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監査法人に非保証業務を同時依頼してもよい?IESBA倫理規程改訂と独立性の注意点を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 10 分前
  • 読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


監査法人は、会社の財務諸表を監査する専門家です。


一方で、監査法人やそのグループファームは、監査以外にも、会計アドバイザリー、内部統制支援、税務関連業務、システム導入支援、サステナビリティ開示支援など、さまざまな非保証業務を提供することがあります。


企業側から見ると、すでに自社をよく理解している監査法人グループに相談できることは便利です。事業内容、会計処理、決算体制、内部統制の状況を把握しているため、説明の手間が少なく、スムーズに業務を進められるように感じることもあります。


しかし、監査法人が監査クライアントに対して非保証業務を提供する場合には、「独立性」の問題に注意が必要です。


特に、国際会計士倫理基準審議会、いわゆるIESBAの倫理規程改訂では、監査クライアントが大会社等である場合、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務について、提供が禁止される方向が示されています。


本日は、非保証業務とは何か、監査法人の独立性とは何か、自己レビューの阻害要因、複数の非保証業務を同時に依頼する場合の注意点、企業側が実務で確認すべきポイントについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


非保証業務とは

非保証業務とは、監査やレビューのように、一定の保証を提供する業務以外の業務をいいます。


監査法人や公認会計士が行なう業務には、大きく分けて保証業務と非保証業務があります。

保証業務の代表例は、財務諸表監査です。監査法人が会社の財務諸表について監査を行ない、財務諸表が適正に表示されているかどうかについて監査意見を表明します。

一方、非保証業務は、監査意見のような保証を提供しない業務です。


たとえば、次のような業務が考えられます。

  • 会計基準適用に関する助言

  • 決算早期化支援

  • 内部統制構築支援

  • IPO準備支援

  • 税務アドバイザリー

  • システム導入支援

  • M&A関連支援

  • サステナビリティ開示支援

  • リスク管理体制の整備支援

  • 財務報告プロセスの改善支援


これらの業務自体が悪いわけではありません。むしろ、企業経営や決算実務を改善するうえで有用な場合もあります。


問題となるのは、監査を行なう立場にある監査法人が、同じ会社に対して非保証業務を提供することで、監査人としての独立性が損なわれる可能性がある点です。


監査人の独立性とは

監査人の独立性とは、監査人が会社から不当な影響を受けず、公正かつ客観的に監査を行うために必要な基本原則です。


監査は、会社が作成した財務諸表に対して、外部の専門家が意見を表明する制度です。そのため、監査人が会社と過度に近い関係になったり、会社の判断に深く関与したりすると、監査の信頼性が損なわれるおそれがあります。


たとえば、監査法人が会社の会計処理を実質的に決めたうえで、その会計処理を自ら監査することになれば、客観的な監査が難しくなります。


また、監査報酬以外に多額のコンサルティング報酬を受け取っている場合、監査人が会社との関係維持を重視し、厳しい監査判断をしにくくなるのではないかという懸念も生じます。

このような問題を防ぐため、監査人には独立性が求められています。


自己レビューの阻害要因とは

非保証業務で特に問題になりやすいのが、自己レビューの阻害要因です。

自己レビューの阻害要因とは、簡単にいうと、監査人が過去に自ら関与した判断や作業を、後で自分自身が監査することにより、客観的な検討が難しくなるリスクをいいます。


たとえば、監査法人がある会社に対して、複雑な会計処理の方針決定を支援したとします。その後、同じ監査法人がその会計処理を含む財務諸表を監査する場合、監査人は自らの助言や判断を評価する立場になります。


このような場合、監査人が自分たちの過去の判断を厳しく見直すことは容易ではありません。意識していなくても、客観性が損なわれる可能性があります。


そのため、IESBAの倫理規程改訂では、監査クライアントが大会社等である場合、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供について、より厳しい取扱いが示されています。


大会社等の監査クライアントでは特に厳格に

監査クライアントが大会社等である場合、非保証業務の提供については特に慎重な検討が必要です。


大会社や社会的影響の大きい企業では、財務諸表の利用者が多数存在します。投資家、金融機関、取引先、従業員、規制当局など、多くの関係者が会社の財務情報を利用します。

そのため、監査人の独立性が疑われること自体が、監査報告書や開示情報の信頼性に大きく影響します。


IESBAの倫理規程改訂では、このような大会社等の監査クライアントについて、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供を禁止する方向が示されています。


