四半期報告書が廃止されても課徴金は減らない?半期報告書への移行と虚偽記載の課徴金を解説
こんばんは!代表の安田です。
結論からいうと、四半期報告書が廃止され、法定の継続開示書類の提出回数が減ったとしても、虚偽記載に対する課徴金の総額が単純に少なくなるわけではありません。
現在、金融商品取引法上の継続開示書類として、有価証券報告書や半期報告書などの提出が求められています。
四半期報告書の廃止によって、法定開示の回数は少なくとも年4回から年2回へ減少しました。しかし、添付資料によれば、虚偽記載に対する課徴金は「虚偽記載をした報告書の本数」に単純比例する制度ではなく、虚偽記載が生じた事業年度を単位として課徴金額を計算する仕組みとなっています。
したがって、「四半期報告書がなくなったため、虚偽記載があった場合の課徴金も半分になる」と考えるのは正確ではありません。
本日は、四半期報告書廃止後の半期報告書制度と、虚偽記載に対する課徴金の計算関係について、公認会計士が分かりやすく解説します。
四半期報告書の廃止で法定開示の回数は減少
従来、上場会社などでは、有価証券報告書に加え、四半期ごとに四半期報告書を提出する仕組みが採られていました。
現在は四半期報告書が廃止され、金融商品取引法上の継続開示書類としては、有価証券報告書や半期報告書などが中心となっています。
この変更によって法定開示の回数が少なくとも年4回から年2回に減少しました。
<開示回数のイメージ>
制度 | 主な法定継続開示書類 | 回数のイメージ |
四半期報告書制度 | 有価証券報告書+四半期報告書 | 年4回程度 |
現行制度 | 有価証券報告書+半期報告書 | 年2回程度 |
一見すると、法定開示書類の数が減れば、虚偽記載に対する課徴金の対象も減り、会社の負担も小さくなるように思えます。
しかし、課徴金制度はそのような単純な仕組みではありません。
課徴金は「虚偽記載の回数」で増えるわけではない
今回のポイントは、虚偽記載に対する課徴金が、単純に「虚偽記載した報告書の数 × 一定額」で計算されるわけではない点です。
虚偽記載に伴う課徴金は、虚偽記載があった事業年度を対象として計算される仕組みとなっています。
【図解】誤解しやすいポイント
<誤ったイメージ>
有価証券報告書で虚偽記載
↓
600万円
半期報告書でも虚偽記載
↓
+300万円
合計900万円?
<実際の考え方>
同じ事業年度の有価証券報告書・半期報告書
↓
「その事業年度」について課徴金の総額を計算
↓
各報告書にはその総額を按分このため、同じ事業年度について複数の継続開示書類に虚偽記載が含まれていたとしても、報告書が増えるたびに課徴金総額が積み上がっていくわけではありません。
有価証券報告書の課徴金はどう計算されるのか
虚偽記載があった事業年度の有価証券報告書について、次の2つの金額のうち高い方が課徴金額の基礎となります。
<有価証券報告書の課徴金>
計算方法 | 金額 |
① 定額 | 600万円 |
② 時価総額基準 | 算定基準有価証券の時価総額 × 10万分の6 |
適用額 | ①と②のうち高い金額 |
例えば...
<時価総額500億円の場合>
計算すると、「500億円 × 6 / 100,000 = 300万円」となります。
①の600万円の方が高いため、課徴金の基礎となる金額は600万円です。
<時価総額1,000億円の場合>
「1,000億円 × 6 / 100,000 = 600万円」となり、①と②が同額になります。
そのため、時価総額が1,000億円を超えると、時価総額を基準とする②の金額が600万円を上回ると説明されています。
時価総額が大きいほど課徴金も大きくなる
例えば、時価総額ごとに②を単純計算すると、次のようになります。
時価総額 | 時価総額×10万分の6 | ①600万円との比較 | 課徴金の基礎額 |
100億円 | 60万円 | ①が高い | 600万円 |
500億円 | 300万円 | ①が高い | 600万円 |
1,000億円 | 600万円 | 同額 | 600万円 |
2,000億円 | 1,200万円 | ②が高い | 1,200万円 |
5,000億円 | 3,000万円 | ②が高い | 3,000万円 |
企業規模が一定水準を超えると、600万円の定額ではなく、時価総額に連動して課徴金が増える仕組みであることが分かります。
半期報告書の課徴金はいくらになるのか
四半期報告書や半期報告書については、有価証券報告書について計算した金額の半分が課される仕組みとされています。
例えば、有価証券報告書について600万円が基準となる会社であれば、「600万円 × 1/2 = 300万円」が半期報告書についての金額となります。
ここだけを見ると、
「有価証券報告書600万円+半期報告書300万円=900万円」
となりそうに見えます。
しかし、同一事業年度について複数の報告書が課徴金の対象になる場合には、さらに別の調整があります。
同じ年度なら有価証券報告書と半期報告書の課徴金は合算されない
同じ事業年度の有価証券報告書と四半期報告書または半期報告書の複数が課徴金の対象になった場合について、その事業年度全体として課される課徴金額を決め、各開示書類に金額を按分する仕組みと説明されています。
例えば課徴金の基礎額が600万円の場合
同一事業年度
半期報告書に虚偽記載
+
有価証券報告書にも虚偽記載
↓
600万円+300万円
=900万円とはしない
↓
年度全体の課徴金総額は600万円
↓
