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JICPAが上場会社監査人の適格性ガイドラインを改正|監査ファイル電子化・収益認識への影響を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
7 分前
読了時間: 11分

こんにちは!代表の安田です。


日本公認会計士協会(JICPA)は2026年8月6日、近年の会計不正事例などを踏まえ、「上場会社等の監査を行なう監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」を改正しました。


今回の改正では、2028年3月末決算の上場会社監査から監査ファイルを紙媒体で作成・保存することを原則として認めないほか、監査従事者の執務時間管理や、収益認識に関する不正リスクへの監査対応についても基準が厳格化されています。


直接の対象は監査法人・監査事務所ですが、上場会社にとっても無関係ではありません。

特に、監査資料の電子化や収益認識に関する会計処理の説明について、従来以上の対応を求められる可能性があります。


本日は、JICPAによるガイドライン改正の概要と、上場会社の経理・財務部門が確認しておきたいポイントについて、公認会計士が解説します。


なぜ上場会社監査人のガイドラインが改正されたのか

現在、監査事務所が上場会社等の監査を行なうためには、「上場会社等監査人名簿」への登録が必要です。


これは2022年の公認会計士法改正に伴って設けられた仕組みで、JICPAによる品質管理レビューなどを通じて、その監査事務所が上場会社の監査を公正かつ的確に実施できる体制を備えているかが確認されます。


今回改正されたガイドラインは、JICPAの品質管理レビューチームが監査事務所の適格性を確認する際の着眼点や判断基準を示すものです。


ガイドラインは、大きく「本文」「別紙1 監査事務所編」「別紙2 監査業務編」で構成され、監査事務所に不備が確認された場合には速やかな改善が期待されています。


「極めて重要な不備事項」と「重要な不備事項」とは

ガイドライン上の不備は、大きく2段階に分類されています。

区分

主な位置付け・影響

極めて重要な不備事項

上場会社等の監査業務等からの辞退勧告や、上場会社等監査人名簿への登録拒否・取消しの審査対象となる可能性

重要な不備事項

単独では上記ほど重大ではないものの、複数存在するなど一定の場合には「極めて重要な不備事項」と判断される可能性

「極めて重要な不備事項」が確認されれば、監査事務所が上場会社監査を継続できるかどうかにも関係する重大な問題となります。


したがって、今回のガイドライン改正は単なる監査法人内部の事務ルール変更ではなく、上場会社監査の品質管理制度そのものに関係する改正といえます。


今回の改正で重要な3つのポイント

今回の改正で特に注目すべき事項として、次の3点が挙げられています。

項目

適用時期等

主な改正内容

①監査ファイル

2028年3月末決算の上場会社監査から

紙媒体による作成・保存を原則禁止

②監査従事者の執務時間

2027年7月1日以後開始する品質管理レビューから

執務時間管理を厳格化

③収益認識の監査

同上

不正リスクの識別・評価・対応手続等に関する不備要因を具体化

以下、それぞれ確認します。


① 2028年3月末決算から監査ファイルの紙保存を原則禁止

今回の改正で、上場会社にも比較的直接的な影響が考えられるのが、監査ファイルの電子化です。2028年3月末決算の上場会社監査から、監査ファイルについて、原則として紙媒体で作成・保存することが認められなくなります。


