新リース会計基準で資産除去債務の見直しが必要?借手のリース期間との関係を解説
おはようございます!代表の安田です。
新リース会計基準への対応では、借手が「リース期間」をどのように見積もるかが重要な論点となります。
このリース期間の検討が、これまで計上していなかった資産除去債務の会計処理にも影響する可能性があります。
新リース会計基準の公表によって、資産除去債務に関する会計基準そのものの考え方が変更されたわけではありません。
しかし、例えば賃貸オフィスについて「将来移転する予定がなく、使用期間を合理的に見積もれない」として資産除去債務を計上していなかった場合、新リース会計基準への対応として借手のリース期間を具体的に見積もることにより、従来の資産除去債務を計上しないという判断について再検討が必要になる場合があります。
一方、借手のリース期間と資産除去債務に関する償却期間は、必ずしも同じ年数になるわけではありません。重要なのは、「なぜその期間と判断したのか」を合理的に説明できることです。
本日は、新リース会計基準における借手のリース期間の考え方と、資産除去債務への影響、実務上確認しておきたいポイントを公認会計士が解説します。
新リース会計基準における「借手のリース期間」とは
新リース会計基準では、借手のリース期間について、単純に契約書上の契約期間だけで決めるわけではありません。
借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、一定の延長オプションや解約オプションの対象期間を加えて決定します。
具体的には、次のような考え方になります。
項目 | 借手のリース期間への反映 |
解約不能期間 | 原則として含める |
延長オプション | 行使することが合理的に確実な期間を含める |
解約オプション | 行使しないことが合理的に確実な期間を含める |
したがって、契約期間2年=リース期間2年と機械的に判断できるとは限りません。
契約更新の可能性などを踏まえて、実際にどの程度の期間その資産を使用すると合理的に判断できるかを検討する必要があります。
リース期間の判断では「経済的インセンティブ」を考慮する
延長オプションを行使すること、または解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」であるかを判断する際には、経営者の単なる意向だけではなく、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します。
主な要因は、次のとおりです。
判断要素 | 具体的な内容 |
契約条件 | リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど |
賃借設備の改良 | 大規模な内装・設備投資などを行っているか |
解約に伴うコスト | 移転費用、原状回復費用など |
原資産の重要性 | 事業継続にとってその物件・設備がどの程度重要か |
オプションの条件 | 延長・解約が可能となる具体的条件 |
例えば、多額の内装工事を行った店舗や、事業運営上重要な拠点については、短期間で移転する経済合理性が低い場合があります。
そのような事情も含めて、借手のリース期間を判断することになります。
なぜ資産除去債務にも影響するのか
問題となりやすいのが、賃借物件の原状回復義務です。
例えば、次のような不動産賃貸借契約を想定します。
項目 | 契約内容 |
契約期間 | 2年間 |
更新 | 満了6か月前までに更新しない旨を通知しなければ自動更新 |
原状回復義務 | あり |
現在の会社方針 | 当面移転する予定なし |
この会社が従来、「いつ退去するか分からない」「今のところ移転する予定もない」という理由から使用期間を合理的に見積もれず、資産除去債務を計上していなかったとします。
しかし、新リース会計基準では、この契約についても借手のリース期間を決定しなければなりません。
ここで実務上の整合性が問題となります。
「リース期間は2年、でも退去時期は見積れない」は説明できるか
例えば、新リース会計基準への対応として、
延長オプションを行使することが合理的に確実とはいえないため、借手のリース期間は2年とする
と判断したとします。
一方、資産除去債務については、
将来移転する予定がないため、退去時期を合理的に見積もれない
として計上していない場合、2つの判断の間に矛盾がないかが問題となります。
このようなケースでは監査人から説明を求められる可能性があり、資産除去債務についても改めて計上の要否を検討することが考えられます。
判断の整合性を確認するイメージ
会計処理 | 会社の判断 |
借手のリース期間 | 2年間 |
判断理由 | 2年後の更新が合理的に確実とはいえない |
資産除去債務 | 未計上 |
従来の理由 | 将来退去する時期を合理的に見積もれない |
この場合、
「2年を超えて使用すると合理的に確実とは判断しなかった一方、資産除去債務では使用終了時期を全く見積もれないとする理由は何か」
という説明が必要になる可能性があります。
新リース会計基準で資産除去債務の基準自体が変わったわけではない
ここは誤解しないよう注意が必要です。
新リース会計基準が導入されたからといって、
「リース期間が決まったら、必ずその期間で資産除去債務を計上しなければならない」
ということではありません。資産除去債務会計基準そのものの考え方に変更はないとされています。
今回問題となるのは、リース期間を決定するために企業が改めて契約条件や経済的事情を検討することにより、これまでの資産除去債務に関する見積りとの整合性を確認する必要が生じるという点です。
借手のリース期間と資産除去債務の期間は一致しなくてもよい
借手のリース期間と資産除去債務に関する償却期間は、必ず同じ年数にする必要はありません。その理由は、両者を判断する際に求められる蓋然性の水準が異なるためです。
<2つの判断基準の違い>
項目 | 借手のリース期間 | 資産除去債務 |
主な判断対象 | オプションを行使・不行使する可能性 | 除去義務に関する見積り |
判断の水準 | 「合理的に確実」 | 同程度の高い蓋然性までは要求されない |
期間 | 資産除去債務の期間と一致するとは限らない | |
重要事項 | 経済的インセンティブ等に基づく合理的な説明 | 見積りの合理的な根拠 |