600万円を各報告書に按分したがって、虚偽記載の対象となる報告書の数が増えたとしても、同じ事業年度について課される課徴金総額そのものが増加するわけではないという点が重要です。
四半期報告書が廃止されても課徴金総額が減らない理由
ここまでを整理すると、四半期報告書廃止後も課徴金総額が基本的に変わらない理由が見えてきます。
<旧制度のイメージ>
第1四半期報告書 ─┐
第2四半期報告書 ─┤
第3四半期報告書 ─┤
有価証券報告書 ─┘
↓
同じ事業年度として課徴金額を算定
<現行制度のイメージ>
半期報告書 ─┐
有価証券報告書 ─┘
↓
同じ事業年度として課徴金額を算定報告書の本数は減っています。
しかし、課徴金の総額が「報告書の本数」で決まるのではなく、「虚偽記載が生じた事業年度」を単位に算定されるため、開示回数の減少がそのまま課徴金の減額にはつながらないのです。
「四半期報告書がなくなったからリスクが小さくなった」とは言えない
企業実務上、ここは重要なポイントです。
四半期報告書が廃止されたことで、金融商品取引法上の法定開示書類の作成回数は減りました。
しかし、虚偽記載リスクという観点では、「提出書類が減った=課徴金リスクも比例して減った」とは考えられません。
課徴金総額が事業年度単位で計算される以上、有価証券報告書や半期報告書に重要な虚偽記載が含まれれば、従来と同様に課徴金の問題が生じます。
したがって、企業にとって重要なのは開示回数ではなく、各開示書類の基礎となる財務情報や開示情報の正確性を確保することです。
近年は600万円となる課徴金納付命令も多い
近年の課徴金納付命令について、一事業年度当たりの課徴金が①の600万円となるケースも多いです。これは、対象会社の時価総額を用いた計算額が600万円を上回らず、定額部分が適用されるケースが多いことを意味します。
一方、600万円という課徴金額については、昨今の不正会計を踏まえ、不正を抑止する観点から金額自体を引き上げるべきではないかとの意見も出ていますが、具体的な増額内容や制度改正が決定しているとの記載はありません。
課徴金だけを不正会計のコストと考えるのは危険
課徴金制度について考える際には、金額そのものだけを見るべきではありません。
不適切な会計処理や開示が判明すれば、課徴金だけでなく、社内調査や訂正対応など、企業にはさまざまな対応が必要になる可能性があります。
特に上場会社では、財務情報の信頼性は企業に対する市場の評価とも密接に関係します。
そのため、「課徴金が600万円なら許容できる」という発想ではなく、
虚偽記載そのものを発生させない
内部統制・決算・開示体制を構築する
という観点が重要です。
上場会社が確認しておきたいポイント
四半期報告書廃止後の開示体制において、企業が改めて確認しておきたい事項を整理すると、次のようになります。
確認項目 | 主なポイント |
半期報告書の作成体制 | 必要な情報が適切に収集・確認されているか |
有価証券報告書との整合性 | 半期と年度で会計処理や開示内容に矛盾がないか |
会計上の見積り | 減損、引当金など重要な判断を適切に検討しているか |
開示チェック | 虚偽記載や重要な記載漏れを防止できているか |
経営者への報告 | 重要な会計・開示論点が経営者に共有されているか |
監査法人との連携 | 重要論点を早期に相談しているか |
内部統制 | 決算・開示プロセスが実際に機能しているか |
提出回数が減ったことを理由に、決算・開示体制を簡素化し過ぎないことが重要です。
【図解】今回のポイントを一枚で整理
四半期報告書が廃止
↓
法定開示の回数
年4回程度 → 年2回程度
↓
では課徴金も減る?
↓
NO
↓
課徴金は報告書の「本数」ではなく「虚偽記載があった事業年度」を基準に算定
↓
同一年度の複数報告書に虚偽記載があっても年度全体の課徴金額を算定して各書類に按分
↓
四半期報告書廃止だけでは
課徴金総額は基本的に変わらないまとめ
四半期報告書の廃止により、金融商品取引法上の法定継続開示書類の提出回数は、少なくとも年4回から年2回へ減少しました。
しかし、虚偽記載に対する課徴金は、報告書の本数に応じて単純に加算される制度ではありません。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。
四半期報告書廃止後も、有価証券報告書や半期報告書が継続開示書類となる
虚偽記載に対する課徴金は、虚偽の回数ではなく事業年度を基準に算定される
有価証券報告書は600万円または時価総額×10万分の6の高い方が基準
半期報告書等は、その基準額の半分
同一事業年度の複数の報告書が対象となる場合でも、課徴金総額が単純に加算されるわけではない
各報告書には、年度全体の課徴金額を按分した金額が課される
そのため、四半期報告書の廃止によって開示回数が減っても、課徴金総額は基本的に変わらない
最近は一事業年度600万円となる事例も多く、課徴金額の引上げを求める声もある
企業として重要なのは、「報告書が減ったのでリスクも減った」と考えるのではなく、半期報告書と有価証券報告書の双方について、引き続き正確な財務情報と開示情報を作成する体制を維持することです。
特に、不正会計や重要な会計上の誤りを防止するためには、決算・開示プロセスの内部統制、経営者によるレビュー、監査法人との早期の情報共有などを継続的に見直すことが重要となります。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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