ROE8%・PBR1倍を超えれば十分?投資家に評価される資本コスト経営を解説
こんにちは!代表の安田です。
東京証券取引所が進める「資本コストや株価を意識した経営」により、上場会社ではROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)を意識した経営が定着しつつあります。
特に、ROE8%以上・PBR1倍以上という水準は、企業の資本効率や市場評価を見るうえで、一つの目安として取り上げられることが少なくありません。
東証が2026年8月に公表した資料では、回答企業682社を「ROE8%」「PBR1倍」を基準として4つのグループに分類しており、両方の水準を上回った企業は294社でした。
しかし、投資家が評価しているのは、単にROE8%・PBR1倍というラインを超えた企業ではありません。
東証の資料からは、現在の数値、将来の目標、その目標を実現するための具体的なKPI、そして株主との対話まで含めて、継続的に企業価値を向上させる姿勢が評価されていることが読み取れます。
本日は、ROEとPBRの意味、東証が示した4象限の考え方、投資家から評価される企業の特徴について、公認会計士が解説します。
ROEとは
ROEとは「Return on Equity」の略で、日本語では自己資本利益率と呼ばれます。
一般的には、株主から預かった自己資本を使って、企業がどの程度効率的に利益を生み出しているかを見る指標です。
基本的な計算式は次のとおりです。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
例えば、自己資本が100億円、当期純利益が10億円であれば、
10億円 ÷ 100億円 = ROE10%
となります。
ROEが高ければ、同じ自己資本からより多くの利益を生み出していることになります。
<ROEのイメージ>
自己資本 | 当期純利益 | ROE |
100億円 | 5億円 | 5% |
100億円 | 8億円 | 8% |
100億円 | 10億円 | 10% |
100億円 | 15億円 | 15% |
ただし、ROEは高ければ無条件によいというものではありません。
自己資本を減らしたり、財務レバレッジを高めたりすることによってROEが上昇する場合もあるため、利益成長や財務安全性などとあわせて確認する必要があります。
PBRとは
PBRとは「Price Book-value Ratio」の略で、日本語では株価純資産倍率と呼ばれます。
一般的には、
PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)
によって計算します。
例えば、1株当たり純資産が1,000円で、株価が1,500円なら、
1,500円 ÷ 1,000円 = PBR1.5倍
です。
PBRは、企業の純資産に対して市場がどの程度の価値を付けているかを見る代表的な指標です。
<PBRのイメージ>
1株当たり純資産 | 株価 | PBR |
1,000円 | 700円 | 0.7倍 |
1,000円 | 1,000円 | 1.0倍 |
1,000円 | 1,500円 | 1.5倍 |
1,000円 | 2,000円 | 2.0倍 |
PBRが1倍を下回る場合、単純化すれば市場で付けられている企業価値が帳簿上の純資産を下回っている状態です。
ただし、PBRも業種、成長性、資本構成、市場環境などによって適正水準が異なるため、「1倍を超えればよい」と機械的に判断するものではありません。
東証は「ROE8%・PBR1倍」で企業を4分類
東証が2026年8月に公表した投資家への期待・要望等に関するアンケート資料では、回答企業682社について、
ROE8%以上か
PBR1倍以上か
という2つの基準を使って4つのグループに分類しています。
両方の基準を超えた企業は294社でした。
4象限にすると、次のように整理できます。
PBR1倍以上 | PBR1倍未満 | |
ROE8%以上 | ① ROE・PBRともに基準超 | ② ROEは高いがPBRが低い |
ROE8%未満 | ③ PBRは高いがROEが低い | ④ ROE・PBRともに基準未達 |
それぞれ企業が抱える課題は異なると考えられます。
① ROE8%以上・PBR1倍以上
一見すると、最も望ましいグループです。
資本効率が一定水準以上あり、市場からも純資産を上回る評価を受けています。
しかし、重要なのは、このグループに入れば投資家から十分評価されるとは限らないという点です。
東証のフォローアップ会議では、「基準をぎりぎり超えただけの会社は、投資家がイメージする評価企業とは異なるのではないか」という趣旨の意見も示されています。
つまり、「ROE8.1%・PBR1.01倍になったから資本コスト経営への対応は完了」という考え方では不十分です。
② ROEは高いがPBRが1倍未満
このグループでは、一定の利益を稼ぐ能力はあるものの、その収益力や将来性が市場から十分に評価されていない可能性があります。
例えば、
将来の成長性が伝わっていない
利益が持続可能か疑問視されている
資本政策が明確でない
株主還元方針が分かりにくい
経営計画への信頼が低い
といった要因を分析する必要があります。
単に利益を増やすだけでなく、「なぜ市場から評価されていないのか」をIR活動や株主との対話を通じて把握することが重要です。
③ PBRは高いがROEが8%未満
PBRは1倍以上ある一方、ROEが低い企業です。
将来への期待や保有資産、事業上の競争力などが株価に反映されている一方、現在の収益性・資本効率には改善余地がある可能性があります。
例えば、
利益率の改善
不採算事業の見直し
遊休資産の売却
政策保有株式の見直し
投資案件の選別
などを通じて、資本効率を高めることが課題になります。
④ ROE8%未満・PBR1倍未満
収益性と市場評価の双方に課題があるグループです。
この場合、単純な株主還元だけでPBRを改善しようとするのではなく、
本業の収益力
事業ポートフォリオ
資本効率
成長投資
資本政策
IR
まで含めて総合的に見直す必要があります。
