CPAAOBが監査事務所のモニタリングを見直し|大手は「通年モニタリング」、中小は検査件数を増加へ
おはようございます!代表の安田です。
公認会計士・監査審査会(CPAAOB)は、社会的影響の大きい会計不正が相次いでいる状況を踏まえ、監査事務所等モニタリング基本方針を改正しました。
今回の見直しでは、大手監査法人に対する従来の「2年に1度のフルスコープ検査」から、複数の検査・レビュー手法を組み合わせる通年モニタリングへ移行します。
また、中小規模監査事務所については、年間の検査件数を増加させる方針です。
今回の変更は、単に検査回数を増やすものではありません。監査法人の規模、品質管理体制、個別監査業務のリスクなどに応じて、より継続的かつ機動的に監査品質を確認する方向への転換といえます。
本日は、CPAAOBによるモニタリング見直しの内容、大手・準大手・中小監査事務所への影響、被監査会社が意識しておきたい実務上のポイントを公認会計士の視点から解説します。
CPAAOBとは
CPAAOBとは、公認会計士・監査審査会の英語名称である「Certified Public Accountants and Auditing Oversight Board」の略称です。
CPAAOBは、監査法人や公認会計士による監査の品質を確保するため、日本公認会計士協会が行なう品質管理レビューの報告を受けるほか、監査事務所に対する検査などを実施しています。
監査事務所に問題が認められた場合には、検査結果を踏まえ、金融庁長官に行政処分その他の措置を勧告することもあります。
上場会社の財務諸表監査は、投資家や金融機関が企業の財務情報を信頼するための基盤です。そのため、監査事務所が適切な品質管理体制を構築し、監査業務を実施しているかについて、監査法人の外部から継続的に確認する仕組みが設けられています。
モニタリング基本方針が見直された背景
監査事務所等モニタリング基本方針は、原則として3年ごとに策定されます。
直近では、2025年4月から2028年3月までを対象とする第8期の基本方針が示されていました。
しかし、その後も社会的影響の大きい会計不正が相次いでいることから、CPAAOBは第8期の途中でありながら、検査手法や検査頻度を見直しました。
会計不正が発生した場合には、不正を行った企業の経営者や内部統制だけでなく、監査法人がその兆候を把握できなかった理由や、監査手続が十分だったかについても厳しい検証が行われます。
今回の見直しには、一定期間ごとに大規模な検査を実施するだけでなく、監査事務所のリスクや変化を継続的に把握し、必要なタイミングで適切な手法を用いて検証する狙いがあります。
大手監査法人は「通年モニタリング」へ
大手監査法人に対しては、従来、原則として2年に1度の頻度で、フルスコープ検査が行なわれていました。
今後は、年間を通じて複数の検査・レビューを組み合わせる通年モニタリングへ移行します。
大手監査法人ごとに担当する検査官を置き、継続的かつ専門的に状況を把握する方針です。
通年モニタリングで活用される手法は、大きく次の4つに整理されています。
手法 | 主な内容 |
フルスコープ検査 | 業務管理態勢、品質管理態勢、個別監査業務を幅広く検証し、総合評価を行なう |
フォローアップ検査 | フルスコープ検査で指摘された事項の改善状況を中心に確認する |
ターゲット検査 | 品質管理システムの特定の領域や運用状況に焦点を絞って検証する |
水平的レビュー | AIの監査利用など、特定テーマについて複数の監査法人を横断的に確認する |
従来のように「2年に1度、監査法人全体を一度に大きく検査する」という形式だけではなく、課題やリスクに応じて検査手法を使い分けることになります。
フルスコープ検査とは
フルスコープ検査では、監査法人の品質管理態勢だけでなく、実際に行われた個別監査業務まで幅広く確認します。
主な検証対象としては、次のようなものが考えられます。
監査法人のガバナンス
品質管理責任者の役割
監査チームへの指示・監督
独立性の管理
監査契約の新規受嘱・継続判断
監査調書の査閲
審査の実施状況
不正リスクへの対応
会計上の見積りの監査
収益認識や資産評価などの重要な監査領域
個別監査業務では、特定の上場会社等の監査調書を抽出し、リスク評価や監査手続、監査証拠、結論形成が適切であったかを検証します。
監査法人にとっては、品質管理部門だけでなく、対象となった監査チームにも相当の対応負担が生じます。
フォローアップ検査で改善状況を継続確認
従来の検査では、監査法人に問題点を指摘した後、その改善状況を次回の大規模検査まで十分に確認できない可能性がありました。
今後は、フルスコープ検査で指摘した事項について、フォローアップ検査を通じて改善状況を継続的に確認します。
たとえば、次のような事項が確認対象となる可能性があります。
根本原因分析が適切に行われているか
改善計画が形式的なものになっていないか
