贈与税の基礎控除110万円とは?暦年課税と相続時精算課税の改正ポイントを税理士が解説
- 安田亮
- 17 時間前
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こんばんは!代表の安田です。
贈与税の基礎控除110万円とは?暦年課税と相続時精算課税の改正ポイントを税理士が解説
贈与税について調べると、よく出てくるのが「年間110万円までなら贈与税がかからない」という説明です。
親から子へ現金を渡す場合、祖父母から孫へ教育費や生活資金を渡す場合、夫婦間で資金移動をする場合など、贈与税の基礎控除110万円は非常に身近な制度です。
しかし、税法の条文を見ると、少しややこしい構造になっています。
実は、相続税法本法では、贈与税の基礎控除は「60万円」と規定されています。
それにもかかわらず、現在の暦年課税では、租税特別措置法により「110万円」を控除する特例が設けられています。
つまり、実務上よく使われる110万円控除は、相続税法本法の60万円ではなく、租税特別措置法による特例として適用されているものです。
さらに、令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が創設されました。
これにより、贈与税の基礎控除を考える際には、暦年課税の110万円だけでなく、相続時精算課税の110万円控除も理解しておく必要があります。
本日は、贈与税の基礎控除110万円の仕組み、なぜ条文上は60万円と110万円が併存しているのか、暦年課税と相続時精算課税の違い、令和5年度改正後の注意点を解説します。
贈与税とは
贈与税とは、個人から財産をもらった人に課される税金です。
贈与税は、財産をあげた人ではなく、財産をもらった人に課税されます。
たとえば、父から子へ現金300万円を贈与した場合、贈与税の納税義務者は、財産を受け取った子です。
贈与税の対象となる財産には、現金や預金だけでなく、不動産、有価証券、車、貴金属、保険金、債務免除による利益など、さまざまなものがあります。
また、名義を変えただけでも、実質的に財産が移転していれば贈与税が問題になることがあります。
贈与税には、主に「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの課税方式があります。
どちらを使うかによって、基礎控除や税率、相続時の取扱いが変わります。
暦年課税とは
暦年課税とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与について、受贈者ごとに贈与税を計算する方式です。もっとも一般的な贈与税の計算方法です。
暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引きます。その残額に、一般税率または特例税率を適用して贈与税額を計算します。
たとえば、1年間に父から100万円の贈与を受けた場合、贈与財産の合計額は100万円です。
基礎控除110万円以下なので、贈与税はかかりません。
一方、1年間に父から300万円の贈与を受けた場合、300万円から110万円を差し引いた190万円が贈与税の課税対象になります。
基礎控除110万円は受贈者ごとに判定する
暦年課税の基礎控除110万円は、贈与者ごとではなく、受贈者ごとに1年間で判定します。
ここは非常に誤解されやすい点です。
たとえば、子が同じ年に父から100万円、母から100万円の贈与を受けたとします。
この場合、父からの100万円と母からの100万円を別々に見て、それぞれ110万円以下だから非課税、とはなりません。
子が1年間に受けた贈与の合計額は200万円です。
そこから基礎控除110万円を差し引いた90万円が、贈与税の課税対象になります。
つまり、基礎控除110万円は「もらう人1人につき年間110万円」です。
「贈与する人ごとに年間110万円」ではありません。
親族間の贈与では、この点を間違えないようにしましょう。
なぜ条文上は60万円と110万円があるのか
贈与税の基礎控除について、実務では110万円として扱います。
しかし、相続税法本法では、贈与税の基礎控除は60万円と規定されています。
では、なぜ実際には110万円控除が使われているのでしょうか。
これは、平成13年度税制改正の経緯によるものです。
平成13年度改正では、暦年課税の贈与税の基礎控除が60万円から110万円へ引き上げられました。
ただし、この引上げは、相続税の抜本的な見直しまでの臨時的・当面の措置と位置付けられました。そのため、相続税法本法の60万円という規定を直接110万円に書き換えるのではなく、租税特別措置法で「相続税法の規定にかかわらず、課税価格から110万円を控除する」という特例が設けられました。
