「収用等のあった日」はいつ?代替資産の取得期限と5,000万円特別控除の注意点を税理士が解説
- 安田亮
- 3 時間前
- 読了時間: 13分
こんにちは!代表の安田です。
公共事業や道路整備、再開発などに伴い、所有している土地や建物が収用等の対象になることがあります。
収用と聞くと、強制的に土地を取られるようなイメージがあるかもしれませんが、実務上は公共事業の施行者との話し合いにより、土地売買契約や物件移転補償契約などを締結して進むケースも多くあります。
このような収用等により土地や建物を譲渡した場合、通常の不動産売却とは異なり、税務上の特例が用意されています。
代表的なものが、次の2つです。
1つ目は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例です。
2つ目は、収用交換等の場合の5,000万円特別控除です。
どちらも税負担を大きく左右する重要な制度ですが、実務では「収用等のあった日」がいつなのかを誤ると、代替資産の取得期限や特例の適用判断を誤ってしまうことがあります。
本日は、「収用等のあった日」の考え方と、代替資産の取得期限、5,000万円特別控除との関係について、税理士の視点から解説します。
収用等があった場合には税務上の特例がある
土地収用法など、収用権が認められている公共事業のために土地や建物を譲渡した場合には、通常の譲渡所得とは異なる課税の特例を受けられることがあります。
国税庁は、収用等により土地建物を売った場合の特例として、「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例」と「譲渡所得から最高5,000万円まで控除できる特別控除」の2つを案内しています。
このうち、代替資産の特例は、収用等で譲渡した資産の代わりに一定の資産を取得した場合に、課税を将来に繰り延べる制度です。
一方、5,000万円特別控除は、一定要件を満たす収用等について、譲渡所得から最高5,000万円を控除できる制度です。
どちらを使うかによって、税額や将来の取得費に影響します。
そのため、収用等の補償金を受け取ったときには、「とりあえず5,000万円控除でよい」と決めつけるのではなく、代替資産の取得予定や将来の売却可能性も含めて検討する必要があります。
代替資産の取得特例とは
収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例とは、収用等により受け取った補償金等で代わりの資産を取得した場合に、譲渡益への課税を繰り延べられる制度です。
たとえば、公共事業のために土地を譲渡し、その補償金で別の土地や建物を取得するようなケースです。
個人の場合、売った金額より買い換えた金額が多いときは、売った年について譲渡所得がなかったものとされます。一方、買い換えた金額が少ないときは、その差額を収入金額として譲渡所得を計算します。
法人の場合にも、収用等により交付を受けた補償金等で代替資産を取得した場合、一定の経理方法を採用することで圧縮記帳の適用を受けられる制度があります。国税庁は、法人の収用等に係る特例について、原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得することを要件の一つとして示しています。
代替資産の特例は、税金が永久に免除される制度ではありません。
取得した代替資産の取得費が調整されるため、将来その代替資産を売却したときに、繰り延べられた課税が表面化することがあります。
つまり、「今の税負担を抑える制度」であり、「税金が完全になくなる制度」ではない点に注意が必要です。
5,000万円特別控除との違い
収用等の場合には、代替資産の特例のほかに、5,000万円特別控除を検討することがあります。
5,000万円特別控除は、収用等による譲渡所得から最高5,000万円まで控除できる制度です。代替資産を取得しない場合や、今後の資産取得予定がない場合には、この特別控除を選択することが多いでしょう。
ただし、代替資産の特例と5,000万円特別控除は、通常、同じ譲渡について重ねて適用するものではありません。
どちらが有利かは、譲渡益の金額、代替資産の取得予定、将来の売却予定、資金繰り、年齢、相続対策などによって変わります。
たとえば、譲渡益が5,000万円以下で、代替資産を取得する予定がない場合には、5,000万円特別控除で譲渡所得が大きく圧縮される可能性があります。
一方、補償金を使って新たな賃貸物件や事業用資産を取得する場合には、代替資産の特例を検討する余地があります。
この判断は税額だけでなく、その後の資産管理にも関わります。
「収用等のあった日」がなぜ重要なのか
収用等の税務で特に注意したいのが、「収用等のあった日」です。
なぜなら、この日を基準に、代替資産の取得期限が決まるからです。
法人の収用等に係る特例では、原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得することが要件とされています。
個人の収用等に伴う代替資産取得の特例についても、原則として「収用等のあった日」から一定期間内に代替資産を取得する必要があります。
この「収用等のあった日」を誤って判断すると、まだ期限があると思っていたのに、実は期限が迫っていた、あるいはすでに期限を過ぎていた、ということが起こり得ます。
