JICPAが「登録上場会社等監査人会費」を新設|監査法人・上場会社への影響を解説
こんにちは!代表の安田です。
日本公認会計士協会(JICPA)は、2026年7月22日に第60回定期総会を開催し、新年度の事業計画や会費体系の見直しに関する議案を承認しました。
今回の見直しでは、2028年度から新たに「登録上場会社等監査人会費」が導入されます。上場会社等の監査を行う監査法人は、監査証明業務に係る売上高に応じて、年間50万円から5,800万円を負担することになります。
また、2027年度からは、既存の業務会費の算定方法が見直されるほか、すべての会員が負担する普通会費も増額されます。監査法人の規模や監査報酬額を踏まえた負担の適正化と、日本公認会計士協会の財政基盤の安定化を図ることが主な目的です。
本日は、登録上場会社等監査人会費の概要、普通会費・業務会費の変更点、監査法人や上場会社への影響について、公認会計士の視点から解説します。
登録上場会社等監査人会費とは
登録上場会社等監査人会費とは、上場会社等の監査を行う登録監査法人等を対象とした、新しい会費です。
2028年度から導入され、監査証明業務に係る売上高に応じて会費額が決まります。
添付資料によると、年間の会費額は50万円から5,800万円の範囲とされています。
監査証明業務の売上高が大きい監査法人ほど、負担額も大きくなる仕組みです。上場会社監査を多数手掛ける大手監査法人では、新たな固定的負担が生じることになります。
一方、上場会社監査を行っているものの、監査証明業務の規模が比較的小さい監査法人については、大手と比べて負担を抑える設計になると考えられます。
登録上場会社等監査人制度との関係
上場会社等の監査を行うためには、一定の要件を満たし、登録上場会社等監査人として登録を受ける必要があります。
上場会社の財務諸表は、多くの株主、投資家、金融機関などの意思決定に利用されます。そのため、上場会社等の監査を行なう監査法人には、一般の監査業務以上に高度な品質管理体制が求められます。
監査法人側では、たとえば次のような体制整備が必要になります。
監査品質を管理する専門部署の設置
監査業務に対する審査
独立性の管理
監査責任者や監査チームの適切な選任
不正リスクや複雑な会計処理への対応
IT監査・データ分析への投資
専門人材の採用・育成
品質管理システムの運用・評価
登録上場会社等監査人会費の新設は、このような上場会社監査制度の運営や監査品質向上に必要な協会活動を支えるための財源の一つと位置付けられるでしょう。
業務会費も2027年度から見直し
日本公認会計士協会では、登録上場会社等監査人会費の新設だけでなく、既存の業務会費についても見直しを行います。
従来、業務会費の料率は一律1%でした。
2027年度からは、監査報酬額に応じて料率が段階的に下がる累進逓減方式へ移行します。
累進逓減方式とは、監査報酬額が大きくなるほど、一定の区分を超えた部分に適用される料率が低くなる仕組みです。
従来の一律料率では、監査報酬の規模が大きい大手監査法人ほど、業務会費の負担額が大きくなります。今回の改定には、大手監査法人に会費負担が過度に集中する状況を緩和する目的があります。
ただし、大手監査法人には2028年度から登録上場会社等監査人会費が新たに課されるため、業務会費だけでなく、新会費を含めた会費全体で負担を評価する必要があります。
普通会費は月額8,000円へ
日本公認会計士協会の会員が負担する普通会費についても、2027年度から増額されます。
普通会費は月額2,000円引き上げられ、月額8,000円となります。対象となる会員は約3万8,000人です。
年間では、1人当たり9万6,000円の負担となります。
日本公認会計士協会の南会長は、今回の改定について、長年の課題であった会費構造の偏りを是正し、協会の財政基盤の持続可能性を高めるためのものと説明しています。
公認会計士を取り巻く業務環境は大きく変化しています。
監査基準への対応だけでなく、サステナビリティ情報の保証、デジタル技術への対応、公認会計士の人材育成、上場会社監査制度の運営など、協会に求められる活動も拡大しています。
こうした活動を安定的に継続するため、普通会費を含めた会費体系全体の見直しが行われたと考えられます。
会費改定のスケジュール
今回公表された会費改定の時期を整理すると、次のようになります。
