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有価証券報告書と事業報告は一本化されるのか

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 2 時間前
  • 読了時間: 5分

おはようございます!代表の安田です。


法務省の法制審議会・会社法制(株式・株主総会等関係)部会では、上場会社の開示実務に大きく影響し得るテーマとして、事業報告等と有価証券報告書(有報)の一体開示・一本化が議論されています。


2025年12月24日に開催された第9回会議では、指名委員会等設置会社制度の見直し等に加え、事業報告等と有報の一体開示・一本化に関する日本経団連の調査結果も共有されました。本日は、最新の議論の方向性を整理し、実務担当者がいまから意識しておくべきポイントを公認会計士の立場から解説します。


1. いま何が議論されているのか

背景にあるのは、有報の「株主総会前開示」が進んでいることです。これに伴い、

  • 株主総会の開催時期を後ろ倒しにするか

  • 会社法上の事業報告等と、有報をどこまで「一体化・一本化」できるか

といった論点が、法制審議会で検討されています。


現状、会社法に基づく事業報告等と、金融商品取引法に基づく有報の開示内容は大部分が重複している一方、事業報告等にしか記載されていない項目も残っています。


第5回会議では、この「差分」をどう扱うかがテーマとなり、可能な限り有報側へ包含していく方向での整理が望ましいとの意見が多く示されています。


2. 「一体開示」と「一本化」は何が違うのか

法務省資料では、用語として次のように整理されています。

一体開示とは

  • 会社法上の事業報告等と、有報に共通して記載すべき情報を

  • 1つの書類として作成し、株主・投資家に開示すること

現行法でも、実務上は一体開示はすでに可能であり、実際に一本の冊子・PDFで開示している会社もあります。


一本化とは

  • 上場会社が、電子提供開始日までに

  • 事業報告等の開示事項をすべて含めた有報を提出した場合には

  • 別途「事業報告等」を作成しなくてよいとする制度上の整理

つまり、「一本化」が導入されると、会社法上の事業報告等という書類を形式的には省略できる」ことになります。


3. 一本化しても「実務負担はあまり変わらない」可能性

法務省資料では、一体開示がすでに可能であることを前提に、一本化は「法的概念の整理にとどまるのではないか」という見方も示されています。


理由としては、

  • 一本化しても、有報に事業報告等の全開示事項を記載する必要がある

  • 結局、開示すべき情報の範囲を確認する作業はなくならない

  • 実務の省力化には、書類名称よりも「開示項目の重複解消」の方が重要

といった点が挙げられています。


したがって、開示実務の負担軽減を本気で図るには、

  • 会社法と金商法の開示項目の差異を見直す

  • 必要に応じて、どちらか一方に統合する

といった、もう一段踏み込んだ制度設計が必要だと指摘されています。


4. 会計監査の「一元化」による効率化の可能性

一体開示・一本化の議論と並行して、会計監査を一元化する案も検討テーマに挙がっています。

具体的には、

  • 一体開示が行なわれる場合に、

    • 会社法監査(事業報告等を含む)

    • 金商法監査(有報)を1回の監査プロセスで済ませることを明確化する案

  • 金商法に基づく監査証明を行った場合には、会社法に基づく監査も行われたものとみなす方向性

などが検討項目として示されています。

これが実現すれば、

  • 監査人側の手続の重複が減る

  • 企業側の資料提出・対応負担も軽減

  • 監査プロセス全体の効率化と品質向上

といった効果が期待されます。


5. 経団連アンケートから見える「実務感覚」

第9回会議では、経団連が実施した「事業報告等と有価証券報告書の一体開示及び一本化に関する調査」(回答44社)の結果も紹介されました。

内容を要約すると、次のとおりです。

一体開示した場合の負担感

  • 開示業務の負担が「軽くなる」と回答:21社

  • 「増える」と回答:6社

  • 「変わらない」:11社(+無回答2社)

⇒ 約半数の会社が「一体開示で負担が軽減する」と回答


一本化した場合の負担感

  • 「負担は軽減する」と回答した会社は29社

  • 「増える」4社、「変わらない」11社


⇒ 一本化まで進めた方が、より多くの会社が負担軽減を見込んでいることが分かります。

企業側の問題意識としては、「重複した書類を二重に作成する非効率をなくしたい」という声が強いことがうかがえます。


6. 上場企業がいまから準備しておきたいこと

現時点では、有報と事業報告等の一本化は、まだ議論の途中です。ただし、今後の法改正の方向性を見据え、次のような準備を進めておくことが有用です。


①自社の開示フローの棚卸し

  • 事業報告等と有報の作成プロセス

  • 重複しているチェック・レビュー工程

  • 監査人・社内関係部門(法務・IR・サステナビリティ等)との連携状況

を整理し、「一体開示・一本化」を想定した場合のボトルネックを把握しておくと、制度変更時の対応がスムーズになります。


②開示項目の差分の洗い出し

  • 事業報告等固有の開示事項

  • 有報でのみ開示している事項

を比較し、どこに重複・差異があるのかを事前に把握しておくことで、将来の制度改正に応じた開示体制の再設計が行いやすくなります。


③監査人とのコミュニケーション

会計監査の一元化が進む場合、

  • 監査範囲

  • スケジュール

  • 必要な資料

などについて、早めに監査法人と協議しておくことが重要です。特に、株主総会前開示のタイミングとの関係で、有報の確定スケジュールが変わる可能性もあります。


7. まとめ:開示制度の再設計にどう向き合うか

有価証券報告書と事業報告等の一体開示・一本化は、

  • 形式的な「書類名」の問題にとどまるのか

  • 実務負担の本質的な軽減につながるのか

まだ結論は出ていません。

しかし、経団連アンケート結果からは、多くの企業が「開示書類の重複・非効率はできるだけ減らしたい」と考えていることが明らかになっています。


制度改正の行方を注視しつつ、自社の開示プロセスや監査対応を見直す好機と捉えることが重要です。



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