会計不正の「黄色信号」をどう見抜く?監査役等に求められる早期把握と予防策を解説
おはようございます!代表の安田です。
日本監査役協会は2026年7月28日、「監査役等による会計不正への対応-予兆の早期把握と予防の徹底-」を公表しました。
近年発生したニデック、オルツ、エア・ウォーター、KDDIなどの会計不正事案を分析し、会計不正が発生する前の「予兆」をどのように把握するか、また不正を未然に防ぐためにどのような体制を整えるべきかについて、監査役等の視点からポイントを整理したものです。
会計不正が発覚した後に調査・訂正することはもちろん重要ですが、企業にとってより重要なのは、不正が大きくなる前に兆候を捉えることです。
今回の公表資料では、特に「過度な業績プレッシャー」を重要な黄色信号として挙げるとともに、監査役等、会計監査人、内部監査部門、財務・経理部門などの情報共有・連携の重要性を指摘しています。
本日は、会計不正の予兆とは何か、監査役等が確認すべきポイント、会計不正を防止するために企業が整備したい体制について、公認会計士が解説します。
日本監査役協会が会計不正への対応を整理
今回の資料では、近年の主な会計不正事案について、
不正の概要
発生原因
監査役等への提言
を整理したうえで、それぞれの事件に共通してみられる原因や特徴を抽出しています。
重要なのは、個々の不正事例を「特殊な会社で起きた事件」として見るのではなく、「自社でも同じような兆候が現れていないか」という視点で利用することです。
会計不正は、ある日突然発生するとは限りません。
業績目標への過度なプレッシャー、情報共有の不足、内部統制の形骸化など、複数の問題が積み重なった結果として発生する場合があります。
会計不正の「黄色信号」とは
日本監査役協会の資料では、「各種会計不正の予兆(黄色信号)を掴むための方法」として、不正事例で指摘された原因を整理しています。
「黄色信号」という表現が示すとおり、現時点で不正が確認されたわけではないものの、放置すると不正につながる可能性がある兆候を早い段階で察知することが重要です。
特に注意すべき「過度な業績プレッシャー」
今回の資料で具体的に取り上げられているのが、過度な業績プレッシャーです。
日本監査役協会は、過去の不祥事を見ても、過度な業績プレッシャーが会計不正の大きな要因となっており、警戒が必要であるとしています。
例えば、会社で次のような状況が続いている場合には注意が必要でしょう。
状況 | 会計不正リスクとの関係 |
達成困難な売上・利益目標 | 数値を合わせようとする圧力が生じる可能性 |
毎期必ず増収増益を要求 | 業績悪化を正しく報告しにくくなる可能性 |
未達成に対する過度な責任追及 | 不都合な情報を隠す動機になり得る |
短期業績のみを重視 | 将来の損失を先送りする誘因になり得る |
経営トップの目標が絶対視される | 経理判断への不適切な介入につながる可能性 |
上表は、資料に示された「過度な業績プレッシャー」という論点を、実務上確認しやすいよう整理したものです。
予算策定プロセス自体を確認する
資料では、業績プレッシャーを把握する方法の一つとして、予算策定プロセスを確認し、予兆やリスク認識を共有することが挙げられています。
単に最終的な予算数字を見るのではなく、
その予算はどのような根拠で作られたのか
現場の見通しと大きく乖離していないか
経営陣から過度な上乗せ要求がなかったか
未達となった場合にどのような対応が求められるのか
といったプロセスを見ることが重要です。
例えば、現場が「売上100億円が現実的」と見積もっているにもかかわらず、合理的な根拠なく「120億円に修正するように」と経営陣から強く求められている場合、その差額20億円が会計不正の動機にならないか注意する必要があります。
会計不正を防ぐための4つの体制整備
日本監査役協会は、会計不正を防止するための予防策・体制整備として、大きく4つの事項を挙げています。
項目 | 内容 |
① 他の監査役等との情報共有 | 特に社外監査役等を含め情報を共有する |
② 会計監査人・内部監査部門との連携 | 監査役等と他の監査機能が連携する |
③ 内部統制システムの整備 | 不正を防止・発見する仕組みを整える |
