役員退職金はいくらまで損金にできる?過大役員退職給与と功績倍率法を税理士が解説
- 安田亮
- 11 時間前
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おはようございます!代表の安田です。
役員退職金は、中小企業の税務で非常に重要な論点です。
長年会社に貢献してきた創業者や代表取締役が退任する際、会社として役員退職金を支給することは珍しくありません。
役員退職金は、会社にとっては大きな損金になります。
一方、退職する役員個人にとっては、退職所得として課税されるため、給与所得よりも税負担が軽くなることが多いです。
そのため、役員退職金は、事業承継、退職後の生活資金、法人税対策、相続対策など、さまざまな面で活用されます。
しかし、役員退職金は「支給すれば全額損金になる」というものではありません。
法人税では、役員退職給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金不算入とされます。
いわゆる過大役員退職給与です。
役員退職金は金額が大きくなりやすいため、税務調査で否認されると法人税等への影響も大きくなります。
本日は、役員退職金の損金算入ルール、過大役員退職給与の考え方、功績倍率法、平均功績倍率法、最高功績倍率法、1年当たり平均額法、退職直前の報酬増額リスクについて、税理士の視点から解説します。
役員退職給与とは
役員退職給与とは、役員が退職することにより法人から支給される給与をいいます。
代表取締役、取締役、監査役などが退任する際に支給される退職慰労金が典型例です。
中小企業では、創業者である代表取締役が後継者へ事業承継する際に、長年の功労に報いるために役員退職金を支給するケースが多くあります。
また、死亡退職により遺族へ弔慰金や死亡退職金を支給する場合もあります。
役員退職給与は、通常の月額役員報酬とは異なり、一時に多額の金額が支給されます。
そのため、会社の損金算入額、個人の退職所得課税、資金繰り、株価評価、事業承継計画に大きな影響を与えます。
役員退職給与も高すぎる部分は損金不算入
法人税法上、役員退職給与については、不相当に高額な部分の金額が損金不算入とされます。つまり、退職役員に対して支給した金額のうち、その役員に対する退職給与として相当と認められる金額までは損金算入できます。
しかし、その相当額を超える部分は、会社の損金になりません。
この「相当と認められる金額」は、法令で具体的に「いくらまで」と定められているわけではありません。
主に次の要素を総合して判断します。
役員が会社の業務に従事した期間
退職の事情
同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況
役員の功績
会社の規模や収益力
支給額の計算根拠
そのため、役員退職金を支給する際には、計算根拠を明確にしておくことが重要です。
業績連動型の役員退職給与には別の注意がある
平成29年度税制改正後、役員退職給与のうち業績連動給与に該当するものについては、業績連動給与の損金算入要件を満たす必要があります。
上場会社などでは、株式報酬や業績連動型退職報酬を導入するケースがあります。
この場合、通常の退職慰労金とは別に、業績連動給与としての要件を確認する必要があります。
一方、中小企業の多くでは、業績指標に連動させた退職報酬ではなく、最終報酬月額、勤続年数、功績倍率を使って退職金を計算することが一般的です。
このような功績倍率法による役員退職給与は、通常、業績連動給与には該当しないものとして整理されます。
したがって、中小企業では、まず過大役員退職給与に該当しない金額かどうかが中心論点になります。
功績倍率法とは
役員退職金の相当額を計算する方法として、実務上よく使われるのが功績倍率法です。
功績倍率法は、次の計算式で役員退職給与を算定する方法です。
最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
たとえば、最終報酬月額が100万円、勤続年数が30年、功績倍率が3.0倍の場合、役員退職金の計算額は次のようになります。
100万円 × 30年 × 3.0倍 = 9,000万円
この方法は、中小企業の役員退職金規程でもよく採用されています。
功績倍率は、役員の会社に対する功績や退職給与の支払能力など、最終報酬月額と勤続年数だけでは表せない事情を反映する係数と考えられます。
