組織再編の行為計算否認で納税者勝訴|東京地裁判決から見る合理的な事業目的の重要性
こんにちは!代表の安田です。
企業グループ内で事業再編を行なう場合、合併、会社分割、事業譲渡、株式交換など、さまざまな手法が検討されます。
その際、税務上大きな論点となるのが、組織再編成に係る行為計算否認規定です。
組織再編は、企業グループの経営効率化や事業統合のために行われる一方で、欠損金の引継ぎや含み損益の繰延べなど、税務上の効果も大きくなります。そのため、税負担の減少効果がある組織再編については、税務調査で「法人税の負担を不当に減少させるものではないか」が問題になることがあります。
今回、東京地方裁判所は、組織再編成に係る行為計算否認規定の適用を巡る事件について、納税者側の請求を認め、国が行った法人税の更正処分等を取り消しました。
本件では、100%子会社2社の事業を別会社へ会社分割により移した後、その子会社2社を親会社が吸収合併し、合計約50億円の未処理欠損金額を引き継いだことが問題となりました。
東京地裁は、本件各合併の主たる目的の一つが税負担の減少にあったことは認めつつも、税負担の減少以外の合理的な事業目的があったとして、法人税法132条の2に基づく否認は違法と判断しています。
本日は、この東京地裁判決の概要と、組織再編を行う企業が実務上押さえておきたいポイントを整理します。
組織再編成に係る行為計算否認規定とは
法人税法132条の2は、組織再編成に係る行為計算否認規定です。
合併、会社分割、現物出資、株式交換、株式移転などの組織再編成について、その行為または計算が法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長がその行為または計算にかかわらず、法人税額等を計算できるという規定です。
簡単にいえば、形式上は法律の要件を満たしている組織再編であっても、組織再編税制の趣旨・目的から逸脱し、不当に税負担を減らすような場合には、税務上否認され得るという制度です。
ただし、この規定がどこまで適用されるのかは、実務上非常に重要で難しい問題です。
企業にとっては、事業上の必要性から組織再編を行った結果として税務メリットが生じることもあります。税務メリットがあるからといって、直ちに「不当な税負担減少」とされるわけではありません。
本件の組織再編の概要
本件では、原告であるX社が、100%子会社であるA社、B社、C社との間で一連の組織再編を行いました。
流れを整理すると、次のようになります。
まず、A社は約38億円の未処理欠損金額を有していました。A社は唯一のa事業をC社へ会社分割により承継させ、その後、X社がA社を吸収合併しました。
次に、B社は約12億円の未処理欠損金額を有していました。B社も唯一のa事業をC社へ会社分割により承継させ、その後、X社がB社を吸収合併しました。
これにより、A社とB社のa事業はC社に集約され、A社とB社はX社に吸収合併される形となりました。
X社は、この適格合併により、A社・B社の未処理欠損金額合計約50億円を引き継ぎ、自社の所得から控除して法人税等の確定申告を行ないました。
これに対し、国は、組織再編成に係る行為計算否認規定を適用し、更正処分等を行いました。
争点は欠損金引継ぎの否認が適法か
本件の大きな争点は、X社が適格合併によりA社・B社の未処理欠損金額を引き継いだことについて、法人税法132条の2に基づき否認できるかどうかです。
適格合併では、一定の要件を満たす場合、被合併法人の未処理欠損金額を合併法人が引き継ぐことがあります。
本件でも、A社・B社とX社との合併は適格合併に該当していました。
そのため、形式的には欠損金引継ぎの要件を満たしていたと考えられます。
しかし、国は、一連の組織再編の結果、A社・B社の事業がC社へ移された後、事業を失ったA社・B社をX社が吸収合併し、欠損金だけを引き継いだ形になっているとして、法人税の負担を不当に減少させるものと主張したものと考えられます。
東京地裁は国の否認を違法と判断
東京地裁は、国の行った更正処分等を取り消し、納税者側の請求を認めました。
裁判所は、本件各合併について、税負担の減少以外の合理的な事業目的があったと認定しています。
ポイントは、X社が数年来、a事業における組織体制の強化と事業規模の拡大を経営課題として掲げ、専門部署を設けるなどしていた点です。
A社・B社には、グループ内各社や同業他社のa事業が順次集約されていました。
その後、A社・B社の事業がC社へ分割により移されたことも、a事業における組織体制の強化と事業規模の拡大という経営課題に沿うものと評価されています。
