top of page

バーチャルオンリー株主総会の普及はなぜ進まないのか

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 日前
  • 読了時間: 4分

おはようございます!代表の安田です。


近年、物理的会場を設けずにオンラインだけで開催するバーチャルオンリー株主総会への注目が高まっています。

  • コスト削減

  • 遠隔地からの参加促進

  • 企業のDX推進との親和性

といったメリットがあるにもかかわらず、2025年6月末時点で導入企業はわずか74社にとどまっています。


その背景にある大きな要因が、通信障害への不安です。

本日は、企業実務・会社法を踏まえ、公認会計士としての解説を行います。


1.バーチャルオンリー株主総会が認められているのは“特例”

― 通信障害対策など、一定の要件を満たす必要あり

現行制度では、バーチャルオンリー株主総会は会社法の特例として開催が認められています。

その条件には、

  • 通信障害が発生した場合の対応方針の策定

  • 障害に強いシステム

の採用など、通信リスクに備えた高度な対策が要求されます。


この結果、企業側には以下のような負担が発生します:

✔ システム導入コストの増加

✔ 障害発生時の対応体制整備

✔ 法的リスク(決議取消し事由)への懸念


実際の調査では、約8割の上場企業が「通信障害リスク」を開催の大きなハードルと回答しています。


2.通信障害が起きると「決議取消し」のリスク

現行制度では、総会中に通信障害が発生すると、決議取消しの訴えの対象となる可能性

があります。

たとえば、

  • 株主が議決権を行使できない

  • 一部株主が質疑に参加できない

といった事態が発生すると、決議の有効性が問われかねません。

このリスクが、導入企業が増えない大きな要因となっています。


3.法制審議会で「セーフハーバールール」導入を検討

記事によると、法制審議会 会社法制部会では、通信障害に関するルールを見直す議論が進んでいます。


【セーフハーバールール(特則)の創設】

通信障害があっても、

  • 会社に故意

  • 又は重大な過失

がない限り、決議取消し事由とならないようにする案です。


つまり企業にとっては、システムに一定の対策を講じていれば

  • 予期せぬ外的要因による通信障害

  • 一時的な接続不良

などが発生しても、法的リスクが大きく軽減される可能性があります。

バーチャルオンリー株主総会の普及を後押しする重要な施策と言えるでしょう。


4.ただし「通信障害対策要件の撤廃」は賛否が割れる

一方で、「通信障害対策要件そのものを緩和・撤廃すべきか」については議論が割れているようです。


企業側からは:

  • 過度な要件はコスト負担が大きい

  • ハードルが高すぎて普及が進まない

という意見がある一方、投資家保護の観点からは

  • 通信障害リスクが過度に高い状態での開催は問題

  • 企業の体制によって株主の議決権行使機会に差が生じうる

という懸念も指摘されています。今後の動向が注目されるポイントです。


公認会計士の視点:企業が今準備すべきこと

制度見直しが進んでいるとはいえ、バーチャルオンリー総会を含むハイブリッド型株主総会はすでに一般化しつつあります。

企業としては、次の対応が求められます。


<①自社のITインフラの耐障害性を再点検>

総会システムの冗長化、バックアップ回線の整備など。


<②障害発生時のフローを明文化>

株主への連絡方法、議事の一時停止基準、再開方法など。


<③IR部門・法務部門との連携強化>

総会の運営リスクと株主保護の観点を両立。


<④バーチャルオンリー総会のメリット・デメリットを経営陣へ説明>

セーフハーバールール導入後の選択肢も含めた経営判断が必要。


まとめ

バーチャルオンリー株主総会は、コスト削減・機動的な運営など多くのメリットがある一方で、通信障害リスクと法的リスクが普及の障壁となってきました。

しかし現在、

  • セーフハーバールールの導入方向性

  • 通信障害対策の見直し議論

が進んでおり、制度面で大きな転換点を迎えようとしています。

今後は、企業のガバナンス高度化とDX推進の両面から、バーチャルオンリー総会をどう位置づけるかが重要になります。


神戸の税理士事務所ロゴ

bottom of page