この結果、相続税法本法には60万円が残り、租税特別措置法で110万円控除を適用するという二層構造になっています。
実務上は110万円を控除する
条文構造は少し複雑ですが、平成13年1月1日以後の贈与について、実務上は暦年課税の基礎控除額は110万円です。
贈与税の申告が必要かどうかを判断する際も、110万円を基準にします。
たとえば、1年間に受けた贈与が110万円以下であれば、通常、暦年課税の贈与税申告は不要です。
一方、1年間に受けた贈与が110万円を超える場合には、贈与税の申告が必要になる可能性があります。
ここで、相続税法本法に60万円と書かれているからといって、60万円を超えたら申告が必要になるわけではありません。
租税特別措置法の110万円控除が、相続税法上の基礎控除として控除されたものとみなされるためです。つまり、申告要否や税額計算では、110万円控除を前提に判断します。
贈与税申告が必要になるケース
暦年課税では、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円を超える場合、原則として贈与税の申告が必要です。
申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。
たとえば、令和6年中に300万円の贈与を受けた場合、令和7年2月1日から3月15日までに贈与税申告書を提出し、納税する必要があります。
ただし、贈与税申告が必要かどうかは、単純な現金贈与だけでなく、次のような取引でも問題になります。
不動産の名義変更
親が子の借金を肩代わりした場合
無利息または低利で資金を貸した場合
時価より著しく低い価額で財産を譲渡した場合
生命保険金を受け取った場合で保険料負担者と受取人が異なる場合
夫婦間で住宅購入資金を出し合った場合
これらは、当事者が贈与と思っていなくても、税務上は贈与とみなされることがあります。
一般税率と特例税率
暦年課税で基礎控除110万円を差し引いた後の金額には、贈与税率を適用します。
贈与税率には、一般税率と特例税率があります。
一般税率は、兄弟間、夫婦間、第三者間、親から未成年の子への贈与などに使います。
一方、特例税率は、父母や祖父母などの直系尊属から、贈与年の1月1日に18歳以上の子や孫などが贈与を受けた場合に使います。
同じ金額の贈与であっても、特例税率の対象になる場合は、一般税率より税額が軽くなることがあります。
たとえば、親から18歳以上の子へまとまった資金を贈与する場合には、特例税率を使えるかどうかを確認しましょう。
ただし、親から子への贈与であっても、子が贈与年の1月1日に18歳未満であれば、特例税率ではなく一般税率になります。
相続時精算課税とは
相続時精算課税とは、一定の父母や祖父母などから、一定の子や孫などへ財産を贈与する場合に選択できる贈与税の制度です。
原則として、贈与者は贈与年の1月1日に60歳以上の父母または祖父母など、受贈者は同日に18歳以上の子または孫などである必要があります。
相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については、累計2,500万円までの特別控除を使えます。2,500万円を超える部分については、一律20%の贈与税が課されます。
ただし、この制度の大きな特徴は、贈与時に精算して終わりではないことです。
相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなったとき、その贈与者から受けた相続時精算課税適用財産は、一定の計算により相続税の課税価格に加算されます。
名前のとおり、「相続時に精算する」制度です。
相続時精算課税は一度選ぶと戻れない
相続時精算課税は、贈与者ごとに選択できます。
たとえば、父からの贈与について相続時精算課税を選択し、母からの贈与については暦年課税のままにすることも可能です。
しかし、一度相続時精算課税を選択した贈与者については、その後、その贈与者からの贈与を暦年課税に戻すことはできません。
たとえば、父からの贈与について相続時精算課税を選択した場合、その年以後、父から受ける贈与はすべて相続時精算課税の対象になります。
以前は、相続時精算課税を選択すると、暦年課税の110万円基礎控除が使えなくなるため、少額贈与には不向きとされることもありました。
しかし、令和5年度改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました。
この改正により、相続時精算課税の使い勝手は大きく変わっています。
令和5年度改正で相続時精算課税にも110万円控除が創設
令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が創設されました。この改正は、令和6年1月1日以後に相続時精算課税により贈与を受ける財産について適用されています。
