東証が「上場適格性の再審査制度」を検討|対象となるケースと上場廃止リスクを解説
おはようございます!代表の安田です。
東京証券取引所は、上場後に事業内容や経営体制などが大きく変化し、上場会社としての適格性に重大な懸念が生じた企業について、新規上場審査に準じた再審査を行う制度の新設を検討しています。
2026年8月6日に開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」では、東証から具体的な制度案が示されました。
背景には、小規模な上場会社において、支配株主の変更後に経営体制や事業内容が大幅に変わり、その後の増資などによって既存株主の利益が損なわれる事例が確認されていることがあります。
制度が実現すれば、上場した時点では上場基準を満たしていた企業であっても、その後の変化によっては改めて上場適格性を審査され、審査結果によっては上場廃止となる可能性があります。
本日は、東証が検討している上場適格性の再審査制度について、制度新設の背景、対象となり得るケース、審査の流れ、上場会社が注意すべきポイントを公認会計士が解説します。
上場適格性の再審査制度とは
今回検討されているのは、上場会社について、上場後の企業内容に大きな変化が生じた場合に、改めて上場会社としての適格性を確認する仕組みです。
東証が示した案では、事業内容や経営体制などが大幅に変わり、上場適格性に重大な懸念が生じた場合に、新規上場審査に準じた審査を速やかに行うことが想定されています。
<制度案の概要>
項目 | 想定されている内容 |
対象 | 上場後に企業内容が大幅に変化した会社 |
審査開始の契機 | 上場適格性に重大な懸念が生じた場合 |
主な審査観点 | 企業の継続性・収益性、経営の健全性、ガバナンスなど |
審査方法 | 新規上場審査に準じた審査 |
審査中 | 審査対象銘柄であることを公表 |
審査結果が不適合 | 上場廃止 |
審査結果が適合 | 必要に応じて状況報告等を求める可能性 |
重要なのは、現時点ではまだ制度案の段階であるという点です。
なぜ再審査制度が必要とされているのか
上場会社は、新規上場時には事業の継続性や収益性、内部管理体制、ガバナンスなどについて厳格な審査を受けます。
しかし、上場後に支配株主や経営陣が入れ替わり、事業内容まで大きく変化すると、新規上場時に審査された会社とは実質的に別の会社に近い状態になることも考えられます。
そこで東証は、企業内容が大幅に変わった会社について、上場時と同様の視点から改めて確認できる仕組みが必要ではないかと考えています。
一方、制度導入については、企業の正常な事業活動やM&A、新規事業への進出などを不当に妨げないよう、慎重な設計を求める意見も出ています。
東証が問題視している具体的なケース
特に時価総額50億円未満の小規模上場会社で複数確認された事例があります。
典型的な流れを整理すると、次のようになります。
段階 | 具体的な動き |
① | 特定の株主が株式譲渡や市場買付けによって支配株主となる |
② | 支配株主の関係者が取締役として入り、経営体制を変更する |
③ | 事業基盤等に懸念のある新規事業の開始や企業買収を公表する |
④ | 新規事業資金などを理由に特定株主向けの第三者割当増資を行なう |
⑤ | 株式の希薄化や資金流出等により、既存株主の権利が損なわれる |
東証が問題としているのは、単に「新規事業を始めた」「第三者割当増資を行なった」ということではありません。
支配関係、経営体制、事業内容、資金調達などが連続して大きく変化し、その結果として上場会社としての継続性・健全性・ガバナンスに重大な疑問が生じるケースが念頭に置かれていると考えられます。
「新規事業への進出=再審査」ではない
制度案を見る際に注意したいのは、通常の事業転換やM&Aまで一律に問題視されるわけではないという点です。
企業が成長のために、
新規事業へ参入する
M&Aを行う
資本提携を行なう
大規模な資金調達を行なう
経営陣を変更する
こと自体は、通常の経営活動として行われます。
今回の再審査制度は、これらの行為があっただけで直ちに適用されるものではなく、企業内容が大幅に変化した結果、上場会社としての適格性に重大な懸念が生じる場合を対象とする案です。
したがって、制度の運用においては、
「どの程度の変化を企業内容の大幅な変更と判断するのか」
「どの程度の懸念があれば再審査を開始するのか」
という基準が重要になります。
再審査では何が確認されるのか
東証が示した案では、企業内容の大幅な変更があった場合に、主として次の観点から重大な懸念があるかを確認することが想定されています。
審査の観点 | 主な確認内容として想定される事項 |
企業の継続性 | 事業を継続できる基盤があるか |
収益性 | 新たな事業に合理的な収益基盤があるか |
経営の健全性 | 経営が特定の関係者の利益のために利用されていないか |
ガバナンス | 取締役会・監査機関等が適切に機能しているか |
なお、表の具体的な確認内容は、添付資料に示された審査観点を理解しやすく整理したものです。正式な審査項目は、今後の東証の公表内容を確認する必要があります。
再審査の対象になると投資家にも公表
制度案では、再審査を開始した場合、その会社が上場適格性について懸念があり審査中の銘柄であることを公表することが想定されています。
これは上場会社にとって非常に大きな意味を持ちます。
再審査に入ったこと自体が市場に公表されれば、
株主
投資家
金融機関
取引先
などから、企業の継続性やガバナンスに対する懸念を持たれる可能性があります。
そのため、最終的に「適合」と判断されたとしても、再審査の対象となった事実そのものが企業評価に影響する可能性は否定できません。
不適合なら上場廃止となる可能性
再審査の結果、上場適格性に「不適合」と判断された場合には、上場廃止とする制度が想定されています。
一方、適合と判断された場合でも、それで完全に終了するとは限りません。
