top of page

大胆な投資促進税制とは?ROI15%を達成できなかった場合の取扱いと申請上の注意点

  • 執筆者の写真: 安田亮
    安田亮
  • 23 時間前
  • 読了時間: 15分

こんばんは!代表の安田です。


2026年度税制改正では、国内で大規模な設備投資を行う企業を支援するため、「大胆な投資促進税制」が創設されました。


この制度は、一定の投資計画について経済産業大臣の確認を受けたうえで対象設備を取得し、事業に使用した場合に、即時償却または税額控除を認めるものです。


対象となる投資計画には、原則として次のような高い基準が設けられています。

  • 投資利益率(ROI)が年平均15%以上

  • 投資額が35億円以上

  • 中小企業者等については投資額5億円以上

  • 経済産業大臣の確認後、5年以内に設備を取得・事業供用する


ここで企業にとって気になるのが、計画を作成した時点ではROI15%以上や所定の投資額を見込んでいたものの、実際の業績悪化や設備計画の変更によって、最終的に目標を達成できなかった場合です。


この点について、確認を受けた投資計画に沿って設備投資を進めていたものの、結果としてROIや投資額が未達となった場合でも、原則として直ちに経済産業大臣の確認が取り消され、税制を適用できなくなるわけではないとされています。


ただし、申請書に虚偽の内容を記載していた場合などには、適用が認められない可能性があります。


本日は、大胆な投資促進税制の概要と、ROI・投資額が計画未達となった場合の取扱い、制度を利用する企業が準備すべき事項を解説します。


大胆な投資促進税制とは

大胆な投資促進税制は、国内投資の拡大を通じて、企業の生産性や付加価値を高めるために創設された法人税の優遇制度です。


青色申告法人が、一定の投資計画に基づいて「特定生産性向上設備等」を取得し、国内で事業の用に供した場合に、税制上の優遇を受けられます。


経済産業省の2026年度税制改正資料では、原則としてすべての業種を対象とし、機械装置だけでなく、一定の建物、建物附属設備、構築物、工具、器具備品、ソフトウエアなども対象資産として想定されています。


従来の設備投資税制では、建物が対象外となるケースも少なくありませんでした。大胆な投資促進税制は、工場や物流施設などを含む大規模な国内投資を後押しする点に特徴があります。


適用を受けた場合の税制措置

一定の要件を満たした対象設備については、法人が次のいずれかを選択できるとされています。


  • 即時償却

対象設備の取得価額の全額を、事業供用した事業年度に減価償却費として損金算入する方法です。通常の減価償却では、取得価額を耐用年数にわたって費用化します。これに対し即時償却を選択すると、設備投資を行った初年度に多額の損金を計上できます。

ただし、即時償却は税金そのものが永久に免除される制度ではありません。

将来年度に計上する減価償却費を前倒しする制度であるため、主な効果は納税時期を繰り延べ、投資直後の資金繰りを改善することにあります。


  • 税額控除

即時償却に代えて、設備の取得価額に次の割合を乗じた金額を法人税額から控除できます。

対象設備

税額控除率

機械装置、工具、器具備品、ソフトウエアなど

7%

建物、建物附属設備、構築物

4%

税額控除には、原則として法人税額の20%という上限が設けられる予定です。経済産業省の公表資料でも、即時償却または7%の税額控除、建物等については4%の税額控除という制度概要が示されています。