改正後は、相続時精算課税を選択した受贈者が、特定贈与者から贈与を受けた場合、その年分の相続時精算課税に係る贈与財産の価額から、基礎控除額110万円を控除します。
そのうえで、必要に応じて累計2,500万円の特別控除を適用し、残額があれば20%の税率を乗じて贈与税を計算します。
また、相続時に相続財産へ加算される金額も、令和6年1月1日以後の贈与については、基礎控除110万円を控除した後の残額とされます。
この点は、改正前の相続時精算課税と大きく異なります。
相続時精算課税の110万円控除も条文上は60万円と特例
相続時精算課税に創設された基礎控除についても、暦年課税と同じような条文構造になっています。つまり、相続税法上は基礎控除が60万円とされ、租税特別措置法により110万円とする特例が設けられる形です。
これは、暦年課税の基礎控除110万円と平仄を合わせたものです。
実務上は、令和6年1月1日以後の相続時精算課税の贈与について、年110万円の基礎控除が使えると理解すれば足ります。
ただし、税法の条文を読む場合には、本法上の60万円と措置法上の110万円特例という構造を理解しておくと、制度の読み違いを防げます。
特に、申告要否や相続税加算額の計算では、110万円控除を前提に判断します。
暦年課税の110万円と相続時精算課税の110万円は別物
同じ「年110万円の基礎控除」といっても、暦年課税の110万円と相続時精算課税の110万円は別物です。
暦年課税の110万円は、その年に受贈者が受けた暦年課税の贈与全体について使う基礎控除です。
一方、相続時精算課税の110万円は、相続時精算課税を選択した特定贈与者からの贈与について適用される基礎控除です。
相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与には、暦年課税の110万円控除は使えません。
たとえば、父について相続時精算課税を選択している場合、父からの贈与は相続時精算課税の対象になります。
この父からの贈与について、暦年課税の110万円控除を使うことはできません。
ただし、母について相続時精算課税を選択していなければ、母からの贈与は暦年課税として、暦年課税の110万円控除の対象になります。
相続時精算課税の110万円は特定贈与者ごとではない
相続時精算課税の110万円控除で注意したいのが、基礎控除額の考え方です。
国税庁の案内では、同一年中に2人以上の特定贈与者から相続時精算課税に係る贈与を受けた場合、基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分するとされています。
つまり、特定贈与者ごとに110万円ずつ控除できるわけではありません。
たとえば、父と母の両方について相続時精算課税を選択しており、同じ年に父から100万円、母から100万円の贈与を受けた場合、父から110万円、母から110万円をそれぞれ控除して合計220万円控除できるわけではありません。
相続時精算課税に係る基礎控除は、同一年中の対象贈与全体について110万円です。
複数の特定贈与者から贈与を受けた場合には、その110万円を贈与額に応じて按分します。
令和6年以後の相続税加算にも注意
令和6年1月1日以後、相続時精算課税により取得した贈与財産については、相続税の計算上、基礎控除110万円を控除した後の残額が相続財産に加算されます。
これは非常に重要な改正です。
改正前は、相続時精算課税を選択した贈与者から受けた贈与財産は、原則として贈与時の価額が相続税の課税価格に加算されていました。
改正後は、年110万円の基礎控除部分については、相続税の課税価格に加算されません。
したがって、相続時精算課税を選択していても、毎年110万円以内の贈与であれば、贈与税がかからず、相続税の加算対象にもならないという効果が期待できます。
ただし、相続時精算課税は一度選択すると暦年課税に戻れない制度です。
将来の相続税、贈与者の財産規模、受贈者の人数、他の相続人との公平性などを考慮して選択する必要があります。
暦年課税の生前贈与加算は7年へ延長
令和5年度改正では、相続時精算課税の110万円控除創設だけでなく、暦年課税の生前贈与加算の見直しも行なわれました。
相続または遺贈により財産を取得した人が、被相続人から相続開始前一定期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合、その贈与財産は相続税の課税価格に加算されます。
改正前は、この加算期間は相続開始前3年以内でした。
改正後は、令和6年1月1日以後の贈与について、段階的に相続開始前7年以内へ延長されます。ただし、延長された4年間に受けた贈与については、合計100万円まで相続税の加算対象から除かれます。