④ 内部通報制度の整備 | 現場から問題を吸い上げる仕組みを機能させる |
4つに共通するキーワードは、「情報が監査役等まで届く仕組みを作ること」です。
① 監査役等同士で情報を共有する
監査役等の中でも、それぞれが持っている情報や視点は異なります。
特に社外監査役等は、会社内部の日常的な情報に触れる機会が限られる一方、経営陣から独立した立場から問題を見ることができます。
そのため、常勤者だけが知っている情報を社外者へ共有しないという状態では、監査機能を十分に発揮できません。
実務上は、監査役会等において、
経営上の重要な問題
内部通報の状況
内部監査で発見された事項
会計監査人から指摘された事項
経理部門が懸念している会計処理
などを適切に共有できる仕組みが重要になります。
② 会計監査人・内部監査部門との連携
今回の資料では特に、監査役等と、会計監査人+内部監査部門との連携が重要とされています。
企業内部には、それぞれ異なる役割を持つ監査機能があります。
関係者 | 主な視点 |
監査役等 | 取締役の職務執行等を監査 |
会計監査人 | 財務諸表を監査 |
内部監査部門 | 社内業務・内部統制を監査 |
財務・経理部門 | 決算・会計処理を実施 |
一つの部門だけでは把握できない問題も、それぞれが持つ情報を組み合わせることで見えてくる場合があります。
「情報共有の粒度」と「透明性」が重要
日本監査役協会は、単に連携会議を開催すればよいとはしていません。
資料では、
財務・経理部門から会計監査人への情報提供
監査役等
会計監査人
内部監査部門
の間で、十分な粒度と透明性を持った情報共有が行われているか確認すべきとしています。
ここは非常に重要なポイントです。
例えば、「特に問題ありません」とだけ報告するのと、「売上計上について監査人から3件質問があり、このうち1件については契約条件の解釈に意見差がある」と報告するのとでは、監査役等が把握できる情報量が大きく異なります。
会議の回数よりも、重要な事実が隠されず、適切な詳しさで共有されているかが重要です。
財務・経理部門から監査人への情報提供も確認する
監査役等が確認すべき対象は、自分たちと会計監査人との連携だけではありません。
今回の資料では、財務・経理部門が会計監査人へ適切に情報提供しているかについても確認すべきとされています。
例えば、経理部門が、
監査上重要な取引を説明していない
監査人から聞かれた事項だけ回答している
経営者と見解が異なる会計処理を伝えていない
子会社で発生した問題を伝えていない
といった状態であれば、会計監査が適切に機能しない可能性があります。
監査役等には、情報の伝達経路そのものが機能しているかを見る視点も必要です。
③ 内部統制システムの整備
会計不正を防止するには、個々の担当者の注意だけに頼るのではなく、会社として内部統制を整備する必要があります。
今回の資料でも、不正防止策として「内部統制システムの整備」が挙げられています。
実務上は例えば、
売上計上の承認
仕訳入力と承認の分離
銀行口座の管理
棚卸
子会社管理
重要取引の承認
決算レビュー
など、会計数値を作成するプロセスに適切なチェックを組み込むことが重要です。
ただし、内部統制は規程を作るだけでは十分ではありません。
実際にその手続が運用されているか、また経営陣によって無効化されていないかを確認する必要があります。
④ 内部通報制度を実際に機能させる
もう一つの重要な予防策が、内部通報制度です。
日本監査役協会は、会計不正を未然に防ぐための体制として内部通報制度の整備を挙げています。
会計不正では、現場の従業員が、この取引はおかしいこの売上計上は実態と違う上司から不自然な処理を指示されたと気付いているケースも考えられます。
その情報が経営陣に握りつぶされず、監査役等や適切な部署まで届くことが重要です。
内部通報「0件」だから安全とは限らない
内部通報制度は、窓口を設置すれば終わりではありません。
例えば毎年通報が全くない場合、本当に問題がないのか、それとも従業員が通報できない環境なのかを検討する必要があります。
実務上は、
窓口が知られているか
匿名通報が可能か
通報者の秘密が守られるか
通報後に不利益を受けないか
通報後に適切な調査が行われているか
などを確認することが重要でしょう。
監査役等は「結果」だけでなく「違和感」を見る
