top of page

任意の会計監査人とは?上場会社・IPO準備会社が設置を検討する理由を公認会計士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
22 時間前
読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


上場会社には、監査法人による監査が必要というイメージがあります。

実際、上場会社は金融商品取引法に基づく財務諸表監査を受ける必要があります。そのため、上場会社であれば、監査法人や公認会計士による監査を受けることは当然のように思われます。


一方で、会社法上の「会計監査人」を必ず設置しなければならないかというと、必ずしもそうではありません。


上場会社であっても、会社法上の大会社に該当しない場合には、会社法上の会計監査人設置義務がないケースがあります。ただし、そのような会社であっても、定款に定めることで任意に会計監査人を設置することができます。


近年では、コーポレート・ガバナンスの強化、上位市場への上場、株主や投資家からの信頼性向上を目的として、任意の会計監査人を設置する会社も見られます。


本日は、任意の会計監査人とは何か、会社法上の会計監査人設置義務、金融商品取引法監査との違い、任意設置のメリット、IPO準備会社や上位市場を目指す会社が注意すべきポイントについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


会計監査人とは

会計監査人とは、会社法に基づき、株式会社の計算書類等を監査する機関です。


会計監査人になれるのは、公認会計士または監査法人です。会社の計算書類や附属明細書などについて監査を行い、その結果を会計監査報告として会社に提出します。


会社法上、一定の会社には会計監査人の設置が義務付けられています。代表的なのが「大会社」です。


大会社とは、資本金や負債総額が一定規模以上の会社をいいます。会社法上の大会社に該当する株式会社では、原則として会計監査人の設置が必要になります。


会計監査人は、会社の財務情報の信頼性を高める重要な役割を担っています。株主、債権者、取引先、金融機関などにとって、計算書類が専門家によって監査されていることは、会社の財務内容を判断するうえで大きな安心材料になります。


上場会社でも会社法上の会計監査人が不要な場合がある

ここで誤解しやすいのが、上場会社と会計監査人の関係です。


上場会社は、金融商品取引法に基づき、有価証券報告書などに含まれる財務諸表について監査を受ける必要があります。この監査は、いわゆる金商法監査です。


一方、会社法上の会計監査人は、会社法に基づく計算書類等を監査する機関です。

上場会社であっても、会社法上の大会社に該当しない場合には、会社法上の会計監査人の設置義務がないことがあります。


つまり、同じ「監査」といっても、金融商品取引法に基づく監査と、会社法に基づく会計監査人による監査は、制度上は別のものです。


上場会社である以上、金商法上の監査人は必要です。しかし、会社法上の会計監査人については、会社の規模や機関設計によって設置義務の有無が変わります。


任意の会計監査人とは

任意の会計監査人とは、会社法上は設置義務がないにもかかわらず、会社が定款に定めることで自主的に設置する会計監査人をいいます。


会社法では、株式会社は定款の定めにより、会計監査人を置くことができるとされています。したがって、大会社に該当しない会社であっても、会社の判断により会計監査人を設置することが可能です。


この場合、会計監査人を設置するためには、通常、定款変更が必要になります。定款に会計監査人を置く旨を定め、株主総会で会計監査人を選任する流れになります。


任意設置とはいえ、いったん会計監査人を置く会社となれば、会社法上の会計監査人としての手続や監査報告が必要になります。単に「監査法人にチェックしてもらう」という軽い意味ではなく、会社の機関設計に関わる正式な制度です。


なぜ任意で会計監査人を設置するのか

会社法上の義務がないにもかかわらず、なぜあえて会計監査人を設置するのでしょうか。

主な理由は、コーポレート・ガバナンスの強化です。


上場会社や上場準備会社では、株主、投資家、金融機関、取引先など、多くのステークホルダーが会社の財務情報を利用します。そのため、計算書類等の信頼性を高めることは、企業価値の向上にもつながります。


また、上位市場への上場を目指す会社では、より高度なガバナンス体制を整備する必要があります。たとえば、TOKYO PRO Marketや地方証券取引所に上場した後、東証の上位市場を目指す会社などでは、会計監査人や監査役会を任意に設置し、体制を強化する事例があります。


さらに、会計監査人を設置することで、社内の経理体制や決算プロセスの整備も進みやすくなります。監査対応を通じて、会計処理、内部統制、決算スケジュール、証憑管理などが改善されることもあります。