つまり、単に欠損金を利用するためだけに作られた形式的な再編ではなく、実態のある事業再編の一環であると判断されたわけです。
税負担減少目的があっても直ちに否認されない
本件で重要なのは、東京地裁が、本件各合併の主たる目的の一つがX社の税負担の減少にあったこと自体は認めている点です。
それでも裁判所は、税負担の減少以外の合理的な事業目的があったと判断しました。
つまり、組織再編によって税負担の減少効果があり、会社がそれを意識していたとしても、それだけで直ちに行為計算否認の対象になるわけではありません。
事業上の合理性、再編の経緯、経営課題との整合性、手順や方法の自然さ、実態との対応関係などを総合的に見て、組織再編税制の趣旨・目的から逸脱するものかどうかが判断されます。
この点は、企業実務にとって非常に重要です。
合理的な事業目的とは何か
本件で裁判所が重視した合理的な事業目的は、a事業における組織体制の強化と事業規模の拡大です。
X社グループでは、数年間にわたり、X社および複数の子会社等が行っていたa事業をA社・B社に統合し、さらにA社・B社や他の子会社等のa事業をC社へ統合するという一連の再編が行なわれていました。
本件各合併は、そのような再編の結果として、法人格を存続させる意義が失われた子会社を整理する目的で行われたものとされています。
したがって、事業をC社へ集約した後、A社・B社を合併により整理することには、グループ組織を簡素化し、不要な法人を整理するという事業上の意味があったと考えられます。
このような経緯があるため、税負担の減少効果があっても、全体として実態のある事業再編の一環と評価されたのです。
手順や方法が不自然ではないことも重要
東京地裁は、本件各分割・本件各合併の手順や方法についても検討しています。
裁判所は、本件各分割が、C社にa事業を円滑に実施させるための措置を伴っていたことなどを踏まえ、その手順や方法が、組織再編成として通常想定されない不自然なものとは認め難いと判断しています。
また、実態とはかい離した形式を作出したものとも認め難いとされています。
組織再編税制の行為計算否認では、事業目的だけでなく、再編の手順・方法・形式が通常想定されるものかどうかも重要な判断要素になります。
事業上の目的があるとしても、手順が過度に迂回的であったり、実態と形式が大きくかい離していたりすれば、否認リスクが高まる可能性があります。
完全支配関係適格合併と従前事業継続
本件では、国側が、完全支配関係適格合併であっても従前事業継続が前提として想定されていると主張しました。
つまり、被合併法人であるA社・B社の事業が合併前にC社へ移され、合併時にはA社・B社に事業が残っていなかったことを問題視したものと考えられます。
これに対し、東京地裁は、完全支配関係適格合併について、法文上、従前事業継続は要件とされていないと指摘しました。
支配関係適格合併では従前事業継続が要件として明示されている一方、完全支配関係適格合併ではそのような要件が定められていません。
裁判所は、法人税法132条の2を通じて、法文にない要件を一律に持ち込むような国の主張は、租税法律主義の趣旨に照らして相当ではないとしています。
完全支配関係では経済実態が重視される
東京地裁は、完全支配関係適格合併について、合併法人と被合併法人との間に完全支配関係がある場合には、合併前から合併法人が被合併法人の移転資産等の処分を支配し得る関係にあると整理しています。
そのため、合併によりその支配が現実化したとしても、移転資産等に係る経済実態は合併前後を通じて変更されていないと評価できます。
このような考え方から、完全支配関係適格合併では、合併時点で移転資産等の処分に係る損益を計上させる必要がないという立法政策がとられているとされています。
この整理は、完全支配関係にあるグループ内再編の税務判断において重要です。
未処理欠損金額にも完全支配関係による支配が及んでいた
本件では、A社・B社が有していた未処理欠損金額についても、完全支配関係によるX社の支配が及んでいたと認められています。
裁判所は、本件各分割によりA社・B社の事業および資産が失われたことのみをもって、未処理欠損金額の繰越しの前提となる経済実態が失われたとはいえないとしました。
つまり、事業をC社へ分割承継した後にA社・B社を合併したからといって、それだけで欠損金引継ぎの前提となる経済実態が失われたとは評価されなかったわけです。
この点は、グループ内で事業統合と法人整理を組み合わせて行う場合に、実務上注目される判断です。
組織再編税制の趣旨・目的から逸脱しているか
