のれんの償却期間は最長20年|なぜ20年が上限?ASBJの今後の議論も解説
こんにちは!代表の安田です。
企業買収や事業譲受などのM&Aを行なった場合、取得対価と取得した企業・事業の純資産等との差額として「のれん」が計上されることがあります。
日本の会計基準では、こののれんを一定期間にわたって規則的に償却します。
では、のれんの償却期間は何年まで設定できるのでしょうか。
結論からいうと、現行の企業会計基準では、最長20年です。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第32項では、のれんについて「20年以内」の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却することとされています。
ただし、「なぜ20年なのか」をたどると、過去の会計基準や米国基準との関係が見えてきます。
また、ASBJでは現在、のれんの償却期間をめぐる実務上の課題を検討する予定ですが、資料によれば、議論の中心は20年という上限そのものではなく、「効果の及ぶ期間」をどのように考えるかになる見込みです。
本日は、のれんの償却期間の現行ルール、20年という上限の歴史、今後のASBJの議論について、公認会計士が解説します。
のれんの償却期間は「20年以内」
現行の企業結合会計基準では、のれんについて、「20年以内の、その効果の及ぶ期間」にわたって規則的に償却することとされています。
したがって、すべてののれんを一律20年で償却するわけではありません。
重要なのは、そのM&Aによって得られる超過収益力等の効果が、どの程度の期間にわたって及ぶと考えられるかを検討して償却期間を設定することです。
<現行ルールの整理>
項目 | 内容 |
対象 | のれん |
償却期間 | 効果の及ぶ期間 |
上限 | 20年 |
償却方法 | 定額法その他の合理的な方法 |
会計基準 | 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第32項 |
例えば、会社が効果の及ぶ期間を10年と合理的に見積もるのであれば、20年まで使えるからといって20年償却にするのではなく、10年を基礎として会計処理を検討することになります。
なぜ「20年」が上限なのか
現在の20年という上限は、突然設定されたものではありません。
その源流は1997年に改訂された「連結財務諸表原則」にあります。
当時は、現在の「のれん」に相当するものとして「連結調整勘定」という考え方があり、その償却期間について20年を基準とする考え方が示されていました。
ただし、現在のルールとは重要な違いがありました。
かつては20年超の償却も可能だった
1997年改訂の連結財務諸表原則では、20年という期間について「原則として」という文言が付されていました。
そのため、合理的な理由があれば20年を超える償却期間を採用する余地があったとされています。当時の米国会計基準が40年以内の償却を認めていたことから、実際に40年償却を採用していた企業も存在したと紹介されています。
<現在と過去の違い>
項目 | 1997年改訂の連結財務諸表原則 | 現行の企業結合会計基準 |
基本的な期間 | 20年 | 20年以内 |
「原則として」の文言 | あり | なし |
20年超 | 合理的理由があれば可能とされた | 認められない |
40年償却 | 実例あり | 不可 |
この違いは、現在ののれん会計を理解するうえで重要です。
2003年の企業結合会計基準で「原則として」が消えた
現在の企業結合会計基準につながる2003年公表の「企業結合に係る会計基準」では、1997年当時に存在した「原則として」という文言が引き継がれませんでした。
その結果、20年が基本だが例外的に40年でもよいという仕組みではなく、20年以内という明確な上限になりました。
この背景の一つとして2001年の米国会計基準の改訂が挙げられています。
米国でのれんが非償却になったことも背景
米国では2001年の基準改訂によって、のれんが非償却となりました。
これにより、従来存在していた「40年以内で償却する」という選択肢そのものがなくなりました。
その結果、日本側で40年償却を残して米国基準との整合を図る必要性も薄れ、「20年以内」と規定すれば足りるという考え方につながったとされています。
歴史を簡略化すると、次のように整理できます。
時期 | 主な動き |
1997年 | 連結財務諸表原則で20年を基本としつつ、例外的に20年超も可能 |
当時 | 米国基準では40年以内の償却が認められていた |
2001年 | 米国基準でのれんが非償却へ |
2003年 | 日本の企業結合会計基準では「原則として」を引き継がず20年以内へ |
現在 | 20年が明確な上限 |
20年は「推奨期間」ではなく「上限」
実務上、誤解しやすい点です。「のれんは20年で償却できる」というルールを、「基本的には20年償却にすればよい」という意味に捉えるのは適切ではありません。
基準の考え方はあくまで、「効果の及ぶ期間を合理的に見積もり、その期間が20年以内であること」です。