背景には、公認会計士・監査審査会の検査において、過去に監査ファイルの改ざんが指摘されたことなどがあります。


大手・準大手監査法人では監査調書の電子化が基本的に進んでいる一方、中小規模の監査事務所では電子化が十分に進んでいないケースもあるとされています。


そのため、中小規模の監査事務所から監査を受けている上場会社では、監査資料の受渡方法などについて、監査人と別途協議が必要になる可能性があります。


上場会社側で考えられる影響

今回の規定自体は監査事務所側の監査ファイルを対象とするものです。

したがって、「上場会社がすべての資料を電子化しなければならない」という制度ではありません。


ただし、監査事務所が電子的な監査ファイルを前提とする以上、実務上は次のような対応を確認しておくことが考えられます。

確認事項

実務上のポイント

監査資料の提出

紙ではなく電子データで提出できるか

証憑類

PDF等で適切に保存・提示できるか

監査人との資料共有

セキュアなデータ共有方法が確立されているか

原本確認

紙原本が必要な資料について確認方法を整理できているか

子会社資料

グループ各社から電子的に資料を回収できるか

特に、紙の請求書・契約書・稟議書などが多く残っている企業では、監査対応の効率化という観点からも電子化を検討する余地があります。


紙原本が例外的に認められる資料もある

すべての資料について紙保存が完全に禁止されるわけではありません。

次の書類について、原本が紙媒体である場合には例外的に紙で保存することが認められます。


例外となる書類

  • 監査契約書

  • 経営者確認書

  • 確認状


ただし、紙原本を保存する場合でも、適切な改ざん防止措置を講じることが求められます。

さらに、監査ファイルの最終的な整理が完了した時点で原本を品質管理システム責任者等の管理下へ移し、それ以降は監査チームが原本へアクセスできない状態とする必要があります。


つまり今回の改正では、単なる「ペーパーレス化」だけでなく、監査調書が事後的に改変されないよう監査証拠を適切に固定・管理することが重視されています。


② 監査従事者の執務時間管理を厳格化

2027年7月1日以後に現場作業を開始する品質管理レビューからは、監査従事者の執務時間管理も厳格化されます。


監査事務所が監査従事者の執務時間を全く集計していない場合には、「極めて重要な不備事項」と判断されます。


また、次のようなケースは「重要な不備事項」とされます。

執務時間管理の状況

ガイドライン上の位置付け

執務時間を全く集計していない

極めて重要な不備事項

管理方針・手続を具体的に定めていない

重要な不備事項

執務時間を網羅的・正確に記録していない

重要な不備事項

この改正は主として監査事務所側の品質管理に関するものです。

上場会社側にどのような具体的対応が必要になるかについては、今回の添付資料では明示されていません。


ただし、監査事務所側では、監査に投入する時間や人員を従来以上に正確に管理することが求められることになります。


③ 収益認識に関する不正リスクへの監査を強化

上場会社の経理・財務部門にとって特に注意すべきなのが、収益認識に関する監査対応の強化です。


今回、新たに「別紙2 監査業務編」が設けられ、個別監査業務において「重要な不備事項の要因」となり得る事項が具体化されました。


その中には、収益認識に関する不正リスクの識別・評価・対応手続が含まれています。

例えば、監査人には、「会社のビジネスモデルを踏まえて収益認識に関する不正リスクを適切に検討すること」や、「監査の過程で得られた矛盾する情報へ適切に対応すること」などが求められます。


これらが直ちに「重要な不備事項」になるわけではありませんが、他の事情を含めて総合的に判断した結果、重要な不備と評価される可能性があります。


上場会社の「売上計上」はこれまで以上に説明が重要に

今回の改正に伴い、上場会社の収益認識に関する会計処理について、会社側の主張や検討内容が従来以上に厳しく監査されることが見込まれます。


企業側としては単に、「会計基準に従って売上を計上しています」と説明するだけではなく、取引の実態と会計処理が整合していることを具体的に説明できる資料を準備することが重要になります。


