事業所の引越しでフリーレント契約を結ぶときの注意点|法人税・消費税・会計処理を税理士が解説
- 安田亮
- 9 時間前
- 読了時間: 13分
おはようございます!代表の安田です。
事業拡大、オフィス統合、家賃削減、採用強化、倉庫や店舗の移転など、会社が事業所を引越しする理由はさまざまです。
最近では、賃貸オフィスや店舗の契約で「フリーレント」が付くケースも珍しくありません。フリーレントとは、賃貸借契約の開始後、一定期間の賃料が無料または通常より低額になる契約条件のことです。
借主から見ると、移転直後の資金負担を抑えられるため魅力的です。
事業所の移転では、旧事務所の原状回復費用、廃棄費用、新事務所の内装工事、敷金・礼金、仲介手数料、引越費用など、まとまった支出が発生します。
そのため、「最初の数か月は家賃無料」という条件は非常にありがたいものです。
しかし、税務・会計の視点では、フリーレントは単に「家賃がタダだから処理不要」と考えてよいものではありません。
契約内容によっては、法人税の損金算入時期、会計上の費用配分、消費税の仕入税額控除、インボイスの受領時期などに注意が必要です。
本日は、事業所の引越しでフリーレント契約を結ぶ場合の税務上の注意点を、税理士の視点から解説します。
フリーレントとは何か
フリーレントとは、賃貸借契約において、契約開始後の一定期間について賃料の全部または一部が免除される契約条件をいいます。
たとえば、次のようなケースです。
契約期間は2年
通常の月額賃料は50万円
契約開始から3か月間は賃料無料
4か月目以後は月額50万円を支払う
このような契約では、最初の3か月は賃料の支払いがありません。
ただし、実質的には「2年間借りること」を前提に、契約全体の条件として最初の3か月分が免除されているとも考えられます。
借主にとっては初期費用を抑えられるメリットがあります。
一方、貸主にとっては、一定期間の賃貸収入を確保するため、契約期間中の中途解約に違約金を設定したり、フリーレント期間相当額の返還を求めたりすることがあります。
そのため、フリーレントは「無料で得をした」という単純な話ではなく、契約全体で見る必要があります。
事業所移転時にフリーレントが増えている理由
事業所の引越しでは、借主側に一時的な負担が集中します。
旧事務所の原状回復費。
新事務所の内装工事費。
引越費用
敷金・保証金
礼金
仲介手数料
什器・備品の購入費
通信工事費
移転案内や登記変更費用
これらの費用が重なるため、借主にとって、フリーレントは資金繰り上大きな助けになります。特に、旧事務所と新事務所の賃料が重複する期間がある場合には、数か月分のフリーレントがあるかどうかでキャッシュアウトが大きく変わります。
ただし、フリーレントを受ける代わりに、契約期間の途中解約が制限される、短期解約違約金が設定される、保証金が高くなるなどの条件が付くこともあります。
契約書を確認せずに「数か月無料で得をした」と判断するのは危険です。
フリーレント期間中の会計処理はどう考えるか
フリーレント期間の会計処理には、契約内容や適用する会計基準によって検討が必要です。
従来の中小企業実務では、支払義務が発生した月に賃料を費用計上し、フリーレント期間は費用を計上しない処理が行われることもありました。
しかし、契約期間全体で賃料総額が決まっている場合には、契約期間にわたって賃料総額を按分し、毎期の費用を平準化する処理も考えられます。
たとえば、2年契約で、最初の3か月が無料、残り21か月が月額50万円の場合、契約期間全体の支払総額は1,050万円です。
この1,050万円を24か月にわたって按分すると、1か月あたり43万7,500円です。
この場合、会計上はフリーレント期間中も、契約全体の費用配分として賃借料相当額を認識する考え方があります。
もっとも、中小企業では適用している会計基準や重要性により処理が異なります。
そのため、まずは契約書を確認し、会計処理をどの方法で行うかを決める必要があります。
令和7年度税制改正で法人税上の取扱いが明確化
フリーレントの法人税処理については、令和7年度税制改正に伴い、法人税基本通達12の5-3-2が新設され、取扱いが整理されました。
国税庁の法人税基本通達では、賃料の支払いがない、または通常に比べて少額である期間が定められた賃貸借契約について、課税上弊害があるものを除き、契約に基づく支払総額を賃借期間にわたり支払われるべきものとした場合の各事業年度相当額を損金算入できるとされています。ただし、その事業年度終了の日までに損金経理している金額に限られます。
つまり、一定の要件を満たすフリーレント契約については、法人税上も契約期間に応じた按分処理が認められる余地が明確になりました。
ただし、これは無条件に認められるわけではありません。
法人税基本通達12の5-3-2では、課税上弊害がある場合として、フリーレント等がない場合に支払うこととなる金額と実際の契約支払総額との差額が、契約支払総額のおおむね2割を超える場合などが挙げられています。
