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のれん会計はどう変わる?償却・非償却の議論とM&A実務への影響を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 4 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:1 日前

こんばんは!代表の安田です。


M&Aが一般的な経営戦略となる中で、「のれん」をどのように会計処理するかは、企業価値評価や投資家への説明に大きな影響を与えます。


日本基準では、のれんは原則として一定期間で規則的に償却されます。一方、IFRSでは、のれんは償却せず、減損テストによって価値の毀損を確認する仕組みが採用されています。


この「のれんを償却すべきか、償却せず減損で対応すべきか」という論点は、長年にわたり会計基準の重要テーマとなってきました。


2026年6月に開催された日本経済会計学会の第43回年次大会でも、「のれん会計の再検討」が統一論題として取り上げられ、研究者や実務家による討論が行われました。


本日は、のれん会計をめぐる議論の背景、償却・非償却それぞれの考え方、M&A実務や投資家向け開示への影響について、公認会計士の視点から解説します。


のれん会計はどう変わる?

のれんとは何か

のれんとは、企業買収において、買収価格が被取得企業の識別可能な純資産の時価を上回る場合に、その差額として認識される資産です。


簡単にいえば、買収先企業のブランド力、顧客基盤、技術力、従業員のノウハウ、将来の収益力、シナジー効果などに対して支払われた超過収益力のようなものです。


たとえば、ある会社の純資産の時価が10億円であるにもかかわらず、買収価格が15億円だった場合、差額の5億円がのれんとして計上されることになります。


ただし、のれんは、土地や建物のように個別に売買できる資産とは異なります。そのため、価値がどの程度維持されているのか、時間の経過とともに減少するのか、減少するとすればどのように会計上反映すべきかが難しい論点になります。


日本基準ではのれんを償却する

日本基準では、のれんは原則として20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法その他合理的な方法により償却します。

つまり、M&Aで発生したのれんは、毎期一定額ずつ費用化されます。

この方法のメリットは、会計処理が比較的分かりやすく、買収により支払った超過部分を一定期間で損益に反映できる点です。M&Aによる投資コストを、将来の収益獲得期間に配分する考え方ともいえます。


一方で、のれんの価値が実際には減少していない場合でも、会計上は機械的に費用が計上されます。そのため、買収後も事業が好調な会社にとっては、償却費により利益が押し下げられることになります。


特に、M&Aを積極的に行なう企業では、のれん償却費が営業利益や当期純利益に大きな影響を与えることがあります。


IFRSではのれんを償却しない

IFRSでは、のれんは償却されません。その代わり、毎期または減損の兆候がある場合に減損テストを行ない、価値が毀損していると判断された場合に減損損失を認識します。


この考え方は、のれんの価値が必ずしも時間の経過とともに規則的に減少するとは限らない、という前提に基づいています。


たとえば、買収後にシナジーが実現し、事業価値が維持または向上しているのであれば、のれんを毎期機械的に償却する必要はないという考え方です。


一方で、非償却の場合、減損の判断が遅れると、のれんの価値が実態よりも高く貸借対照表に残り続けるリスクがあります。また、減損損失が一時に多額に発生する場合、投資家に大きなインパクトを与えることもあります。


償却派と非償却派の主な考え方

のれん会計をめぐる議論は、大きく「償却すべき」という考え方と、「償却せず減損で対応すべき」という考え方に分かれます。


<償却すべきという考え方>

償却派は、のれんの価値は時間の経過や競争環境の変化により徐々に減少していくと考えます。企業が買収によって獲得した超過収益力も、競争市場の中では維持のために継続的な投資や努力が必要です。買収時点で存在した優位性が、何もしなくても永続するとは限りません。


そのため、のれんを一定期間で費用化することで、M&Aの投資コストを損益に適切に反映すべきだという考え方になります。


また、償却を行なうことで、のれんが貸借対照表に長期間残り続けることを防ぎ、将来の大きな減損リスクをある程度抑制できるという見方もあります。


<償却せず減損で対応すべきという考え方>

一方、非償却派は、のれんの中には必ずしも規則的に減耗しない部分があると考えます。

たとえば、買収先の事業基盤、継続企業としての価値、シナジー効果などは、企業努力によって維持・強化されることがあります。このような価値を毎期機械的に償却することは、実態を反映しない可能性があります。


そのため、価値が毀損した場合には減損損失を認識すれば足りる、という考え方になります。


ただし、この考え方が機能するためには、減損会計が適時・適切に機能することが前提です。経営者の楽観的な見積りにより減損認識が遅れると、財務諸表の信頼性が低下するおそれがあります。


M&Aとのれん会計の関係

のれん会計は、M&A戦略にも影響を与えます。


日本基準ではのれん償却が発生するため、買収後の利益が償却費によって減少します。そのため、M&Aを積極的に行なう企業にとっては、のれん償却費が業績指標に与える影響が無視できません。


一方、IFRSではのれんを償却しないため、買収後に減損が発生しない限り、のれん償却費による利益の押し下げはありません。このことから、M&Aを積極的に行う企業や、のれんの金額が大きい企業がIFRSを採用する傾向があるとの指摘もあります。