ただし、会社が任意に高い功績倍率を設定すればよいわけではありません。
税務上は、同業類似法人の支給状況と比較して、相当な範囲かどうかが問題になります。
平均功績倍率法とは
裁判例や税務調査でよく問題になるのが、同業類似法人の功績倍率です。
同業類似法人とは、退職給与を支給した法人と同種の事業を営み、事業規模が類似する法人をいいます。
功績倍率法では、同業類似法人の役員退職給与の支給事例から功績倍率を計算し、その倍率を自社の退職役員に当てはめて相当額を算定します。
同業類似法人の平均値を使う方法を、平均功績倍率法といいます。
たとえば、同業類似法人3社の功績倍率が2.5倍、3.2倍、2.4倍だった場合、平均功績倍率は2.7倍です。
この2.7倍を、自社の退職役員の最終報酬月額と勤続年数に乗じて相当額を計算します。
裁判例では、平均功績倍率法が採用されることが多く、課税庁側も基本的には平均功績倍率法を主張する傾向があります。
最高功績倍率法とは
最高功績倍率法とは、同業類似法人の功績倍率のうち、最も高い倍率を使って相当額を計算する方法です。
納税者側としては、平均功績倍率法よりも高い相当額を主張しやすくなります。
たとえば、同業類似法人の功績倍率が2.5倍、3.2倍、2.4倍であれば、最高功績倍率は3.2倍です。平均功績倍率2.7倍よりも高いため、損金算入できる退職金相当額も大きくなります。
ただし、最高功績倍率法が認められるハードルは高いです。
裁判例では、同業類似法人の抽出件数が少ない、比較対象法人との類似性が極めて高い、平均値によることが不合理である特段の事情がある場合などに限り、最高功績倍率法の適用が検討される傾向があります。
したがって、会社側が最初から安易に最高功績倍率を前提として退職金を決めるのは危険です。
功労加算は認められるのか
役員退職金規程では、通常の計算額に加えて、功労加算を認めることがあります。
たとえば、創業者や代表取締役について、通常計算額の30%を上限として功労加算できるとする規程です。
ただし、規程に功労加算があるからといって、税務上も必ず認められるわけではありません。
実際の裁判例では、退職慰労金規程に基づいて功労加算を行っていたとしても、同業類似法人の平均功績倍率との比較により、不相当に高額な部分があると判断された事例があります。
功労加算を行なう場合には、その役員に特別な功績があることを説明できる資料が必要です。単に創業者だから、長年社長だったから、というだけでは十分でない場合があります。
新規事業の立上げ、業績の大幅拡大、財務改善、危機対応、事業承継への貢献など、具体的な功績を議事録や資料に残しておくことが重要です。
1年当たり平均額法とは
功績倍率法が使えない、または不合理とされる場合には、1年当たり平均額法が用いられることがあります。
1年当たり平均額法は、同業類似法人の役員退職給与の支給額を勤続年数で割り、1年当たりの退職給与額を求め、その平均額に自社の退職役員の勤続年数を乗じる方法です。
簡単にいうと、次のような計算です。
同業類似法人の1年当たり退職給与額の平均 × 退職役員の勤続年数
この方法は、最終報酬月額が退職役員の功績を反映していない場合に採用されることがあります。たとえば、退職直前に合理的理由なく報酬月額を大幅に増額しているケースです。
功績倍率法では最終報酬月額が計算の土台になるため、その最終報酬月額が不自然であれば、功績倍率法で計算すること自体が不合理とされる可能性があります。
退職直前の報酬増額は危険
役員退職金を多く支給したい会社がやりがちな失敗が、退職直前に役員報酬を増額することです。
功績倍率法では、最終報酬月額を使って退職金を計算します。
そのため、退職直前に月額報酬を上げれば、計算上の退職金相当額も大きくなります。
しかし、合理的理由のない退職直前の増額は、税務上かなり危険です。
裁判例では、退職の翌月に過去の役員報酬を遡及して増額し、増額後の最終報酬月額を基に多額の役員退職金を支給した事例で、その増額は退職給与の算定根拠を整える目的と見られ、功績倍率法ではなく1年当たり平均額法が採用されました。
この事例では、会社側が報酬月額を大幅に増額する合理的理由を説明できず、経理担当者も増額理由が分からないと供述していたことが重視されています。
退職金を多く支給したいから退職直前に報酬を上げる、という処理は避けるべきです。
報酬月額を低く抑えすぎるのも問題
一方で、役員報酬を長期間低く抑えすぎることにも注意が必要です。