また、賃借期間開始日の属する事業年度終了日において、いずれかの事業年度でフリーレント等の期間がその事業年度の賃借期間のおおむね5割を超えると見込まれる場合も注意が必要です。ただし、この判定は無償等賃借期間が4か月を超える場合に限るとされています。
フリーレント処理で確認したい「2割ルール」
法人税上、フリーレント期間を含む賃貸借契約について按分処理を検討する場合、まず確認したいのが「2割ルール」です。
たとえば、フリーレントがなければ契約期間中に1,200万円の賃料を支払うはずだったとします。しかし、フリーレントにより実際の契約支払総額が1,000万円になった場合、差額は200万円です。
この差額200万円は、実際の契約支払総額1,000万円の2割に相当します。
通達では、おおむね2割を超える場合が課税上弊害の例として示されています。
そのため、フリーレントによる減額幅が大きすぎる契約では、単純に契約期間で按分すればよいとは限りません。
特に、長期間のフリーレントや、賃料が大きく値引きされている契約では、契約全体の賃料水準が通常の相場から大きく乖離していないか確認する必要があります。
決算期をまたぐフリーレントは「5割ルール」にも注意
次に注意したいのが、事業年度内のフリーレント期間の割合です。
たとえば、3月決算法人が12月から新事務所を借り始め、翌年5月まで6か月間フリーレントだったとします。
この場合、契約開始年度である12月から3月までの4か月間は、すべて賃料の支払いがない期間です。その事業年度における賃借期間4か月のうち、フリーレント期間が4か月、つまり100%になります。
このように、契約開始年度にフリーレント期間が集中している場合には、法人税基本通達12の5-3-2の「5割ルール」に注意が必要です。
もっとも、この判定は、契約に係る無償等賃借期間が4か月を超える場合に限られます。
したがって、4か月を超える長めのフリーレントがある契約では、決算期との関係も踏まえて、按分処理が認められるか慎重に確認する必要があります。
中途解約不能条項の有無も重要
フリーレント契約では、中途解約不能期間や短期解約違約金が設定されていることがあります。
たとえば、2年契約で最初の3か月がフリーレント、ただし1年以内に解約した場合はフリーレント相当額を返還する、という契約です。
このような場合、フリーレントは単なる値引きではなく、一定期間借り続けることを前提とした契約条件であるといえます。
一方、中途解約が自由で、フリーレント期間終了後すぐに退去できるような契約であれば、実態として賃料の免除や値引きに近いと考えられることもあります。
会計・税務処理を検討する際には、次のような契約条項を確認しましょう。
契約期間
フリーレント期間
月額賃料
共益費や管理費の取扱い
中途解約の可否
短期解約違約金
フリーレント相当額の返還条項
更新料・礼金・保証金
原状回復義務
契約書を読まずに「フリーレントだから家賃なし」と処理するのは避けるべきです。
消費税は法人税と同じとは限らない
フリーレントで特にややこしいのが消費税です。
法人税では、一定の要件のもとで契約期間にわたる按分処理が認められる余地があります。
一方、消費税では、賃貸借契約に基づく使用料等の課税時期について、契約または慣習により支払を受けるべき日とする取扱いがあります。国税庁の消費税基本通達9-1-20でも、資産の賃貸借契約に基づく使用料等について、その支払を受けるべき日を譲渡等の時期とする考え方が示されています。
そのため、フリーレント期間中に契約上の賃料支払義務がない場合、通常はその期間の賃料について消費税の課税仕入れを認識しない処理になります。
つまり、法人税上は費用を按分しているとしても、消費税の仕入税額控除は、実際に支払期日が到来し、適格請求書を受領したタイミングで処理することが多くなります。
この点は、会計上の費用、法人税上の損金、消費税上の仕入税額控除がズレる原因になります。
インボイス制度下では請求書の発行時期も確認する
インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書の保存が必要です。フリーレント契約では、貸主がいつ、どの金額でインボイスを発行するかが重要になります。
たとえば、貸主がフリーレント期間中は請求書を発行せず、賃料発生月からインボイスを発行する場合、借主側ではフリーレント期間中の仕入税額控除は通常行いません。
一方、貸主が契約期間にわたって賃料を平準化し、会計上の収益認識に合わせてインボイスを発行するようなケースでは、借主側の処理も変わる可能性があります。
したがって、借主側だけで判断せず、貸主や管理会社に次の点を確認しておくことが大切です。
フリーレント期間中に請求書は発行されるか
インボイスは支払月ごとに発行されるか
賃料総額を按分した金額で発行されるか
共益費や管理費はフリーレント対象か
消費税率はいつの支払分から適用されるか
賃料改定がある場合、インボイスはどう記載されるか
特に、決算期末をまたぐ契約では、会計・法人税・消費税のズレを整理しておく必要があります。