もっとも、会計基準の違いだけでM&Aの良し悪しが決まるわけではありません。

重要なのは、買収価格が合理的であったか、買収後に想定したシナジーが実現しているか、投資回収が進んでいるかを継続的に検証することです。


のれんは、M&Aの成果を映し出す重要な会計項目です。のれんが大きく計上されている会社ほど、買収時の前提や買収後の実績について、丁寧な説明が求められます。


投資家が求める情報は変化している

近年、企業価値に占める無形資産の重要性が高まっています。


かつては、工場、設備、不動産などの有形資産が企業価値の中心でした。

しかし現在では、ブランド、顧客基盤、技術、データ、人材、ソフトウェア、ビジネスモデルなど、貸借対照表に十分に表れない無形の価値が企業価値を大きく左右しています。


このような中で、投資家は単に「のれんがいくら計上されているか」だけでなく、次のような情報を求めるようになっています。

  • なぜそのM&Aを行ったのか

  • のれんは何に対して支払われたものか

  • 買収価格はどのように算定されたのか

  • 想定していたシナジーは実現しているか

  • のれんをどのように回収する計画なのか

  • 買収後の業績は当初計画と比較してどうか

  • 減損リスクはどの程度あるのか


特に、M&Aによって多額ののれんが発生している企業では、財務諸表の注記だけでなく、決算説明資料や有価証券報告書、統合報告書などを通じて、投資家に分かりやすく説明することが重要です。


のれんの金額だけでなく「中身」の説明が重要

のれんは、会計上は買収価格と識別可能純資産の差額として計算されます。しかし、投資家や金融機関が知りたいのは、その差額が何を意味しているのかです。


たとえば、同じ10億円ののれんでも、その内容は会社によって大きく異なります。

  • ブランド力に対して支払ったもの

  • 顧客基盤に対して支払ったもの

  • 技術力に対して支払ったもの

  • 人材や組織力に対して支払ったもの

  • 将来の市場成長に対して支払ったもの

  • 買収後のコスト削減効果に対して支払ったもの


これらのうち、どの要素がのれんの主な構成要素なのかを説明できなければ、投資家はM&Aの妥当性を評価しにくくなります。


また、のれんの回収可能性を判断するためには、買収後の事業計画やKPIとの関連も重要です。


単に「買収によりシナジーが見込まれる」と説明するだけでは不十分です。どの事業で、どのようなシナジーが、いつ、どの程度発現するのかを具体的に示すことが求められます。


経理・財務担当者が確認すべき実務ポイント

のれん会計をめぐる議論は、会計基準の専門的なテーマに見えるかもしれません。しかし、M&Aを行なう企業にとっては、日々の決算実務や開示実務に直結します。

経理・財務担当者は、次の点を確認しておくことが重要です。


1. のれんの発生原因を整理する

M&A時には、のれんがどのような要因で発生したのかを整理しておく必要があります。

買収価格の算定資料、デューデリジェンス資料、取締役会資料、事業計画、バリュエーション資料などを確認し、のれんの主な構成要素を説明できるようにしておきましょう。


2. 買収後の業績管理と連動させる

のれんは、買収時に計上して終わりではありません。買収後に、当初想定していた利益やキャッシュ・フローが実現しているかを継続的に確認する必要があります。

そのためには、買収後の事業計画と実績を比較し、差異が生じた場合には原因を分析する体制が必要です。


3. 減損の兆候を早めに把握する

買収先の業績が悪化した場合、事業環境が大きく変化した場合、主要顧客を失った場合などには、のれんの減損が問題になる可能性があります。

減損の兆候を早めに把握し、必要に応じて回収可能価額を検討することが重要です。


4. 投資家向けの説明を充実させる

のれんが大きい会社では、財務数値だけでなく、M&Aの目的、進捗、投資回収の見通しを説明することが重要です。

特に上場会社では、決算説明資料や有価証券報告書において、投資家がM&Aの成果を評価できる情報を提供することが求められます。


中小企業M&Aでものれんの考え方は重要

のれん会計というと、上場会社やIFRS適用会社の話と思われがちです。しかし、中小企業M&Aでも、のれんの考え方は非常に重要です。


たとえば、後継者不在の会社を買収する場合、買収価格には、顧客基盤、取引先との関係、従業員の技術、地域での信用力などが反映されます。これらはまさに、会計上ののれんに近い要素です。


中小企業の場合、上場会社ほど詳細な開示は求められないかもしれません。しかし、買収後に想定どおりの利益が出なければ、のれんの償却負担や減損リスクが経営に重くのしかかることがあります。


そのため、買収前の段階で、次の点を慎重に確認することが重要です。

  • 買収価格は将来収益に見合っているか

  • 買収後も既存顧客は維持できるか

  • キーマンとなる従業員は残るか

  • 売り手経営者に依存していないか

  • 想定するシナジーは現実的か

  • 投資回収期間は妥当か


M&Aは、買った時点ではなく、買収後に利益とキャッシュ・フローを生み出して初めて成功といえます。


まとめ

のれん会計をめぐっては、償却すべきか、非償却として減損で対応すべきかという議論が続いています。


日本基準ではのれんを規則的に償却する一方、IFRSでは償却せず減損テストで対応します。それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが絶対的に正しいという単純な問題ではありません。


ただし、会計処理の方法にかかわらず、企業に求められることは共通しています。

それは、M&Aによって発生したのれんの内容を説明し、買収後にその価値をどのように回収していくのかを示すことです。


特に、無形資産の重要性が高まる中で、投資家や金融機関は、のれんの金額だけでなく、その中身、回収可能性、M&Aの成果に注目しています。


M&Aを行う企業は、買収時の価格算定だけでなく、買収後の業績管理、減損リスクの把握、投資家向け説明までを一体として考えることが重要です。


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