即時償却と税額控除のどちらが有利かは、当期の所得、今後の利益計画、資金繰り、欠損金の状況などによって異なります。


対象となる「特定生産性向上設備等」

税制の対象となるのは、単に高額な設備を購入した場合ではありません。

事業者が策定した投資計画に基づく設備のうち、将来にわたる高い生産性の確保に特に貢献するものとして、経済産業大臣の確認を受けた設備が対象となります。


経済産業省が公表した改正案では、主に次の基準が示されています。

  1. 投資計画のROIが年平均15%以上と見込まれること

  2. 対象設備の取得価額の合計が35億円以上であること

  3. 中小企業者等の場合は、取得価額の合計が5億円以上であること

  4. 経済産業大臣の確認後、5年以内に取得し、事業に使用すること

  5. 投資計画が取締役会など一定の機関で決議・決定されていること

  6. 原則として試験研究用や貸付用の設備ではないこと


ROI15%以上や投資額35億円以上という水準からも分かるとおり、通常の設備更新ではなく、企業の収益構造や生産能力を大きく変える投資を対象とした制度です。


中小企業者等は投資額5億円以上が対象

一般の法人については、投資計画期間中の取得価額の合計が35億円以上であることが求められます。


一方、中小企業者等については、投資額の下限が5億円に引き下げられています。

ただし、5億円という金額は、中小企業にとって依然として大規模な投資です。

数千万円から1億円程度の設備投資を予定している企業については、中小企業経営強化税制など、別の設備投資税制を検討することになります。

また、「中小企業者等」に該当するかどうかは、単純に資本金1億円以下というだけでは判断できません。


大規模法人との資本関係や、複数の大規模法人による株式保有関係などによっては、中小企業向けの取扱いを受けられない可能性があります。


ROIが15%以上とは

ROIは「Return on Investment」の略で、日本語では投資利益率と訳されます。

一般には、投資によって得られる利益を投資額で割って計算します。


ただし、大胆な投資促進税制におけるROIは、企業が任意の計算方法を採用できるわけではありません。


正式な制度では、経済産業省が定める対象利益、投資額、計算期間、割引方法などに基づいて計算する必要があります。


投資計画を作成する際には、例えば次のような効果を数値化することが想定されます。

  • 生産量の増加による売上高の増加

  • 高付加価値製品への転換による利益率の改善

  • 自動化による人件費の削減

  • 不良率の低下による製造原価の削減

  • エネルギー効率向上による光熱費の削減

  • 外注工程の内製化によるコスト削減

  • 納期短縮による受注機会の増加


単に「新設備を導入すれば業務効率が上がる」という説明だけでは、ROI15%以上を客観的に示すことは難しいでしょう。


売上増加額やコスト削減額の根拠を、受注見込み、過去実績、稼働時間、製造原価などと結び付けて説明する必要があります。


計画時点でROI15%以上の見込みが必要

経済産業大臣の確認を受ける際には、投資計画上、ROIが15%以上となることが見込まれていなければなりません。


したがって、申請時点ではROI15%以上を達成できる合理的な計画を作成し、その根拠資料を提出する必要があります。


当初から達成する見込みがないにもかかわらず、税制を利用するために売上増加額を過大に見積もったり、投資額や経費を過少に記載したりすることは認められません。


重要なのは、申請時点で入手できる情報に基づいて、合理的かつ誠実に計画を策定していることです。


実際のROIが15%未満になった場合はどうなる?

大規模な設備投資では、計画どおりの効果が必ず実現するとは限りません。

例えば、次のような事情によって、実際のROIが15%を下回ることがあります。

  • 市況の悪化によって販売数量が減少した

  • 原材料価格や電力料金が上昇した

  • 為替相場が想定外に変動した

  • 設備の稼働開始が遅れた

  • 新製品の立ち上げに時間を要した

  • 取引先の計画変更により受注が減少した

  • 人手不足によって設備を十分に稼働できなかった


これについて、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に従って設備導入を進めていたものの、このような事情により結果的にROI15%を達成できなかった場合でも、直ちに確認が取り消され、税制を適用できなくなるわけではないとされています。


ROI15%という基準は、まずは投資計画の確認時に合理的に見込まれていることが重要となります。もっとも、正式な取扱いは今後公表される政省令、申請要領、FAQなども踏まえて確認する必要があります。


投資額が35億円・5億円に届かなかった場合

投資計画を策定した時点では、対象設備の取得価額が35億円以上、または中小企業者等について5億円以上となる予定であっても、実際には投資額が下限を下回ることがあります。