法人税や社会保険料の負担を抑えるため、代表者の月額報酬を必要以上に低く設定している会社があります。
しかし、役員退職金を功績倍率法で計算する場合、最終報酬月額が低ければ、損金算入できる退職金相当額も低くなります。
退職直前に報酬を上げても、合理的理由がなければ認められない可能性があります。
そのため、将来ある程度の役員退職金を支給したい場合には、在任中から職務内容や会社規模に見合った役員報酬を設定しておくことが重要です。
退職金だけで帳尻を合わせようとするのではなく、役員報酬と退職金を一体で設計する必要があります。
勤続年数の判断にも注意
役員退職金の計算では、勤続年数も重要です。
功績倍率法でも1年当たり平均額法でも、勤続年数が長いほど相当額は大きくなります。
しかし、どの期間を勤続年数に含めるかが争いになることがあります。
たとえば、設立時から会社に関与していたとしても、途中で取締役を辞任していた期間がある場合、その期間を通算できるかが問題になります。
裁判例では、形式上は取締役を退任していた期間でも、実質的に会社の経営に従事していたと認められる場合には、その期間を考慮する余地があるとされています。
一方、過去の退任時に退職金なしという形で清算されているような事情がある場合には、その前の期間をその後の退職金計算に含められない可能性もあります。
勤続年数は登記上の在任期間だけでなく、実質的な経営関与や過去の退任時の処理も確認する必要があります。
同業類似法人の選定は厳しく見られる
過大役員退職給与の裁判例では、同業類似法人の選定が重要な争点になります。
課税庁は、同一または隣接する国税局管内、同種事業、類似規模、一定期間内に役員退職給与を支給した法人などの条件で比較対象を抽出することがあります。
規模の類似性では、売上高が自社の0.5倍以上2倍以下の範囲にある法人を抽出する、いわゆる倍半基準が使われることがあります。
ただし、抽出された法人の役員が代表取締役か取締役か監査役か、死亡退職か普通退職か解任か、勤続年数の取り方が正しいかなども問題になります。
裁判例では、監査役の退職金事例や、退職事情が異なる事例が除外されたケースもあります。比較対象の選定によって平均功績倍率や1年当たり平均額が変わるため、非常に重要なポイントです。
税務調査後に争っても厳しいことが多い
資料で紹介されている裁判例を見ると、税務署の当初更正時の金額が、後の裁決や裁判よりも納税者に有利だったケースもあります。
つまり、税務調査で否認された後に争った結果、当初より厳しい水準で判断されることもあるということです。
もちろん、不合理な更正処分であれば争うべき場合もあります。
しかし、役員退職金については、税務調査の段階で否認されないように設計しておくことが最も重要です。
支給後に争うより、支給前に退職金規程、計算式、議事録、功績資料、同業水準、資金計画を整えておく方がはるかに安全です。
役員退職金は、金額が大きいからこそ、事前準備がものをいいます。
役員退職金規程を整備する
役員退職金を支給する場合には、役員退職慰労金規程を整備しておくことをおすすめします。規程には、次のような事項を定めます。
支給対象者
支給時期
計算方法
最終報酬月額の定義
勤続年数の計算方法
役位別功績倍率
功労加算の有無
功労加算の上限
死亡退職の場合の取扱い
支給決議の手続
ただし、規程があるだけで必ず税務上認められるわけではありません。
規程に基づいていても、功績倍率や功労加算が同業類似法人の水準から見て高すぎれば、過大役員退職給与と判断される可能性があります。
規程はあくまで社内ルールです。
税務上は、その計算結果が相当額の範囲内かどうかが問われます。
株主総会議事録を残す
役員退職金を支給する場合、会社法上も手続が重要です。
取締役に対する退職慰労金は、原則として定款または株主総会決議により定める必要があります。
実務では、株主総会で退職慰労金の支給を決議し、具体的な金額や算定方法を取締役会に一任することがあります。
中小企業では、株主と役員が同一または親族であるため、議事録の作成が軽視されがちです。しかし、税務調査では、いつ、誰に、いくら、どのような計算根拠で役員退職金を支給することを決議したのかが確認されます。
株主総会議事録、取締役会議事録、退職金計算書、退職金規程は必ず保存しておきましょう。
退職の事実を明確にする
役員退職金を損金算入するには、退職の事実があることも重要です。
