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高額賞与の源泉所得税は通常計算と違う?「前月給与の10倍超」の特例を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 10 分前
  • 読了時間: 12分

こんばんは!代表の安田です。


役員や従業員に賞与を支給するときは、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用して、源泉所得税および復興特別所得税を計算します。


しかし、賞与が前月給与と比べて著しく高額になる場合、通常のように「賞与額×税率」で計算することはできません。


具体的には、社会保険料等を控除した後の賞与額が、前月の社会保険料等控除後の給与額の10倍を超える場合、所得税法上の特例計算が必要です。


この特例を知らずに給与計算ソフトを使わず、Excelや手計算で源泉所得税を計算していると、源泉徴収税額を誤る可能性があります。


本日は、高額賞与に対する源泉所得税の特例計算について、通常の賞与計算との違い、具体的な計算手順、前月に給与がない場合の取扱い、役員賞与を支給する際の注意点を解説します。


賞与の源泉所得税は通常どのように計算する?

賞与から源泉徴収する所得税および復興特別所得税は、通常、次の手順で計算します。

  1. 前月の給与から社会保険料等を控除する

  2. 扶養親族等の人数を確認する

  3. 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から税率を確認する

  4. 社会保険料等控除後の賞与額に税率を掛ける

計算式にすると、次のようになります。

賞与の源泉徴収税額=社会保険料等控除後の賞与額×賞与の算出率

たとえば、前月給与の社会保険料等控除後の金額が30万円であり、扶養親族等が1人の場合は、この条件に対応する税率を算出率表から確認します。


そのうえで、社会保険料等を控除した後の賞与にその税率を掛ければ、原則的な源泉徴収税額を求められます。


なお、扶養控除等申告書を提出している人は「甲欄」、提出していない人は「乙欄」を使用します。


高額賞与では通常の算出率をそのまま使えない

高額賞与について特例計算が必要になるのは、次の条件に該当する場合です。

社会保険料等控除後の賞与額が、前月の社会保険料等控除後の給与額の10倍を超える場合

ここで注意したいのは、「賞与の額面」と「前月給与の額面」をそのまま比較するのではないことです。


判定に使用するのは、賞与と前月給与の双方について、社会保険料等を控除した後の金額です。


また、「10倍以上」ではなく、正確には「10倍を超える場合」が対象です。ちょうど10倍であれば、この特例ではなく通常の賞与計算を行ないます。


所得税基本通達においても、賞与額が前月中に支払った、または支払うべき通常の給与等の10倍相当額を超えるかどうかについて、判定方法が示されています。


<判定例>

前月の社会保険料等控除後の給与が40万円の場合、判定基準は次のとおりです。

40万円×10倍=400万円

社会保険料等控除後の賞与が400万円ちょうどであれば、原則として通常計算です。

一方、社会保険料等控除後の賞与が400万円を超える場合には、高額賞与の特例計算を行います。


なぜ高額賞与には特例計算があるのか

通常の賞与に使用する源泉徴収税率は、前月給与の水準を基準として決まります。

そのため、前月の月額給与を低めに設定し、賞与として非常に大きな金額を支給した場合に、前月給与に対応する低い税率をそのまま使用すると、賞与から徴収する所得税が極端に少なくなる可能性があります。


