代替資産を取得したのに課税繰延べを受けられない?収用等の特例と5,000万円控除を税理士が解説
- 安田亮
- 10 時間前
- 読了時間: 11分
おはようございます!代表の安田です。
土地や建物が公共事業のために買い取られることがあります。
いわゆる「収用等」により不動産を譲渡した場合、通常の不動産売却とは異なり、所得税の特例を受けられることがあります。
代表的なものが、次の2つです。
1つ目は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例です。
2つ目は、譲渡所得から最高5,000万円まで控除できる特別控除です。
どちらも税負担を大きく軽減できる制度ですが、適用要件や手続き、期限を誤ると、受けられると思っていた特例を受けられないことがあります。
特に注意したいのが、「代替資産を取得する予定で申告したものの、期限までに取得できなかった場合」です。
本日は、収用等に伴う代替資産取得の特例、5,000万円特別控除、取得見込みで申告した後の修正申告の注意点について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
収用等により土地建物を売った場合の特例
土地収用法などに基づく公共事業のために土地や建物を譲渡した場合には、一定の要件を満たすことで、所得税の課税の特例を受けられます。
国税庁は、土地収用法その他の法律で収用権が認められている公共事業のために土地建物を売った場合、収用等の課税の特例として、代替資産を取得した場合の課税の特例と、譲渡所得から最高5,000万円まで控除する特例があると説明しています。
この2つの特例は、どちらも有利な制度ですが、基本的には選択適用です。
つまり、同じ公共事業による譲渡について、代替資産取得の特例と5,000万円特別控除を二重に使うことはできません。
どちらを選ぶかによって、当年の税額だけでなく、将来その代替資産を売却したときの税額にも影響します。
代替資産を取得した場合の課税の特例とは
収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例とは、公共事業のために土地建物を譲渡し、その対価補償金等で代わりの土地建物などを取得した場合に、譲渡所得の課税を繰り延べる制度です。
国税庁は、この特例を受けると、売った金額より買い換えた金額が多い場合には所得税の課税が将来に繰り延べられ、売った年については譲渡所得がなかったものとされると説明しています。一方、売った金額より買い換えた金額が少ない場合には、その差額を収入金額として譲渡所得を計算します。
ここで大切なのは、この制度は「税金が完全に免除される制度」ではなく、原則として「課税の繰延べ」であるという点です。
代替資産を取得することで、収用時点の課税を先送りできます。
しかし、将来その代替資産を売却した場合には、繰り延べた課税関係が影響する可能性があります。
そのため、目先の税額だけでなく、将来の譲渡可能性も含めて判断する必要があります。
代替資産の取得期限に注意
代替資産取得の特例では、代わりに取得する資産の取得時期が重要です。
国税庁は、原則として、収用等のあった年、収用等のあった年の前年のうち収用等により譲渡することが明らかになった日以後の期間、または収用等のあった年の翌年1月1日から収用等のあった日以後2年を経過した日までの期間に、代替資産を取得する必要があると説明しています。
たとえば、土地が公共事業により買い取られ、収用等のあった日から2年以内に代替となる土地や建物を取得する見込みで申告することがあります。
しかし、実際には、希望する土地が見つからない、価格が合わない、建築計画が遅れる、資金計画が変わるなどの理由で、期限までに代替資産を取得できないこともあります。
この場合、当初の申告をそのままにしておくことはできません。
取得見込みで申告する場合の手続き
収用等のあった年の翌年以後に代替資産を取得する予定で特例を受ける場合には、確定申告書に「買換(代替)資産の明細書」などを添付する必要があります。
国税庁は、代替資産を収用等のあった年の翌年以後に取得する見込みであるとして特例の適用を受ける場合には、買換(代替)資産の明細書を提出する必要があると案内しています。
つまり、単に「あとで土地を買う予定です」と口頭で説明するだけでは足りません。
取得予定の資産、取得予定年月日、取得価額の見積額などを明らかにして申告する必要があります。
この見積額や取得予定時期は、後の税額計算にも関係します。
取得予定額より実際の取得価額が少なかった場合や、期限までに取得できなかった場合には、修正申告が必要になることがあります。
代替資産を取得できなかった場合は修正申告が必要
取得見込みで申告したにもかかわらず、期限までに代替資産を取得できなかった場合には、修正申告が必要になります。
国税庁の質疑応答事例では、代替資産の取得期限は原則として収用等のあった日以後2年を経過した日とされており、取得予定年月日までに取得できなかったとしても、その日から直ちに修正申告をする必要はないとされています。修正申告書の提出期限は、収用等のあった日以後2年を経過した日から4か月以内です。
ここは実務上かなり重要です。
取得予定日までに買えなかったからといって、その時点ですぐ修正申告が必要になるわけではありません。
一方で、収用等の日から2年を経過しても代替資産を取得できなかった場合には、その後4か月以内に修正申告と納税が必要になります。
この期限を見落とすと、延滞税や加算税の問題が生じる可能性があります。
取得価額が見積額に満たない場合も注意
代替資産を取得した場合でも、当初の見積額より実際の取得価額が少ない場合には注意が必要です。
国税庁の通達では、代替資産の取得価額が見積額に満たないときは、その満たない額に対応する所得税について修正申告書を提出する必要があるとされています。
たとえば、5,000万円の代替資産を取得する見込みで申告したものの、実際には3,500万円の土地しか取得しなかった場合、取得できなかった1,500万円相当部分について課税関係を見直す必要があります。
反対に、実際の取得価額が見積額を超えた場合には、更正の請求ができる場合があります。