つまり、
効果の及ぶ期間を検討
↓
合理的に見積もった期間
↓
ただし最長20年という順序で考える必要があります。
20年は償却期間を決める出発点ではなく、最終的な上限です。
償却期間によって利益への影響は大きく変わる
のれんの償却期間は、M&A後の損益にも直接影響します。
例えば、100億円ののれんを定額法で償却すると仮定します。
償却期間 | 1年当たりの償却額 |
5年 | 20億円 |
10年 | 10億円 |
15年 | 約6.7億円 |
20年 | 5億円 |
※上表は説明のための単純計算例です
償却期間が長いほど毎期の償却費は少なくなり、短いほど毎期の費用負担が大きくなります。そのため、のれんの償却期間は、
営業利益
当期純利益
EPS
M&A後の業績評価
などにも影響する重要な会計上の判断となります。
だからこそ、「できるだけ長くすれば利益が増える」という考え方ではなく、M&Aによる効果が及ぶ期間を合理的に説明できることが重要です。
ASBJが「のれんの償却期間」を検討へ
今後、企業会計基準委員会(ASBJ)がのれんの償却期間に関する実務上の課題を検討するとされています。
もっとも、「20年では短すぎるため40年へ延ばす」といった方向で議論が行なわれるとは見込まれていません。
焦点になるとされているのは、「効果の及ぶ期間」をどう考えるのかという点です。
今後の論点は「何年なら合理的か」をどう判断するか
現行基準では「20年以内」という上限は明確です。
一方、実務上より難しいのは、5年なのか、10年なのか、15年なのかをどのように判断するかです。
今回ASBJが検討する実務上の課題は、まさにこの部分に関係するものと考えられます。
現時点では、具体的な新ルールや判断要素は添付資料には示されていません。
したがって、
特定のM&Aなら必ず○年
投資回収期間と必ず一致させる
事業計画期間と必ず一致させる
といった新しいルールが決まったわけではありません。
今後のASBJの審議を確認する必要があります。
M&Aを行う企業が今確認しておきたいこと
具体的な制度改正はまだ行なわれていませんが、M&Aを行なう企業では、現在ののれんについて判断根拠を整理しておくことが有用です。
確認事項 | 主なポイント |
のれん残高 | 案件ごとの金額を把握しているか |
償却期間 | 各案件で何年としているか |
上限 | 20年以内になっているか |
判断根拠 | なぜその期間なのか説明できるか |
M&A時資料 | 当時の事業計画等が保存されているか |
償却費 | 毎期の損益影響を把握しているか |
監査対応 | 償却期間の根拠を監査人に説明できるか |
特に、長期間の償却を採用している案件については、「20年以内だから問題ない」だけではなく、「なぜその期間にわたって効果が及ぶと判断したのか」を説明できるようにしておくことが重要です。
のれん償却期間の考え方を整理
今回の資料のポイントをまとめると、次のようになります。
論点 | 結論・現状 |
現行の上限 | 20年 |
期間の考え方 | 効果の及ぶ期間 |
償却方法 | 定額法その他合理的な方法 |
20年超 | 現行基準では不可 |
過去の制度 | 合理的理由により20年超も可能だった時期あり |
40年償却 | 過去には実例あり |
今後のASBJ議論 | 「効果の及ぶ期間」の考え方が中心となる見込み |
上限40年への延長 | 資料上、その方向の議論は見込まれていない |
まとめ
日本基準におけるのれんの償却期間は、最長20年です。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、のれんを「20年以内」の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却すると定めています。
今回のポイントは次のとおりです。
のれんの償却期間は効果の及ぶ期間で決定する
上限は20年
20年は標準期間ではなく上限
1997年当時は「原則として20年」という考え方だった
当時は合理的理由があれば20年超も認められ、40年償却の企業もあった
2003年の企業結合会計基準では「原則として」が引き継がれなかった
現在は20年超の償却は認められない
今後ASBJが償却期間の実務上の課題を検討
議論の中心は「効果の及ぶ期間」の考え方
20年を40年へ延長する方向の議論は、資料上は見込まれていない
M&Aを行なう企業にとって重要なのは、
「最大20年まで使えるから何年にするか」ではなく、「そのM&Aの効果が合理的に何年間続くと考えられるのか」から償却期間を決めることです。
今後ASBJが考え方を具体化すれば、M&A時の会計判断や監査対応にも影響する可能性があります。
のれん残高が大きい企業やM&Aを積極的に行なう企業では、今後の審議を注視するとともに、現在採用している償却期間の根拠を整理しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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