例えば、次のようなケースです。

  • 設備価格の値下げ交渉によって取得価額が下がった

  • 一部設備の導入を中止した

  • 工事内容を縮小した

  • 当初予定していた建物の建設を取りやめた

  • 為替変動によって輸入設備の円換算額が下がった


この場合についても、資料では、計画に従って投資を進めていたのであれば、結果として投資額要件を下回っただけで直ちに適用不可とする方向ではないとされています。


ただし、下限額を大幅に下回った場合や、設備計画を実質的に別のものへ変更した場合にも同じ取扱いとなるかは、今後の制度運用を確認する必要があります。


「未達でも大丈夫」とは限らない

ROIや投資額が計画未達となっても、無条件に税制を適用できるという意味ではありません。

特に注意が必要なのは、次のようなケースです。


  • 申請内容に虚偽があった場合

売上予測を意図的に過大計上したり、投資額を水増ししたりするなど、虚偽の申請によって経済産業大臣の確認を受けた場合には、税制の適用が否定される可能性があります。

税務申告後に不適用となれば、法人税の修正申告、追加納税、過少申告加算税や延滞税などが発生することも考えられます。


  • 計画と異なる設備を取得した場合

確認を受けた投資計画と関係のない設備や、計画達成に必要不可欠とはいえない設備を取得しても、対象にならない可能性があります。

設備の型式や仕様を変更する場合には、変更申請や再確認が必要かどうかを事前に確認すべきです。


  • 設備を期限内に事業供用しなかった場合

対象設備は、原則として経済産業大臣の確認を受けた日から5年以内に取得し、事業の用に供する必要があります。

設備を発注しただけでは足りず、実際に事業で使用を開始していることが必要です。

建物や大型製造設備は、工事の遅延によって供用開始が期限を超えることもあるため、工程管理が重要になります。


  • 計画達成に向けた取組を行なっていない場合

計画提出後に投資を大幅に縮小し、ROI向上に向けた取組も行なっていない場合には、当初の確認の前提が失われていると判断される可能性があります。


未達となった理由だけでなく、計画実現に向けて企業がどのような対応を行ったかも記録しておく必要があります。


経済産業大臣による毎年度の調査

改正案では、経済産業大臣が毎年度、次のような事項について調査できる仕組みが予定されています。

  • 対象設備の導入状況

  • 投資計画の進捗状況

  • 設備の取得価額

  • 設備の事業供用状況

  • 投資によるROIの状況

  • 投資計画に基づく事業の実施状況


したがって、経済産業大臣の確認を一度受ければ、その後は何も報告しなくてよいわけではありません。


企業は計画期間を通じて、当初計画と実績を比較し、進捗状況を説明できる管理体制を整える必要があります。


税務申告までの流れ

制度の申請から税務申告まで、次のような流れが想定されています。

  1. 事業者が投資計画を策定する

  2. 確認申請書に投資計画などの必要書類を添付し、経済産業大臣へ提出する

  3. 経済産業大臣が計画の基準適合性を確認する

  4. 事業者が計画に基づいて設備を取得・事業供用する

  5. 経済産業大臣から証明書の交付を受ける

  6. 法人税申告書に証明書を添付し、即時償却または税額控除を適用する


この証明書が、税制を適用する際の重要な添付書類になる予定です。

設備を購入した後に申請すればよい制度ではないため、投資の意思決定段階から申請スケジュールを確認しておかなければなりません。


取締役会決議の時期にも注意

改正案では、投資計画について、取締役会その他これに準ずる機関による決議または決定が必要とされています。


また、その決議・決定は、経済産業大臣が定める2025年12月26日以後に行なわれたものであることが要件として示されています。

そのため、過去に社内決裁済みの投資計画をそのまま利用できるとは限りません。

取締役会議事録には、少なくとも次の事項を明記しておくことが考えられます。

  • 投資の目的

  • 投資予定額

  • 対象設備

  • 設備の取得・供用予定時期

  • ROIの見込み

  • 投資による売上・利益への効果

  • 経済産業大臣への確認申請を行うこと

  • 税制適用を予定していること


ROI未達に備えて保存したい資料

ROIが計画を下回った場合に備え、申請時の見積りが合理的だったことを説明できる資料を保存しておく必要があります。例えば、次のような資料です。

  • 取締役会議事録

  • 投資計画書

  • ROIの計算資料

  • 売上予測の根拠

  • 受注見込みや顧客との交渉記録

  • 市場調査資料

  • 原材料費・人件費の見積書

  • 設備メーカーの見積書

  • 工事請負契約書

  • 設備の発注書・納品書