東京地裁は、本件各合併について、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨および目的から逸脱する態様でその適用を受け、または免れるものではないと判断しています。
組織再編税制の基本的な考え方は、組織再編により資産・負債が移転する場合には原則として譲渡損益を認識しつつ、移転資産等に対する支配が継続している場合には課税関係を継続させるというものです。
完全支配関係にある法人間では、合併前後を通じて支配関係が継続しているため、経済実態に照らして課税繰延べが認められる場面があります。
本件では、A社・B社はX社の100%子会社であり、従前からX社の支配が及んでいました。そのため、未処理欠損金額をX社が引き継ぐことが、法人税法57条2項の本来の趣旨・目的を逸脱するものとは解し難いとされています。
不要になった子会社の合併が一律に否認されるわけではない
本件判決では、組織再編の過程で不要となった子会社の合併について、法人税法132条の2の適用が一律に否定されるわけではないとも示されています。
つまり、事業を別会社に移した後、残った子会社を合併するという手順であっても、それだけで直ちに不当な税負担減少とはいえません。
重要なのは、その再編がどのような経緯で行なわれたのか、事業上の目的があるのか、手順が自然か、実態と形式が対応しているかという個別事情です。
グループ内再編では、事業統合の結果として法人格を残す意味がなくなる会社が出ることがあります。そのような会社を合併により整理すること自体は、一般的な組織再編の一場面といえます。
実務上のポイント1:事業目的を明確にする
組織再編を行なう際には、税務メリットだけでなく、事業上の目的を明確にしておくことが重要です。たとえば、次のような目的です。
事業部門の統合
経営資源の集中
重複機能の整理
グループ管理コストの削減
組織体制の強化
事業規模の拡大
地域別・機能別の事業再編
不要法人の整理
意思決定の迅速化
財務体質の改善
これらの目的が実態として存在し、社内資料や取締役会資料、経営会議資料に記録されていることが重要です。
後から税務調査や争訟になった場合、再編時点でどのような経営課題を認識し、どのような目的で再編を行ったのかを説明できる資料が必要になります。
実務上のポイント2:一連の再編ストーリーを残す
本件では、数年間にわたり、a事業の統合・集約が段階的に進められていたことが重視されています。
これは、単発の税務メリット目的の再編ではなく、経営課題に沿った一連の事業再編であることを示す重要な事情でした。
実務でも、組織再編を行なう場合には、個々の合併や分割をバラバラに説明するのではなく、全体としてどのような再編ストーリーがあるのかを整理しておくことが大切です。
たとえば、「複数子会社に分散していた事業を段階的に統合する」「地域別に分かれていた事業を一つの会社に集約する」「事業を移した後、不要になった法人を整理する」というように、再編全体の流れを説明できるようにしておくべきです。
実務上のポイント3:手順の自然さを確認する
組織再編では、同じ結果を得るために複数の手法があり得ます。
その中で、選択した手順が通常想定されない不自然なものではないか、実態とかい離していないかを確認する必要があります。
税務メリットを得るためだけに迂回的な手順を選んでいるように見える場合、否認リスクが高まります。
一方で、事業上の理由からその手順を選んだことを説明できる場合には、合理性を示しやすくなります。
たとえば、分割で事業を移してから合併する理由として、事業運営会社をC社に集約する必要がある、C社の財務内容を健全化する必要がある、不要法人を整理する必要があるなど、具体的な理由を整理しておくことが重要です。
実務上のポイント4:欠損金の利用目的だけに見えないようにする
欠損金を有する子会社を合併する場合、税務上はどうしても欠損金利用が問題になりやすくなります。
もちろん、欠損金の引継ぎ効果を認識して再編を行うこと自体が直ちに否認されるわけではありません。
しかし、社内資料や意思決定過程が、欠損金の利用だけを目的としているように見える場合には、否認リスクが高まります。
組織再編の検討資料では、税務効果だけでなく、事業上の必要性や経営上のメリットをきちんと記載しておくことが重要です。
たとえば、事業統合による売上拡大、管理部門の効率化、顧客対応の一元化、事業責任の明確化など、税務以外の目的を具体的に整理しておきましょう。
実務上のポイント5:租税法律主義と法文上の要件