金商法監査と会社法監査の違い

任意の会計監査人を理解するうえでは、金融商品取引法監査と会社法監査の違いを押さえておく必要があります。


金商法監査は、有価証券報告書などに含まれる財務諸表を対象とする監査です。主な利用者は、投資家や市場関係者です。上場会社にとっては、資本市場に対する情報開示の信頼性を確保するために必要な監査といえます。


一方、会社法監査は、株主総会に提出される計算書類等を対象とする監査です。株主や債権者など、会社法上の利害関係者を保護する役割があります。


監査手続そのものは、実務上大きく異なるわけではありません。監査人が財務諸表や計算書類を監査する以上、会計処理、内部統制、見積り、開示などを検討する点は共通しています。


しかし、対象書類、根拠法令、監査報告書、スケジュール、株主総会との関係などには違いがあります。


そのため、金商法監査を受けているからといって、会社法上の会計監査人を設置していることにはなりません。両者を混同しないことが重要です。


任意の会計監査人を設置するメリット

任意の会計監査人を設置するメリットとして、まず財務情報の信頼性向上が挙げられます。

会計監査人が計算書類等を監査することで、株主や投資家に対して、会社法上の計算書類についても専門家による監査を受けていることを示せます。


次に、コーポレート・ガバナンスの強化があります。会計監査人が設置されることで、監査役や監査役会、取締役会との連携が強まり、会計監査を中心とした監督機能が高まります。


また、上位市場への上場準備にも役立ちます。上場審査では、財務報告体制、内部管理体制、ガバナンス体制が重視されます。任意の会計監査人を設置することにより、会社がより高い管理体制を目指していることを示しやすくなります。


さらに、社内の経理・決算体制の改善にもつながります。監査人からの指摘や助言を通じて、月次決算、証憑管理、会計方針、内部統制の整備が進むことがあります。


任意設置のデメリット・負担

一方で、任意の会計監査人を設置することには負担もあります。


まず、監査報酬が発生します。会社法監査が追加されることで、監査範囲や手続、報告書作成が増えるため、監査報酬が増加する可能性があります。


次に、決算スケジュールが厳格になります。会計監査人による監査報告が必要になるため、決算資料の提出、監査対応、取締役会や株主総会までのスケジュールを適切に管理する必要があります。


また、会社法上の手続も増えます。会計監査人の選任、再任、不再任、報酬決定、監査役等との連携など、会社機関としての運用が必要になります。


さらに、監査対応に耐えられる社内体制も求められます。証憑や契約書、稟議書、会計処理の根拠資料が整備されていない場合、監査対応に大きな負担がかかることがあります。


任意設置はガバナンス強化に有効ですが、コストと実務負担を十分に理解したうえで導入する必要があります。


上位市場を目指す会社で任意設置が見られる理由

添付資料でも触れられているように、任意の会計監査人を設置する事例では、上位市場を目指す会社が多い傾向があります。


たとえば、TOKYO PRO Marketや地方証券取引所に上場した後、より流動性の高い市場や知名度の高い市場へのステップアップを目指す会社では、ガバナンス体制を強化する必要があります。


上位市場では、投資家層が広がり、求められる開示水準や内部管理体制も高くなります。

そのため、会社法上の義務がない段階でも、会計監査人を任意に設置し、より上場会社らしい体制を整えることがあります。


また、任意の監査役会を設置する会社もあります。専門性の高い社外役員や監査役を加えることで、経営監督機能を高め、上場審査や投資家対応に備える狙いがあります。


株主から見た任意の会計監査人の意味

株主にとって、会社法上の会計監査人がいるかどうかは、計算書類等の信頼性を判断するうえで一つの材料になります。


上場会社であれば金商法監査を受けているため、一定の監査は行われています。しかし、会社法上の計算書類について会計監査人がいない場合、会社法上は監査役の監査のみとなることがあります。


もちろん、監査役監査にも重要な役割があります。しかし、会計の専門家である公認会計士または監査法人が会計監査人として関与することには、財務情報の信頼性を高める効果があります。


特に、上場している会社であれば、たとえ規模が小さくても、取引内容や株主構成は一定程度複雑になります。株主が計算書類等の信頼性に不安を感じないよう、任意の会計監査人を設置することは一つの選択肢になります。