これは、単に実際に不正や誤りが生じたかどうかの問題ではありません。外部から見て、監査人が独立していると信頼できるかどうかも重要です。


複数の非保証業務を同時に提供する場合の注意点

実務上、企業が監査法人グループに依頼する非保証業務は、一つだけとは限りません。


たとえば、会計基準対応の助言、内部統制整備支援、システム導入に関する助言、サステナビリティ開示支援など、複数の業務を同時または継続的に依頼することがあります。


この場合、注意すべきなのは、各業務を個別に見れば問題が小さく見えても、複数の業務を組み合わせることで、独立性への影響が大きくなる可能性がある点です。


IESBAのQ&Aでも、同じ監査クライアントに複数の非保証業務を提供している場合には、各業務から生じる阻害要因だけでなく、それらを組み合わせた影響を考慮する必要があるとされています。


つまり、「この業務単体では問題なさそう」と判断するだけでは不十分です。

複数の非保証業務をまとめて見たときに、監査法人と会社の関係が過度に密接になっていないか、監査人が会社の経営判断や会計判断に深く関与しすぎていないかを確認する必要があります。


馴れ合いと自己利益のリスク

複数の非保証業務を同時に提供する場合には、自己レビューだけでなく、馴れ合いや自己利益の阻害要因にも注意が必要です。


馴れ合いの阻害要因とは、監査人と会社との関係が長期化・密接化することにより、監査人が会社に対して過度に好意的になったり、厳しい指摘をしにくくなったりするリスクです。


たとえば、監査法人グループが会社のさまざまなプロジェクトに関与し、経営陣や経理部門と密接な関係を築いている場合、監査上の問題点を強く指摘しにくくなる可能性があります。


自己利益の阻害要因とは、監査人自身の経済的利益が監査判断に影響するリスクです。

監査法人が監査報酬に加えて、多額の非保証業務報酬を得ている場合、会社との契約関係を維持したいという意識が監査判断に影響するのではないかという懸念が生じます。


このような阻害要因は、実際に監査人が不適切な判断をしたかどうかとは別に、外部からの見え方としても問題になります。


後から非保証業務を追加する場合の再評価

非保証業務の独立性評価は、最初に契約するときだけ行えばよいものではありません。


当初は一つの非保証業務だけを依頼していたとしても、その後に別の非保証業務を追加することがあります。この場合、追加された業務によって、既存の業務との組み合わせによる阻害要因が生じる可能性があります。


そのため、後から非保証業務を追加する場合には、改めて独立性への影響を評価する必要があります。


たとえば、当初は限定的な会計助言だけを依頼していた会社が、後から内部統制整備支援やシステム導入支援を同じ監査法人グループに依頼する場合を考えてみます。


それぞれの業務を個別に見るだけでなく、全体として監査人が会社の財務報告プロセスにどの程度関与しているかを評価する必要があります。


この再評価を怠ると、結果として監査人の独立性に問題が生じ、監査契約や非保証業務契約の見直しが必要になる可能性があります。


日本企業への影響

IESBAの倫理規程改訂が日本の実務に導入された場合、これまで監査法人グループに依頼していた非保証業務の一部を、同じファームに依頼できなくなる可能性があります。


企業側から見ると、これは実務上大きな影響があります。

これまで、監査法人グループに会計アドバイザリー、内部統制支援、開示支援、システム関連支援などを依頼していた会社では、依頼先の見直しが必要になる場合があります。


特に、監査対象会社が大会社等であり、非保証業務が財務諸表監査に関連する判断や情報に影響する場合には、慎重な検討が必要です。


監査法人側も、独立性の観点から受嘱できる業務と受嘱できない業務をより厳格に判断することになります。


そのため、企業は「これまで依頼できていたから今後も依頼できる」と考えるのではなく、監査人と早めに確認することが重要です。


企業側が確認すべきポイント

監査法人グループに非保証業務を依頼する場合、企業側は次のような点を確認する必要があります。


まず、その業務が監査人の自己レビューにつながるかどうかです。監査法人が作成や判断に関与したものを、後で同じ監査法人が監査することにならないかを確認します。


次に、複数の非保証業務を依頼している場合、それらを組み合わせた影響を検討します。業務単体では問題が小さくても、全体として監査法人との関係が過度に深くなっていないかを確認します。


また、報酬の重要性も確認が必要です。非保証業務の報酬が監査報酬と比較して大きい場合、自己利益の阻害要因が問題になる可能性があります。

さらに、業務の追加や変更がある場合には、その都度、独立性への影響を再評価する必要があります。


最後に、監査役、監査等委員会、監査委員会との連携も重要です。監査人の独立性に関わる事項は、経理部門だけで判断するのではなく、ガバナンス機関と共有することが望ましいでしょう。