この改正により、相続前の暦年贈与を使った相続税対策は、より長期的な計画が必要になりました。
暦年課税と相続時精算課税の選択ポイント
令和6年以後は、暦年課税と相続時精算課税のどちらを使うかについて、これまで以上に慎重な検討が必要です。
暦年課税は、制度がシンプルで、相続時精算課税のような届出をしなくても適用されます。
一方で、相続開始前7年以内の贈与については、一定の相続人等に相続税の加算対象となる可能性があります。
相続時精算課税は、令和6年以後、年110万円の基礎控除が創設され、基礎控除部分は相続税の加算対象にもなりません。
一方で、一度選択した贈与者については暦年課税に戻れず、2,500万円を超える贈与には20%の贈与税がかかり、相続時に精算が必要です。
どちらが有利かは、贈与者の年齢、財産規模、相続税の見込み、贈与額、贈与する財産の種類、受贈者の人数によって変わります。
贈与税の基礎控除でよくある誤解
贈与税の基礎控除について、実務上よくある誤解を整理します。
110万円は贈与者ごとに使える
暦年課税の基礎控除は、受贈者ごとに年間110万円です。
複数人から贈与を受けた場合は、その合計額から110万円を控除します。
相続時精算課税を選んでも暦年課税の110万円が使える
相続時精算課税を選択した特定贈与者からの贈与については、暦年課税の110万円控除は使えません。令和6年以後は、相続時精算課税独自の110万円基礎控除を使うことになります。
相続時精算課税の110万円は特定贈与者ごとに使える
同一年中に複数の特定贈与者から贈与を受けた場合でも、基礎控除は合計110万円であり、贈与額に応じて按分します。
条文に60万円とあるから60万円を超えたら申告が必要
実務上は、租税特別措置法の110万円特例により、110万円控除を前提に申告要否や税額を判断します。
贈与前に確認したいチェックポイント
贈与を行なう前には、次の点を確認しましょう。
誰から誰への贈与か
暦年課税か、相続時精算課税か
相続時精算課税を既に選択している贈与者か
その年に他の人からも贈与を受けていないか
暦年課税の贈与合計額が110万円を超えるか
相続時精算課税の贈与について、年110万円控除と2,500万円特別控除の残額を確認しているか
相続税の生前贈与加算の対象になり得るか
不動産や株式など、評価が必要な財産ではないか
贈与契約書や振込記録を残しているか
名義預金と見られないよう、受贈者が財産を管理しているか
贈与税は、後から気づいて修正するのが大変な税目です。
贈与前に課税方式と基礎控除の使い方を確認しておきましょう。
まとめ
贈与税の基礎控除といえば、一般的には年間110万円として知られています。
暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引き、その残額に一般税率または特例税率を適用して贈与税を計算します。
ただし、税法の条文上は少し複雑です。
相続税法本法では、贈与税の基礎控除は60万円と規定されています。
一方、平成13年度税制改正で暦年課税の基礎控除が60万円から110万円に引き上げられた際、相続税法本法の60万円を残しつつ、租税特別措置法により110万円控除の特例が設けられました。
そのため、実務上は110万円控除を使いますが、条文構造としては本法60万円、措置法110万円特例という形になっています。
また、令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が創設されました。
この相続時精算課税の基礎控除についても、暦年課税と平仄を合わせ、本法上の60万円と租税特別措置法上の110万円特例という構造になっています。
令和6年以後の相続時精算課税では、年110万円の基礎控除を差し引いた後、必要に応じて累計2,500万円の特別控除を適用し、残額に20%の税率を乗じて贈与税を計算します。
また、相続時には、令和6年1月1日以後の相続時精算課税による贈与財産について、基礎控除110万円を控除した後の残額が相続税の課税価格に加算されます。
一方、暦年課税では、令和6年1月1日以後の贈与について、生前贈与加算の対象期間が段階的に3年から7年へ延長されます。
贈与税の基礎控除110万円はシンプルに見えますが、暦年課税と相続時精算課税では使い方も相続時の影響も異なります。
贈与を行なう際は、年間110万円以内かどうかだけで判断せず、誰から誰への贈与か、相続時精算課税を選択しているか、将来の相続税にどう影響するかまで確認しましょう。
贈与税申告や生前贈与の設計で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。





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