消費税率改正時にも注意が必要
添付資料では、消費税率が8%から10%へ引き上げられる時期のフリーレント契約について、適用税率が論点になるケースが紹介されていました。
現在は10%が基本ですが、将来税率変更があった場合には、フリーレント契約の処理にも影響する可能性があります。
たとえば、契約期間全体で賃料を按分する会計処理をしていても、消費税は支払期日や資産の貸付けに係る経過措置の適用有無により、適用税率が変わることがあります。
過去の8%から10%への引上げ時にも、賃貸借契約については契約締結日、契約内容、対価の変更可否、施行日前後の期間などによって経過措置の判定が必要でした。
今後、税率改正が行われる場合にも、フリーレント期間を含む賃貸借契約では、契約書と税率適用時期を確認する必要があります。
借主側の仕訳イメージ
たとえば、2年契約、最初の3か月フリーレント、残り21か月の賃料が月額50万円、契約総額1,050万円のケースを考えます。
会計上、契約総額を24か月で按分する場合、1か月あたり43万7,500円を賃借料として認識することになります。
フリーレント期間中は、実際の支払いがないため、次のような考え方になります。
賃借料:437,500円 /未払金:437,500円
賃料発生月以後は、実際の支払額50万円と按分費用43万7,500円との差額を調整していくことになります。
ただし、中小企業の実務では重要性や契約内容により、実際の支払月に費用計上する処理も考えられます。
また、消費税については、インボイスの発行時期や支払期日を踏まえて別途判断が必要です。
貸主側の処理にも注意
借主だけでなく、貸主側もフリーレント処理には注意が必要です。
貸主側では、フリーレント期間中に賃料収入を計上しない方法と、契約総額を契約期間にわたって按分し、平準化した賃料収入を計上する方法が考えられます。
法人税上、貸手側についても契約内容や会計処理との整合性を踏まえて検討する必要があります。
また、消費税については、賃貸借契約に基づく支払期日やインボイス発行方針が重要です。
貸主が課税売上をどの時点で認識するかと、借主が仕入税額控除をどの時点で行うかが一致しないと、取引先との確認や経理処理が煩雑になります。
特に、貸主が不動産賃貸業を営む法人で、複数のテナントとフリーレント契約を結んでいる場合には、契約ごとの管理が必要です。
事業所移転時に確認すべき税務ポイント
事業所の引越しでフリーレント契約を結ぶ場合には、少なくとも次の点を確認しましょう。
契約期間は何年か
フリーレント期間は何か月か
フリーレント対象は賃料だけか、共益費も含むか
中途解約不能期間はあるか
短期解約違約金はあるか
フリーレント相当額の返還条項はあるか
契約期間全体の賃料総額はいくらか
通常賃料と実際の契約総額に大きな乖離がないか
法人税上、按分処理が認められる契約か
会計上、期間按分処理を行うか
消費税は支払期日基準で処理するか
インボイスはいつ、どの金額で発行されるか
将来の消費税率改正時に影響がないか
事業所移転では、引越しや内装工事に目が向きがちです。
しかし、フリーレント契約は、法人税・消費税・会計処理にまたがる論点です。
契約締結前に、経理担当者や税理士が契約書案を確認しておくことが望ましいです。
まとめ:フリーレントは「無料期間」ではなく契約全体で判断する
フリーレントは、借主にとって事業所移転時の資金負担を軽くする便利な契約条件です。
しかし、税務・会計の面では、単に「家賃が無料だから処理不要」と考えると誤りにつながります。
法人税では、令和7年度税制改正により、無償等賃借期間を含む賃貸借取引について、一定の要件のもと、契約期間にわたり按分した金額を損金算入できる取扱いが明確になりました。
ただし、通常の賃料総額と契約支払総額との差額が大きい場合や、特定の事業年度にフリーレント期間が集中する場合には、課税上弊害があるものとして按分処理が認められない可能性があります。
消費税では、法人税と同じ処理になるとは限りません。
賃貸借契約に基づく使用料等は、原則として契約または慣習により支払を受けるべき日を基準に考えるため、フリーレント期間中に支払義務がなければ、消費税の課税関係が生じないことがあります。
インボイス制度のもとでは、貸主がいつ、どの金額で適格請求書を発行するかも重要です。
事業所を引越しする際には、賃貸借契約を締結する前に、フリーレント期間、中途解約条項、違約金、賃料総額、消費税処理、インボイス発行方針を確認しておきましょう。
フリーレントは、契約内容を正しく理解すれば有利な条件になります。
一方で、処理を誤ると、決算や申告で思わぬ修正が必要になることがあります。
契約前の段階で税理士に相談し、会計・法人税・消費税の処理方針を整理しておくことをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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