研修やマニュアル改訂だけで対応を終えていないか
改善策が実際の監査現場で運用されているか
同様の不備がほかの監査業務でも発生していないか
監査法人には、指摘事項に個別対応するだけでなく、その原因を組織的に分析し、再発防止策が有効に機能していることを説明することが求められます。
特定領域を対象とするターゲット検査
ターゲット検査は、品質管理システム全体を幅広く確認するのではなく、リスクの高い領域や重要テーマに対象を絞って検証する手法です。
監査事務所の状況に応じて、たとえば次のようなテーマが対象になる可能性があります。
監査契約の新規受嘱・継続
高リスク企業への監査対応
不正リスクへの対応
監査責任者や審査担当者の選任
監査時間・人員の確保
品質管理システムの運用状況
監査調書の改変防止
海外メンバーファームとの連携
短いサイクルで特定領域を確認することにより、監査法人のリスク変化に対して機動的に対応することが期待されます。
水平的レビューで監査法人を横断比較
水平的レビューでは、特定のテーマについて複数の監査法人を横断的に検証します。
具体例として監査業務におけるAIの活用状況が挙げられます。
AIやデータ分析ツールの利用が広がる中、監査法人によって導入状況や管理体制には差があります。
AIを監査に活用する場合には、次のような論点が生じます。
AIが出力した結果を誰が検証するのか
利用するデータの完全性・正確性をどう確保するか
AIの判断過程を監査調書にどう記録するか
機密情報や個人情報をどう保護するか
AIの利用が監査人の職業的懐疑心を弱めないか
海外で開発されたシステムを日本の監査にどう適用するか
水平的レビューでは、問題点を探すだけでなく、各監査法人の特徴的・先進的な取組みを把握することも想定されています。
優れた事例を監査業界へ共有できれば、業界全体の監査品質向上につながる可能性があります。
通年化しても現場負担は必ずしも増えない?
検査頻度だけを見ると、2年に1度から通年へ変わるため、監査法人の負担は大きく増えるように見えます。
しかし、CPAAOBは、通年モニタリングによって、従来のフルスコープ検査よりも監査現場の負担を抑えられる可能性があると考えています。
従来の検査では、個別監査業務について非常に細かな論点まで長時間議論され、監査チームの負担が大きくなることがあったとされています。
通年モニタリングでは、すべての論点を一度に広範囲で確認するのではなく、リスクに応じてテーマや範囲を絞ることで、監査現場への集中負担を軽減する狙いがあります。
一方、フォローアップ検査、ターゲット検査、水平的レビューへの対応が年間を通じて発生するため、監査法人本部の品質管理部門やリスク管理部門では負担が増える可能性があります。
中小規模監査事務所は検査件数を増加
中小規模監査事務所については、必要に応じてフルスコープ検査を行うという基本的な枠組みは維持されます。
ただし、検査件数を増やす方針が示されています。
従来、中小規模監査事務所に対する検査件数は年間平均5件程度でしたが、今後は年間7件を目標とします。
大手監査法人の検査を通年モニタリングへ切り替えることで、CPAAOBの検査リソースに一定の余裕が生じるため、その一部を中小規模監査事務所の検査へ振り向ける考えです。
なぜ中小監査事務所への検査を増やすのか
近年、監査法人の交代や新規上場会社の増加などを背景に、中小規模監査事務所が上場会社監査を担当するケースも増えています。
中小監査事務所には、大手監査法人とは異なる強みがあります。
意思決定が速く、監査責任者が現場に深く関与しやすいことや、企業の規模・状況に応じた柔軟な対応を行いやすい点などです。
一方で、規模が小さいため、次のような課題が生じる可能性があります。
専門要員が限られている
品質管理部門の独立性を確保しにくい
監査責任者に業務が集中する
複雑な会計処理に対応できる専門家が不足する
海外子会社監査への対応が難しい
審査担当者の確保が難しい
IT監査やデータ分析の体制が十分でない
中小監査事務所への検査件数を増やすことで、上場会社監査の品質管理体制をより広範囲に確認することが目的と考えられます。
準大手監査法人は今回の変更対象外
準大手監査法人については、今回、検査頻度の変更は行われません。
準大手監査法人については、2023年にフルスコープ検査の頻度が3年に1度から2年に1度へ変更されており、すでにモニタリングの強化が行われています。
ただし、今後、品質管理が向上し、継続的に業務運営が良好と認められる場合には、フルスコープ検査を3年に1度へ戻すことも検討されます。
さらに、グローバルネットワークの管理状況なども良好であれば、大手と同様の通年モニタリングへ移行する可能性も示されています。
検査頻度が少なくなることだけが、監査法人にとって負担軽減になるとは限りません。CPAAOBは、大規模なフルスコープ検査のみを受けるよりも、対象を絞った通年モニタリングの方が現場負担を抑えられる可能性があると考えています。
