改正下請法で振込手数料の「売手負担」が禁止に
- 安田 亮
- 11月12日
- 読了時間: 4分
おはようございます!代表の安田です。
本日は下請法の改正についてです。
1.約20年ぶりの大改正 ― 「下請法」から「取適法」へ
2025年(令和8年)1月1日より、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が約20年ぶりに抜本改正され、新法の名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」となります。
この改正では、
対象となる取引の範囲の拡大
新たな「従業員基準」の追加
振込手数料の売手負担を禁止
といった大きな変更が盛り込まれています。
これまで多くの企業では、下請事業者(売手)との間で合意のうえ、代金振込時に手数料を差し引く形で支払いを行なってきました。しかし、改正後は合意の有無にかかわらず、振込手数料を代金から差し引くことが違法になります。
2.取引範囲が拡大 ― 半数近くの中小取引が対象に
新たな取適法では、従来の「資本金基準」に加えて「従業員数基準」が導入されます。そのため、資本金が小規模でも従業員規模が大きい企業は、新たに法律の適用対象となる可能性があります。
取引内容 | 委託事業者 | 中小受託事業者 |
製造委託・修理委託等 | 資本金3億円超 または従業員300人超 | 資本金3億円以下 または従業員300人以下 |
情報処理・ソフトウェア開発 | 資本金1,000万円超 または従業員100人超 | 資本金1,000万円以下 または従業員100人以下 |
この改正により、これまで下請法の対象外だった取引の4〜12%程度が新たに規制対象となる見込みです。(公正取引委員会・中小企業庁「第4回企業取引研究会」資料より)
3.振込手数料は「買手負担」が原則に
改正前は、親事業者(買手)が代金振込の際に発生する銀行手数料を「書面合意があれば」下請側に負担させることが認められていました。
しかし改正後の取適法では、「合意の有無を問わず、中小受託事業者に振込手数料を負担させてはならない」と明記されています(取適法第5条第1項三号)。
したがって、令和8年1月以降は、買手が手数料を負担しない契約は法令違反(勧告対象)となるおそれがあります。
4.経理処理とインボイス対応の変更点
(1)これまでの「売手負担」処理は不要に
従来、売手が手数料を負担していた場合には、国税庁の「インボイスQ&A」に基づき、次のような3つの処理方法が示されていました(問29)。
売手が手数料相当額を売上値引きとして処理
売手が買手から「支払便宜の役務提供」を受けた対価とする
買手が売手に代わって手数料を立替払いしたものとする
しかし、取適法の施行により、これらは原則として生じなくなります。
(2)今後は「買手負担」のシンプルな処理に
買手が手数料を負担する場合は、次のように整理されます。
取引区分 | 売手の処理 | 買手の処理 |
商品代金10,000円・手数料440円の場合 | 売上10,000円(課税売上) | 仕入10,000円(課税仕入)+振込手数料440円(課税仕入) |
買手側は、金融機関のインボイスを保存することで仕入税額控除が可能です。なお、金融機関から取引ごとにインボイスを受け取れない場合には、「通帳明細+1件分のインボイス」を併せて保存する弾力的対応が認められています(問103-2)。
また、課税売上高1億円以下の事業者等は、1万円未満の課税仕入について帳簿保存のみで控除可能な少額特例(令和11年9月30日まで)も利用できます。
5.今後の実務対応ポイント
改正により、委託事業者(買手)は以下の見直しが必要です。
契約書・発注書に「振込手数料の負担者」を明記し、買手負担に修正
会計システムの自動仕訳設定を変更(値引き処理→仕入経費処理へ)
振込明細や金融機関のインボイス保存体制の整備
下請企業との取引フローを再確認し、取適法の対象かどうか確認
これらの対応を怠ると、取適法違反として公表(勧告)されるリスクがあります。
6.税理士からのコメント
この改正は、単なる手数料負担の変更にとどまらず、取引の透明性・公正性を確保するための制度改革です。
特に、製造業や情報サービス業など、下請取引が多い業種では経理処理やシステム設定の見直しが避けられません。
年内のうちに、
契約書の確認
買手・売手双方の経理処理統一
金融機関のインボイス発行方法
の確認を済ませておくことを強くおすすめします。



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