当初は「土地の譲渡日」を収用等のあった日と考えていたところ、契約内容を確認すると、実際には「物件移転補償契約に基づく建物等の引渡し」が先に行なわれており、その日が基準日になる可能性があるケースもあります。
収用等の税務では、日付の判断が非常に重要です。
「収用等のあった日」は契約書名だけでは判断できない
実務では、収用等に関して複数の契約書が作成されることがあります。
たとえば、次のような契約です。
土地売買契約書
物件移転補償契約書
建物・工作物等の移転補償契約書
借家人への補償契約
営業補償に関する契約
登記に関する書類
支払通知書
所有権移転登記に関する書類
このように複数の契約や書類がある場合、「どの日が収用等のあった日なのか」を慎重に確認する必要があります。
土地の所有権移転登記の日が基準になる場合もあれば、建物や工作物等の引渡し日が問題になる場合もあります。
特に、収用等により土地の上にある建物や工作物を移転・撤去する場合、その物件の引渡しや移転完了日が重要になることがあります。
したがって、契約書のタイトルだけを見て判断するのではなく、契約内容、引渡し条項、補償金の支払条件、登記日、物件移転完了日などを総合的に確認する必要があります。
代替資産の取得期限は原則2年
収用等に伴い代替資産を取得する場合、原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得する必要があります。
法人の場合、国税庁のタックスアンサーでも、特例の適用要件として「原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得すること」が示されています。
この2年という期間は、思ったより短いものです。
土地を探す
建物を設計する
建築確認を取る
融資を受ける
売買契約を締結する
建物を完成させる
引渡しを受ける
これらをすべて行なうには、2年では足りないこともあります。
特に、事業用地や賃貸物件を探す場合には、条件に合う物件がすぐに見つかるとは限りません。
また、建物を新築する場合には、設計・許認可・工事期間を考える必要があります。
「まだ2年ある」と思っていても、実務上はすぐに動き出すべきです。
取得期限の延長が認められる場合もある
代替資産の取得期限は原則2年ですが、一定の場合には延長承認を受けられることがあります。
国税庁は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例について、収用等に係る事業が完了しないため、収用のあった日以後4年を経過した日までに代替資産を取得することが困難であると認められる場合に、取得期限の延長承認申請の手続きを案内しています。
ただし、延長承認は当然に認められるものではありません。
また、提出時期にも注意が必要です。
国税庁の手続案内では、代替資産の取得期限延長承認申請について、収用等があった日後4年を経過した日から2月以内に提出する旨が示されています。
実務では、期限が近づいてから慌てるのではなく、代替資産の取得が遅れそうな段階で早めに検討することが大切です。
「代替資産を買う予定」だけでは足りない
代替資産の特例を考える場合、「将来、代わりの土地を買うつもりです」というだけでは不十分です。
実際に期限内に取得できるか、取得する資産が代替資産に該当するか、取得資金の流れが説明できるかを確認する必要があります。
特に次の点は重要です。
代替資産の候補が決まっているか
売買契約や建築請負契約の予定があるか
取得資金に補償金を充てる予定か
代替資産が事業用に使われるか
譲渡資産との関連性が説明できるか
取得期限内に引渡しを受けられるか
登記や固定資産台帳への登録ができるか
収用等により受け取った補償金を使って別の資産を取得する場合でも、税務上の要件を満たさなければ特例は使えません。
契約前の段階から、取得予定資産が特例の対象になるかを確認しておくべきです。
収用等の契約では「日付」を必ず整理する
収用等の案件では、関係する日付が多くなります。
実務上は、次のような日付を一覧化しておくとよいでしょう。
公共事業の計画通知日
買取り等の申出日
土地売買契約日
物件移転補償契約日
補償金の支払日
土地の引渡し日
建物・工作物等の引渡し日
建物の取壊し日
所有権移転登記日
代替資産の売買契約日
代替資産の引渡し日
代替資産の登記日
代替資産の事業供用開始日
これらの日付を整理することで、「収用等のあった日」「代替資産の取得期限」「申告時期」「特例の適用可否」を判断しやすくなります。
逆に、日付が曖昧なままだと、特例の判断を誤るリスクがあります。
契約書や資料は必ず読み込む
収用等の案件では、自治体や公共事業の施行者が作成した契約書や通知書が複数存在します。
顧問先から「この資料で大丈夫です」と渡されたものだけで判断すると、重要な資料を見落とす可能性があります。特に確認したい資料は次のとおりです。
土地売買契約書
物件移転補償契約書
補償金の内訳書
公共事業施行者からの通知書
登記事項証明書
所有権移転登記の完了書類
引渡確認書
補償金の入金資料
代替資産の取得契約書
代替資産の登記事項証明書
建築請負契約書
固定資産台帳
資料を見れば、契約書上は「土地の引渡し日」と「物件の移転完了日」が異なっていることもあります。その差が、代替資産取得期限に大きく影響することがあります。
