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業績連動給与の損金算入に注意|有価証券報告書を株主総会前に提出する場合の実務対応

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 時間前
  • 読了時間: 12分

こんばんは!代表の安田です。


上場会社を中心に、有価証券報告書を定時株主総会より前に提出する「総会前開示」の取組が広がっています。


投資家が株主総会前に有価証券報告書を確認できるため、企業の情報開示を充実させるという点では望ましい取組です。一方、役員に対する業績連動給与を導入している会社では、有価証券報告書の提出時期を早めることにより、法人税法上の損金算入要件との間にズレが生じる可能性があります。


特に注意したいのが、株主総会後の報酬委員会や取締役会で業績連動給与の算定方法を正式に決定する会社です。


算定方法の正式決定前に提出した有価証券報告書へ、決議予定の内容を記載しただけでは、原則として税務上の開示要件を満たしません。


ただし、その後、報酬委員会などで予定どおり決議した事実を適時開示等によって速やかに公表すれば、改めて有価証券報告書を提出し直さなくても、損金算入要件を満たすものとして取り扱われるとされています。


本日は、有価証券報告書の総会前開示と業績連動給与の損金算入要件について、上場会社が押さえておきたい実務上のポイントを解説します。


業績連動給与とは

業績連動給与とは、会社の利益、売上高、株価など、一定の業績指標を基礎として支給額や交付する株式数などが決まる役員給与です。


例えば、次のような指標に連動する報酬が考えられます。

  • 営業利益や当期純利益

  • 売上高

  • ROEやROIC

  • 株価や時価総額

  • TSR(株主総利回り)

  • ESGなどの非財務指標


役員に対する給与は、法人税法上、原則として損金不算入です。ただし、定期同額給与、事前確定届出給与または一定の要件を満たす業績連動給与に該当する場合には、損金算入が認められます。


業績連動給与については、法人税法第34条第1項第3号などにより、算定方法の客観性、決定手続、開示時期、支給時期、会計処理など、複数の要件が定められています。単に「業績に応じて役員報酬を支給する」と決めるだけでは、税務上の損金算入は認められません。


業績連動給与を損金算入するための主な要件

業績連動給与を損金算入するためには、主に次のような要件を満たす必要があります。


  • 算定方法が客観的であること

支給額や交付数の算定方法が、利益、売上高、株価などの客観的な指標を基礎としている必要があります。会社や取締役会が、決算後に裁量で支給額を決められるような仕組みでは、原則として損金算入の対象にはなりません。


  • 支給額などに上限が設けられていること

金銭による報酬であれば、支給額について確定した限度額を設ける必要があります。

「業績に応じて相当と認められる金額を支給する」といった曖昧な決め方ではなく、計算式や上限額をあらかじめ明確にすることが求められます。


  • 適正な手続によって決定されていること

算定方法は、一定の報酬委員会による決定など、法人税法上認められる適正な手続を経て決定する必要があります。どの機関で決定すればよいかは、会社の機関設計や独立社外取締役の構成などによって異なります。


  • 決定後、遅滞なく開示すること

今回、特に問題となるのがこの要件です。

業績連動給与の算定方法の内容は、報酬委員会などによる適正な決定手続が終了した日以後、遅滞なく、有価証券報告書への記載その他の方法によって開示しなければなりません。

国税庁は、開示対象について、業務執行役員ごとに、算定の基礎となる指標、限度額または限度数、客観的な算定方法の内容を明らかにする必要があるとしています。ただし、個人名まで開示する必要はなく、肩書別の開示でも足りる場合があります。


有価証券報告書の総会前開示とは

有価証券報告書の総会前開示とは、会社が有価証券報告書を定時株主総会の開催前に提出する取組です。


従来、多くの3月決算会社では、定時株主総会の開催日またはその直後に有価証券報告書を提出していました。しかし、投資家が株主総会の議決権を行使する前に、より充実した企業情報を確認できるようにするため、金融庁は総会前開示を推進しています。


金融庁は2026年2月20日付けで、有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点を更新しています。


