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KAMが記載されない監査報告書とは?IPO企業や意見不表明の場合の取扱いを公認会計士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
8月12日
読了時間: 10分

更新日:9月1日

こんばんは!代表の安田です。


上場会社の有価証券報告書を読むと、監査報告書の中に「監査上の主要な検討事項」という項目が記載されていることがあります。


この「監査上の主要な検討事項」は、英語ではKey Audit Mattersと呼ばれ、一般に「KAM」と略されます。KAMは、監査人が当年度の監査において特に重要であると判断した事項を、監査報告書の中で説明するものです。


近年、有価証券報告書を読む投資家や金融機関、経理担当者にとって、KAMは会社の重要な会計上の見積りやリスクを理解するための参考情報となっています。


しかし、すべての監査報告書にKAMが記載されるわけではありません。上場会社であっても、監査報告書にKAMが記載されていないケースがあります。また、IPO準備会社の監査報告書でも、KAMが記載されないことがあります。


本日は、KAMの基本的な意味、KAMが記載される監査報告書、KAMが記載されないケース、IPO時の取扱いについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


KAMとは何か

KAMとは、「監査上の主要な検討事項」のことです。


監査人は、財務諸表監査を行う中で、会社の会計処理や開示、内部統制、事業環境、重要な見積りなどを検討します。その中でも、特に監査上重要であった事項について、監査報告書に記載するものがKAMです。


KAMは、監査人が財務諸表に対してどのような点を重視して監査を行なったのかを、財務諸表利用者に伝えるための制度です。


たとえば、次のような項目がKAMとして記載されることがあります。

  • のれんや固定資産の減損

  • 繰延税金資産の回収可能性

  • 売上収益の認識

  • 棚卸資産の評価

  • 貸倒引当金の見積り

  • 工事進行基準や一定期間にわたる収益認識

  • 企業結合における取得原価の配分

  • 継続企業の前提に関する検討


これらは、経営者の判断や見積りが大きく関係することが多く、監査人にとっても慎重な検討が必要になる項目です。


KAMは何のために導入されたのか

従来の監査報告書は、監査意見を中心とした比較的定型的な文章でした。


もちろん、監査報告書には財務諸表が適正に表示されているかどうかという重要な情報が含まれています。しかし、財務諸表利用者から見ると、「監査人がどのような論点に注目したのか」「どの項目を重点的に監査したのか」が見えにくいという課題がありました。


KAMは、このような課題に対応するために導入された制度です。

監査人が特に重要と判断した事項を具体的に記載することで、監査報告書の情報価値を高め、投資家などの財務諸表利用者が会社のリスクや重要な会計上の判断を理解しやすくすることを目的としています。


つまり、KAMは監査報告書を単なる「合格通知」のようなものではなく、会社の重要論点を読み解くための情報源にする役割を持っています。


KAMが記載される監査報告書

KAMは、主に金融商品取引法に基づいて開示される財務諸表の監査報告書に記載されます。

上場会社が提出する有価証券報告書には、財務諸表と監査報告書が含まれます。この監査報告書には、原則としてKAMが記載されます。


上場会社では、投資家や株主など多数の財務諸表利用者が存在します。そのため、監査人が監査上特に重要と判断した事項を開示することには大きな意義があります。


一方で、すべての会社にKAMの記載が求められるわけではありません。会社の規模や開示制度の違いにより、KAMの記載が不要となる場合があります。


非上場会社ではKAMが不要となる場合がある

KAMは、金融商品取引法に基づく開示を行う財務諸表の監査報告書で問題となります。

ただし、非上場会社については、一定の金額基準を満たす場合にはKAMの記載対象外となります。


具体的には、資本金、売上高、負債総額などの規模に関する基準により、KAM記載の適用対象外となる場合があります。


対象外となる会社については、監査報告書にKAMを記載することは求められません。もっとも、KAMの記載が禁止されているわけではなく、会社や監査人の判断により任意で記載することは可能です。


実務上は、非上場会社の監査報告書ではKAMが記載されていないケースが多いと考えられます。


上場会社でもKAMが記載されないケース

上場会社の監査報告書には、原則としてKAMが記載されます。

しかし、上場会社であっても、例外的にKAMが記載されないことがあります。その代表例が、監査意見が「意見不表明」となる場合です。


意見不表明とは、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できず、財務諸表について意見を表明できない状態をいいます。


このような場合、監査報告書では、なぜ意見を表明できないのかという理由が重要になります。そのため、通常のKAMの記載は行なわれません。


ここで誤解しやすいのは、KAMが記載されていないからといって、必ずしも問題がないという意味ではない点です。むしろ、意見不表明の場合は、監査上非常に重大な問題がある可能性があります。


監査報告書を読む際には、KAMの有無だけでなく、監査意見の種類を必ず確認することが大切です。


IPO時の監査報告書にKAMがないことがある理由

実務上、もう一つ注意したいのがIPO時の監査報告書です。


IPOを目指す会社は、上場申請や有価証券届出書の提出にあたり、監査証明を受けた財務諸表を提出します。この監査報告書にKAMが記載されていないことがあります。


一見すると、「IPOする会社なのに、なぜKAMがないのか」と疑問に思うかもしれません。

その理由は、IPO時点では、提出会社がまだ上場会社ではないためです。


有価証券届出書に含まれる財務諸表については監査証明が必要ですが、その提出時点では、会社は上場会社には該当しません。そのため、KAMの記載が必要かどうかは、上場会社としてではなく、非上場会社としての金額基準などにより判断されます。


