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ニデックが2期連続で監査意見不表明|会計不正・巨額減損と上場廃止リスクを公認会計士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
1 日前
読了時間: 15分

おはようございます!代表の安田です。


ニデックが2026年9月30日に提出した2026年3月期の有価証券報告書について、会計監査人であるPwC Japan有限責任監査法人は、連結財務諸表に対して「意見不表明」としました。


ニデックは2025年3月期についても監査意見不表明となっており、今回で2期連続となります。


同社では、第三者委員会の調査を受けて過年度の不適切な会計処理を修正しましたが、監査法人は、修正の網羅性や減損損失の妥当性などを判断するための十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったとしています。


2026年3月期には約6,300億円の減損損失を計上し、営業損失は5,190億円となりました。

さらに、同社株式は東京証券取引所から特別注意銘柄に指定されており、今後は内部管理体制の改善状況が審査されます。


今回の問題は単に巨額の会計不正が発覚したというだけでなく、過年度の財務諸表を修正しても、財務報告プロセスへの信頼が回復しなければ監査意見を取得できないことを示す事例です。


本記事では、ニデックの監査意見不表明の理由、財務数値への影響、特別注意銘柄の制度、今後の上場維持の判断について、公認会計士の視点から解説します。


ニデックが2期連続で監査意見不表明に

ニデックは2026年9月30日に2026年3月期の有価証券報告書を提出しました。

連結財務諸表の監査を担当したPwC Japan有限責任監査法人は、前年に続き監査意見を表明しませんでした。


今回の概要は次のとおりです。

項目

内容

対象会社

ニデック株式会社

対象決算期

2026年3月期

有価証券報告書提出日

2026年9月30日

会計監査人

PwC Japan有限責任監査法人

監査意見

意見不表明

前年度

2025年3月期も意見不表明

主な理由

ガバナンス、減損、比較情報に関する監査証拠の不足

東証の指定

特別注意銘柄

今後の焦点

内部管理体制の整備・運用状況

監査法人は、過年度の不適切な会計処理が修正された後も、その修正内容等が適切であると判断するための証拠を十分に得られなかったとしています。


そもそも「監査意見不表明」とは?

監査意見不表明とは、監査人が財務諸表に対して監査意見を形成するために必要な十分かつ適切な監査証拠を入手できず、財務諸表全体に対する意見を表明できない場合の監査報告です。


ここで注意したいのは、「意見不表明」と「不適正意見」は異なるという点です。

監査意見

基本的な意味

無限定適正意見

財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されていると判断

限定付適正意見

特定の重要な事項について例外があるものの、限定付きで意見を表明

不適正意見

財務諸表全体に広範な影響を与える重要な虚偽表示があると判断

意見不表明

十分かつ適切な監査証拠を入手できず、意見を形成できない


不適正意見は、監査人が財務諸表に重大な問題があると判断した結果です。


これに対して意見不表明は、財務諸表が適正かどうかについて結論を出すための監査証拠が不足しているという状態です。


したがって、意見不表明だからといって財務諸表のすべての数値が誤っているという意味ではありません。


しかし、投資家にとっては、財務情報の信頼性を十分に確認できないという重大な問題になります。


ニデックの会計不正はなぜ発生したのか?

