令和8年度改正:企業グループ間取引の「書類保存特例」創設
- 安田 亮
- 2月26日
- 読了時間: 5分
更新日:16 時間前
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正では、「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」が創設される予定です。企業グループ内で行なわれる一定の取引について、注文書・契約書・領収書等に対価の額を算定するために必要な事項の記載がない場合、これを補完する書類(電磁的記録を含む)を取得・保存しなければならない、という内容です。
しかも、適用は令和8年4月1日以後の取引からとされており、制度開始まで時間がありません。本日は、税理士の立場から、企業が今すぐ着手すべき実務対応を整理します。
1. 何が変わる?「対価算定の根拠」が書類に無ければ補完書類が必要
青色申告法人は、帳簿に加えて取引に関して作成・受領した書類(契約書、請求書、領収書等)を保存する必要があります(法法126等)。
今回創設される特例は、企業グループ内取引(例:シェアードコスト取引等)では恣意的に支払額が調整されやすく、税務調査で経費支払額の妥当性を十分確認できない場面がある、という問題意識を背景にしています。
そこで、関連者との「特定取引」について、取引関連書類等に「その取引の対価の額を算定するために必要な事項」の記載等がないときは、当該事項を明らかにする補完書類等を取得し、保存することが求められます。
<重要>保存できていないと「青色取消」リスク
補完書類等が保存されていないことは、青色申告の承認取消事由等になり得るとされています。「書類がない=経費否認」だけでなく、より重い論点に発展し得る点が実務上の最大の注意点です。
2. 対象になるのは「関連者」取引:国内外・規模を問わず広い
この特例の対象は、内国法人が「関連者」との間で行なった特定取引です。
ここでいう関連者は、税制大綱上「移転価格税制における関連者と同様の基準で判定する」とされ、国外関連者(外国法人)に限られない点が明確にされています。つまり、国内外を問わず、内国法人との間に「特殊の関係」がある法人が広く対象です。
さらに、法人の規模要件もなく、中小企業も対象とされています。
3. 「特殊の関係」=どこまで含む?(持株関係+実質支配+連鎖)
要点は、単純な親子関係だけでなく、兄弟会社関係や実質的支配関係、そしてそれらが連鎖する関係まで含まれることです。
持株関係(親子):50%以上の関係が連鎖するケース
持株関係(兄弟):共通の支配者がそれぞれ50%以上保有
実質的支配関係:役員兼務、取引依存、資金調達依存などで実質支配
持株関係と実質支配関係が連鎖する関係
<実務上の示唆>
「連結対象会社だけ」「持株比率だけ」で洗い出すと漏れが出ます。経営管理・資金・役員人事・取引依存を含め、実質支配まで視野に入れた棚卸しが必要です。
4. どんな取引が「特定取引」になり得る?(典型例)
次のような“社内役務・社内取引”が想定されています。
工業所有権の譲渡・貸付
研究開発
広告宣伝
経営管理
指導(マネジメントフィー等)
いずれも、請求書上は「○月分 経営管理費」「シェアードサービス費」などと記載されがちで、算定根拠が見えにくい典型類型です。
5. 企業が今すぐやるべき実務対応(チェックリスト)
適用は令和8年4月1日以後の取引からです。したがって、遅くとも改正適用日前までに、次の対応が必要になります。
(1)関連者の範囲を確定(国内外・連鎖・実質支配まで)
グループ会社一覧の作成(国内外)
持株関係の系統図(50%基準の連鎖を含む)
役員兼務、取引依存、資金調達依存など「実質支配」要素の確認
(2)関連者との取引を洗い出し(特定取引候補を抽出)
役務提供(管理、開発、広告、IT、総務等)
知財(ロイヤルティ)
原価・間接費配賦(コストアロケーション)
そのほか、対価算定が曖昧になりやすい取引
(3)取引関連書類の“記載の厚み”を点検
契約書・発注書・請求書に、少なくとも以下が追えるか確認します。
対価算定の考え方(算式・単価・配賦キー)
業務内容(スコープ)と提供実績(成果物・稼働記録等)
期間、改定ルール、相見積りや合理性の説明(可能であれば)
(4)不足があれば「補完書類」を定型化して保存
補完書類等(電磁的記録含む)の例としては、実務上次が有効です。
コスト配賦計算表(配賦キーの根拠含む)
稼働時間表、作業報告書、成果物一覧
価格設定メモ(第三者価格比較、社内規程、承認記録)
社内規程(シェアードサービスの料金ルール等)
※制度趣旨は「対価算定の透明化」ですので、後から作れるものだけでなく、取引の都度・期中で残る形が望ましいです。
6. まとめ:税務調査対策というより「青色申告の前提管理」
今回の書類保存特例は、移転価格税制の文脈に近い「関連者」概念を国内取引にも広げるイメージで、グループ内取引の“対価算定根拠”を、税務上いつでも説明できる状態にすることを求めています。
ポイントは次の3点です。
令和8年4月1日以後の取引から適用で、準備期間が短い
関連者は国内外・規模を問わず広い(中小企業も対象)
補完書類等の未保存は、青色取消のリスクになり得る
当事務所では、
関連者判定(実質支配を含む)と取引の棚卸し
シェアードコスト/マネジメントフィーの算定根拠資料の整備
税務調査対応を見据えたドキュメンテーション設計(電子保存含む)
をご支援しています。
グループ内取引がある企業様は、令和8年4月に向けて早めの点検をお勧めします。




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