ASBJが「のれんの会計処理と開示」を新規テーマに|償却期間・償却方法と償却前営業利益を検討
こんにちは!代表の安田です。
企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年9月3日、「のれんの会計処理と関連する開示」を新たな検討テーマとすることを決定しました。
今回の検討対象は、大きく2つあります。
1つ目は、のれんの償却期間・償却方法に関する考え方をより明確にすることです。
2つ目は、現在の「のれん償却費を営業費用として計上する」会計処理を前提に、「のれん償却前営業利益」に関する情報を開示することが企業会計基準の改善につながるかという論点です。
現時点では、のれんの会計基準そのものが改正されたわけではありません。
まずは実務上の課題を整理し、必要に応じて補足文書や会計基準等を開発するかどうかを検討する段階です。
M&Aを積極的に行なう企業にとって、のれんの償却費は業績指標に大きな影響を与える場合があります。
今後の議論次第では、M&A後の会計処理だけでなく、投資家への業績説明や決算資料の開示方法にも影響する可能性があります。
本日は、ASBJが新たに検討を開始する「のれんの会計処理と関連する開示」について、公認会計士が実務上のポイントを解説します。
ASBJが「のれん」を新規テーマとして採用
ASBJは2026年9月3日に開催した第583回本委員会で、「のれんの会計処理と関連する開示」を新規テーマとすることを決定しました。
その背景には、企業会計基準諮問会議からの提言があります。
今回検討される内容を整理すると、次のとおりです。
検討テーマ | 主な内容 |
のれんの会計処理 | 償却期間・償却方法について考え方を明確化できるか検討 |
関連する開示 | のれん償却前営業利益に関する情報提供を見直すべきか検討 |
対応方法 | 会計基準改正だけでなく、補足文書による対応も検討 |
現在の段階 | 新規テーマとして審議開始を決定 |
つまり、「のれんを償却するかどうか」という一点だけを議論するものではなく、日本基準におけるのれんの償却実務をより分かりやすくし、業績情報の提供方法もあわせて検討する取組みといえます。
論点① のれんの「償却期間・償却方法」を明確化
1つ目の論点は、企業結合会計基準第32項に関係する、のれんの償却期間・償却方法です。
企業会計基準諮問会議は、現行実務で生じている課題について、会計基準上の償却期間・償却方法の考え方を明確にすることで対応できるかを検討するよう提言しました。
ASBJもこの提言を受けて、まずはその考え方を明らかにすることで実務上の問題を解消できるかを検討します。
<今回検討されるイメージ>
現在の実務上の論点 | 今後の検討 |
どの程度の期間で償却するか判断が必要 | 償却期間の考え方を明確化できるか |
どのような方法で償却するか判断が必要 | 償却方法の考え方を明確化できるか |
判断の根拠を企業ごとに検討 | 実務の参考となる考え方を示せるか |
ここで重要なのは、現時点で新しい償却期間や償却方法が決まったわけではないことです。
あくまで「考え方を明確にすることで実務上の課題に対応できるかを検討する」という段階です。
会計基準改正ではなく「補足文書」になる可能性も
今回の検討で特徴的なのは、必ずしも企業会計基準そのものを改正するとは限らない点です。
ASBJは、償却期間や償却方法について考え方を示す場合、企業会計基準等の開発に限定せず、「補足文書」を作成する可能性も検討するとしています。
つまり、実務上のばらつきや判断の難しさを解消するためには、会計基準自体を変えなくても、考え方を整理した文書を示せば十分ではないかという選択肢も含めて検討されます。
企業側としては、今後、
会計基準そのものが改正されるのか
適用指針等が変更されるのか
補足文書によって実務上の考え方だけが示されるのか
を区別して確認する必要があります。
論点② 「のれん償却前営業利益」の開示を検討
もう一つの重要な論点が、のれん償却前営業利益です。
今回は、のれん償却費を営業費用として計上する現在の会計処理のもとで、のれん償却前営業利益に関する情報提供を見直すことが、会計基準の改善につながるかを検討するとされています。
簡単なイメージとしては、
営業利益 + のれん償却費 = のれん償却前営業利益
という関係になります。
例えば、次の会社を考えてみます。
項目 | 金額 |
のれん償却前の営業利益 | 100億円 |
のれん償却費 | 30億円 |
会計上の営業利益 | 70億円 |
この場合、通常の営業利益は70億円ですが、のれんの償却負担を除けば100億円の利益を生み出していることになります。
M&Aを多く行なう会社では、こうした情報が投資家の業績分析に有用となる可能性があります。
なぜ「のれん償却前営業利益」が注目されるのか
企業がM&Aを行なうと、買収後の財務諸表にはのれんが計上されることがあります。
その後のれん償却費が営業費用に含まれると、M&Aによって取得した事業が生み出す利益と、買収に伴って生じたのれんの償却費が営業利益の中で一緒に表示されます。
そのため、投資家が、「買収した事業そのものはどの程度利益を生み出しているのか」を分析する際には、のれん償却費を除いた利益情報も参考になる可能性があります。
今回ASBJが検討するのは、このような情報提供の見直しが、企業会計基準全体として有用なのかという点です。
「のれん償却前営業利益」の開示が決まったわけではない
ここは注意が必要です。
現時点で、すべての企業に「のれん償却前営業利益」の開示が義務付けられることが決定したわけではありません。
ASBJはまず、この情報提供を見直すことが企業会計基準等の改善につながるかを検討します。
そして、改善につながると判断された場合に、企業会計基準等の開発へ進む予定です。
したがって、現段階の流れは次のようになります。
ステップ | 内容 |
① | 新規テーマとして採用 |
② | 情報提供を見直すことが有用か検討 |
③ | 改善につながると判断 |
④ | 企業会計基準等を開発 |
⑤ | 具体的な開示内容・適用時期等を検討 |