収用等の特例は「公共事業なら何でも使える」わけではない
収用等の特例は、公共事業に関係する譲渡であれば必ず使えるというものではありません。
収用等に該当するかどうか、補償金の性質、譲渡した資産の種類、代替資産の内容、申告書への記載、添付書類などを確認する必要があります。
また、棚卸資産については特例の対象外となる場合があります。
国税庁は、法人の収用等の特例について、収用等された資産が固定資産であることを要件としており、不動産業者などが販売目的で所有している土地・建物などの棚卸資産は、この特例の対象にならないと説明しています。
不動産会社が販売用土地を公共事業のために譲渡する場合などは、固定資産の収用等とは異なる取扱いになるため注意が必要です。
5,000万円特別控除を使う場合も期限管理が重要
代替資産を取得しない場合には、5,000万円特別控除を選択するケースが多いでしょう。
ただし、5,000万円特別控除にも要件があります。
たとえば、買取り等の申出があった日から一定期間内に譲渡すること、収用等に該当する譲渡であること、確定申告で必要な手続きを行うことなどが問題になります。
代替資産の取得期限ほど目立たないものの、5,000万円特別控除でも
いつ申出があったのか
いつ譲渡したのか
どの資産について特例を使うのか
という日付と資料の確認が重要です。
また、複数の資産が収用等の対象になる場合には、補償金の内訳を確認する必要があります。
土地の対価補償金なのか、建物の移転補償金なのか、営業補償なのか、立退料なのかによって、税務処理が変わることがあります。
個人と法人で処理が異なる点にも注意
収用等の税務は、個人と法人で取扱いが異なります。
個人の場合は、譲渡所得の計算、代替資産の取得特例、5,000万円特別控除などが中心になります。
法人の場合は、圧縮記帳、別表調整、固定資産台帳への反映、会計処理、決算書への影響なども確認しなければなりません。
法人の収用等に係る特例では、損金経理により代替資産の帳簿価額を減額する方法、確定した決算において積立金として積み立てる方法、決算の確定日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法が示されています。
同じ「収用等」でも、個人の確定申告と法人決算では、実務対応が大きく変わります。
顧問先が法人なのか個人なのかによって、必要な資料や処理方法を分けて整理しましょう。
税理士が早めに関与すべき理由
収用等の案件では、税理士が後から資料を見て初めて重要な期限に気づくことがあります。
しかし、その時点で代替資産の取得期限が迫っていたり、すでに契約内容が固まっていたりすると、選択肢が限られます。
本来であれば、次の段階で税理士が関与するのが望ましいです。
公共事業の説明を受けた段階
買取り等の申出を受けた段階
補償金の提示を受けた段階
土地売買契約や物件移転補償契約を締結する前
代替資産の取得を検討する前
補償金を受け取る前
確定申告・法人決算の前
収用等では、契約内容や日付が税務に直結します。
契約締結後に税務上の問題に気づいても、契約内容を変更できないことがあります。
早めに相談することで、代替資産特例を使うのか、5,000万円特別控除を使うのか、どの資料を残すべきかを整理できます。
実務でのチェックリスト
収用等の案件では、次の点を確認しましょう。
収用等に該当する公共事業か
買取り等の申出日はいつか
土地売買契約日はいつか
物件移転補償契約日はいつか
土地の引渡し日はいつか
建物や工作物等の引渡し日はいつか
所有権移転登記日はいつか
補償金の入金日はいつか
補償金の内訳はどうなっているか
対価補償金、移転補償金、営業補償などの区分
代替資産を取得する予定があるか
代替資産の取得期限に間に合うか
代替資産の契約日・引渡し日・登記日
取得期限延長承認申請の必要性
5,000万円特別控除との有利不利
個人か法人か
固定資産か棚卸資産か
申告書の添付書類
保存すべき契約書・通知書・明細書
これらを一つずつ確認することで、収用等の特例の適用漏れや期限ミスを防ぎやすくなります。
まとめ:「収用等のあった日」は資料を見て慎重に判断する
収用等により土地や建物を譲渡した場合には、代替資産取得の特例や5,000万円特別控除など、税務上有利な制度を検討できます。
しかし、これらの特例は、要件や期限を満たして初めて使える制度です。
特に、代替資産取得の特例では、「収用等のあった日」から原則2年以内に代替資産を取得する必要があります。
この「収用等のあった日」は、単に土地売買契約日や所有権移転登記日だけで判断できるとは限りません。
物件移転補償契約、土地の引渡し、建物や工作物等の移転、補償金の支払条件など、複数の資料を確認して慎重に判断する必要があります。
また、代替資産の取得が遅れる場合には、取得期限の延長承認申請を検討する余地があります。
収用等の案件は、日付と資料の整理が何より大切です。
公共事業に伴う土地・建物の譲渡がある場合には、契約締結前または補償金を受け取る前の段階で、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!

【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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