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元従業員に未払残業代を支払うときの源泉徴収はどうする? 税務上の取扱いを税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 4月21日
  • 読了時間: 5分

おはようございます!代表の安田です。


未払残業代の請求や労務トラブルの解決に伴い、退職した元従業員に対して金銭を支払うケースは、近年珍しくありません。このとき、会社側が悩みやすいのが、「この支払いは源泉徴収が必要なのか」「必要なら、どのように計算するのか」という点です。


特に、示談書や合意書の中で「解決金」「和解金」などの名称が使われていると、給与や賞与とは別物のように見えてしまうことがあります。しかし、税務上は名称ではなく実質で判断するため、未払残業代に相当する部分は、原則として給与または賞与として取り扱う必要があります。


今回は、元従業員に未払残業代を支払う場合の源泉徴収の考え方について、実務で押さえておきたいポイントを整理して解説します。


1.未払残業代は「解決金」という名前でも税務上は給与・賞与になりうる

会社が元従業員に支払う金銭のうち、内容が実質的に過去の時間外労働の対価であるなら、税務上は未払残業代として扱われます。そして、その未払残業代は、支給方法によって賞与または給与として整理されます。

つまり、契約書や示談書にどのような名称を書いたとしても、

  • 実質が未払残業代なら給与課税の対象になる

  • 会社には源泉徴収義務が生じる

という点は変わりません。


この点を見落として、支払額をそのまま全額振り込んでしまうと、後から源泉徴収漏れが問題になるおそれがあります。労務対応として解決したつもりでも、税務処理が未了のまま残ってしまうため注意が必要です。


2.一括支給なら「賞与」として扱うのが基本

元従業員に対し、過去の未払残業代をまとめて一括で支給する場合、税務上は賞与として扱うのが基本です。


ただし、ここで在職者への通常の賞与と同じ感覚で処理してしまうと誤りやすくなります。なぜなら、退職者については、在職中に提出されていた扶養控除等申告書の効力が退職により失われているためです。そのため、元従業員への未払残業代を賞与として支払う場合、甲欄ではなく乙欄で源泉徴収税額を計算することになります。


3.退職者には「前月の給与」がないことが多い

通常の賞与の源泉徴収では、前月の給与額を基準に税率を確認する処理が行なわれます。しかし、支払相手がすでに退職している元従業員であれば、前月給与そのものが存在しないことが一般的です。


この場合は、通常の賞与計算ではなく、前月の給与がない場合の特例的な計算方法で源泉徴収税額を算定します。具体的には次のような流れとなります。

  1. 賞与から社会保険料等を差し引いた金額を、計算対象期間の月数で割る

  2. その金額を月額表の乙欄に当てはめる

  3. 求めた税額に月数を掛け戻す

という考え方です。


計算の基礎となった期間が6か月を超える場合は12で除するというポイントも、実務では見落としやすい論点です。


4.計算例

たとえば1年間分の未払残業代100万円を一括で支給するケースを考えましょう。

この事例では、社会保険料等が0円である前提のもと、100万円 ÷ 12 で月額換算し、その金額に対応する乙欄の税率を用いて、最終的な源泉徴収税額を求める流れが示されています。


もちろん、実際の案件では、支給対象期間や社会保険料控除の有無、支払内容の整理によって結論が変わることがあります。したがって、実務では示談書の文言だけでなく、支払の内訳や対象期間を必ず確認することが大切です。


5.分割支給なら「給与」として扱う場合がある

未払残業代を毎月分割で支払う場合には、税務上は給与として扱うことがあります。この場合は、賞与のように前月給与を使った計算は行なわず、給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の乙欄を用いて処理します。


ここでもポイントは、やはり退職者である以上、甲欄ではなく乙欄を使うことです。「毎月払うから通常の給与に近い」と考えて甲欄で処理してしまうと、源泉徴収税額を誤る可能性があります。


6.年をまたぐ分割支給では源泉徴収票も分けて作成

実務で意外と見落とされるのが、支給が年をまたぐケースです。資料では、未払残業代を分割して支払うことで、支給日が複数年にまたがる場合、それぞれの支給日の属する年分の給与所得として扱うことが示されています。そのため、源泉徴収票も年ごとに分けて作成する必要があります。 


たとえば、12月に一部を支払い、翌年1月以降にも支払いが続く場合には、単純に一枚の源泉徴収票で済ませるのではなく、年分ごとの整理が必要です。労務対応の終盤では支払実務だけに意識が向きがちですが、年末調整や法定調書との関係も含めて確認しておきたいところです。


7.会社が実務で確認しておきたいポイント

元従業員への未払残業代の支払いでは、少なくとも次の点を事前に整理しておくと安全です。

  • 支払う金額のうち、どこまでが未払残業代に当たるのか

  • 一括支給か、分割支給か

  • 対象期間は何か月分・何年分か

  • 社会保険料控除の要否

  • 支給日が年をまたぐか

  • 源泉徴収票を何年分作成すべきか


特に、示談交渉や労務対応を先行して進めている場合、税務処理の前提情報が不足したまま振込日だけ決まることがあります。その状態で処理すると、経理・給与担当者が後から修正に追われることになりかねません。未払残業代の支払いは、労務と税務が交差する論点であるため、合意前の段階から確認しておくのが理想です。


8.まとめ

元従業員に対する未払残業代は、たとえ「解決金」などの名称で支払われたとしても、実質が残業代であれば、税務上は給与または賞与として扱われます。

そして実務上は、

  • 一括支給なら賞与扱いになりやすい

  • 分割支給なら給与扱いとなる場合がある

  • 退職者なので扶養控除等申告書は無効となり、乙欄で源泉徴収する

  • 前月給与がない賞与では、特例的な方法で税額計算を行なう

  • 年をまたぐ支給では、年ごとに源泉徴収票を分ける

という点が重要になります。


未払残業代の支払いは、単なる送金処理では終わりません。源泉徴収や書類作成まで含めて正しく対応することが、後の税務リスクを防ぐうえで非常に重要です。個別事情によって処理が変わることもあるため、支払方法や合意内容が固まる前に、税務面も含めて確認しておくことをおすすめします。


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