  • 稼働実績や生産数量の記録

  • 原価削減効果の検証資料

  • 計画未達の原因分析資料

  • 計画変更に関する社内決裁書

  • 経済産業省との相談記録


重要なのは、後から都合のよい説明を作るのではなく、投資判断を行った時点での根拠を残しておくことです。


計画変更が生じた場合の対応

大規模投資では、確認を受けてから設備を取得するまでに、計画が変更されることもあります。


例えば、設備の型式変更、取得価額の増減、導入時期の延期、対象拠点の変更などです。

こうした変更が生じた場合には、自社だけで「軽微な変更だから問題ない」と判断せず、経済産業省の担当窓口へ確認することが望まれます。


変更の内容によっては、変更申請や追加資料の提出が必要になる可能性があります。

計画変更の経緯と、変更後もROI15%以上の見込みを維持しているかを整理しておくことも重要です。


即時償却と税額控除はどちらが有利?

制度を利用できる場合でも、即時償却と税額控除のどちらを選択するかは慎重に検討する必要があります。


<即時償却が向いているケース>

  • 当期に多額の課税所得が見込まれる

  • 設備投資直後の資金繰りを改善したい

  • 将来よりも現在の法人税負担を軽減したい

  • 税額控除上限によって控除額を十分に使えない


<税額控除が向いているケース>

  • 設備取得による恒久的な税負担軽減を重視する

  • 法人税額が十分に発生する見込みがある

  • 将来の減価償却費も確保したい

  • 当期に欠損金や繰越欠損金がない


例えば、10億円の機械装置が対象となる場合、税額控除額は原則として7,000万円です。

ただし、法人税額の20%という控除上限があるため、当期の法人税額が1億円であれば、当期に利用できる控除額は原則として2,000万円までとなる可能性があります。


実際の選択に当たっては、複数年度の事業計画を用いて税負担を比較することが欠かせません。


2026年7月時点では政省令案の段階

大胆な投資促進税制の制度枠組みは2026年度税制改正で示されていますが、ROIの具体的な計算方法、確認申請の様式、計画変更時の手続など、実務上重要な事項は政省令や告示、申請要領によって定められます。


2026年6月22日から7月21日まで、産業競争力強化法施行規則等の改正案についてパブリックコメントが実施されています。


したがって、制度の利用を検討する企業は、現時点の案だけで設備発注や税額を確定せず、正式な政省令や経済産業省の手引きが公表された後に内容を確認する必要があります。


大胆な投資促進税制を検討する企業のチェックリスト

制度の利用を検討する際には、少なくとも次の点を確認しましょう。

  • 青色申告法人であるか

  • 投資額が35億円以上か

  • 中小企業者等の場合は5億円以上か

  • 投資計画上のROIが15%以上か

  • 対象設備が計画達成に必要不可欠か

  • 建物だけの投資計画になっていないか

  • 試験研究用・貸付用などの除外設備ではないか

  • 取締役会等で適切に決議しているか

  • 経済産業大臣の確認前に設備取得を進めていないか

  • 確認後5年以内に事業供用できるか

  • ROI計算の根拠資料を保存しているか

  • 即時償却と税額控除を比較しているか

  • 計画変更や未達時の対応体制を整備しているか


まとめ

大胆な投資促進税制は、一定の大規模な国内設備投資について、即時償却または税額控除を認める強力な税制です。


主な計画要件として、年平均ROI15%以上、投資額35億円以上、中小企業者等については5億円以上という基準が設けられています。


一方、申請時点ではこれらの要件を満たす合理的な計画を策定していたものの、その後の経済環境や事業上の事情によって結果的にROIや投資額が未達となった場合には、直ちに制度が適用できなくなるわけではないとされています。


ただし、これは「未達でも何ら問題ない」という意味ではありません。

虚偽申請、計画と異なる設備の取得、期限内の事業供用がない場合などには、税制適用が否定される可能性があります。


また、経済産業大臣による毎年度の調査も予定されているため、計画作成時の根拠、設備の導入状況、実際のROI、未達となった理由などを継続的に管理することが重要です。


制度の利用を検討する場合は、設備の発注後ではなく、投資計画の策定・取締役会決議の段階から、税理士や関係省庁と相談しながら準備を進めることをおすすめします。


神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください



<あわせて読みたい>


【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

神戸の税理士事務所ロゴ

コメント


bottom of page