つまり、取得見込みで申告した後は、代替資産を実際に取得したかどうかだけでなく、取得価額が当初の見積額と一致しているかも確認する必要があります。
5,000万円特別控除とは
収用等により土地建物を売却した場合には、代替資産取得の特例ではなく、譲渡所得から最高5,000万円まで控除できる特例を選ぶこともできます。
国税庁は、5,000万円特別控除の主な要件として、売った土地建物が固定資産であること、その年に公共事業のために売った資産の全部について代替資産取得の特例を受けていないこと、最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに売っていることなどを挙げています。
この特例は、課税の繰延べではなく、譲渡所得から最高5,000万円を控除する制度です。
そのため、譲渡益が5,000万円以下であれば、所得税・住民税の負担が大きく軽減される可能性があります。
ただし、同じ公共事業で2年以上にわたって資産を売る場合、この5,000万円特別控除は最初の年だけしか受けられません。
「買換え」か「5,000万円控除」かは慎重に選ぶ
収用等の特例では、代替資産取得の特例と5,000万円特別控除のどちらを選ぶかが非常に重要です。
代替資産取得の特例は、譲渡時の課税を繰り延べる制度です。
将来も不動産を保有し続ける予定があり、代替資産を確実に取得できる場合には有効です。
一方、5,000万円特別控除は、譲渡所得そのものから大きな控除を受ける制度です。
譲渡益が5,000万円以内またはそれに近い場合には、5,000万円特別控除の方がシンプルで有利になることがあります。
ただし、どちらが有利かは、譲渡価額、取得費、譲渡費用、代替資産の取得価額、今後の売却予定、納税資金などによって変わります。
「とりあえず課税を繰り延べたい」「税金が少なそうだから5,000万円控除でよい」
と感覚で決めるのではなく、両方の税額を試算してから選ぶべきです。
既に申告している場合でも見直せることがある
過去に本人が申告した内容について、あとから税理士が確認したところ、取得見込みで申告した代替資産を期限までに取得できていない可能性があるケースが紹介されていました。
このような場合でも、すぐに「もう手遅れ」と決めつけるのではなく、次の点を確認します。
収用等のあった日はいつか
当初申告でどの特例を選択したか
買換(代替)資産の明細書を提出しているか
取得予定年月日はいつか
収用等の日から2年を経過しているか
2年経過後4か月以内か
代替資産を取得したか
取得価額は見積額と一致しているか
5,000万円特別控除に切り替えられる余地があるか
特例の選択や修正申告の可否は、事案によって異なります。
申告済みであっても、申告書、明細書、収用証明書、買取証明書、代替資産の取得資料などを確認することで、対応策が見つかる場合があります。
収用等の特例で必要になる資料
収用等に伴う特例を検討する場合には、次の資料を早めに確認しましょう。
譲渡所得の内訳書
収用等の証明書
公共事業用資産の買取り等の申出証明書
公共事業用資産の買取り等の証明書
売買契約書
補償金の明細書
譲渡資産の取得費がわかる資料
譲渡費用の領収書
代替資産の売買契約書
代替資産の登記事項証明書
買換(代替)資産の明細書
過去に提出した確定申告書控え
特に、本人が過去に自分で申告している場合、どの特例を選択したのか、どの書類を添付したのかが曖昧になっていることがあります。
「税務署に相談したから大丈夫」「前に申告したから問題ない」
と安心せず、申告書控えと添付書類を確認することが大切です。
税理士が確認すべき実務上のポイント
収用等の譲渡所得では、通常の土地売却よりも確認事項が多くなります。
税理士としては、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
収用等に該当する譲渡か
売った資産が固定資産か
補償金の内訳はどうなっているか
対価補償金、移転補償金、営業補償金などの区分は適切か
代替資産を取得したか、または取得予定か
代替資産の種類は譲渡資産と対応しているか
取得期限を満たしているか
取得価額が見積額と一致しているか
5,000万円特別控除との比較をしているか
同じ公共事業で複数年にまたがる譲渡がないか
修正申告や更正の請求の期限を確認しているか
収用等の特例は、適用できれば非常に有利です
しかし、期限や手続きを誤ると、想定外の納税が発生することがあります。
まとめ:収用等の特例は「取得期限」と「選択」が重要
公共事業のために土地や建物を譲渡した場合には、通常の譲渡所得とは異なる特例を受けられることがあります。
代表的なのは、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例と、最高5,000万円の特別控除です。
代替資産取得の特例を選ぶと、譲渡時の所得税課税を将来に繰り延べることができます。
一方、5,000万円特別控除を選ぶと、譲渡所得から最高5,000万円まで控除できます。
どちらも有利な制度ですが、併用はできません。
そのため、譲渡益、取得費、補償金、代替資産の取得予定、将来の売却可能性を踏まえて、どちらを選ぶか慎重に判断する必要があります。
特に注意したいのは、代替資産を取得する見込みで申告した後です。
収用等のあった日から原則2年以内に代替資産を取得できなかった場合には、その2年を経過した日から4か月以内に修正申告が必要になります。
また、代替資産を取得していても、取得価額が当初の見積額に満たない場合には、追加で修正申告が必要になることがあります。
収用等の譲渡所得では、次の3点を必ず確認しましょう。
どの特例を選択して申告したか
代替資産の取得期限を満たしているか
5,000万円特別控除の方が有利ではないか
収用等の特例は金額が大きく、少しの判断ミスで税額に大きな差が出ます。
申告前はもちろん、過去に自分で申告した内容についても、代替資産の取得状況や期限を改めて確認しておくことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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