そこで、前月給与の10倍を超える高額賞与については、賞与を一定の月数で割り、通常の月給に加算したものとして月額表を適用する仕組みが設けられています。


特例計算は、あくまで賞与支給時点で徴収する源泉所得税を合理的に見積もるためのものです。最終的な年間所得税は年末調整または確定申告によって精算されます。


高額賞与の源泉所得税の計算方法

前月に通常の給与があり、社会保険料等控除後の賞与がその10倍を超える場合は、次の順序で計算します。


手順1:賞与を6または12で割る

まず、社会保険料等控除後の賞与額を6で割ります。

ただし、賞与の計算期間が6か月を超える場合には、6ではなく12で割ります。

社会保険料等控除後の賞与額÷6 または 社会保険料等控除後の賞与額÷12

通常、半年を対象とする賞与であれば6、1年間を対象とする賞与であれば12を使用するイメージです。


手順2:前月給与を加算する

手順1で求めた金額に、前月の社会保険料等控除後の給与額を加えます。

賞与の6分の1または12分の1+前月の社会保険料等控除後の給与額

手順3:月額表から税額を確認する

手順2の合計額を、給与所得の源泉徴収税額表の「月額表」に当てはめます。

扶養控除等申告書を提出している場合は甲欄、提出していない場合は乙欄を使用します。


手順4:前月給与に対する税額を差し引く

手順3で求めた税額から、前月給与だけを月額表に当てはめた税額を差し引きます。

合計額に対する月額表の税額-前月給与に対する月額表の税額

手順5:6または12を掛ける

最後に、手順4で求めた差額へ6または12を掛けます。

賞与の源泉徴収税額=税額の差額×6または12

国税庁も、前月給与の10倍を超える賞与について、この計算方法を示しています。


高額賞与の計算例

次の条件で考えてみましょう。

  • 前月給与の社会保険料等控除後の金額:30万円

  • 賞与の社会保険料等控除後の金額:600万円

  • 賞与の計算期間:6か月

  • 扶養控除等申告書:提出済み

  • 扶養親族等:0人


前月給与30万円の10倍は300万円です。


今回の賞与は600万円であるため、300万円を超えており、通常の算出率による計算ではなく特例計算の対象になります。


まず、賞与を6で割ります。

600万円÷6=100万円

これに前月給与30万円を加えます。

100万円+30万円=130万円

次に、130万円を月額表の甲欄に当てはめた税額を求めます。

そこから、前月給与30万円を月額表に当てはめた税額を差し引き、その差額を6倍します。

(130万円に対応する月額表の税額-30万円に対応する月額表の税額)×6

これが賞与から源泉徴収する所得税および復興特別所得税です。

実際の税額は、支給年分の源泉徴収税額表、扶養親族等の数、社会保険料等の額によって変わります。


前月に給与の支払いがない場合

賞与を支払う前月に給与の支払いがなかった場合も、通常の賞与算出率をそのまま使用するのではなく、別の方法で計算します。


計算手順は次のとおりです。

  1. 社会保険料等控除後の賞与額を6または12で割る

  2. その金額を月額表に当てはめて税額を求める

  3. 求めた税額を6または12倍する


計算式は次のようになります。

賞与の源泉徴収税額=賞与額÷6または12を月額表に当てはめた税額×6または12

たとえば、設立直後の法人で、役員に月額報酬をまだ支給していない状態で役員賞与だけを支給する場合などは、前月給与がないケースに該当する可能性があります。


また、休職や育児休業などにより、前月の給与支給がなかった従業員へ賞与を支払う場合にも注意が必要です。


賞与の計算期間が6か月を超えるか確認する

高額賞与の特例計算では、賞与額を「6」で割るのか「12」で割るのかによって税額が変わります。


国税庁の説明では、賞与の計算期間が6か月を超える場合には12を使用します。

たとえば、次のように考えられます。

  • 1月から6月までの業績を基礎とする夏季賞与:6

  • 7月から12月までの業績を基礎とする冬季賞与:6

  • 1年間の業績を基礎とする年1回の決算賞与:12


ただし、単に年1回支給しているから必ず12になるわけではありません。

賞与規程、取締役会議事録、事前確定届出給与に関する届出、支給決議書などから、その賞与がどの期間を対象としているかを確認する必要があります。


令和8年分は新しい源泉徴収税額表を使用する

令和8年分、つまり2026年中に支給する給与や賞与については、令和8年分の源泉徴収税額表を使用します。


令和7年度税制改正による基礎控除等の見直しに伴い、令和8年分から月額表や賞与に対する源泉徴収税額の算出率表が改正されています。


令和7年分以前の税額表をそのまま使用すると、源泉徴収税額を誤る可能性があるため注意してください。


給与計算をExcelで行なっている会社は、税率や金額区分が前年のままになっていないか確認しましょう。給与計算ソフトを使用している場合も、令和8年分の税制改正に対応したバージョンへ更新されているか確認する必要があります。