適用年度 | 主な変更内容 |
2027年度 | 普通会費を月額8,000円へ増額 |
2027年度 | 業務会費を一律1%から累進逓減方式へ変更 |
2028年度 | 登録上場会社等監査人会費を新設 |
普通会費と業務会費は2027年度から、登録上場会社等監査人会費は2028年度から導入されます。
監査法人では、改定後の会費負担が経営計画や予算に与える影響を、あらかじめ試算しておく必要があります。
監査法人の経営にどのような影響があるか
今回の会費体系見直しにより、監査法人では新たなコスト管理が必要になります。
特に登録上場会社等監査人会費は、監査証明業務の売上規模に応じた年間固定的な負担となります。
監査法人の経営コストには、従来から次のようなものがあります。
監査スタッフ・公認会計士の人件費
品質管理部門の人件費
監査ツールやITシステムへの投資
データセキュリティ対策
研修費用
海外ネットワークへの負担金
損害賠償保険料
日本公認会計士協会の会費
近年は、監査品質向上のための人員確保やIT投資が必要となる一方、人手不足や人件費上昇も続いています。
新たな会費負担が加わることで、監査法人には、監査契約ごとの採算性をより厳密に管理することが求められる可能性があります。
監査報酬へ影響する可能性
新たな会費を監査報酬へ転嫁するかどうかについて、具体的な方針は示されていません。
したがって、会費の新設だけを理由に、直ちにすべての上場会社の監査報酬が上がるとは限りません。
もっとも、監査法人では、人件費、IT投資、品質管理費用などの固定費が増加しています。そこに新たな会費負担が加われば、中長期的には監査報酬の見直しを検討する要因の一つとなる可能性があります。
監査を受ける会社としては、監査報酬の増額要請があった場合、単に総額だけを見るのではなく、次の内容を確認することが重要です。
監査時間の増減
監査チームの構成
専門家の利用状況
IT監査やデータ分析の範囲
品質管理・審査対応の増加
会計基準や開示制度変更への対応
監査法人側のコスト構造の変化
監査報酬は、監査リスクや業務量、必要な専門性を踏まえて決まるものです。会費改定は、そのコスト構造の一部分として影響する可能性があると考えるのが適切でしょう。
タイムチャージ方式の課題
日本公認会計士協会では、監査報酬の考え方についても検討を進めています。
南会長は、監査報酬のタイムチャージ方式について、積極的なIT投資などにより間接コストが増える一方、固定費の負担が重くなっていると指摘しています。
監査報酬を監査時間と時間単価だけで計算すると、品質管理部門、監査システム、AI・データ分析、セキュリティなどの間接コストを、監査報酬へ十分に反映できない可能性があります。
たとえば、監査業務を効率化するためにIT投資を行なった結果、現場の監査時間が短くなったとしても、システムの開発費や保守費は発生します。
単純なタイムチャージ方式では、監査時間が減るほど報酬も減る一方、監査法人が負担する固定費は残り続けるという問題が生じます。
日本公認会計士協会では、監査報酬の考え方に関するプロジェクトチームで、この点を検討する方針です。
株主総会の集中と監査品質
日本公認会計士協会の新年度の取組みでは、「監査の信頼性・魅力の向上」や「社会課題解決への貢献」などが柱として掲げられています。
監査品質の向上に関して、南会長は、監査人が十分な監査期間を確保する必要性を指摘しています。3月期決算の上場会社の約7割の株主総会が、6月末の1週間に集中しているとされています。
3月決算会社では、3月末の決算日から6月末の株主総会まで、おおむね3カ月しかありません。この期間に、会社と監査法人は次のような業務を行ないます。
連結・個別決算の確定
税金計算
減損・引当金などの見積り
監査手続
監査報告書の作成
事業報告・計算書類の作成
有価証券報告書の作成
株主総会招集通知の作成
株主総会が同じ時期に集中すると、企業側だけでなく監査法人側にも大きな業務負荷がかかります。
日本公認会計士協会は、株主総会の開催時期を後ろ倒しすることで、監査期間を確保し、監査品質の向上につなげたいとの考えを示しています。
株主総会を後ろ倒しするメリット
株主総会の開催を後ろ倒しできれば、決算・監査・開示に使える期間が長くなります。
企業側には、次のようなメリットが考えられます。
会計上の見積りをより慎重に検討できる