一定の事項については、総会または取締役会で決議予定である旨を記載することにより、決議前でも有価証券報告書を提出できるよう、開示上の取扱いが整理されています。


ただし、金融商品取引法上、有価証券報告書へ記載できることと、法人税法上、業績連動給与の損金算入要件を満たすことは別の問題です。


決議前に有価証券報告書へ記載しただけでは要件を満たさない

例えば、次のようなスケジュールを想定します。

  1. 定時株主総会前に有価証券報告書を提出する

  2. 有価証券報告書には、報酬委員会で決議する予定の業績連動給与の算定方法を記載する

  3. 定時株主総会の直後に報酬委員会を開催する

  4. 報酬委員会で、有価証券報告書に記載した内容を正式に決議する


この場合、有価証券報告書に算定方法が記載されていたとしても、提出時点では、報酬委員会による正式な決定手続が終了していません。


法人税法上求められているのは、適正な決定手続が終了した後に、算定方法の内容を遅滞なく開示することです。


したがって、正式決定前に提出した有価証券報告書に、決議予定の算定方法を記載しただけでは、原則として業績連動給与の損金算入に必要な開示要件を満たしません。


ここは、金融商品取引法上の開示と法人税法上の損金算入要件を混同しやすいところです。


決議後に適時開示を行えば対応できる

それでは、総会前に提出した有価証券報告書だけでは要件を満たさない場合、会社は有価証券報告書を訂正または再提出しなければならないのでしょうか。


これについて、必ずしも有価証券報告書を改めて開示する必要はないとされています。

報酬委員会や取締役会で算定方法を正式に決定した後、その内容または決議した事実を、遅滞なく次のような方法で開示すれば、税務上の開示要件を満たすものとして取り扱われるとされています。

  • 適時開示

  • 臨時報告書

  • 半期報告書

  • その他、法令上認められる開示方法


重要なのは、「算定方法が正式な手続を経て決定されたこと」を、決定後速やかに外部へ明らかにすることです。


適時開示にはどこまで記載すればよいか

決議後の適時開示については、必ずしも業績連動給与の算定方法を一字一句すべて再掲する必要はないとされています。実務上は、主に次のような方法が考えられます。


  • 算定方法を改めて全文記載する

最も明確なのは、有価証券報告書に記載した算定方法を、適時開示資料にも改めて記載する方法です。情報が一つの資料で完結するため、税務上の証拠としても分かりやすい方法といえます。


  • 算定方法の要約を記載する

算定指標、計算方法、上限額などの主要な内容を要約して掲載する方法も考えられます。

ただし、要約が簡潔すぎると、どの算定方法が正式に決定されたのかが不明確になる可能性があります。有価証券報告書の該当箇所を明示し、その内容との関係を分かるようにしておくことが望ましいでしょう。


  • 有価証券報告書の内容が予定どおり決議された旨を記載する

例えば、次のような内容を適時開示する方法です。

「株主総会前に提出した有価証券報告書に記載した業績連動給与の算定方法について、○年○月○日開催の報酬委員会において、予定どおり決議しました。」

この方法であれば、算定方法を適時開示資料にすべて再掲しなくても、有価証券報告書に記載された内容と正式決議との対応関係を明確にできます。

ただし、実際の決議内容が有価証券報告書に記載した予定内容から変更されている場合には、このような簡略な記載では不十分となる可能性があります。

変更後の算定方法を明確に開示する必要があるでしょう。


「遅滞なく」の具体的な期限はあるのか

法人税法上は、適正な決定手続の終了後「遅滞なく」開示することが求められています。

ただし、原則として「決議後○日以内」という一律の期限が定められているわけではありません。

そのため、実務上は、報酬委員会や取締役会の開催後、可能な限り速やかに適時開示を行う必要があります。税務上のリスクを抑えるためには、次のような対応が考えられます。

  • 決議日当日または翌営業日に開示する

  • 決議前に適時開示資料の案を作成しておく

  • 有価証券報告書の記載内容と決議案を事前に照合する

  • 法務、経理、税務、IRの各部門で開示スケジュールを共有する

  • 決議議事録と適時開示資料の内容を一致させる


決議から開示までに相当の日数が空いた場合には、なぜその期間を要したのかを説明できるよう、社内記録を残しておくことも重要です。


総会前開示を行なう会社の実務上のチェックポイント

<有価証券報告書の記載だけで完結すると考えない>

総会前に提出する有価証券報告書へ、業績連動給与の算定方法を記載していても、提出時点で正式決定されていなければ、法人税法上の開示要件は完了していません。

決議後の追加開示までを一連の手続として管理する必要があります。


<有価証券報告書と決議内容を一致させる>

総会前の有価証券報告書には「予定」として記載し、その後の報酬委員会では別の計算式や限度額を決議している場合、当初の有価証券報告書を参照するだけでは、正式に決定した算定方法を開示したことになりません。