会計不正への対応では、不正の証拠が見つかるまで何もしないという姿勢では、発見が遅れてしまいます。
今回の資料が「予兆」や「黄色信号」を重視しているのは、小さな違和感の段階で確認することが重要だからです。
例えば、実務上は次のような変化があれば、その背景を確認することが考えられます。
変化 | 確認したいこと |
売上が急増 | 実態を伴う成長か |
期末売上が極端に多い | 前倒し計上等がないか |
利益目標を毎期ぎりぎり達成 | 会計判断に無理がないか |
経理責任者が突然退職 | 背景に問題がないか |
監査人との意見対立 | どの論点で対立しているか |
内部通報が急増 | 共通する問題がないか |
重要な情報が取締役会に上がらない | 情報伝達経路に問題がないか |
上表は資料の「予兆を早期に把握する」という考え方を実務向けに整理したものです。
会計不正を防ぐための情報共有モデル
会計不正防止では、それぞれの部門が独立して活動するだけでは十分とはいえません。
重要なのは、必要な情報が相互に行き来することです。
情報提供元 | 主な共有先 | 共有したい情報の例 |
財務・経理 | 会計監査人 | 重要な会計判断・特殊取引 |
内部監査 | 監査役等 | 内部統制上の不備 |
会計監査人 | 監査役等 | 監査上の重要論点 |
内部通報窓口 | 監査役等 | 会計不正に関係する通報 |
経営陣 | 監査役等 | 重要な事業・財務リスク |
特に、「経営陣に都合の悪い情報」ほど適切に共有できる体制が重要です。
監査役等が確認したいチェックリスト
確認事項 | チェック |
過度な業績プレッシャーがないか確認している | □ |
予算策定プロセスを確認している | □ |
社外監査役等との情報共有が十分である | □ |
会計監査人と定期的に情報交換している | □ |
内部監査部門と情報共有している | □ |
財務・経理部門から監査人への情報提供状況を確認している | □ |
重要な会計論点が監査役等まで報告される | □ |
内部統制が実際に運用されているか確認している | □ |
内部通報制度が機能しているか確認している | □ |
小さな異常・違和感も確認する仕組みがある | □ |
経営陣が関与する問題でも調査できる体制がある | □ |
経営者・経理部門にとっても重要な資料
今回の資料は「監査役等」に向けた提言ですが、内容は監査役だけに関係するものではありません。
経営者や経理部門にとっても、
過度な目標設定になっていないか
会計監査人に必要な情報を渡しているか
内部監査からの指摘を軽視していないか
不都合な情報も取締役会へ報告されているか
内部通報制度が形骸化していないか
を点検する材料になります。
会計不正は経理部門だけの問題ではなく、会社のガバナンスや企業文化とも密接に関係します。
まとめ
日本監査役協会は2026年7月28日、「監査役等による会計不正への対応-予兆の早期把握と予防の徹底-」を公表しました。
近年の複数の会計不正事案を分析し、監査役等が不正の兆候を早期に把握し、未然防止につなげるためのポイントを整理しています。
今回の資料から特に重要なポイントをまとめると、次のとおりです。
会計不正が発生する前の「黄色信号」を把握する
過度な業績プレッシャーは重要な不正リスク
予算策定プロセスを確認する
監査役等同士で情報を共有する
会計監査人・内部監査部門との連携を強化する
財務・経理部門から会計監査人への情報提供状況も確認する
情報共有は「十分な粒度」と「透明性」が重要
内部統制システムを整備する
内部通報制度を実際に機能させる
特に重要なのは、会計不正が確定してから対応するのではなく、
「何かおかしい」という段階で必要な情報を集め、複数の監査機能が連携して確認すること
です。
監査役等、会計監査人、内部監査部門、財務・経理部門がそれぞれ別々に情報を保有するのではなく、必要な情報を適切な粒度と透明性で共有できる体制を作ることが、会計不正の早期発見・予防につながります。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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