海外子会社の決算情報を精査できる
開示書類のレビュー期間を確保できる
経理・法務・IR部門の繁忙を緩和できる
監査法人との重要論点の協議時間を確保できる
監査法人側でも、監査チームや審査担当者の業務が特定期間に集中することを緩和できます。ただし、株主総会の後ろ倒しには、基準日の変更、配当時期、役員任期、社内スケジュールなどへの影響があります。各社が実施する場合には、会社法や定款、株主への影響を含めた検討が必要です。
監査業界の持続可能性も重要な課題
監査品質を確保するためには、公認会計士や監査スタッフが働き続けられる環境を整える必要があります。監査現場に過度な負荷がかかれば、人材の離職や監査品質の低下につながるおそれがあります。
一方、監査法人が十分な人材、ITシステム、品質管理体制を確保するためには、安定した収益基盤が必要です。
今回の会費改定や監査報酬の検討は、単なる監査法人のコスト問題ではなく、資本市場を支える監査制度を持続可能なものにできるかという問題でもあります。
上場会社側も、監査報酬を単なるコストとして捉えるのではなく、財務情報の信頼性を支えるために必要な費用として、監査法人と建設的に協議することが重要です。
公認会計士・監査審査会の通年モニタリングへの評価
公認会計士・監査審査会は、大手監査法人へのモニタリングについて、従来の2年に1度のフルスコープ検査から、年間を通じたモニタリングへ移行する方針を示しています。
これについて、南会長は、細部を過度に追及するような検査が減るのであれば、歓迎すべきとの考えを示しています。
通年モニタリングでは、監査法人のリスクや課題に応じて、フルスコープ検査、フォローアップ検査、特定テーマの検査などを組み合わせることになります。
監査法人にとって検査対応が年間を通じて発生する一方、一度の大規模検査に業務が集中する負担は緩和される可能性があります。
会費体系の見直し、監査報酬の検討、モニタリング制度の変更は、いずれも監査品質と監査制度の持続可能性に関係するテーマです。
監査を受ける上場会社が確認したいこと
今回のJICPA会費改定は、直接的には公認会計士や監査法人の負担に関するものです。
もっとも、上場会社等にとっても、今後の監査報酬や監査スケジュールを検討するうえで無関係ではありません。
監査を受ける企業では、次の事項を確認しておくとよいでしょう。
監査報酬の算定根拠
監査時間、担当者構成、専門家利用、IT監査、品質管理対応などを確認します。
決算・監査スケジュール
監査期間が十分に確保されているか、重要な会計論点を決算直前に集中させていないかを見直します。
監査法人との早期協議
M&A、減損、新規取引、新会計基準などについて、期末前から監査法人と協議します。
株主総会日程
総会時期を変更する余地があるか、基準日や配当への影響を含めて検討します。
監査役等との連携
監査報酬や監査品質について、監査役、監査等委員会、監査委員会が十分に検討できる体制を整えます。
まとめ
日本公認会計士協会は、2028年度から登録上場会社等監査人会費を新設します。
上場会社等の監査を行なう監査法人は、監査証明業務の売上高に応じて、年間50万円から5,800万円を負担します。
また、2027年度からは、次の変更が行なわれます。
業務会費を一律1%から累進逓減方式へ変更
普通会費を月額2,000円増額し、月額8,000円とする
今回の会費改定は、大手監査法人への負担集中を緩和するとともに、日本公認会計士協会の財政基盤を持続可能なものにすることを目的としています。
一方、監査法人では、人件費、IT投資、品質管理費用などの負担も増えています。新たな会費負担が中長期的に監査報酬の検討要因となる可能性はありますが、添付資料では監査報酬への具体的な転嫁方針までは示されていません。
さらに、日本公認会計士協会は、監査期間を十分に確保するため、株主総会の開催時期を後ろ倒しする必要性も指摘しています。
監査制度の持続可能性を確保するためには、監査法人の品質管理や経営努力だけでなく、上場会社側も適正な監査期間と監査報酬について理解し、監査人と協力していくことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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