会計不正を受けて有価証券報告書の「確認書」を拡充へ|企業に求められる対応を解説
こんばんは!代表の安田です。
近年、社会的な影響の大きい会計不正が相次いでいることを受け、有価証券報告書とともに提出される「確認書」の記載内容を拡充する方向で検討が進められています。
現在の確認書は、有価証券報告書の記載内容が法令に基づき適正であることを代表者が確認した旨を記載する、比較的簡素なものとなっています。
今後は米国の制度も参考にしながら、単に「適正であることを確認した」と記載するだけでなく、有価証券報告書を作成・開示するための手続を整備していることや、その手続が実際に機能していることを確認した旨の記載を求める方向です。
本記事では、確認書制度の概要、記載拡充が検討されている背景、想定される改正内容、企業が準備しておきたい事項について、公認会計士が解説します。
有価証券報告書の「確認書」とは
上場会社などの有価証券報告書提出会社は、有価証券報告書とあわせて「確認書」を提出します。
確認書は、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正に記載されていることを、会社の代表者が確認した旨を示す書類です。
確認書の根拠は、金融商品取引法第24条の4の2および企業内容等の開示に関する内閣府令の様式に置かれています。
<現在の確認書の基本的な位置付け>
項目 | 内容 |
提出する会社 | 有価証券報告書の提出義務がある会社 |
提出時期 | 原則として有価証券報告書と同時 |
確認する者 | 代表取締役社長などの会社代表者 |
確認対象 | 有価証券報告書の記載内容の適正性 |
現在の記載 | 適正に記載されていることを確認した旨が中心 |
確認書には、経営者が自ら有価証券報告書の内容に責任を持つことを明らかにする意味があります。
しかし、実際の確認書では「有価証券報告書の記載内容が法令に基づき適正に記載されていることを確認した」といった定型的な文章にとどまることが多く、制度が形式的なものになっているとの問題意識が示されています。
なぜ確認書の記載拡充が検討されているのか
今回の見直しの背景には、相次ぐ会計不正があります。
会計不正が発生すると、株主や投資家だけでなく、取引先、金融機関、従業員などにも大きな影響が及びます。証券市場全体に対する信頼が損なわれる可能性もあります。
有価証券報告書には、財務諸表だけでなく、事業の状況、リスク情報、ガバナンス、役員報酬、株式情報など、投資判断に関係するさまざまな情報が記載されます。
その内容が適正であることを確保するためには、最終的な書類を経営者が確認するだけでは十分ではありません。有価証券報告書を作成するまでの過程において、例えば次のような仕組みが必要です。
必要な情報を各部署から漏れなく収集する
収集した情報の正確性を確認する
会計処理や開示内容を適切に検討する
関係部署や経営者が内容を確認する
誤りが見つかった場合に修正する
一連の手続が実際に機能しているかを確認する
今回の見直しは、経営者に対して、完成した有価証券報告書だけでなく、その作成・開示プロセスにも責任を持つことを、より明確に求めるものと考えられます。
確認書には何が追加されるのか
確認書の記載拡充に当たっては、米国の宣誓書制度を参考に、主に次の内容を新たに記載させる方向で検討されています。
有価証券報告書を作成し、開示するための手続を整備していること
その手続の実効性を確認していること
現行制度と検討中の方向性を比較すると、次のようになります。
項目 | 現行の確認書 | 検討されている拡充内容 |
有価証券報告書の適正性 | 適正に記載されていることを確認 | 引き続き確認 |
作成・開示手続の整備 | 明示的な記載は限定的 | 手続を整備していることを記載 |
手続の実効性 | 明示的な記載は限定的 | 実際に機能していることを確認した旨を記載 |
経営者の関与 | 最終的な記載内容の確認が中心 | 作成・開示プロセスまで含めた関与を明確化 |
制度の目的 | 記載内容の適正性の確認 | 開示体制の整備と実効性の確保をより重視 |
ただし、具体的な記載文言、確認すべき手続の範囲、適用時期などは、今後の政府令等の改正内容によって明らかになると考えられます。
現時点では、確定した制度ではなく、記載拡充の方向で検討が進められている段階である点に注意が必要です。