内容に変更があった場合は、変更後の算定方法を明確に開示する必要があります。


<適時開示の実施担当者を明確にする>

報酬制度の設計は人事部門、決議手続は取締役会事務局、適時開示はIR部門、税務判定は経理・税務部門が担当していることがあります。

担当部門が分かれていると、「誰かが対応していると思っていた」という理由で、決議後の開示が漏れるおそれがあります。

事前に責任者、開示方法、開示予定日を明確にしておくべきです。


<算定方法以外の損金算入要件も確認する>

決議後に適時開示を行なったとしても、それだけで業績連動給与の全要件を満たすわけではありません。次の事項についても個別に確認が必要です。

  • 対象となる役員の範囲

  • 算定指標の客観性

  • 確定した限度額または限度数

  • 報酬委員会などの構成

  • 決議期限

  • 支給または株式交付の時期

  • 損金経理の有無

  • 他の業務執行役員に対する報酬との関係

一つでも要件を満たさなければ、業績連動給与の全部または一部が損金不算入となる可能性があります。


具体的なスケジュール例

3月決算会社が、6月下旬の定時株主総会前に有価証券報告書を提出するケースを考えます。


<望ましい対応例>

  • 6月10日:有価証券報告書を提出

  • 6月10日:有価証券報告書に、報酬委員会で決議予定の算定方法を記載

  • 6月25日:定時株主総会を開催

  • 6月25日:株主総会後の報酬委員会で算定方法を正式決定

  • 6月25日または26日:決議した旨を適時開示


この場合、有価証券報告書の提出だけでは法人税法上の開示要件を満たしませんが、正式決議後、速やかに適時開示を行なうことによって対応します。


<リスクがある対応例>

  • 6月10日:有価証券報告書を提出

  • 6月25日:報酬委員会で算定方法を正式決定

  • 決議後の適時開示等を行なわない


この場合、算定方法は正式に決定されていますが、その手続終了後に遅滞なく開示したとはいえないため、業績連動給与の損金算入が否認されるリスクがあります。


税務調査に備えて保存しておきたい資料

業績連動給与を損金算入する場合には、開示資料だけでなく、制度設計から支給までの一連の資料を保存しておくことが重要です。具体的には、次の資料が考えられます。

  • 株主総会議事録

  • 取締役会議事録

  • 報酬委員会議事録

  • 報酬委員会の委員構成が分かる資料

  • 業績連動給与規程

  • 算定方法や上限額を定めた資料

  • 総会前に提出した有価証券報告書

  • 決議後の適時開示資料

  • 臨時報告書や半期報告書

  • 開示日時が分かる証拠

  • 業績指標の計算資料

  • 実際の支給額の計算資料

  • 会計仕訳および総勘定元帳


税務調査では、制度の形式だけでなく、決議、開示、計算、支給および会計処理が、あらかじめ定めた内容どおりに行われているかを確認される可能性があります。


まとめ

有価証券報告書を定時株主総会前に提出する会社が、株主総会後の報酬委員会などで業績連動給与の算定方法を正式に決定する場合、総会前の有価証券報告書に予定内容を記載しただけでは、法人税法上の損金算入要件を満たしません。


業績連動給与の算定方法は、適正な決定手続が終了した後、遅滞なく開示する必要があるためです。


もっとも、必ずしも有価証券報告書の再提出が必要になるわけではありません。

報酬委員会や取締役会で正式決議した後、有価証券報告書に記載した算定方法が予定どおり決議された旨を適時開示するなど、決定後速やかに外部へ明らかにすれば、開示要件を満たすものとして取り扱われるとされています。


総会前開示を実施する会社では、有価証券報告書の提出日だけでなく、報酬委員会の決議日と、その後の適時開示日まで含めてスケジュールを設計することが重要です。


業績連動給与は、一つの手続漏れによって多額の役員給与が損金不算入となる可能性があります。制度の導入や総会前開示への移行に当たっては、法務、IR、経理および税務の各担当者が連携し、決議内容と開示内容を事前に確認することをおすすめします。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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