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東証が「資本コスト経営」要請をアップデート|経営資源の適切な配分と資本配分方針の開示が重要に

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 11 時間前
  • 読了時間: 6分

おはようございます!代表の安田です。


東京証券取引所(東証)は、2026年4月28日、「資本コストや株価を意識した経営」に関するアップデートを公表しました。


今回のポイントは、単にPBRやROEなどの指標改善を求めるだけでなく、中長期的な企業価値向上に向けて、経営資源をどのように配分するのかを企業に検討・説明してもらう点にあります。


いわゆる「資本コスト経営」への対応は、東証が2023年3月に要請してから4年目を迎え、プライム市場では約9割、スタンダード市場では約5割の企業が開示を行なっているとされています。今後は、開示の有無だけでなく、資本配分方針(キャピタル・アロケーション)の具体性や、取締役会での議論の実効性がより問われる局面に入っていきそうです。


本日は、公認会計士の視点から、東証アップデートのポイントと、企業が実務で整備すべき開示・ガバナンス対応を整理します。


1. 東証アップデートの4つのポイント

今回の東証アップデートでは、企業に対して次の4点を改めて確認することが促されています。


  1. 中長期的な経営方針

    目指す姿や成長の道筋を明確に示せているか

  2. 資本の使い方

    目指す姿に向けた資本の配分や優先順位を明確に示せているか

  3. 保有資産の最適性

    保有する資産が、価値創出のために最適な状態となっているか

  4. 取締役会での議論・監督

    上記について、取締役会レベルで実効的な議論・監督を行なっているか


この4点を見ると、東証の問題意識は「資本コストを意識していると書いているか」ではなく、経営戦略・投資・資産保有・ガバナンスが一体として説明されているかに移っているといえます。


2. 資本配分方針(キャピタル・アロケーション)とは?

資本配分方針とは、企業が生み出したキャッシュや保有資本を、どのような優先順位で使うかを示す考え方です。


たとえば、資本の使い道としては次のようなものがあります。

  • 設備投資・研究開発投資

  • 人的資本投資

  • M&A

  • 事業ポートフォリオの見直し

  • 借入返済

  • 配当・自己株式取得

  • 将来リスクに備える手元資金


重要なのは、「全部大事です」で終わらせず、限られた資本をどの順番で、どの判断基準に基づいて配分するのかを投資家に説明することです。


東証も、資本配分の検討にあたっては、限られた資本をどのような考え方・優先順位で配分していくのかを投資家に説明することが重要だと指摘しています。


3. なぜ「経営資源の配分」が焦点になっているのか

経営資源の配分が重要視される背景には、企業と投資家の間にある認識ギャップがあります。


生命保険協会が2026年4月に公表した調査では、手元資金の水準について、企業の69%が「適正」と認識している一方、投資家の80%が「余裕のある水準」と見ていることが示されています。


つまり、企業側は「将来不安や事業リスクに備えるために必要な現金」と考えていても、投資家側からは「使われていない余剰資金」に見える場合があります。


このギャップを埋めるには、単に「成長投資に使います」「株主還元も重視します」と説明するだけでは不十分です。どの事業に投資し、どの資産を持ち続け、どの資金を還元し、どの程度をリスク対応として手元に残すのかを、キャッシュの流れとして説明することが求められます。


4. コーポレートガバナンス・コード改訂案との関係

経営資源の配分は、現在改訂が検討されているコーポレートガバナンス・コードでも焦点となっています。改訂案において、取締役会が自社の経営戦略や経営計画に照らし、経営資源の配分が適切なものとなっているかを不断に検証すべきとされています。


これは、資本配分が単なるIR資料のテーマではなく、取締役会の監督機能そのものに関わるテーマであることを意味します。


今後は、以下のような点が取締役会で問われやすくなります。

  • 手元資金の水準は合理的か

  • 成長投資と株主還元のバランスは妥当か

  • 低収益事業・非中核資産を保有し続ける理由はあるか

  • 政策保有株式や遊休資産は価値創出に資しているか

  • 資本コストを上回るリターンを生む投資判断ができているか


5. 企業が開示で意識すべきポイント

東証のアップデートを踏まえると、今後の開示では、以下のような観点を盛り込むと投資家に伝わりやすくなります。


(1)中長期の目指す姿を明確にする

まず、会社としてどの市場・事業領域で成長するのかを明確にする必要があります。資本配分は、経営戦略があって初めて意味を持ちます。


(2)資本配分の優先順位を示す

たとえば、以下のように優先順位を明示すると、投資家は会社の意思決定を理解しやすくなります。

  1. 既存中核事業への成長投資

  2. 新規事業・M&Aへの投資

  3. 財務健全性を維持するための手元資金

  4. 余剰資金の株主還元


(3)保有資産の見直し方針を示す

政策保有株式、不動産、非中核事業、低収益資産などについて、保有目的と見直し方針を説明することが重要です。


(4)取締役会での議論を開示する

単に経営陣が決めた方針ではなく、取締役会でどのように議論・監督しているかを示すことで、ガバナンスの実効性を伝えやすくなります。


6. 実務対応チェックリスト

資本コスト経営のアップデートに対応するため、企業は次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 中長期の経営方針と、資本配分方針が整合しているか

  • 成長投資、株主還元、手元資金、負債返済の優先順位を説明できるか

  • 手元資金の必要水準について、投資家に説明できる根拠があるか

  • 政策保有株式・遊休資産・非中核事業の保有理由を整理しているか

  • 取締役会で資本配分について議論した記録やプロセスがあるか

  • 統合報告書・決算説明資料・コーポレートガバナンス報告書で説明が一貫しているか


まとめ:これからの資本コスト経営は「開示したか」から「資本をどう使うか」へ

東証の今回のアップデートは、資本コスト経営への対応をさらに一段進めるものです。


これまでは、PBR改善や資本コストを意識した方針の開示が中心でしたが、今後は経営資源の配分、資本の使い方、保有資産の見直し、取締役会での監督まで含めて、企業価値向上に向けたストーリーを説明することが求められます。


特に、手元資金に対する企業と投資家の認識ギャップは大きく、資金の使途や資本配分の考え方を明確に示すことが重要です。


資本配分方針は、単なるIR上の見せ方ではなく、経営戦略そのものです。今後の開示では、「なぜその資本配分が企業価値向上につながるのか」を、具体的かつ継続的に説明していくことが求められるでしょう。


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