現時点は①から②へ進む段階です。
今回の検討はM&Aを多く行なう企業ほど重要
今回のテーマは、特にM&Aを積極的に活用する企業にとって重要です。
例えば、
毎年複数の企業を買収している
多額ののれん残高がある
のれん償却費が営業利益に占める割合が大きい
M&A後の収益性を投資家へ説明する必要がある
といった企業では、今後の議論による影響が相対的に大きくなる可能性があります。
<企業が確認しておきたい事項>
確認項目 | 主な内容 |
のれん残高 | 金額・案件別内訳 |
償却期間 | 各案件でどの期間を採用しているか |
償却方法 | 採用方法とその判断理由 |
年間償却費 | 営業利益への影響 |
M&A実績 | 今後も買収が増える見込みか |
IR | のれん償却の影響をどのように説明しているか |
償却期間の「根拠」がより重要になる可能性
ASBJが償却期間・償却方法について考え方を明らかにする場合、企業側では、現在採用している処理について、「なぜこの償却期間なのか」をこれまで以上に説明しやすい状態にしておくことが重要になる可能性があります。
例えば、
買収時の事業計画
投資回収期間
期待するシナジー
取得した顧客基盤等の性質
経営上想定している事業期間
など、M&A時の各種資料と会計上の償却期間との関係を確認しておくことが考えられます。
ただし、具体的にどの要素を償却期間判断に用いることになるのかについては、今回の添付資料では示されていません。
今後のASBJの審議内容を確認する必要があります。
M&A時点での会計検討がより重要に
のれんの償却期間は、買収後になって初めて検討する事項ではありません。
M&Aを実施する段階では、
買収価格を決定
取得原価を各資産・負債等へ配分
のれんを認識
のれんの会計処理を決定
将来の損益影響を把握
という流れで会計上の影響を検討します。
今後、償却期間・償却方法についてより具体的な考え方が示されれば、M&Aの投資判断時にも、買収後の営業利益にのれん償却がどの程度影響するのかを従来以上に意識する必要が出てくる可能性があります。
「営業利益」と「償却前営業利益」の両方を見る可能性
仮に将来、のれん償却前営業利益に関する情報提供が拡充された場合、企業の業績を見る際には、
指標 | 意味合い |
営業利益 | のれん償却費を含めた会計上の利益 |
のれん償却前営業利益 | のれん償却負担を除いた事業の利益水準 |
という2つの視点を利用することになる可能性があります。
ただし、のれん償却前利益は高ければよいというものでもありません。
M&Aでは実際に買収対価を支払っているため、のれんの存在やその会計上の影響を無視して企業価値を判断することも適切ではありません。
そのため、仮に新しい開示が導入される場合でも、通常の営業利益と補足的な利益情報をどのようにセットで示すかが重要な論点になると考えられます。
企業が今から行なえる準備
まだ具体的な基準改正案は示されていませんが、M&Aを多く行なう企業では、今後の議論に備えて現在ののれん管理を確認しておくことが考えられます。
<のれん管理チェックリスト>
のれんを案件別に管理している
各のれんの取得原因を把握している
償却期間を案件別に把握している
償却期間を決めた根拠資料が残っている
償却方法を整理している
年間ののれん償却費を把握している
営業利益への影響を把握している
M&A後の事業計画と実績を比較している
IR上の説明方法を整理している
ASBJの今後の審議をフォローする体制がある
今後のASBJ審議で確認したいポイント
企業実務上、今後特に注目したいのは次の事項です。
1.償却期間の考え方
どのような事実・状況を基に償却期間を決定するのか。
2.償却方法
現行実務上の判断について、どの程度具体的な考え方が示されるのか。
3.補足文書か基準改正か
会計処理自体が変更されるのか、実務上のガイダンスが追加されるのか。
4.のれん償却前営業利益
開示が必要となる場合、どのような名称・計算方法・表示場所になるのか。
5.適用時期・経過措置
仮に基準等が改正される場合、いつから適用されるのか。
今回の添付資料では、これらの具体的な結論までは示されていません。
同じ会議では金融商品会計基準の適用時期も議論
なお、同じASBJの会議では、予想信用損失モデルを導入する改正金融商品会計基準についても適用時期が議論されました。
資料では、現時点の方向性として次の時期が示されています。
区分 | 適用時期の方向性 |
原則適用 | 2030年4月1日以後開始する事業年度の期首から |
早期適用 | 2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から |
ただし、こちらも資料時点では最終基準公表前の審議内容です。
まとめ
ASBJは2026年9月3日、「のれんの会計処理と関連する開示」を新規テーマとして検討することを決定しました。
今回の検討は、大きく次の2本立てです。
のれんの償却期間・償却方法について考え方を明確化する
のれん償却前営業利益に関する情報提供を見直す
償却期間・償却方法については、実務上の課題が考え方の明確化によって解消できるかをまず検討し、必要であれば補足文書などの開発も含めた対応が行なわれます。
一方、のれん償却前営業利益については、情報提供の見直しが会計基準の改善につながるかを検討し、改善につながると判断された場合に基準開発へ進む予定です。
現段階では、のれんの会計処理が変更されたわけでも、のれん償却前営業利益の開示が義務化されたわけでもありません。
ただし、M&Aを積極的に行ない、多額ののれんを計上している企業にとっては、今後の会計処理・決算・IRに影響する可能性がある重要なテーマです。
今後ASBJの審議が進む中で、償却期間の判断基準、補足文書の内容、のれん償却前営業利益の具体的な表示・開示方法などを継続的に確認していくことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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