【図解】確認書の拡充によって変わる経営者の確認範囲
従来の確認書は、完成した有価証券報告書の内容を最終的に確認することに重点が置かれていました。
今後は、その有価証券報告書がどのような手続を経て作られたのかについても、経営者が確認することが求められる可能性があります。

ポイントは、確認の対象が「完成した書類」から「書類を作成するための仕組み」に広がる可能性があることです。
確認書の拡充により企業実務はどう変わるのか
確認書の記載内容が拡充されれば、上場会社などの有価証券報告書提出会社では、経理部や財務部だけでなく、経営企画、法務、総務、人事、IR、内部監査など、幅広い部署に影響する可能性があります。
1.開示手続を文書化する必要性が高まる
経営者が「有価証券報告書を作成・開示するための手続を整備している」と確認するためには、どのような手続が存在するのかを説明できなければなりません。
実務上は、次のような事項の文書化が重要になると考えられます。
確認事項 | 文書化の例 |
情報収集 | 誰が、どの部署から、いつまでに情報を集めるか |
内容確認 | 提出された情報を誰が確認するか |
会計判断 | 重要な会計処理をどの会議体で検討するか |
開示判断 | 重要情報の記載要否を誰が判断するか |
経営者確認 | 経営者にどの資料を提出し、どのように説明するか |
修正手続 | 誤りが判明した場合に誰が修正を指示するか |
手続が社内に存在していても、担当者の経験や口頭の指示だけに依存している場合、経営者がその実効性を確認することは容易ではありません。
業務フロー、チェックリスト、責任分担表、決裁記録などを整備する必要性が高まるでしょう。
2.経営者への報告内容が増える可能性がある
確認書を提出する代表者は、有価証券報告書の最終版を確認するだけでなく、その作成プロセスが適切に運用されたことについても説明を受ける必要が生じる可能性があります。
例えば、次のような事項が経営者への報告対象になることが考えられます。
有価証券報告書の作成スケジュール
重要な会計上の見積り
監査法人との主要な協議事項
前年度から変更した会計処理
重要な開示上の判断
社内レビューで発見された誤り
未修正事項や検討中の事項
作成・開示手続の運用状況
経営者が形式的に押印・署名するだけではなく、重要な論点を把握したうえで確認書を提出する体制が求められることになります。
3.確認の証拠を残すことが重要になる
「手続の実効性を確認した」と記載するのであれば、どのような方法で確認したのかを後から説明できることが重要です。
そのため、次のような記録を残す実務が考えられます。
開示チェックリスト
各部署からの回答書
会計処理の検討資料
開示委員会などの議事録
経営者への報告資料
監査法人との協議記録
修正履歴
最終承認の記録
単に社内規程を作るだけでなく、規程に基づく手続が毎期確実に行われていることを示す証拠が必要になります。
確認書の拡充だけで会計不正は防止できるのか
確認書の記載拡充には、経営者に適正な情報開示の重要性を再認識させる効果が期待されています。
一方で、米国のように確認書の虚偽記載自体が刑事罰の対象となる制度ではないため、会計不正を減らす効果は限定的ではないかとの指摘もあります。
確認書の文章を増やすだけで、会計不正が自動的に防止されるわけではありません。
<制度の実効性を左右するポイント>
ポイント | 内容 |
経営者の姿勢 | 不都合な情報を含め、正確な開示を優先するか |
ガバナンス | 取締役会や監査役等が適切に監督しているか |
情報伝達 | 現場の問題が経営者まで報告されるか |
担当者の専門性 | 複雑な会計・開示論点を判断できるか |
内部監査 | 開示手続の不備を独立した立場から確認できるか |
監査法人との連携 | 重要論点を早期に共有・検討しているか |
会計不正を防止するためには、確認書の記載拡充だけでなく、企業風土、経営者の姿勢、取締役会の監督、内部通報制度、内部監査などを含めた総合的な対応が必要です。
今回の改正は、それらの対策の一つとして、経営者の説明責任をより明確にするものと位置付けられるでしょう。
米国の制度との違い
今回の見直しでは、米国の宣誓書制度が参考にされています。
