CPAAOBが監査法人シドーに処分勧告|オルツ監査で指摘された循環取引・職業的懐疑心の問題を解説
おはようございます!代表の安田です。
公認会計士・監査審査会(CPAAOB)は2026年9月11日、会計不正が明らかになったオルツの監査を担当していた監査法人シドーと社員2人について、行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に勧告したと公表しました。
検査では、監査法人シドーが相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類について、重大な虚偽がないものとして証明したと認定されています。虚偽記載の証明に関するCPAAOBの処分勧告は、2026年7月の監査法人やまぶきに続いて2例目とされています。
今回の事例で特に注目されるのは、単に個別の監査手続が不足していたというだけではありません。
監査契約の受嘱判断、品質管理、会計・監査基準への理解、職業的懐疑心、循環取引の疑念への対応、売上高と広告宣伝費の関係など、監査の入口から個別監査手続まで幅広い問題が指摘されています。
本記事では、CPAAOBの処分勧告の概要と、オルツ監査で何が問題とされたのかを公認会計士の視点から整理します。
CPAAOBが監査法人シドーと社員2人を処分勧告
今回の内容を整理すると、次のとおりです。
項目 | 内容 |
公表日 | 2026年9月11日 |
公表主体 | 公認会計士・監査審査会(CPAAOB) |
対象 | 監査法人シドー、社員2人 |
対象監査 | オルツの監査 |
勧告内容 | 行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に勧告 |
主な認定 | 相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽がないものとして証明 |
特徴 | 虚偽記載の証明に関する処分勧告として2例目 |
現時点で公表されているのは、CPAAOBから金融庁長官への勧告です。
したがって、金融庁による最終的な行政処分そのものが今回の資料で確定したわけではありません。今後、金融庁がどのような処分を行うかが焦点となります。
問題① 監査法人の品質管理態勢に多数の不備
CPAAOBは、オルツの個別監査だけではなく、監査法人シドーの監査法人としての運営体制についても検査を行なっています。
その結果、
監査事務所のリスク評価プロセス
新規監査契約の締結
品質管理レビューで指摘された事項の改善状況
などについて重要な不備が認定されました。
さらに、社員らについて、
会計基準への理解
監査基準への理解
職業的懐疑心
が不足し、それに起因する重要な不備を含む、広範かつ多数の不備があったとされています。
今回の事例は、個々の監査調書だけではなく、監査法人全体の品質管理が監査品質の前提となることを改めて示すものといえます。
問題② 監査契約の受嘱プロセスで時系列に不整合
監査法人が新たな会社の会計監査人に就任する場合、前任監査人からの引継ぎは非常に重要です。
今回、監査法人シドーの社員会では、「前任監査法人からの引継ぎで重大な問題を把握した場合には監査契約を締結しない」という条件付きで、オルツとの監査契約が承認されていました。
ところが、前任監査法人からの引継ぎが行なわれたのは2022年9月15日である一方、その2日前にはオルツへ会計監査人就任承諾書を提出していたとされています。
時系列を整理すると次のようになります。
時点 | 内容 |
社員会 | 前任監査人から重大な問題を把握した場合は契約しない条件で承認 |
2022年9月13日頃 | オルツへ会計監査人就任承諾書を提出 |
2022年9月15日 | 前任監査法人から引継ぎ |
このため、CPAAOBは受嘱プロセスについて時系列上の整合性を欠く状況があったとしています。
問題③ 前任監査法人から「循環取引の疑念」を聞いていた
今回の監査で最も重要なポイントの一つが、循環取引の疑念です。
CPAAOBの検査対象となったのは、オルツの2022年12月期から2024年12月期までの3期分の財務諸表監査です。