ROE8%・PBR1倍は「ゴール」ではない
今回、特に重要なのはこの点です。
東証が投資家に行なったアンケートなどからは、投資家がROE8%・PBR1倍という一定の数値をクリアすることだけではなく、その後も企業価値を持続的に高めていくことを重視していることがうかがえます。
例えば、
考え方 | 投資家からの評価 |
PBR1倍を超えることだけが目標 | 評価されにくい可能性 |
ROE8%を一度超えればよい | 評価されにくい可能性 |
自社の資本コストを分析する | 重要 |
将来のROE・PBR目標を明確にする | 重要 |
具体的なKPIを示す | 重要 |
進捗を継続的に開示する | 重要 |
投資家との対話を経営に反映する | 重要 |
つまり「基準をクリアする経営」ではなく、企業価値を継続的に向上させる経営へ進む必要があります。
プライム市場でもROE8%・PBR1倍超の企業は43%
プライム市場の企業について、2025年7月時点でROE8%以上・PBR1倍以上となった企業の割合は43%でした。資本コストを意識した経営への対応が本格化する前の2022年7月と比較すると、6ポイント増加しています。
一定の改善は進んでいるものの、裏返せば、プライム市場でも過半数の企業は両方の基準を同時には上回っていないことになります。
したがって、今後もROE・PBR改善は多くの上場会社にとって重要な経営テーマとなると考えられます。
投資家評価を高める開示のポイント
上場会社が資本コストや株価を意識した経営を開示する際には、次のような構成が考えられます。
開示項目 | 内容 |
現状分析 | ROE・PBR・資本コスト等を分析 |
課題 | なぜ現在の市場評価になっているかを分析 |
目標 | ROEやPBRなど具体的な数値目標 |
施策 | 目標達成のために何を行なうか |
KPI | 施策の進捗を測る指標 |
進捗 | 実績と目標との差異 |
投資家との対話 | 対話から得た意見 |
経営への反映 | 投資家の意見をどのように経営へ反映したか |
このように、「現状 → 目標 → 施策 → KPI → 実績 → 対話」という流れを作ることが重要です。
ROEを改善するには何を考えるべきか
ROEは大きく見ると、利益と自己資本の関係によって決まります。
したがって改善方法としては、単に自己資本を減らすだけではなく、本業の収益力を高めることが重要です。
例えば、
売上高の拡大
営業利益率の改善
不採算事業からの撤退
成長分野への投資
遊休資産の売却
政策保有株式の縮減
適切な株主還元
などが考えられます。
ただし、どの施策が適切かは企業によって異なります。
ROEの数値だけを上げることを目的とするのではなく、企業価値の持続的な向上につながる施策であることが重要です。
PBR改善には「市場との対話」も重要
PBRは市場が企業につけた評価を含む指標です。
そのため、会社内部で利益目標を達成するだけでは、必ずしもPBRが上昇するとは限りません。
会社が考える企業価値と市場評価との間に差があるのであれば、なぜ市場は自社をそのように評価しているのかを分析する必要があります。
投資家との対話は、その理由を把握する重要な手段となります。
例えば、
成長戦略が分かりにくい
投資効果が見えない
キャッシュの使途が不明確
株主還元方針が分かりにくい
事業ポートフォリオの方向性が不明
経営目標とKPIの関係が分からない
など、市場から見た課題を把握することで、経営施策や開示の改善につなげることができます。
自社と同業他社の開示を比較することも有効
東証ホームページに約300社分の投資家からの評価ポイントが掲載されており、自社のIRに活用できる内容がないか確認することができます。
企業としては、自社だけでROE・PBRを分析するのではなく、
同業他社
同規模の会社
投資家から高く評価されている会社
の開示内容と比較することも有効です。
<比較するポイント>
ROE目標
PBR目標
資本コストの算定・認識
成長投資方針
株主還元方針
KPI
事業ポートフォリオ
政策保有株式
投資家との対話内容
経営へのフィードバック
これらを比較すると、自社の開示に不足している事項が見つかりやすくなります。
上場会社が確認したいチェックポイント
自社のROEを継続的に分析している
PBRの推移を把握している
ROE8%・PBR1倍を単なるゴールとしていない
自社の市場評価が低い理由を分析している
将来のROE・PBR目標を検討している
目標達成のための具体策を示している
施策に対応するKPIを設定している
KPIの実績を継続的に開示している
投資家との対話内容を分析している
投資家の意見を経営へ反映している
他社の優良開示事例を確認している
まとめ
東証が公表した資料では、ROE8%・PBR1倍を一つの基準として企業が分類されています。
回答企業682社のうち、両方の基準を上回った企業は294社でした。また、プライム企業については、2025年7月時点でROE8%・PBR1倍の双方を上回る企業が43%となり、2022年7月から6ポイント増加しています。
ただし、今回の資料でより重要なのは、「ROE8%・PBR1倍を達成すること自体が最終目標ではない」という点です。
投資家は、単に基準値を少し超えている企業ではなく、
自社の市場評価を分析している
より高い将来目標を設定している
目標達成の具体的なKPIを示している
株主との対話を行っている
対話を経営改善につなげている
といった、持続的な企業価値向上への取組みを評価しています。
したがって、資本コストや株価を意識した経営では、「PBR1倍割れを解消する」「ROE8%を達成する」だけで終わるのではなく、その先にある目標水準と実現方法を投資家に示すことが重要です。
上場会社においては、東証が公表している他社の評価事例なども参考にしながら、自社のROE・PBR、資本政策、KPI、IRの内容を継続的に見直すことが望まれます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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