ニデックでは2025年9月、資産性に問題がある可能性のある資産について、評価減の時期を恣意的に判断していた疑義などが生じ、第三者委員会による調査が始まりました。


その後、2026年3月に公表された第三者委員会の調査報告書では会計不正が認定されています。


同報告書では、会計不正の背景として、経営幹部による業績目標達成への過度なプレッシャーや、短期的な利益を優先する企業風土などが指摘されたと報じられています。


業績プレッシャーと会計不正の関係

企業経営では売上高や営業利益などの目標を設定することが一般的です。

しかし、目標達成が過度に重視されると、次のような不適切な会計処理が生じるリスクがあります。

業績上のプレッシャー

想定される会計不正リスク

利益目標を達成したい

必要な費用・損失の計上を先送りする

赤字を回避したい

資産の評価減を適切な時期に計上しない

事業計画の未達を隠したい

将来キャッシュ・フローを過大に見積もる

経営陣の意向に逆らえない

経理担当者が不適切な判断を受け入れる

短期利益を優先する

将来の損失リスクを十分に認識しない

上表は会計不正リスクの一般例であり、個々の行為がすべてニデックで認定されたという意味ではありません。


今回の事案は、会計不正が経理部門だけの問題ではなく、経営方針や企業文化、コーポレート・ガバナンスにも関係することを示しています。


過年度の修正で営業利益が5年間累計3,826億円減少

ニデックは第三者委員会の調査結果等を受け、過年度の財務諸表を修正再表示しています。

2026年10月1日の会見資料によると、2021年3月期から2025年3月期までの5年間について、営業利益が累計3,826億円減少しました。


さらに、2025年3月期末の純資産も修正前から4,769億円減少しています。


<過年度修正と2026年3月期の業績>

項目

金額

2021~2025年3月期の営業利益修正減少額(5期累計)

▲3,826億円

修正後の営業利益(5期累計)

4,373億円

2025年3月期末の純資産修正減少額

▲4,769億円

2026年3月期の減損損失

約6,300億円

2026年3月期の営業損失

▲5,190億円

2026年3月期の親会社の所有者に帰属する当期損失

▲5,646億円

過年度の修正金額と、2026年3月期に計上された損失は、それぞれ対象期間が異なるため区別して理解する必要があります。


また、2026年3月期には多額の減損損失が認識されていますが、監査法人はその一部について会計上の見積りの妥当性を十分に検証できていないとしています。


なぜ過年度を修正しても監査意見が得られなかったのか?

今回の事例で特に重要なのはこの点です。

会計不正が発覚した企業では、通常、過去の不適切な会計処理を洗い出し、必要な修正を行ないます。


しかし、修正仕訳を計上すれば、必ず監査意見が得られるわけではありません。

監査法人としては、少なくとも次の事項を確認する必要があります。

  • 発見された不適切な会計処理が正しく修正されているか

  • 同様の不適切な処理がほかにも存在しないか

  • 修正金額の計算根拠は適切か

  • 会計上の見積りを裏付ける証拠は十分か

  • 経営者や役職員から提供された情報を信頼できるか


今回のニデックの監査では、こうした確認に必要な監査証拠を十分に入手できなかったことが問題となりました。


監査意見不表明の理由は大きく3つ

PwC Japan有限責任監査法人は、2026年3月期の連結財務諸表に対する監査報告書で、意見不表明の根拠として次の3つを挙げています。

理由

主な問題

① コーポレート・ガバナンス

不適切な会計処理等に関与した役職員が財務報告に関与し、情報の信頼性を確認できない

② 資産の減損

一部の減損損失の金額や期間帰属について十分な証拠が得られない

③ 比較情報

前年度の修正再表示額や注記の妥当性・網羅性を確認できない

以下、それぞれ解説します。


理由① 不適切な会計処理に関与した役職員への人事的是正措置が未完了

今回、最も注目されるのがコーポレート・ガバナンスに関する問題です。

監査法人は、不適切な会計処理に関与した役職員や、監査人に虚偽の説明を行なった役職員の一部が、引き続き財務報告プロセスで責任ある立場を担当していたと指摘しています。


これにより、会社側が提出する資料や経営者の説明について、信頼性を十分に確認できない状態となっていました。


さらに、後任者が責任を引き継いで適切に職務を遂行しているかについても、十分な確認ができていなかったとされています。


なぜ役職員の配置が監査意見に影響するのか?

会計監査では、帳簿や証憑だけでなく、経営者や担当者からの説明も重要な情報となります。


しかし、不適切な会計処理に関与した人物が引き続き決算業務を主導している場合、「ほかに修正すべき取引が存在しないか」を確認することが難しくなる可能性があります。


今回、監査法人が問題としているのは、単に不正に関与した人物が会社に残っているということではありません。


財務報告プロセスの信頼性が回復していることを、監査証拠によって確認できなかったことが重要です。


人事的是正措置は「決めた」だけでは不十分

2026年10月1日の会見で、PwC側は、ニデックが問題に関与した役職員に対して、決算業務の中心的な業務を担当させず、支援業務に限定する措置を講じていたと説明しています。

