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会計上の見積りの注記とKAMの関係とは?固定資産の減損会計を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 日前
  • 読了時間: 14分

こんにちは!代表の安田です。


上場会社の監査報告書では、KAMという項目を目にする機会が増えました。


KAMとは「監査上の主要な検討事項」のことで、監査人が当年度の財務諸表監査において特に重要であると判断した事項を、監査報告書に記載するものです。


KAMは監査人が記載するものですが、会社側にとって無関係ではありません。

なぜなら、KAMの多くは、会計上の見積り、重要な会計方針、財務諸表注記、経営者の判断、事業計画などと密接に関係しているからです。


特に固定資産の減損会計では、将来キャッシュ・フロー、成長率、販売数量、販売価格、主要な資産、経済的残存使用年数、割引率など、多くの見積り要素が関係します。

そのため、会計上の見積りの注記とKAMを切り離して考えることはできません。


本日は、固定資産の減損会計を例に、会計上の見積りの注記とKAMの関係、主要な仮定、監査上の対応、監査役等とのコミュニケーション、実務上の注意点について、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


KAMとは何か

KAMとは、Key Audit Mattersの略で、日本語では「監査上の主要な検討事項」といいます。


監査人が、当年度の財務諸表監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を、監査報告書に記載する制度です。


KAMは、監査人が自由に思いついた事項を書くものではありません。

監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、財務諸表監査において特に重要であると判断した事項を選定します。


監査報告書のKAMでは、主に次のような内容が記載されます。

  • 関連する財務諸表注記への参照

  • 監査上の主要な検討事項の内容

  • KAMに決定した理由

  • 当該事項に対する監査上の対応


つまり、KAMは「この項目について、監査人は特に重要なリスクや判断があると考え、こうした監査手続を実施しました」という説明です。


KAMは会社側の開示ともつながる

KAMは監査報告書に記載されるため、監査人側の論点と思われがちです。


しかし、実務上は会社側の開示と強くつながります。

特に、KAMで取り上げられる事項が会計上の見積りに関係する場合、財務諸表の「重要な会計上の見積り」の注記が参照されることが多くあります。


たとえば、固定資産の減損会計、のれんの評価、繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、貸倒引当金、工事損失引当金などは、KAMとして取り上げられやすい領域です。


これらは、経営者の見積りや判断が財務諸表に大きな影響を与えるためです。

会社側が会計上の見積りの注記で、見積りの内容や主要な仮定を十分に説明できていなければ、KAMの記載との整合性にも影響します。


そのため、会社はKAMを「監査人が勝手に書くもの」と考えるのではなく、自社の注記や監査対応と一体で考える必要があります。


固定資産の減損会計がKAMになりやすい理由

固定資産の減損会計は、KAMとして取り上げられやすい代表的なテーマです。

理由は、見積りの不確実性が大きいからです。


固定資産の減損会計では、資産グループに減損の兆候がある場合、減損損失を認識する必要があるかどうかを判定します。その際、将来キャッシュ・フローを見積もる必要があります。


将来キャッシュ・フローは、過去実績だけで決まるものではありません。経営者が作成した予算、中期経営計画、市場成長率、販売数量、販売価格、原価、設備の使用期間、競争環境など、将来に関する多くの仮定を含みます。


これらの仮定は、少し変わるだけで減損損失の有無や金額に大きく影響することがあります。そのため、監査人は、将来キャッシュ・フローの見積りの合理性を特に重要な検討事項として扱うことがあります。