また、証券取引所に提出する「新規上場申請のための有価証券報告書」に対しても、上場規程により金融商品取引法に準じた監査が求められます。この場合も、KAMの記載要否は会社の規模基準などを踏まえて検討されます。


そのため、IPO関連の監査報告書であっても、金額基準によりKAMの記載対象外となる場合があります。


最近のIPO企業でKAMが記載されないことが多い背景

最近のIPO企業では、比較的若い成長企業やスタートアップ企業も多く見られます。


これらの会社は、売上規模や資本金の規模がまだ大きくない段階で上場を目指すことがあります。特に、資本金が一定規模未満の会社では、KAMの記載対象外となるケースがあります。


そのため、IPO時に提出される監査報告書や上場申請書類に含まれる監査報告書に、KAMが記載されていないことがあります。

これは、監査人が重要な論点を検討していないという意味ではありません。制度上、KAMの記載が求められていないため、監査報告書に記載されていないということです。

投資家や関係者がIPO書類を読む際には、「KAMがない=重要論点がない」と単純に理解しないよう注意が必要です。


KAMがない監査報告書を読むときの注意点

KAMが記載されていない監査報告書を読む場合には、いくつかの点を確認する必要があります。


まず、監査意見の種類を確認します。無限定適正意見なのか、限定付適正意見なのか、不適正意見なのか、意見不表明なのかによって、監査報告書の意味は大きく変わります。


次に、KAMの記載がない理由を考える必要があります。会社がKAMの適用対象外なのか、意見不表明のためKAMが記載されていないのか、IPO時の書類で制度上記載が不要なのかによって、読み方は異なります。


さらに、財務諸表の注記も確認することが重要です。KAMが記載されていない場合でも、重要な会計方針、会計上の見積り、継続企業の前提、重要な後発事象などは注記で開示されている可能性があります。


特にIPO企業では、成長性に注目が集まりやすい一方で、赤字継続、資金調達、事業計画、収益認識、研究開発費、ストック・オプションなど、重要な会計論点が存在することがあります。


KAMがない場合でも、財務諸表や注記を丁寧に読むことが大切です。


中小企業やIPO準備会社への実務上の示唆

KAMは主に上場会社の制度というイメージがありますが、中小企業やIPO準備会社にとっても参考になる考え方です。


KAMは、監査人が特に重要と判断した事項を示すものです。裏を返せば、会社にとっても、重要な会計上の見積りやリスクを把握し、適切に説明できる体制を整えることが重要だということです。


IPOを目指す会社では、KAMの記載対象外であったとしても、将来的に上場会社となればKAMの記載が求められる可能性があります。そのため、早い段階から重要な会計論点を整理しておくことが望ましいでしょう。


たとえば、次のような項目については、監査人とのコミュニケーションが重要になります。

  • 売上収益の認識

  • ソフトウェアや研究開発費の会計処理

  • 固定資産やのれんの減損

  • 繰延税金資産の回収可能性

  • 棚卸資産の評価

  • 貸倒引当金の見積り

  • ストック・オプションの会計処理

  • 継続企業の前提・関連当事者取引


これらは、KAMとして記載されるかどうかにかかわらず、会社の決算や開示に大きな影響を与える可能性があります。


KAMは「記載の有無」だけで判断しない

監査報告書を読む際には、KAMの記載があるかどうかだけに注目するのではなく、監査報告書全体を読むことが重要です。


KAMが記載されていれば、監査人がどの事項を重要と考え、どのように監査上対応したかを知る手がかりになります。


一方、KAMが記載されていない場合でも、それには制度上の理由がある場合があります。非上場会社で金額基準により対象外となっている場合、IPO時点でまだ上場会社ではない場合、または意見不表明の場合などです。


特に、意見不表明の場合には、KAMがないことよりも、監査人が意見を表明できなかった理由の方がはるかに重要です。


KAMの有無を形式的に見るのではなく、会社の状況、提出書類の種類、監査意見、注記情報をあわせて確認することが大切です。


まとめ

KAMとは、監査上の主要な検討事項のことで、監査人が当年度の監査で特に重要と判断した事項を監査報告書に記載する制度です。


上場会社の有価証券報告書に添付される監査報告書では、原則としてKAMが記載されます。一方で、すべての監査報告書にKAMが記載されるわけではありません。


非上場会社では、一定の金額基準を満たす場合、KAMの記載対象外となります。また、上場会社であっても、監査意見が意見不表明となる場合にはKAMは記載されません。


さらに、IPO時に提出される有価証券届出書や新規上場申請書類に含まれる監査報告書では、提出時点で会社がまだ上場会社ではないため、金額基準などによりKAMの記載要否が判断されます。その結果、IPO企業の監査報告書にKAMが記載されていないことがあります。


KAMが記載されていないからといって、必ずしも重要な監査論点がないとは限りません。監査報告書を読む際には、KAMの有無だけでなく、監査意見の種類、会社の属性、提出書類の種類、財務諸表注記をあわせて確認することが重要です。


IPO準備会社や上場会社では、KAMの記載対象となるかどうかにかかわらず、重要な会計上の見積りやリスクについて、早い段階から整理しておくことをおすすめします。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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