代表取締役を退任したといっても、その後も実質的に会社を支配し、経営判断を続けている場合には、本当に退職したといえるかが問題になります。
たとえば、次のような場合は注意が必要です。
代表取締役退任後も会長や相談役として経営を指揮している
後継者が形式上代表になっただけで実権は前代表にある
主要取引先との交渉を引き続き行っている
金融機関対応や資金繰りを前代表が決めている
重要な人事や投資判断に関与している
このような場合、退職金ではなく、実質的には在職中の給与と見られるリスクがあります。
役員退職金を支給する場合には、退任後の役職、権限、報酬、業務関与の範囲を整理しておく必要があります。
実務で保存しておきたい資料
役員退職金の税務リスクに備えるため、次の資料を保存しておきましょう。
役員退職慰労金規程
株主総会議事録
取締役会議事録
退職金計算書
最終報酬月額の根拠資料
勤続年数の計算資料
登記事項証明書
役員就任・退任履歴
過去の退職金支給履歴
功労加算の理由資料
会社業績への貢献資料
同業水準の参考資料
退任後の職務権限を示す資料
退職所得の源泉徴収票
資金繰り資料
これらの資料があることで、役員退職金の支給額が合理的であることを説明しやすくなります。
よくある誤解
役員退職金について、実務上よくある誤解を整理します。
功績倍率3倍なら必ず大丈夫
3倍という数字は実務でよく見かけますが、法令で一律に認められているわけではありません。会社の業種、規模、役員の職務、同業類似法人の支給状況により判断されます。
役員退職金規程どおりなら全額損金
規程どおりでも、金額が不相当に高額であれば損金不算入になります。
退職直前に報酬を上げれば退職金を増やせる
合理的理由のない直前増額は、退職金計算のための増額と見られ、認められない可能性があります。
税務調査で指摘されても争えば有利になる
裁判例では、争った結果、当初更正時より厳しい水準で判断されるケースもあります。
実務上のチェックポイント
役員退職金を支給する前に、次の点を確認しましょう。
退職の事実があるか
退任後も実質的に経営に関与していないか
役員退職慰労金規程があるか
計算式は明確か
最終報酬月額は適正か
退職直前に不自然な報酬増額をしていないか
勤続年数の計算は正しいか
過去の退任期間や退職金支給履歴を確認したか
功績倍率は同業水準から見て高すぎないか
功労加算の理由を説明できるか
株主総会議事録を作成しているか
退職金計算書を保存しているか
資金繰りに無理がないか
このチェックを行なうことで、過大役員退職給与として否認されるリスクを下げることができます。
まとめ
役員退職金は、長年会社に貢献した役員へ支給する重要な制度です。
中小企業では、創業者や代表取締役の退任、事業承継、死亡退職などの場面で、大きな金額の役員退職金を支給することがあります。しかし、法人税では、役員退職給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金不算入とされます。
相当額は、役員の業務従事期間、退職事情、同業類似法人の役員退職給与の支給状況などを総合して判断されます。
実務上は、最終報酬月額、勤続年数、功績倍率を使う功績倍率法がよく使われます。
同業類似法人の平均功績倍率を用いる平均功績倍率法が採用されることが多く、納税者に有利な最高功績倍率法が認められるハードルは高いといえます。
また、最終報酬月額が退職役員の功績を反映していない場合には、功績倍率法ではなく、1年当たり平均額法が用いられることがあります。
特に、退職直前に合理的理由なく報酬月額を増額した場合、その増額は退職給与の算定根拠を整える目的と見られ、認められない可能性があります。
一方で、在任中の報酬月額を必要以上に低く抑えていると、功績倍率法で計算できる退職金相当額も低くなります。
将来役員退職金を支給したい場合には、退職直前に慌てて増額するのではなく、在任中から職務内容や会社規模に見合った役員報酬を設定しておくことが大切です。
役員退職金を安全に支給するには、役員退職慰労金規程、株主総会議事録、退職金計算書、功績資料、同業水準の確認資料を整えておきましょう。
役員退職金の支給額や損金算入で迷う場合は、支給前に税理士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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