IPO準備会社にとってのポイント

IPO準備会社にとっても、任意の会計監査人の設置は検討テーマになり得ます。


IPOを目指す会社では、監査法人による監査、内部統制の整備、取締役会や監査役会の運用、決算早期化、開示体制の整備など、多くの課題があります。


会社法上の会計監査人を設置することで、監査体制をより明確にし、上場会社として必要なガバナンス体制に近づけることができます。


もっとも、IPO準備会社では、まず金商法監査や上場準備監査への対応が重要です。会計監査人を任意設置するかどうかは、上場スケジュール、会社規模、機関設計、監査法人との関係、コストを踏まえて判断する必要があります。


安易に形式だけ整えるのではなく、実際に運用できる体制を作ることが重要です。


任意の会計監査人を設置する際の手続

任意の会計監査人を設置する場合、通常は定款変更が必要です。


まず、会社の定款に会計監査人を置く旨を定めます。定款変更には、株主総会の特別決議が必要となるのが一般的です。


次に、会計監査人を選任します。会計監査人は、公認会計士または監査法人でなければなりません。


また、会計監査人の報酬については、取締役が決定する場合でも、監査役等の同意が必要になるなど、会社法上の手続があります。


さらに、会計監査人を設置した後は、毎期の監査、監査報告、株主総会関連手続、登記なども確認する必要があります。


実務では、定款変更、株主総会議案、会計監査人候補者との契約、監査役等との調整、登記手続をスケジュール化して進めることが大切です。


任意設置を検討する際のチェックポイント

任意の会計監査人を設置するかどうかを検討する際には、次の点を確認するとよいでしょう。

  • 会社法上の大会社に該当するか

  • 金商法監査を受けているか

  • 会社法上の会計監査人設置義務があるか

  • 上位市場やIPOを目指しているか

  • 株主や投資家からの信頼性向上が必要か

  • 監査報酬や監査対応コストを負担できるか

  • 経理・決算体制が監査対応に耐えられるか

  • 定款変更や株主総会手続を行う準備があるか

  • 監査役や取締役会との連携体制が整っているか

  • 会計監査人設置後の運用を継続できるか


任意設置は、単なる形式的なガバナンス強化ではありません。設置後に適切に運用できなければ、かえって決算スケジュールや監査対応に負担が生じる可能性があります。


中小企業にも関係するのか

任意の会計監査人という論点は、主に上場会社やIPO準備会社に関係するものです。

しかし、中小企業や非上場会社でも、外部の公認会計士や監査法人による監査・レビューを受けることには意味があります。


たとえば、金融機関からの信用力を高めたい場合、補助金や大型取引に対応する場合、M&Aで買い手に財務情報を説明する場合、事業承継を進める場合などです。


もっとも、会社法上の会計監査人を正式に設置するとなると、定款変更や会社法上の手続が必要になります。そのため、中小企業では、まず任意監査、合意された手続、財務デューデリジェンス、月次決算支援など、目的に応じた専門家関与を検討することも考えられます。


会社法上の会計監査人を設置することと、外部専門家に財務情報を確認してもらうことは、制度上の意味が異なります。目的に応じて適切な方法を選ぶことが大切です。


まとめ

任意の会計監査人とは、会社法上は会計監査人の設置義務がない会社が、定款の定めによって自主的に設置する会計監査人をいいます。


上場会社であっても、会社法上の大会社に該当しない場合には、会社法上の会計監査人設置義務がないことがあります。ただし、金融商品取引法上の監査人は必要であり、金商法監査と会社法監査は制度上区別して考える必要があります。


任意の会計監査人を設置する主な目的は、コーポレート・ガバナンスの強化、財務情報の信頼性向上、上位市場への上場準備、株主や投資家への説明力向上です。


特に、TOKYO PRO Marketや地方証券取引所に上場した後、上位市場を目指す会社では、任意の会計監査人や監査役会を設置し、ガバナンス体制を高める事例があります。


一方で、会計監査人を設置すると、監査報酬、決算スケジュール、会社法上の手続、監査対応体制などの負担も生じます。導入する場合には、定款変更、株主総会決議、会計監査人の選任、監査役等との連携を含めて、実務面を十分に整理する必要があります。


任意の会計監査人は、形式的に置けばよいものではありません。会社の成長ステージ、上場戦略、株主構成、経理体制、ガバナンス上の課題を踏まえ、自社にとって本当に必要な制度かどうかを検討することが重要です。


上場準備や上位市場へのステップアップを検討している会社は、早い段階で公認会計士や監査法人、弁護士などの専門家に相談し、機関設計と監査体制を整理しておくことをおすすめします。


神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください




<あわせて読みたい>


【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

神戸の税理士事務所ロゴ

コメント


bottom of page