新リース会計基準で用いられる「合理的に確実」という判断は、単に「可能性が50%を超える」という程度よりも高い蓋然性を意味します。
一方、資産除去債務の見積りでは、この「合理的に確実」と同じ水準までの蓋然性が要求されているわけではありません。
そのため、「借手のリース期間 < 資産除去債務に関する償却期間」となることもあり得ます。
実際、検討の根拠を積み上げた結果、借手のリース期間を資産除去債務の償却期間より短く設定することで監査人との合意に至った企業もあるようです。
例えば「リース期間5年・資産除去債務10年」もあり得る
仮に、ある賃貸オフィスについて次のように判断したとします。
項目 | 判断 |
契約期間 | 2年 |
借手のリース期間 | 5年 |
資産除去債務に関する償却期間 | 10年 |
このように期間が異なったとしても、直ちに会計処理が誤りというわけではありません。
重要なのは、
なぜリース期間を5年としたのか
なぜ資産除去債務では10年としたのか
それぞれどの事実・契約条件を根拠にしたのか
2つの判断に矛盾がないか
を説明できることです。
年数をそろえることより「なぜその年数なのか」が重要
新リース会計基準への対応では、「資産除去債務が10年だから、リース期間も10年にする」あるいは、「リース期間を5年にしたので、資産除去債務も5年にする」と機械的に期間を一致させるべきではありません。
それぞれの会計基準に基づいて検討した結果として、同じ期間になることもあれば、異なる期間になることもあります。
監査対応では文書化が重要
借手のリース期間は、契約書だけで一義的に決まるものではなく、各企業の状況を踏まえた見積りが含まれます。
そのため、監査対応を考えるうえでも判断根拠を残しておくことが重要です。
例えば、次のような事項を整理しておくことが考えられます。
文書化する事項 | 内容の例 |
契約条件 | 契約期間、更新条件、解約条件 |
延長・解約オプション | どのオプションが存在するか |
リース料 | 更新後の賃料条件など |
賃借設備への投資 | 内装・設備工事等の金額 |
移転コスト | 引越費用、営業停止、原状回復など |
原資産の重要性 | その店舗・事務所等が事業上どれだけ重要か |
過去の実績 | 過去の更新・移転実績 |
リース期間 | 最終的に何年と判断したか、その理由 |
資産除去債務 | 計上の要否、使用期間の見積り |
両者の整合性 | 期間が異なる場合の理由 |
特に、借手のリース期間と資産除去債務に関する期間が異なる場合には、その理由を明確にしておく必要があります。
新リース会計基準への対応で確認したい契約
今回の論点は、特に次のような契約で生じやすいと考えられます。
契約 | 確認ポイント |
賃貸オフィス | 自動更新、原状回復義務 |
店舗 | 内装工事の規模、移転コスト |
工場 | 設備移設コスト、拠点の重要性 |
倉庫 | 更新実績、物流網への影響 |
長期間使用している物件 | 従来の使用期間見積りとの整合性 |
特に、これまで資産除去債務について、
「使用期間を合理的に見積もることができないため計上していない」
という整理をしている契約は、優先的に確認する必要があります。
新リース会計基準への対応でリース期間の見積りを行なった結果、資産除去債務についても追加検討が必要になる可能性があるためです。
実務上の確認手順
企業が新リース会計基準への対応を行う際には、次のような流れで確認すると整理しやすいでしょう。
手順 | 確認内容 |
① | 原状回復義務のあるリース契約を抽出する |
② | 従来の資産除去債務の計上状況を確認する |
③ | 未計上の場合、その理由を確認する |
④ | 新基準に基づいて借手のリース期間を検討する |
⑤ | 従来の資産除去債務の判断との整合性を確認する |
⑥ | 必要に応じて資産除去債務の計上要否を再検討する |
⑦ | リース期間と資産除去債務の期間が異なる場合は理由を整理する |
⑧ | 判断過程・根拠資料を文書化する |
新リース基準対応はリース負債だけを見ればよいわけではない
新リース会計基準への対応では、使用権資産やリース負債の金額を算定することに目が向きがちです。しかし、借手のリース期間を検討する過程では、既存の会計上の見積りとの整合性にも注意する必要があります。
今回の資産除去債務は、その代表例の一つです。
特に、
原状回復義務がある
契約が自動更新される
長期間同じ物件を使用している
「退去時期が分からない」という理由で資産除去債務を計上していない
という契約では、リース期間の決定とあわせて従来の判断を見直すことが重要となります。
まとめ
新リース会計基準の公表によって、資産除去債務会計基準そのものの考え方が変更されたわけではありません。
しかし、新リース会計基準では借手のリース期間について具体的な見積りが必要になるため、その検討結果が従来の資産除去債務の判断に影響する可能性があります。
今回のポイントは次のとおりです。
借手のリース期間は契約期間だけで決めるものではない
延長・解約オプションについて「合理的に確実」かを判断する
判断では経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮する
従来「使用期間を合理的に見積れない」として資産除去債務を計上していなかった契約は再検討が必要になる場合がある
借手のリース期間と資産除去債務の償却期間は必ずしも一致しない
両者は判断に求められる蓋然性の水準が異なる
期間が異なること自体より、なぜ異なるのかを合理的に説明できることが重要
監査人に説明できるよう、判断根拠を文書化しておくことが重要
新リース会計基準への移行準備では、リース契約を一覧化して使用権資産・リース負債を計算するだけでなく、既存の資産除去債務の計上方針や見積期間との整合性まで確認することが重要です。
特に、過去に資産除去債務を未計上とした賃貸借契約については、「なぜ計上しなかったのか」という従来の判断と、新たに決定する借手のリース期間との間に矛盾がないかを早めに確認しておくことが望まれます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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