監査法人シドーは前任監査法人からの引継ぎの際、オルツの一部取引について、「循環取引の疑念がある」との説明を受けていました。
しかし、その情報を把握しながら、追加の監査手続を実施しなかったと認定されています。
そして、当該取引には経済合理性があるとするオルツ側の主張を適切なものと判断するにとどまったとされています。
「循環取引の疑念」を把握したら何を確認すべきか
一般的に、循環取引が疑われる状況では、単に請求書や入金だけを確認しても取引実態を把握できない可能性があります。
実務上の示唆としては、少なくとも、
商流
契約内容
資金の流れ
取引先の役割
経済合理性
最終的なサービス利用者
などを立体的に確認することの重要性が挙げられます。
特に、前任監査人から具体的な疑念が伝達されている場合には、その情報を監査リスク評価へ反映することが重要になります。
問題④ 売上高と広告宣伝費の資金循環
オルツは自社サービスについて、販売代理店5社との取引で、月次の請求書を発行した時点で売上高を計上していました。
一方、オルツから広告代理店等へ広告宣伝費等の名目で支払われた資金が、代理店を経由して「売上代金」という名目で回収される形の取引が行われていたとされています。
イメージを単純化すると、次のようになります。
資金・取引 | 流れ |
① | オルツが代理店等に広告宣伝費等を支払う |
② | 資金が代理店等を経由 |
③ | 「売上代金」の名目でオルツ側へ回収される |
④ | オルツでは代理店向け売上高を計上 |
このような取引では、売上と費用を個別に確認するだけでなく、両者を一体として見た場合の経済合理性や資金循環を確認する視点が重要になります。
問題⑤ 売上高と同程度の広告宣伝費を認識していた
さらに監査チームは、
エンドユーザーを獲得する必要がない代理店取引が売上高の大部分を占めている
その売上高と同程度の多額の広告宣伝費が支出されている
という状況を認識していました。
しかしCPAAOBは、
その状況に適合したリスク評価手続
契約内容の経済合理性に関する検討
が行なわれていなかったと認定しています。
これは監査実務上、重要なポイントです。
売上高と広告宣伝費という別々の勘定科目を単独で監査するだけではなく、「売上を得るために、ほぼ同額の資金が別の名目で外部へ流れているのはなぜか」という取引全体の関係性を見る必要があります。
問題⑥ なぜ「代理店」が売上計上先なのかを検討していなかった
監査法人シドーは、エンドユーザーではなく代理店を売上高の計上先とすることが適切かという点についても検討していなかったとされています。
売上監査では、
誰と契約しているのか
誰にサービスを提供しているのか
誰が対価を負担するのか
代理店は本人なのか仲介者なのか
など、取引当事者の位置付けを正確に把握することが重要です。
形式的に請求書が存在するだけではなく、取引の実態と会計処理が一致しているかを確認する必要があります。
「職業的懐疑心」が改めて重要なテーマに
今回の検査では、職業的懐疑心の不足も明確に指摘されています。
職業的懐疑心とは、単に「会社の説明を疑う」という意味ではありません。
監査人は、
他の証拠と矛盾していないか
通常とは異なる取引ではないか
経済合理性があるか
経営者の説明だけで結論付けていないか
という観点から、監査証拠を批判的に評価する必要があります。
今回の事例では、前任監査人から循環取引の疑念を伝えられているにもかかわらず、追加手続を行なわず会社側の説明を受け入れたという点が特に重要です。
今回の指摘を監査プロセス別に整理
今回の資料で示された問題点を、監査の流れに沿って整理すると次のようになります。
監査プロセス | 指摘された主な問題 |
品質管理 | リスク評価プロセス等に重要な不備 |
契約受嘱 | 前任監査人からの引継ぎと受嘱時期の不整合 |
引継ぎ | 循環取引の疑念を把握 |
リスク評価 | 疑念を十分に監査リスクへ反映せず |
監査手続 | 追加的な監査手続を実施せず |
経済合理性 | 契約内容等の実質的検討が不十分 |
収益認識 | 代理店を売上計上先とする適切性を検討せず |
監査人の姿勢 | 職業的懐疑心の不足 |