収益認識について確認しておきたい事項

確認項目

主なポイント

ビジネスモデル

実際にどのように収益を獲得しているか

契約条件

顧客との契約内容と会計処理が一致しているか

売上計上時期

履行義務を充足した時点と整合しているか

証憑

契約書・注文書・納品書等との整合性

特殊取引

通常とは異なる条件の取引を把握しているか

矛盾する情報

営業資料・入金状況等と会計記録に矛盾がないか

会計判断

判断の根拠を文書化しているか

これは今回の資料内容を踏まえた実務上の整理です。


「ビジネスモデル」を理解した監査が重要に

収益認識は、企業によって仕組みが大きく異なります。

例えば、同じ「売上」であっても、

ビジネス

収益認識上確認する内容の例

製造業

製品の引渡時点、検収条件など

ソフトウェア

ライセンス・保守・導入支援等の関係

SaaS

契約期間、月額料金、初期費用等

広告

広告サービス提供の実態

人材サービス

契約形態・サービス提供期間

EC

出荷・配送・返品条件等

など、収益を生み出す仕組みによって監査上のリスクも異なります。


今回のガイドライン改正では、形式的に仕訳だけを確認するのではなく、その会社がどのように売上を生み出しているのかというビジネスモデルを踏まえた不正リスク評価がより重視される方向といえます。


「矛盾する情報」への対応にも注意

もう一つの重要なポイントが、監査過程で得られる情報同士の矛盾です。


例えば会社が提出した売上資料と、他の証拠から読み取れる状況が一致しなければ、監査人はその矛盾を放置できません。


企業側としても、「会計データだけを見ると問題ないものの、営業部門の資料や契約内容などと突き合わせると説明がつかない」という状況を防ぐ必要があります。


そのため、決算時には経理部門だけで会計処理を完結させるのではなく、必要に応じて営業部門や事業部門と連携し、取引実態まで確認することが重要になります。


上場会社が今から準備しておきたいこと

今回のガイドラインは監査事務所を直接の対象としています。

そのため、上場会社側に今回の改正だけを理由として新たな法的義務が直接発生する、という内容ではありません。


一方、監査実務の変化を考えると、企業側でも準備しておくことが望ましい事項があります。

分野

企業側で確認したい事項

電子化

監査資料を電子的に提供できるか

文書管理

電子データの保存・検索体制が整っているか

収益認識

重要な売上取引の会計判断を再確認する

証拠

売上計上の根拠資料を整理する

不正リスク

特殊な取引・期末取引などのリスクを確認する

社内連携

経理・営業・法務等で取引実態を共有する

監査人との協議

判断が難しい論点を早期に相談する

特に収益認識について、資料では早い段階から監査人へ確認するなどの準備が望まれるとしています。


<今回の改正を時系列で整理>

時期

主な対応

2026年8月6日

JICPAが適格性確認ガイドラインを改正

2027年7月1日以後開始の品質管理レビュー

執務時間管理の厳格化、収益認識等の不備要因を具体化

2028年3月末決算の上場会社監査から

監査ファイルの紙媒体での作成・保存を原則禁止

上場会社では、特に2028年3月末決算に向けて、自社の監査法人がどのような電子化対応を予定しているかを確認しておくことが考えられます。


まとめ

JICPAは2026年8月6日、近年の会計不正事例などを踏まえ、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」を改正しました。


今回の主な変更点は次の3つです。

改正項目

ポイント

監査ファイル

2028年3月末決算の上場会社監査から紙での作成・保存を原則禁止

執務時間管理

監査従事者の時間管理を厳格化

収益認識

不正リスクの識別・評価・対応手続等に関する不備要因を具体化

直接の規制対象は監査事務所ですが、上場会社側にも一定の影響が予想されます。

特に、監査資料の電子化への対応と、収益認識に関する会計処理の説明・証拠の整備は重要です。


収益認識については、単に仕訳や請求書だけを見るのではなく、企業のビジネスモデルや契約実態を踏まえて不正リスクを評価することが、監査人側にこれまで以上に求められます。


上場会社としても、重要な売上取引や判断の難しい収益認識については、決算直前になって初めて監査人へ説明するのではなく、早い段階から会計処理の妥当性を検討し、監査人と協議しておくことが重要です。


また、中小規模の監査事務所から監査を受けている会社では、2028年3月末決算に向けた監査ファイル電子化への対応状況について、監査人と早めに確認しておくことも考えられます。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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