本件判決では、完全支配関係適格合併について、法文上要求されていない従前事業継続を、法人税法132条の2を通じて一律に要求することは相当ではないとされています。
これは、税務当局による否認規定の適用にも限界があることを示すものです。
ただし、これは「法文上の要件さえ満たせば何をしてもよい」という意味ではありません。
法人税法132条の2は、組織再編税制の趣旨・目的から逸脱するような場合に適用され得る規定です。そのため、法文上の形式要件を満たしていても、実態や事業目的が乏しい場合には、否認リスクがあります。
実務では、法文上の要件確認と、事業目的・経済実態の確認を両方行う必要があります。
税務調査で確認されやすい資料
組織再編に関する税務調査では、次のような資料が確認される可能性があります。
組織再編の検討資料
取締役会議事録
経営会議資料
稟議書
グループ再編方針
事業計画書
再編前後の組織図
各会社の事業内容
分割契約書
合併契約書
税務シミュレーション資料
欠損金の発生経緯
再編による事業上の効果を示す資料
人員・資産・契約の移転状況
再編後の事業運営実態
これらの資料により、組織再編が実態のある事業再編であること、税負担減少以外の合理的な事業目的があることを説明できるようにしておくことが重要です。
判決を過信しすぎないことも重要
本件は納税者勝訴の判決ですが、この判決だけをもって、欠損金を有する子会社の合併が広く安全になったと考えるのは危険です。
裁判所も、組織再編の過程で不要となった子会社の合併について、法人税法132条の2の適用が一律に否定されるものではなく、その適否は個別の事実関係に応じて決せられるべきとしています。
つまり、同じように事業を移した後で欠損金を有する子会社を合併するケースでも、事業目的や再編の経緯、手順、経済実態によって判断は変わります。
本件で納税者側が勝訴したのは、数年来の経営課題に沿った事業再編の一環であり、手順や方法が不自然ではなく、税負担減少以外の合理的な事業目的が認められたためです。
個別事情の積み重ねが重要です。
まとめ
東京地方裁判所は、組織再編成に係る行為計算否認規定の適用を巡る事件について、納税者側の請求を認め、国が行った法人税の更正処分等を取り消しました。
本件では、X社が100%子会社であるA社・B社・C社との間で一連の組織再編を行ないました。具体的には、A社が唯一のa事業をC社へ分割承継した後、X社がA社を吸収合併し、約38億円の未処理欠損金額を引き継ぎました。また、B社も唯一のa事業をC社へ分割承継した後、X社がB社を吸収合併し、約12億円の未処理欠損金額を引き継ぎました。合計すると、X社は約50億円の未処理欠損金額を引き継いだことになります。
国は、この欠損金引継ぎについて、法人税法132条の2を適用し、法人税の更正処分等を行いました。しかし、東京地裁は、本件各合併について、税負担の減少以外の合理的な事業目的があったと認定し、国の否認を違法と判断しました。
裁判所は、X社が数年来、a事業における組織体制の強化と事業規模の拡大を経営課題として掲げ、A社・B社などに事業を集約し、その後C社へ統合するという一連の事業再編を行っていたことを重視しています。また、本件各合併は、そのような再編の結果として法人格を存続させる意義が失われた子会社を整理する目的で行われたものであり、全体として実態のある事業再編の一環であると判断しました。
さらに、東京地裁は、完全支配関係適格合併について、法文上、従前事業継続は要件とされていないと指摘しました。法人税法132条の2を通じて、法文にない従前事業継続要件を一律に要求するような国の主張は、租税法律主義の趣旨に照らして相当ではないとしています。
本件判決から分かるのは、組織再編に税負担減少の効果があるとしても、それだけで直ちに否認されるわけではないということです。重要なのは、税負担減少以外の合理的な事業目的があるか、再編の手順や方法が自然か、実態とかい離していないか、組織再編税制の趣旨・目的から逸脱していないかです。
組織再編を検討する企業は、税務メリットだけでなく、事業上の目的、再編の経緯、手法選択の理由、再編後の事業運営実態を資料として残しておくことが大切です。特に、欠損金を有する子会社の合併を伴う場合には、法人税法132条の2の否認リスクを意識し、実行前から税務・法務・会計の専門家と連携して慎重に検討しましょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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