必要に応じて、その後の状況について東証への報告などを求められる可能性があります。
<想定される流れ>
段階 | 内容 |
① | 企業内容が大幅に変化 |
② | 上場適格性に重大な懸念 |
③ | 東証が再審査を実施 |
④ | 審査中であることを市場へ公表 |
⑤A | 適合 → 必要に応じて状況報告等 |
⑤B | 不適合 → 上場廃止 |
上場会社にとっては、通常の適時開示違反などとは異なり、会社が上場市場に残れるかどうかそのものに関わる制度となる可能性があります。
第三者割当増資を行なう会社は特に注意
ある事例では、支配株主が変わった後に、特定株主に対して第三者割当増資を行なうことで、株式の希薄化や資金流出が発生したケースが問題視されています。
第三者割当増資自体は一般的な資金調達手段です。
しかし、
割当先が支配株主またはその関係者
発行規模が大きい
調達した資金の用途が不明確
新規事業に十分な事業基盤がない
既存株主の持分が大幅に希薄化する
といった事情が重なれば、ガバナンスや既存株主保護の観点から厳しく見られる可能性があります。
特に、経営権の移動と第三者割当増資が短期間に連続する場合には、その経済合理性を十分に説明できることが重要となります。
小規模上場会社への影響が大きい可能性
問題事例が複数見られた企業として時価総額50億円未満の小規模上場会社が挙げられています。
ただし、「時価総額50億円未満の会社だけを再審査制度の対象とする」とはされていません。
したがって、制度案が実現した場合の正式な対象範囲については、今後の公表を待つ必要があります。
一方、小規模上場会社では、少数の株式取得によって支配権を取得しやすいケースや、資金調達が経営に与える影響が相対的に大きいケースもあり、今回の制度議論との関係では特に注目される可能性があります。
上場会社が今後注意したいポイント
今回の制度案を踏まえると、上場会社が大幅な事業転換や資本政策を実施する際には、個別取引だけでなく、一連の取引後の会社全体が上場会社としてどのように見えるかを確認することが重要になります。
1.支配株主の変更
大株主の異動によって新たな支配株主が生じる場合、その後の役員構成や取引関係を含めてガバナンスを確認する必要があります。
2.経営陣の大幅な変更
新たな支配株主の関係者が多数取締役に就任する場合などは、取締役会の独立性や監督機能について説明できることが重要です。
3.新規事業・M&A
事業基盤、収益見通し、必要資金などについて合理的な裏付けを持ったうえで、投資家に説明する必要があります。
4.第三者割当増資
増資の必要性、割当先の選定理由、発行条件、希薄化の程度、資金使途を十分に検討する必要があります。
5.既存株主への影響
経営判断が既存株主の利益を不当に害するものとなっていないかを、取締役会等で慎重に確認することが重要です。
取締役会での検討プロセスも重要
今回の制度案では、経営の健全性やガバナンスも重要な審査観点とされています。
そのため、大きな事業転換や資本政策を実施する場合には、結果だけでなくどのような検討過程を経て意思決定したのかも重要になると考えられます。
実務上は、例えば次のような資料を整理しておくことが考えられます。
保存・整理する資料 | 主な内容 |
取締役会資料 | 取引の目的、リスク、収益性 |
取締役会議事録 | 審議内容、反対意見等 |
事業計画 | 新規事業の収益見通し |
M&A資料 | 買収価格・事業価値の根拠 |
資金計画 | 調達額、資金使途 |
第三者割当関係資料 | 割当先、発行条件、希薄化 |
ガバナンス資料 | 利益相反への対応 |
東証から説明を求められた場合に、経営判断の合理性を客観的に説明できる状態にしておくことが重要です。
制度導入には「健全な事業活動への配慮」も課題
再審査制度については、制度新設を支持する意見だけでなく、健全な企業活動を阻害しないよう十分な配慮が必要との意見も出ています。
企業は事業環境の変化に対応するために、新規事業、M&A、事業再編、資金調達などを行なう必要があります。
再審査制度が広範に適用されすぎると、正当な成長投資まで企業が慎重になり、市場の活力を損なう可能性があります。
そのため今後は、
企業内容の「大幅な変更」とは何か
「重大な懸念」をどのように判断するか
再審査開始の具体的基準
審査期間
上場廃止までの手続
など、制度の具体的な設計が重要になります。
まとめ
東京証券取引所は、上場後に事業内容や経営体制が大きく変化し、上場適格性に重大な懸念が生じた企業について、新規上場審査に準じた再審査制度を設ける案を示しています。
今回のポイントは次のとおりです。
上場後に企業内容が大幅に変化した会社が対象となり得る
背景には小規模上場会社を巡る問題事例がある
支配株主の変更、経営体制の変更、新規事業、第三者割当増資などが連続した事例が確認されている
企業の継続性・収益性、経営の健全性、ガバナンスなどを審査する案
審査中であることは市場に公表される予定
不適合と判断された場合は上場廃止となる可能性
適合した場合でも必要に応じて状況報告等を求める可能性
一方で、通常のM&Aや新規事業など健全な企業活動を阻害しない制度設計も重要
今後、上場会社が経営権の変更、大型M&A、大幅な事業転換、第三者割当増資などを行なう場合には、個々の取引の適法性だけでなく、一連の取引後も上場会社として十分な事業基盤・収益性・ガバナンスを備えているかという視点が、これまで以上に重要になる可能性があります。
特に支配株主の変更と大幅な事業転換、資金調達が短期間に重なるケースでは、取締役会での検討内容や事業計画、資金使途、既存株主への影響を丁寧に検証し、その合理性を説明できる資料を残しておくことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
<あわせて読みたい>
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






コメント