このように見ると、単一の監査手続のミスではなく、受嘱からリスク評価、監査手続、結論形成まで連続した問題があったことが分かります。
企業側の経理・内部監査にも参考になるポイント
今回の処分勧告は監査法人に対するものですが、上場会社等の経理部門や内部監査部門にとっても参考になる点があります。
例えば、次のような取引がある場合には、自社側でも注意が必要です。
注意したい状況 | 確認したい事項 |
特定代理店への売上が急増 | 契約・商流・実需 |
売上増加と同時に広告費も急増 | 両取引の関連性 |
売上と費用がほぼ同額 | 経済合理性 |
資金が複数の会社を経由 | 最終的な資金受領者 |
エンドユーザーが不明 | サービス提供の実態 |
期末売上が急増 | 売上計上時期・実在性 |
監査人から追加質問が多い | 問題の背景・根本原因 |
重要なのは、勘定科目単位ではなく、取引全体を一つのストーリーとして理解できるかということです。
監査人から「経済合理性」を聞かれたら説明できるか
会計処理が形式的に契約書や請求書と一致していても、その取引自体に合理的な事業目的がなければ、監査上の重要な論点になる可能性があります。
企業側でも、なぜこの取引が必要なのかなぜこの会社を経由するのかなぜこの金額なのかなぜ売上と広告宣伝費が同時に増えるのかといった質問に説明できる状態を整えることが重要です。
これは監査対応だけでなく、内部統制や不正防止の観点でも有用です。
今後は金融庁の処分に注目
今回公表されたのは、CPAAOBから金融庁長官に対する処分勧告です。
今後、監査法人シドーの社員が金融庁から業務停止処分等を受けた場合には、監査法人シドーが上場会社等監査人名簿から登録取消しとなる可能性があります。
したがって、今後は、
金融庁がどのような行政処分を行うのか
監査法人に対する処分内容
社員個人に対する処分内容
上場会社等監査人名簿への影響
が注目されます。
今回の事例から考える監査のチェックポイント
監査実務上の示唆を整理すると、次のようになります。
確認項目 | ポイント |
新規受嘱 | 前任監査人からの引継ぎ完了前に結論を急がない |
引継ぎ情報 | 疑念・懸念事項を監査計画へ反映 |
循環取引 | 資金・商流を一体で検証 |
売上 | 誰が実質的な顧客か確認 |
広告宣伝費 | 売上取引との関連を確認 |
経済合理性 | 契約書だけでなく取引目的を検討 |
リスク評価 | 異常なビジネスモデルを監査リスクへ反映 |
職業的懐疑心 | 経営者説明だけに依拠しない |
品質管理 | 法人全体で監査品質を確保 |
まとめ
CPAAOBは2026年9月11日、オルツの監査を担当していた監査法人シドーと社員2人について、行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に勧告しました。
今回の検査で特に重要なポイントは次のとおりです。
監査法人の品質管理態勢に重要な不備があった
会計基準・監査基準への理解不足が指摘された
職業的懐疑心が不足していた
監査受嘱時の手続に時系列上の不整合があった
前任監査法人から循環取引の疑念を伝えられていた
それにもかかわらず追加の監査手続を実施しなかった
会社側の経済合理性に関する説明を十分に検証しなかった
売上高と同程度の多額の広告宣伝費を認識していた
取引構造に適合したリスク評価が行われていなかった
代理店を売上計上先とすることの適切性も検討していなかった
今回の事例から特に重要なのは、不正の疑念を把握することと、その疑念に対応する監査手続を実際に行なうことは別であるという点です。
前任監査人から懸念事項を聞いていても、その内容をリスク評価や追加監査手続へ反映しなければ、監査上の意味は限定的になります。
また、売上と広告宣伝費を別々の勘定科目として見るのではなく、商流や資金循環、エンドユーザーの存在まで含めて取引全体の経済合理性を検討することの重要性も示されています。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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