規適用届および被保険者資格取得届は、事実発生日から5日以内に、電子申請、郵送、窓口持参のいずれかにより提出すると案内しています。
現在、新たに常時5人以上となった士業事務所についても、要件を満たした時点から速やかに手続きする必要があります。
新規適用届の添付書類
個人事業所が新規適用届を提出する場合には、添付書類が必要です。
日本年金機構の案内では、強制適用となる個人事業所の場合、事業主の世帯全員の住民票の写しが必要とされています。これはコピー不可で、個人番号の記載がないもの、提出日から遡って90日以内に発行されたものとされています。
また、実際に事業を行なっている事業所所在地が、事業主の住民票上の住所と異なる場合には、賃貸契約書のコピーなど、事業所所在地を確認できる書類を別途添付する必要があります。
税理士事務所などでは、自宅とは別の場所に事務所を借りているケースも多いでしょう。
その場合、事務所所在地の確認書類も忘れずに準備しておく必要があります。
国民健康保険組合を継続したい場合
士業事務所の従業員の中には、従前から国民健康保険組合に加入している人がいる場合があります。新たに健康保険の被保険者となる人が、従前加入していた国民健康保険組合に引き続き加入したい場合には、一定の手続きが必要です。
改正により新たに健康保険の被保険者となった者が、従前加入していた国民健康保険組合に引き続き加入したい場合、健康保険の被保険者資格取得届に代えて、施行日から14日以内に健康保険の被保険者適用除外承認申請書を提出することになると説明されています。
日本年金機構も、従前より国民健康保険組合に加入している人については、被保険者となった事実発生日から14日以内に「健康保険 被保険者適用除外承認申請書」の届出があった場合に限り、引き続き国民健康保険組合に加入できると案内しています。
この手続きは期限が短いため、対象者がいる場合は早めに確認しましょう。
なお、健康保険の適用除外承認を受ける場合でも、厚生年金保険については別途加入対象になる点に注意が必要です。
社会保険料の負担に注意
個人の税理士事務所が健康保険・厚生年金保険の適用事業所になると、対象従業員の社会保険料を事業主と従業員で負担します。
厚生年金保険料や健康保険料は、給与額に応じて決まる標準報酬月額をもとに計算されます。
事業主負担分は、事務所の人件費負担を増加させる要因になります。
たとえば、これまで国民年金・国民健康保険に加入していた従業員が健康保険・厚生年金保険に加入する場合、従業員本人にとっては将来の年金や傷病手当金などの保障が手厚くなる一方、給与から社会保険料が控除されるため、手取り額が変わります。
事業主側も、法定福利費の増加を見込んだ資金繰りや給与設計が必要です。
税理士事務所や士業事務所では、人件費率が高いことが多いため、社会保険料の事業主負担は事務所経営に大きく影響する可能性があります。
給与計算・年末調整への影響
社会保険の適用事業所になると、給与計算の実務も変わります。
対象従業員について、毎月の給与から健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を控除し、事業主負担分と合わせて納付します。
また、標準報酬月額の決定、賞与支払届、算定基礎届、月額変更届など、社会保険関係の定期的な手続きも必要になります。
給与計算では、次の点を整備しておきましょう。
・被保険者ごとの標準報酬月額
・健康保険料率、介護保険料率、厚生年金保険料率
・入退社時の資格取得・喪失手続き
・賞与支給時の保険料控除
・算定基礎届、月額変更届の管理
・扶養家族の異動届
・給与明細への社会保険料表示年末調整では、社会保険料控除の金額にも影響します。
また、従業員が配偶者の扶養に入っていた場合には、社会保険加入により扶養から外れるケースもあります。
iDeCo加入要件の緩和も同時期に実施
同じ令和2年の年金制度改正により、企業型確定拠出年金、いわゆる企業型DC加入者のiDeCo加入要件も緩和されています。
令和4年10月からは、企業型DC加入者について、加入者自身の選択でiDeCoに加入できるようになりました。
従来は、企業型DC加入者がiDeCoに加入するには、労使合意に基づく規約の定めや、企業型DCの事業主掛金の上限引下げが必要とされていました。
改正後は、これらの要件が緩和され、加入者ごとにiDeCoへ加入しやすくなっています。