しかし、その予防措置が完全には遵守されていなかったケースや、9月になって新たに関与者と認定されたケースがあったとされています。


ニデック側は、人事的是正措置の対象として、一部の国における約20人を想定していると説明しています。


ここから得られる実務上の教訓は、内部統制は規程や改善計画を作成するだけでは不十分で、実際に運用されていることを確認できなければならないという点です。


理由② 約6,300億円の減損損失を計上したものの、一部を検証できず

2つ目の問題は、資産の減損です。

ニデックでは2026年3月期に約6,300億円の減損損失を計上しました。


しかし監査法人は、一部の資金生成単位(グループ)について、減損損失の金額や、どの会計期間に損失を認識すべきかという期間帰属を判断するための十分かつ適切な監査証拠を得られなかったとしています。


減損会計では何を確認するのか?

減損会計では、固定資産の回収可能性を評価するため、将来キャッシュ・フローなどの会計上の見積りが重要になります。


例えば、次のような事項を確認する必要があります。

確認項目

主な内容

事業計画

将来の売上高・利益の予測

将来キャッシュ・フロー

資産が将来生み出す資金

回収可能額

資産の回収可能性

減損額

計上すべき損失金額

期間帰属

どの決算期に減損を認識するか

今回の問題では、減損損失を計上したという事実だけでは、その金額や計上時期が適切であることを監査人が確認できなかったことが重要です。


これは、経営者の見積りに基づく会計処理について、判断根拠や客観的な裏付けを整備することの重要性を示しています。


理由③ 比較情報の修正額や注記の網羅性も確認できず

3つ目の問題は比較情報です。


2026年3月期の連結財務諸表では、2025年3月期の数値が比較情報として表示されます。

ニデックは過年度の不適切な会計処理を修正していますが、監査法人は、その比較情報に含まれる修正再表示後の金額や注記についても、妥当性や網羅性を判断できなかったとしています。


その背景には、前述した財務報告プロセスの信頼性の問題があります。

つまり、当年度の決算数値だけでなく、過年度の修正情報の信頼性まで影響していたということです。


過年度の会計不正が発覚した場合には、当年度の財務諸表を修正するだけではなく、比較情報や注記についても整合的に再検証する必要があります。


内部統制監査でも意見不表明

ニデックは、2026年3月31日現在の内部統制報告書についても、監査人から意見不表明の内部統制監査報告書を受領したと公表しています。


ここで区別したいのが、

  • 財務諸表監査

  • 内部統制監査

という2つの監査です。

項目

主な対象

財務諸表監査

財務諸表が適正に表示されているか

内部統制監査

財務報告に係る内部統制についての経営者の評価が適正に表示されているか

今回、財務諸表だけでなく内部統制監査についても意見不表明となったことは、問題が個別の会計処理にとどまらず、財務報告の基盤となる体制にも関係していることを示しています。


ニデックは「特別注意銘柄」に指定されている

ニデック株式は、2025年10月28日付で東京証券取引所から特別注意銘柄に指定されています。


特別注意銘柄とは、上場会社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと判断された場合に、東証が指定する制度です。