高額な役員賞与では法人税にも注意

役員に高額賞与を支給する場合は、源泉所得税だけでなく、法人税上の損金算入要件も確認しなければなりません。

役員賞与は、原則として次のいずれかに該当しなければ、法人税の計算上、損金に算入できません。

  • 定期同額給与

  • 事前確定届出給与

  • 一定の要件を満たす業績連動給与


一般的な中小企業が役員へ臨時の賞与を支給する場合は、事前確定届出給与の要件を満たしているかが問題になります。


事前確定届出給与では、原則として、税務署へ届け出た支給日と支給額どおりに支払う必要があります。


届出額より多く支給した場合だけでなく、少なく支給した場合や支給日がずれた場合にも、損金不算入となる可能性があります。


ただし、法人税上損金に算入できない役員賞与であっても、役員個人にとって給与所得であることには変わりません。


つまり、会社側で損金不算入となる場合でも、所得税の源泉徴収は必要です。


社会保険料の取扱いにも注意

賞与から控除する社会保険料は、標準賞与額を基礎として計算します。


ただし、健康保険や厚生年金保険には、標準賞与額の上限があります。

高額賞与では、支給額全額に対して社会保険料がかかるとは限りません。


また、健康保険と厚生年金保険では、上限の考え方が異なります。加入している健康保険組合によって取扱いが異なる場合もあるため、実際の計算時には確認が必要です。


源泉所得税の10倍判定や特例計算では、賞与から実際に控除される社会保険料等を差し引いた後の金額を使用します。


したがって、社会保険料の計算を誤ると、源泉所得税の判定や計算も連動して誤ることになります。


高額賞与の源泉所得税で起こりやすいミス

1.通常の賞与税率をそのまま掛けている

前月給与の10倍を超える賞与であるにもかかわらず、通常の算出率表の税率をそのまま掛けるミスです。

給与計算ソフトでは自動計算されることがありますが、手計算やExcelでは特に注意しましょう。


2.額面金額で10倍判定をしている

10倍判定は、賞与と前月給与の額面ではなく、それぞれの社会保険料等控除後の金額を基礎として行います。


3.前月給与がないのに税率を0%としている

前月給与が0円であるからといって、賞与の源泉所得税が0円になるとは限りません。

前月に給与の支払いがない場合は、賞与を6または12で割り、月額表を使用する特別な計算が必要です。


4.「10倍以上」を特例対象としている

特例対象は「10倍を超える場合」です。ちょうど10倍の場合は、原則として通常の賞与計算となります。


5.古い年度の税額表を使用している

源泉徴収税額表は税制改正により変更されることがあります。

特に令和8年分は、令和7年分以前と税額表の金額区分などが異なるため注意が必要です。


6.賞与の計算期間を確認せず一律に6で割っている

賞与の計算期間が6か月を超える場合は12を使用します。

賞与規程や支給決議の内容を確認しましょう。


7.役員賞与の法人税上の要件を確認していない

源泉所得税を正しく計算していても、事前確定届出給与の要件を満たさなければ、法人税上は損金に算入できない可能性があります。


賞与支給前のチェックリスト

高額賞与を支給する場合は、少なくとも次の事項を確認しましょう。

  • 賞与支給日

  • 賞与の額面金額

  • 賞与から控除する社会保険料等

  • 社会保険料等控除後の賞与額

  • 前月給与の額面金額

  • 前月給与から控除した社会保険料等

  • 前月給与の社会保険料等控除後の金額

  • 賞与が前月給与の10倍を超えるか

  • 賞与の計算期間が6か月以内か

  • 扶養控除等申告書の提出があるか

  • 扶養親族等の人数

  • 支給年分に対応する税額表を使用しているか

  • 役員賞与の場合は事前確定届出給与の要件を満たすか

  • 源泉所得税の納付期限


賞与から徴収した源泉所得税および復興特別所得税は、原則として賞与を支給した月の翌月10日までに納付します。


源泉所得税の納期の特例の承認を受けている場合には、一定の給与や賞与について半年分をまとめて納付できますが、対象者や対象所得を確認しておく必要があります。


まとめ

通常の賞与に対する源泉所得税は、前月の社会保険料等控除後の給与額と扶養親族等の数を基に税率を求め、社会保険料等控除後の賞与額にその税率を掛けて計算します。


ただし、社会保険料等控除後の賞与額が前月給与の10倍を超える場合には、通常の算出率を使用せず、月額表による特例計算が必要です。


特に押さえておきたいポイントは、次のとおりです。

  • 10倍判定は社会保険料等控除後の金額で行なう

  • ちょうど10倍ではなく、10倍を超える場合が特例対象

  • 賞与額を6または12で割って月額表を使用する

  • 前月に給与がない場合にも別の特例計算がある

  • 賞与の計算期間が6か月を超える場合は12を使用する

  • 2026年支給分は令和8年分の税額表を使用する

  • 役員賞与は法人税上の損金算入要件も確認する


高額賞与は、給与計算ソフトに入力すれば必ず正しく処理されるとは限りません。賞与の計算期間、前月給与の有無、扶養控除等申告書の提出状況などの設定が誤っていれば、計算結果も誤ります。


多額の役員賞与や決算賞与を支給する場合には、支給前に税理士や社会保険労務士へ確認することをおすすめします。


神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!

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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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