被監査会社にはどのような影響があるか
今回の見直しは、直接的には監査法人に対するものです。
しかし、上場会社など監査を受ける企業にも、間接的な影響が生じる可能性があります。
監査法人からの確認が早期化する可能性
監査法人が年間を通じて品質管理状況を確認されるようになると、監査計画や重要論点について、これまで以上に早い段階で社内審査や品質管理部門の確認を受ける可能性があります。
その結果、被監査会社にも、会計処理の根拠や事業計画、契約書、取締役会資料などの早期提出が求められることがあります。
会計上の見積りに対する検証が厳格化する可能性
会計不正や監査上の問題が生じやすい領域として、次のような項目があります。
売上高の計上
棚卸資産の評価
固定資産やのれんの減損
関係会社投融資の評価
貸倒引当金
工事進行基準・一定期間にわたる収益認識
会計上の見積り
関連当事者取引
監査法人がCPAAOBのモニタリングを意識して品質管理を強化すれば、これらの領域について、経営者の説明だけでなく、客観的な証拠や感応度分析を求める傾向が強まる可能性があります。
監査法人の契約継続判断が慎重になる可能性
監査法人は、監査リスクが高い会社や、経営者の誠実性に懸念がある会社について、監査契約を継続するかを毎期判断します。
モニタリングの強化により、監査法人が新規受嘱や契約継続をより慎重に判断する可能性があります。
被監査会社としても、監査人への情報提供が遅い、重要な問題を後から報告する、監査指摘への対応が進まないといった状況を放置しないことが重要です。
企業が意識すべき監査対応
今回のモニタリング見直しを踏まえ、監査を受ける企業は、監査法人側の対応が厳しくなったと受け止めるだけでなく、自社の決算・内部統制を見直す機会とすることが重要です。
重要な会計論点を早期に共有する
M&A、事業売却、新規取引、収益認識の変更、減損の兆候など、重要な会計論点がある場合には、決算直前ではなく、取引の検討段階から監査法人へ相談します。
会計上の見積りの根拠を明確にする
事業計画や将来キャッシュ・フローを用いる場合には、過去実績との比較、予算達成状況、外部環境との整合性を説明できるようにします。
監査指摘事項を組織的に管理する
監査法人からの指摘を経理部門だけで管理せず、原因分析、改善担当者、期限、実施状況を明確にすることが大切です。
内部通報や不正兆候への対応を見直す
内部通報、異常取引、過大な業績目標、取引先との不自然な関係など、不正の兆候を適切に把握できる体制を整えます。
監査役・監査等委員会との連携を強化する
監査法人と監査役等のコミュニケーションは、不正リスクや内部統制上の問題を把握するうえで重要です。
経営者だけでなく、監査役等が監査上の重要事項を十分に理解できる情報提供体制を整える必要があります。
監査品質は監査法人だけの問題ではない
会計不正が発生すると、監査法人が見抜けなかったことに注目が集まりがちです。
しかし、適正な財務報告の第一義的な責任は、財務諸表を作成する企業の経営者にあります。
監査人は、すべての不正を必ず発見することを保証するものではありません。また、監査人が十分な監査を行うためには、会社から正確かつ完全な情報が適時に提供されることが前提になります。
監査品質を高めるためには、監査法人の品質管理だけでなく、企業側のガバナンス、内部統制、経理体制、監査役等の監督機能も重要です。
今回のCPAAOBによるモニタリング強化は、監査法人だけでなく、企業自身が財務報告の信頼性を見直すきっかけになると考えられます。
まとめ
CPAAOBは、社会的影響の大きい会計不正が相次いでいる状況を踏まえ、監査事務所等モニタリング基本方針を見直しました。
大手監査法人については、従来の2年に1度のフルスコープ検査から、次の手法を組み合わせた通年モニタリングへ移行します。
フルスコープ検査
フォローアップ検査
特定領域を対象とするターゲット検査
特定テーマを法人横断で確認する水平的レビュー
中小規模監査事務所については、年間平均5件程度だった検査件数を、年間7件へ増加させる方針です。
準大手監査法人については、現時点で検査頻度を変更しませんが、品質管理や業務運営の状況に応じて、将来的に検査頻度やモニタリング手法を見直す可能性があります。
今回の見直しは、監査法人の規模やリスクに応じて、より継続的かつ機動的に監査品質を確認する方向への転換です。
被監査会社にも、会計上の見積り、不正リスク、監査指摘への対応、監査法人への情報提供などをより早期かつ丁寧に行うことが求められる可能性があります。
会計不正の防止と財務報告の信頼性確保は、監査法人だけで実現できるものではありません。経営者、経理部門、監査役等、内部監査部門、監査法人がそれぞれの役割を果たすことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






コメント