今回の事例で重要なのは、監査意見不表明となったから直ちに上場廃止になるわけではないという点です。


特別注意銘柄に指定された会社については、その後の内部管理体制の整備・運用状況を東証が審査します。


ニデックは2026年10月末に内部管理体制確認書を提出する予定とされています。


特別注意銘柄の審査結果は3パターン

東京証券取引所は、会社が提出する内部管理体制確認書等を基に、内部管理体制が適切に整備され、実際に運用されているかを審査します。


主な結果は次の3つです。

審査結果

取扱い

内部管理体制が適切に整備・運用されている

原則として指定解除

体制は整備されているが運用は不十分。ただし適切に運用される見込みがある

指定継続

体制が適切に整備されていない、または適切に運用される見込みがない

上場廃止

このように、内部管理体制がどの程度改善しているかによって結論が変わります。


監査意見不表明=上場廃止ではない

意見不表明は東証の審査において重要な要素となり得ますが、それだけで内部管理体制が整備されていないと自動的に判断されるわけではありません。


東証の審査では、コーポレート・ガバナンスの有効性や企業情報の適切な開示など、内部管理体制全体が評価されます。


したがってニデックの上場維持については、今後の内部管理体制に関する審査結果を確認する必要があります。


今後の最大の焦点は「内部統制の実効性」

今回、ニデックが上場を維持するためには、内部管理体制を整備するだけでなく、実際に有効に機能していることを示す必要があります。


特に重要となると考えられるのは、次の事項です。

項目

確認したいポイント

人事的是正措置

不適切な会計処理に関与した役職員への対応が完了しているか

財務報告プロセス

適切な責任者によって決算が行われているか

内部統制

改善策が実際に運用されているか

過年度修正

修正すべき事項が網羅されているか

減損会計

見積りの根拠を客観的に説明できるか

監査対応

監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できるか

ガバナンス

経営者による過度な業績プレッシャーを抑制できるか

ニデックは、内部管理体制確認書の提出に向け、監査意見を取得するための課題を2026年10月中に解消する方針を示しています。


ただし、改善を進めているという会社の説明と、実際に改善が完了し有効に機能していると確認されることは別です。


日本公認会計士協会もコメントを公表

2026年10月2日、日本公認会計士協会(JICPA)は今回のニデックの監査意見不表明について、資本市場の信頼性という観点から遺憾であるとのコメントを公表しました。


また、今後の監査の実施状況について必要な対応を図る方針を示しています。

監査意見は、投資家が企業の財務情報を利用する際の重要な基盤です。


その意見を表明できない状態が2期連続で続いたことは、企業だけでなく、資本市場全体の信頼性にも関係する問題といえます。


今回の事例から上場会社が学ぶべきこと

ニデックの事例は、ほかの上場会社の経営者、経理部門、監査役等にとっても重要な教訓になります。


① 会計不正の修正だけでは信頼回復にならない

過年度の誤った仕訳を修正しても、再び不適切な会計処理が行われるおそれがある場合、財務報告の信頼性は十分に回復しません。

会計処理の是正と内部統制の改善を一体として考える必要があります。


② 不正関与者への対応は実効性まで確認する

問題に関与した役職員について、職務変更や権限の見直しを行うだけではなく、実際に新たな体制で業務が遂行されていることを確認する必要があります。


③ 減損会計の判断根拠を残す

減損損失は経営者の見積りに依存する部分が大きいため、事業計画、将来キャッシュ・フロー、評価の前提等を適切に保存することが重要です。


④ 監査人への説明の信頼性を確保する

監査人が経営者や経理担当者の説明を信頼できない場合、たとえ会社が多額の修正損失を計上しても、十分な監査証拠を得られない可能性があります。


⑤ ガバナンスの問題を会計問題と切り離さない

過度な業績目標、経営陣への権限集中、不適切な会計処理を指摘しにくい企業文化などは、財務報告の信頼性に直接影響する可能性があります。

会計不正防止には、経理部門のチェック体制だけでなく、経営陣を含めたガバナンス全体の改善が必要です。


まとめ

ニデックの2026年3月期の連結財務諸表について、PwC Japan有限責任監査法人は2期連続となる監査意見不表明としました。


主なポイントは次のとおりです。

  • 2026年9月30日に有価証券報告書を提出

  • 2025年3月期に続き2期連続で監査意見不表明

  • 過年度の営業利益は5年間累計で3,826億円減少

  • 2025年3月期末の純資産は修正前から4,769億円減少

  • 2026年3月期には約6,300億円の減損損失を計上

  • 監査意見不表明の理由はガバナンス、減損、比較情報の3点

  • 不適切な会計処理等に関与した役職員への是正措置が一部未完了

  • 修正の網羅性や減損額の妥当性を確認する監査証拠を十分に得られず

  • 内部統制監査についても意見不表明

  • 東証の特別注意銘柄に指定されており、今後は内部管理体制の審査が焦点


特に今回重要なのは、過年度の不適切な会計処理を修正しても、監査法人が必要な証拠を入手できなければ監査意見は表明されないという点です。


また、会計不正の再発防止策については、改善方針を作成するだけでなく、実際に運用されていることを示さなければなりません。


ニデックについては、今後の東証による審査で、内部管理体制が適切に整備・運用されていると評価されるかが大きな焦点です。


今回の事例は、会計不正への対応では、財務数値の修正、人的な是正措置、内部統制の改善、監査証拠の確保を一体として進める必要があることを示しています。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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