ただし、日本で検討されている制度が、米国の制度と完全に同じものになるわけではありません。米国のように確認書の虚偽記載を刑事罰の対象とする仕組みまでは予定されてはいません。
項目 | 日本で検討中の方向性 | 資料で言及された米国制度 |
開示書類の適正性の確認 | 求める | 求める |
作成・開示手続の整備 | 記載追加を検討 | 宣誓内容に含まれる制度を参考 |
手続の実効性の確認 | 記載追加を検討 | 宣誓内容に含まれる制度を参考 |
虚偽記載への刑事罰 | 米国と同様の制度とはしない方向 | 刑事責任につながり得る |
したがって、日本の見直しは、罰則強化よりも、まずは確認書の記載を通じて経営者の意識と責任を高めることに重点があると考えられます。
企業が今から準備しておきたいこと
具体的な政府令や様式が公表される前であっても、有価証券報告書提出会社は、自社の開示体制を点検しておくことが有用です。
公認会計士の実務的な観点からは、次のような準備が考えられます。
1.有価証券報告書の作成フローを可視化する
誰がどの情報を作成し、誰が確認し、最終的に誰が承認するのかを整理します。
特定の担当者しか分からない手続や、慣例だけで行われている業務がないか確認しましょう。
2.責任分担を明確にする
有価証券報告書は経理部だけで作成するものではありません。
事業等のリスク、人的資本、ガバナンス、役員報酬、サステナビリティなど、各部署が担当する情報について、作成責任者と確認責任者を明確にする必要があります。
3.重要な会計・開示論点を一覧化する
毎期、判断が必要となる重要な事項を一覧にし、検討過程と結論を記録しておくことが重要です。
特に、収益認識、減損、引当金、関係会社投融資、企業結合、税効果会計など、経営者の見積りや判断が大きく影響する項目は、早期に検討することが望まれます。
4.経営者への報告プロセスを見直す
経営者に有価証券報告書の全文を渡すだけでは、実質的な確認にならない可能性があります。
重要な会計判断、前期からの変更点、監査法人との協議事項、未解決の論点などを要約した資料を作成し、経営者が内容を理解したうえで確認できる仕組みを整えることが有効です。
5.運用状況を検証する
規程やチェックリストが存在していても、実際に利用されていなければ意味がありません。
内部監査部門などが、開示手続の実施状況を定期的に確認することも検討すべきでしょう。
今後の改正動向に注意
添付資料によると、確認書の記載拡充は、2026年7月15日に成立した「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」に関係する政府令の改正とあわせて行われる見通しです。
ただし、現時点では、次の点が資料からは明らかになっていません。
具体的な確認書の文言
対象となる会社の範囲
適用開始時期
経営者が行うべき確認手続
実効性評価の具体的な方法
経過措置の有無
実務対応を進める際は、今後公表される政府令、開示府令、様式、金融庁の説明資料などを確認する必要があります。
まとめ
相次ぐ会計不正を受けて、有価証券報告書とともに提出する確認書の記載事項を拡充する方向で検討が進められています。
今回の見直しでは、従来の「有価証券報告書の記載内容が適正であることを確認した」という記載に加え、主に次の事項を記載させる方向です。
有価証券報告書を作成・開示するための手続を整備していること
その手続の実効性を確認していること
確認書の拡充後は、経営者が完成した有価証券報告書を確認するだけでなく、情報収集、社内レビュー、会計判断、開示判断などの作成プロセスにも、これまで以上に関与することが求められる可能性があります。
一方、確認書の文章を拡充するだけで会計不正を完全に防止できるわけではありません。制度を実効的なものにするためには、開示手続の文書化、責任分担の明確化、重要論点の早期検討、経営者への適切な報告、内部監査などを組み合わせる必要があります。
有価証券報告書提出会社は、具体的な改正内容の公表を待つだけでなく、現在の開示体制が経営者に説明できる状態になっているか、早めに点検しておくことが望まれます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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