監査役等の役割

非保証業務の提供に関しては、監査役等の役割も重要です。


監査人の独立性は、監査品質に直結します。そのため、監査役、監査等委員会、監査委員会は、監査法人が提供する非保証業務の内容や報酬、監査への影響を把握する必要があります。


特に、同じ監査法人グループから複数の非保証業務を受けている場合には、それらの業務が監査人の独立性にどのような影響を与えるかを確認することが重要です。


監査役等は、必要に応じて監査法人から説明を受け、経営者や経理部門とも協議しながら、非保証業務の依頼先や範囲を検討することが求められます。


また、非保証業務を依頼する際の社内ルールを整備することも有効です。

たとえば、監査法人グループに非保証業務を依頼する場合には、事前に監査役等の確認を受ける、独立性への影響を文書化する、報酬額を定期的に確認する、といった仕組みが考えられます。


非保証業務の依頼先を分散する選択肢

独立性への懸念を避けるためには、非保証業務の依頼先を監査法人グループ以外に分散することも選択肢になります。


たとえば、会計アドバイザリーは別の公認会計士事務所に依頼する、税務業務は税理士法人に依頼する、システム導入支援はITコンサルティング会社に依頼する、サステナビリティ開示支援は専門コンサルタントに依頼する、といった対応です。


もちろん、依頼先を分散すると、会社側の説明負担や調整コストは増えます。

しかし、監査人の独立性を確保し、将来の監査対応リスクを避けるという観点では、有効な対応になる場合があります。


特に、上場会社やIPO準備会社では、監査人の独立性に関する問題が生じると、決算スケジュールや上場準備に大きな影響を与える可能性があります。


そのため、早い段階から非保証業務の依頼先を整理しておくことが重要です。


IPO準備会社が注意すべき点

IPO準備会社では、監査法人から監査を受けながら、同時にさまざまな支援を受けたいと考えることがあります。


たとえば、会計処理の整備、内部統制構築、決算早期化、開示書類作成、資本政策、税務、システム導入など、上場準備では多くの課題があります。


しかし、監査法人が監査人として関与する場合、その監査法人グループがどこまで非保証業務を提供できるかには制限があります。


IPO準備段階であっても、将来の監査や上場審査を見据えて、独立性に問題が生じない体制を整える必要があります。


特に、監査法人に依頼できない業務については、早めに別の専門家を探しておくことが大切です。直前になって依頼先を変更すると、上場準備スケジュールに影響する可能性があります。


実務で使えるチェックリスト

監査法人グループに非保証業務を依頼する前に、次の点を確認しましょう。

  • その業務は監査対象となる財務情報に影響するか

  • 監査法人が自らの作業や判断を後で監査することにならないか

  • 経営者が行なうべき判断を監査法人が代行していないか

  • 複数の非保証業務を同時に依頼していないか

  • 業務を組み合わせた場合の独立性への影響を検討したか

  • 非保証業務報酬が監査報酬と比較して過大になっていないか

  • 後から業務を追加する場合に再評価しているか

  • 監査役等に事前共有しているか

  • 契約書や業務範囲が明確になっているか

  • 必要に応じて別ファームへの依頼を検討したか


非保証業務の独立性評価は、監査法人だけが行うものではありません。企業側も、自社のガバナンスと監査品質を守るために、主体的に確認することが重要です。


まとめ

監査法人やそのグループファームは、監査以外にもさまざまな非保証業務を提供することがあります。企業にとっては、自社をよく理解している専門家に相談できるメリットがあります。


しかし、監査クライアントに対して非保証業務を提供する場合には、監査人の独立性に注意が必要です。


特に、IESBAの倫理規程改訂では、大会社等の監査クライアントについて、自己レビューの阻害要因が生じる可能性のある非保証業務の提供が禁止される方向が示されています。


また、同じ監査クライアントに複数の非保証業務を提供している場合には、各業務から生じる阻害要因だけでなく、それらを組み合わせた影響も考慮する必要があります。後から非保証業務を追加する場合にも、独立性への影響を再評価しなければなりません。


今後、日本の実務に同様の考え方が導入される場合、これまで同じ監査法人グループに依頼していた業務の一部を依頼できなくなる可能性があります。


上場会社、IPO準備会社、大会社等では、監査法人に依頼している非保証業務の内容、報酬、監査への影響を整理し、必要に応じて依頼先の見直しを検討することが重要です。


監査人の独立性は、財務諸表監査の信頼性を支える基礎です。非保証業務を依頼する際には、便利さだけで判断せず、自己レビュー、馴れ合い、自己利益といった阻害要因を踏まえて慎重に検討しましょう。


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