税理士事務所などの士業事務所で企業型DCを導入しているケースは多くないかもしれませんが、退職金制度や福利厚生制度を整備している事務所では、あわせて確認しておきたいポイントです。
実務上のチェックポイント
個人の税理士事務所・士業事務所では、次の点を確認しましょう。
1. 対象士業に該当するか
税理士、公認会計士、社会保険労務士、司法書士、行政書士、弁護士など、対象士業に該当するか確認します。
2. 個人事業所か法人か
法人であれば原則として適用事業所です。
個人事業所の場合は、常時5人以上の従業員を雇用しているかが重要です。
3. 常時5人以上の従業員がいるか
正社員だけでなく、所定労働時間・所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上のパート・アルバイトも含めて確認します。
4. 被保険者になる従業員を確認する
正社員、契約社員、パート・アルバイトについて、社会保険の加入要件を満たすか確認します。
5. 必要書類を準備する
新規適用届、被保険者資格取得届、被扶養者異動届、添付書類などを準備します。
6. 国民健康保険組合の継続希望者を確認する
対象者がいる場合、被保険者適用除外承認申請書の提出期限に注意します。
7. 社会保険料の事業主負担を試算する
健康保険料・厚生年金保険料の事業主負担分を見込み、資金繰りや給与設計に反映します。
8. 給与計算体制を整備する
毎月の保険料控除、賞与支払届、算定基礎届、月額変更届などに対応できる体制を整えます。
税理士事務所で起こりやすい誤解
個人事業の税理士事務所は社会保険の強制適用にならない
令和4年10月1日以後、個人事業の税理士事務所でも、常時5人以上の従業員を雇用していれば、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。
パートやアルバイトは人数に含めなくてよい
名称だけでは判断できません。
週の所定労働時間と月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば、パート・アルバイトも従業員として判定対象になります。
事業主本人も厚生年金に入れる
個人事業所の事業主本人は、通常、健康保険・厚生年金保険の被保険者にはなりません。
国民健康保険組合に加入している従業員は何もしなくてよい
従前加入していた国民健康保険組合に引き続き加入したい場合には、期限内に被保険者適用除外承認申請書の提出が必要です。
社会保険に加入すれば手続きは最初だけで終わる
適用後も、入退社、扶養異動、賞与支払、算定基礎、月額変更など、継続的な手続きが必要です。
まとめ
令和4年10月1日から、個人事業所における健康保険・厚生年金保険の適用業種が拡大されました。これにより、税理士、公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士など一定の士業の個人事業所について、常時5人以上の従業員を雇用している場合には、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になります。
個人の税理士事務所であっても、常時5人以上の従業員を雇用していれば、原則として新規適用届や被保険者資格取得届などの手続きが必要です。
この「従業員」には、正社員だけでなく、週の所定労働時間および月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上あるパート・アルバイトも含まれます。
一方、個人事業主本人は、通常、健康保険・厚生年金保険の被保険者にはなりません。
新たに適用事業所となる場合には、新規適用届、被保険者資格取得届、被扶養者異動届などを日本年金機構へ提出します。
また、従前から国民健康保険組合に加入している従業員が、引き続き国民健康保険組合へ加入したい場合には、期限内に健康保険の被保険者適用除外承認申請書を提出する必要があります。
社会保険の適用により、従業員の保障は手厚くなる一方、事務所側には健康保険料・厚生年金保険料の事業主負担や、給与計算・届出事務の負担が発生します。
個人で士業事務所を運営している方は、従業員数、勤務時間、加入対象者、必要手続き、社会保険料負担を早めに確認し、漏れなく対応しましょう。




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