会計上の見積りの注記で重要な「主要な仮定」

会計上の見積りの注記では、財務諸表に計上した金額の算定に用いた主要な仮定が重要です。主要な仮定とは、見積りに重要な影響を与える前提条件です。


固定資産の減損会計では、たとえば次のような仮定が主要な仮定になり得ます。

  • 中期経営計画以降の成長率

  • 販売数量の増加見込み

  • 販売価格の予測

  • 粗利率の予測

  • 経費の見込み

  • 将来キャッシュ・フローを見積る期間

  • 主要な資産の経済的残存使用年数

  • 割引率

  • 市場環境の変化

  • 新型感染症や地政学リスクなど外部環境の影響


これらの仮定は、財務諸表利用者にとっても関心の高い情報です。

たとえば、会社が高い成長率を見込んでいる場合、その成長率が市場成長率と比べて合理的なのか、過去実績と整合しているのかが問題になります。


販売数量や販売価格の予測についても、単価と数量のどちらに成長を見込んでいるのか、競争環境を踏まえて妥当なのかを説明できる必要があります。


成長率の検討ポイント

減損会計で将来キャッシュ・フローを見積る際、予算や中期経営計画の期間を超える部分については、成長率を用いて見積ることがあります。


ここで問題になるのが、その成長率が合理的かどうかです。

たとえば、会社が中期経営計画後も高い成長率を見込んでいる場合、その根拠を説明できなければなりません。


市場全体が成熟しているにもかかわらず、自社だけ高い成長率を見込んでいる場合には、その理由が必要です。


新製品投入、価格改定、生産能力増強、海外展開、競合優位性、顧客基盤の拡大など、成長率を支える具体的な施策があるかを確認します。


監査上も、成長率について、外部機関が公表する市場成長予測、業界データ、過去実績、経営計画との整合性が検討されます。


成長率は、将来の予測であるため不確実性があります。そのため、会計上の見積りの注記やKAMでは、成長率の不確実性が重要な説明対象になることがあります。


販売数量と販売価格の予測

将来キャッシュ・フローの見積りでは、売上高の予測が重要です。


売上高は、基本的に販売数量と販売価格に分解できます。

売上高の増加を見込んでいる場合、その増加が販売数量の増加によるものなのか、販売価格の上昇によるものなのかを確認する必要があります。


販売数量の増加を見込む場合には、市場需要、生産能力、販売チャネル、競合状況、顧客との契約状況などを確認します。


販売価格の上昇を見込む場合には、価格転嫁の可能性、競合他社の価格動向、原材料価格、顧客との交渉力などを確認します。


特に、売上高の増加、粗利率の改善、経費率の低下が同時に織り込まれている場合には、計画の達成可能性を慎重に検討する必要があります。


監査上は、外部データとの照合、過年度計画と実績の差異分析、関連部門への質問、取締役会承認資料の確認などが行なわれることがあります。


将来キャッシュ・フローを見積る期間

減損会計では、将来キャッシュ・フローを何年分見積るかも重要です。


見積期間は、資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数を基礎に考えます。

ここで重要なのは、「物理的に使える年数」ではなく、「経済的にキャッシュ・フローを生み出せる年数」です。


たとえば、機械設備が物理的には15年使えるとしても、技術革新や市場変化により、経済的には7年程度しか有効でない場合があります。


反対に、建物や大型設備など、長期間使用できる資産が主要な資産となる場合には、見積期間が長くなることがあります。


見積期間が長くなるほど、将来予測の不確実性は高まります。

そのため、監査上は、主要な資産が何であるか、その経済的残存使用年数がどのように決定されたか、事業計画と整合しているかが検討されます。


監査役等とのコミュニケーションでも「主要な資産は何か」という問いは非常に重要です。


主要な資産とは何か

主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産をいいます。


たとえば、製造業であれば、特定の工場設備や生産ラインが主要な資産になることがあります。

小売業や飲食業であれば、店舗設備や店舗建物が主要な資産になることがあります。

物流業であれば、倉庫設備や配送センターが主要な資産になることもあります。


主要な資産は、将来キャッシュ・フローを見積る期間を決めるうえで重要です。

そのため、どの資産を主要な資産としたのか、その資産の経済的残存使用年数をどのように見積もったのかを説明できる必要があります。


主要な資産の判断を誤ると、将来キャッシュ・フローの見積期間が変わり、減損損失の判定にも影響します。


実務上は、減損の兆候判定には注意を払っていても、その後の将来キャッシュ・フロー見積期間を決める主要な資産の特定が十分に議論されていないことがあります。


固有リスク要因としての不確実性・主観性・複雑性

会計上の見積りを監査する際には、固有リスク要因が重要になります。


代表的な固有リスク要因は、見積りの不確実性、主観性、複雑性です。


見積りの不確実性とは、将来の結果を正確に測定できない性質です。たとえば、市場成長率、販売数量、販売価格、原材料価格、為替、景気動向などは不確実性を伴います。


主観性とは、見積手法、仮定、データの選択に経営者の判断がどの程度必要かということです。たとえば、複数のシナリオから経営者が特定のシナリオを選択している場合や、過去実績よりも楽観的な計画を採用している場合、主観性が高いといえます。


複雑性とは、見積りの計算モデルや手法が複雑であることです。たとえば、M&Aで発生したのれんや無形資産の減損では、複雑な評価モデルが用いられることがあります。この場合、監査人が専門家を利用して評価モデルを検討することもあります。


KAMでは、単に「不確実性がある」と書くだけでなく、どの仮定に、どのような不確実性・主観性・複雑性があるのかを具体的に説明することが重要です。


割引率も重要な検討事項

固定資産の減損会計では、使用価値を算定する際に将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことがあります。


このとき重要になるのが割引率です。

割引率が高くなるほど、現在価値は小さくなり、減損損失の金額は大きくなる傾向があります。ただし、割引率を高くすれば保守的でよい、という単純な話ではありません。

なぜなら、減損損失を認識した後の帳簿価額は、翌期以降の減価償却費にも影響するからです。


割引率が高すぎると、当期の減損損失は大きくなりますが、翌期以降の減価償却負担は小さくなります。反対に、割引率が低ければ、当期の減損損失は小さくなりますが、翌期以降の減価償却負担は大きく残る可能性があります。


