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改正下請法・フリーランス法・優越的地位の濫用

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 11月7日
  • 読了時間: 5分

おはようございます!代表の安田です。


2024年11月に「フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行され、さらに2026年1月1日には改正下請法(新名称:取適法)が施行予定です。


これらの法改正は、立場の弱い取引先(中小企業・個人事業主・フリーランス)を保護し、不当な価格設定や報酬遅延などを防ぐことを目的としています。


また、公正取引委員会が取り締まる「優越的地位の濫用」も含め、3つの制度はいずれも「取引の公正性」を軸にしています。しかし、適用対象や禁止行為の内容には違いがあり、実務では混同しやすい点が多いため注意が必要です。


1.それぞれの法律の対象と特徴

区分

改正下請法(取適法)

フリーランス法

優越的地位の濫用(独禁法)

主な対象

中小受託事業者(法人・個人)

従業員を雇用していないフリーランス

取引上、相手より優越的地位にある全事業者

適用範囲

顧客向けの製造・修理・情報成果物作成・役務提供・運送委託

自社向け・顧客向けを問わず業務委託全般

契約形態を問わず、実質的に力関係がある取引全般

所管

公正取引委員会・中小企業庁

公取委・中企庁・厚労省

公正取引委員会

施行時期

2026年1月1日(予定)

2024年11月1日

現行法により既に運用中


改正下請法では、資本金要件に加え「従業員数基準」が新設され、これまで対象外だった中堅企業間の取引も新たに適用範囲に含まれます。また、「発荷主」として行う運送委託も新たに対象となる点は、物流業界にとって大きな変更です。


2.発注者の義務と禁止行為 ― フリーランス法との比較

改正下請法とフリーランス法では、発注者に次のような共通義務が課されています。

【共通ルールのポイント】

  1. 発注内容・金額・納期などを文書またはメールで明示する義務

  2. 支払期日を定め、60日以内に支払う義務

  3. 受注者の利益を害する行為(支払遅延・買いたたき・返品等)を禁止


一方で、次のような違いもあります。

項目

改正下請法

フリーランス法

書類の作成・保存義務

あり(2年間)

なし

遅延利息支払義務

あり(年14.6%)

なし

「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止

あり(新設)

なし

手形払い

全面禁止

明文規定なし

特に改正下請法では、手形払いが全面禁止となるため、資金繰りや経理処理の見直しが必須です。


3.実務でのチェックポイント

(1)取引対象の確認

  • 資本金要件を満たさなくても、従業員数が一定規模を超える取引は改正下請法の対象。

  • フリーランス法では「従業員を雇わない個人・法人」が対象となるため、委託先が一人会社かどうかの確認が必要です。


(2)発注書・メールの明示

両法では、発注内容の明示が義務化されています。記事中税理士・経理部門も知っておきたい 改正下請法・フリーランス法・…では、次のような共通テンプレート例が紹介されています。


<発注書記載例>

発注内容・納期・提出先・検査完了日・報酬額・支払期日(例:月末締め翌月末払い)


この書式を電子メールで兼用することで、下請法・フリーランス法両対応が可能です。


(3)支払期日の60日ルール

給付(納品・役務提供)の日から60日以内に全額支払うことが原則です。

支払が遅れた場合、遅延利息(年率14.6%)の支払いが必要になります。フリーランス法でも同様の期日設定が義務づけられています。


(4)振込手数料は原則「発注者負担」

改正下請法では、合意があっても下請側に振込手数料を負担させることは違法となる見込みです。公取委の運用基準改正案がパブリックコメントに付されており、2025年中に正式決定が予定されています。


4.価格転嫁と「優越的地位の濫用」にも注意

コスト上昇(人件費・原材料費・エネルギー費等)を取引価格に反映しないことは、買いたたきや優越的地位の濫用に該当する恐れがあります。公取委は、発注者に次の行動を求めています。

  • 受注者からの要請がなくても、発注側から価格交渉の場を設けること

  • 値上げを断る場合は、理由を文書で通知すること

  • サプライチェーン全体で労務費転嫁を実施すること

これは改正下請法やフリーランス法の枠を超え、全ての企業間取引に適用される実務指針です。


5.実務でよくある違反事例

  • 納品後60日を超えて支払を行った(支払遅延)

  • 「今期は厳しいから」と一方的に報酬を減額(買いたたき)

  • 仕様変更や追加作業を無償で依頼(不当なやり直し・経済上の利益供与)

  • 型・治具を無償で保管させ続けた(不当な保管要求)

これらはいずれも、公取委による勧告・社名公表の対象となる典型的な行為です。


6.まとめと税理士からのアドバイス

チェック項目

対応ポイント

法適用の有無

取引先の規模・従業員数・契約形態を確認

発注書面の整備

下請法・フリーランス法対応の共通フォーマットを導入

支払条件

60日以内の支払期日設定・手形廃止対応

手数料処理

振込手数料は発注側負担に変更

価格転嫁

コスト上昇分の反映協議を実施し、記録を残す


税理士からのコメント

2026年1月施行の改正下請法は、経理・税務部門にも直接関係する法改正です。とくに支払条件の見直しや契約文書の整備は早期対応が求められます。また、フリーランス法との関係で、外注先の「一人会社」や個人事業主との契約内容も見直しが必要です。


違反があれば、社名公表・税制優遇(賃上げ促進税制など)の適用除外といった影響も考えられるため、早めの社内周知と対応方針の明確化をおすすめします。



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