したがって、割引率の妥当性は、当期の減損損失だけでなく、翌期以降の損益にも影響する重要な論点です。


監査上は、割引率の計算基礎となるデータと外部データとの照合、専門家の利用、感応度分析の評価などが行われることがあります。


KAMの監査上の対応は具体性が重要

KAMでは、監査人がどのような監査手続を実施したのかを記載します。


ただし、単に「経営者の見積りを検討した」「外部データと比較した」「感応度分析を実施した」と書くだけでは、読み手にとって十分に有用とはいえません。


重要なのは、主要な検討事項と監査手続が対応していることです。

たとえば、販売数量の増加が主要な仮定であれば、市場成長予測、受注状況、生産能力、販売計画、過去実績との整合性を検討する必要があります。


販売価格の予測が主要な仮定であれば、外部機関の価格予測、競合状況、顧客との契約、価格転嫁の実績などを確認します。


割引率が主要な仮定であれば、割引率の計算モデル、インプットデータ、外部データとの整合性、感応度分析などを検討します。


KAMの有用性は、企業固有のリスク評価や監査上の判断がどこまで具体的に読み取れるかに左右されます。


監査役等とのコミュニケーション

会計上の見積りやKAMに関しては、監査役等とのコミュニケーションも重要です。


監査役等は、会社の業務や経営環境を理解している立場にあります。

そのため、監査人とのコミュニケーションの中で、見積りの主要な仮定やデータについて意見交換することが有効です。たとえば、固定資産の減損会計では、監査役等が次のような質問をすることが考えられます。

  • 減損の兆候がある資産グループはどこか

  • 主要な資産は何か

  • 経済的残存使用年数はどのように決めたか

  • 成長率は市場成長率と整合しているか

  • 販売数量や販売価格の予測は過去実績と比べて合理的か

  • 割引率の設定根拠は何か

  • 感応度分析の結果、どの仮定が最も影響するか

  • 会社の事業計画と見積りに矛盾はないか


監査役等がこれらの観点を持つことで、会計上の見積りやKAMの議論はより実質的になります。


会社側が準備すべき資料

固定資産の減損会計やKAM対応に向けて、会社側は早めに資料を整備しておくことが重要です。具体的には、次のような資料が必要になります。

  • 減損の兆候判定資料

  • 資産グループの整理資料

  • 主要な資産の特定根拠

  • 主要な資産の経済的残存使用年数の根拠

  • 取締役会で承認された予算や中期経営計画

  • 将来キャッシュ・フローの算定資料

  • 成長率の設定根拠

  • 販売数量、販売価格、粗利率、経費の見積資料

  • 外部市場データ

  • 過年度計画と実績の差異分析

  • 感応度分析

  • 割引率の算定資料

  • 会計上の見積りの注記案

  • 監査人との協議メモ


これらを決算直前に集めようとすると、時間が足りなくなることがあります。

減損会計は、決算数値に大きな影響を与えるため、早い段階から経理部門、事業部門、経営企画部門、監査役等、監査人が連携することが大切です。


実務で確認すべきチェックポイント

会計上の見積りの注記やKAMに関連して、固定資産の減損会計を検討する際には、次の点を確認しましょう。

  • 減損の兆候がある資産グループを把握しているか

  • 資産グループの単位は合理的か

  • 主要な資産を特定しているか

  • 主要な資産の経済的残存使用年数を説明できるか

  • 将来キャッシュ・フローの見積期間は妥当か

  • 予算や中期経営計画は取締役会等で承認されているか

  • 成長率は市場データや過去実績と整合しているか

  • 販売数量、販売価格、粗利率、経費の仮定を説明できるか

  • 過年度計画と実績の差異分析を行っているか

  • 外部データを利用している場合、その出所と適合性を確認しているか

  • 割引率の算定根拠を説明できるか

  • 感応度分析を実施しているか

  • 会計上の見積りの注記とKAMの内容に整合性があるか

  • 監査役等と主要な仮定について十分にコミュニケーションしているか


これらの検討を文書化しておくことで、監査対応だけでなく、経営判断や投資家説明にも役立ちます。


まとめ

KAMは、監査人が当年度の財務諸表監査において特に重要であると判断した事項を監査報告書に記載するものです。


KAMは監査人が記載するものですが、会社側の会計上の見積りの注記、事業計画、主要な仮定、監査役等とのコミュニケーションと密接に関係します。


固定資産の減損会計では、将来キャッシュ・フローの見積りが重要な論点になります。

その際、成長率、販売数量、販売価格、見積期間、主要な資産、経済的残存使用年数、割引率などが主要な仮定になり得ます。


これらの仮定には、不確実性、主観性、複雑性が含まれるため、監査上の主要な検討事項として取り上げられることがあります。


また、KAMに記載される監査上の対応は、主要な検討事項と対応している必要があります。販売数量の仮定、販売価格の仮定、成長率、割引率など、それぞれのリスクに対してどのような監査手続を実施したのかが重要です。


会社側としては、減損の兆候判定、資産グループ、主要な資産、将来キャッシュ・フロー、主要な仮定、感応度分析、割引率の根拠を早めに整理し、会計上の見積りの注記と監査人のKAM記載との整合性を意識する必要があります。


KAM対応は、単なる監査報告書の文章の問題ではありません。会社の見積りプロセス、内部統制、事業計画、経営判断、投資家への説明責任に関わる重要な実務論点です。


固定資産やのれんを多く保有する会社、業績が悪化している事業を持つ会社、M&A後の事業計画に不確実性がある会社は、決算前から会計上の見積りとKAMを意識した準備を進めることが大切です。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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