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ESG指標を役員報酬に使うと損金算入できない?業績連動給与と非財務指標の税務上の注意点

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 日前
  • 読了時間: 10分

こんばんは!代表の安田です。


近年、上場会社を中心に、役員報酬制度の見直しが進んでいます。


従来の役員報酬は、固定報酬を中心に設計されることが多くありました。しかし現在では、企業価値の向上や株主との利害共有を目的として、業績に応じて支給額が変動する「業績連動報酬」を導入する会社が増えています。


さらに、最近では財務指標だけでなく、ESGやサステナビリティに関する非財務指標を役員報酬の算定に取り入れる動きも広がっています。


たとえば、温室効果ガス排出量の削減、女性管理職比率、従業員エンゲージメント、安全衛生、人的資本、顧客満足度、コンプライアンス、ガバナンス体制の強化などを役員報酬の評価指標に組み込むケースです。


企業経営の観点からは、こうした非財務指標を役員報酬に反映することには一定の意義があります。一方で、税務上は注意が必要です。


法人税法上、役員給与は損金算入に厳しい制限があります。特に、業績連動給与として損金算入するためには、一定の要件を満たす必要があります。現行制度では、ESGなどの非財務指標だけを基礎として算定される役員報酬は、原則として損金算入が認められない可能性があります。


本日は、業績連動給与の基本的な考え方、非財務指標を用いる場合の税務上の注意点、役員報酬制度を設計する際の実務ポイントについて、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。


業績連動給与とは

業績連動給与とは、会社の業績や株価など、一定の指標に連動して支給額が決まる役員給与をいいます。


役員報酬には、大きく分けて固定報酬、賞与、株式報酬、業績連動報酬などがあります。このうち、業績連動給与は、あらかじめ定めた算定方法に基づき、会社の業績等に応じて支給額が変動する点に特徴があります。


たとえば、営業利益が一定水準を超えた場合に役員賞与を支給する、ROEの達成度に応じて報酬額を変動させる、株価や時価総額の水準に応じて株式報酬を付与するといった設計が考えられます。


業績連動給与は、経営陣に対して業績向上へのインセンティブを与える効果があります。また、株主や投資家に対して、経営陣が企業価値向上を意識した報酬体系になっていることを示す意味もあります。


ただし、税務上は、役員給与を自由に損金算入できるわけではありません。法人税法では、役員給与について、恣意的な利益調整を防ぐため、損金算入できる類型を限定しています。


役員給与が損金算入される主な類型

法人税法上、役員給与が損金算入されるためには、原則として一定の類型に該当する必要があります。代表的なものは、次の3つです。


1つ目は、定期同額給与です。これは、毎月同額で支給される役員報酬のように、一定期間ごとに同額で支給されるものです。中小企業で最も一般的な役員報酬は、この定期同額給与に該当することが多いでしょう。


2つ目は、事前確定届出給与です。これは、あらかじめ支給時期と支給額を定め、税務署へ届出を行ったうえで支給する役員給与です。役員賞与を損金算入したい場合に検討されることがあります。


3つ目が、業績連動給与です。これは、一定の客観的な指標に基づいて支給額が算定される役員給与です。主に上場会社などで利用される制度であり、損金算入のためには、算定方法や開示などについて厳格な要件が設けられています。


今回問題となるのは、この業績連動給与において、どのような指標を報酬算定の基礎にできるのかという点です。


業績連動給与に使える指標は限定されている

法人税法上、損金算入が認められる業績連動給与では、支給額の算定基礎となる指標が限定されています。


大きく整理すると、次のような指標が対象になります。


まず、利益の状況を示す指標です。たとえば、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益、ROA、ROEなどが該当します。企業の収益性や資本効率を示す指標であり、業績連動報酬の算定基礎として比較的イメージしやすいものです。


次に、株式の市場価格の状況を示す指標です。たとえば、株価や時価総額など、株式市場における評価と連動する指標が考えられます。株主価値との連動を意識した役員報酬制度で用いられることがあります。


さらに、売上高の状況を示す指標も一定の範囲で対象になります。ただし、売上高に関する指標については、利益指標または株価関連指標と同時に用いられることなど、一定の要件があります。


これらの指標に共通しているのは、財務情報や市場情報に基づく客観的な指標であるという点です。


ESGなどの非財務指標はどう扱われるか

近年、企業経営ではESGやサステナビリティの重要性が高まっています。


ESGとは、Environment、Social、Governanceの頭文字を取った言葉で、環境・社会・ガバナンスに関する企業の取り組みを意味します。投資家や取引先、金融機関も、企業の財務数値だけでなく、サステナビリティへの姿勢や人的資本への投資、気候変動対応などを重視するようになっています。


そのため、役員報酬においても、ESG指標を取り入れることは自然な流れといえます。

たとえば、次のような指標が考えられます。

  • CO2排出量の削減率

  • 再生可能エネルギーの利用割合

  • 女性管理職比率

  • 従業員エンゲージメントスコア

  • 労働災害件数

  • 人材育成に関する目標達成度

  • 顧客満足度

  • コンプライアンス研修の実施状況

  • 取締役会の多様性


これらは企業価値の向上に関係する重要な指標です。しかし、現行の法人税法上、業績連動給与として損金算入が認められる算定指標には、原則として含まれていません。


つまり、ESGなどの非財務指標に基づいて算定された役員報酬は、会社法上・経営上は合理性があるとしても、法人税法上は損金算入できない可能性があるということです。


「経営上よい制度」と「税務上損金になる制度」は別問題

ここで重要なのは、非財務指標を役員報酬に取り入れること自体が悪いわけではないという点です。


むしろ、企業の中長期的な成長を考えれば、財務指標だけでなく、非財務指標を役員評価に反映することには大きな意味があります。短期的な利益だけを追求するのではなく、環境対応、人的資本、ガバナンス、社会的信頼などを重視する経営姿勢を示すことができます。


しかし、税務上の損金算入という観点では、別の判断が必要です。

法人税法は、役員給与について厳格なルールを置いています。特に業績連動給与は、損金算入を認める代わりに、算定指標、算定方法、開示、手続などについて要件を定めています。

そのため、役員報酬制度を設計する際には、「経営目的として望ましいか」と「税務上損金算入できるか」を分けて検討することが大切です。


ESG指標を取り入れた報酬制度を導入する場合には、損金不算入となる可能性を織り込んだうえで設計する必要があります。


非財務指標を使う場合の実務上の注意点

非財務指標を役員報酬に取り入れる場合、実務上は次のような点に注意する必要があります。


まず、損金算入を前提に制度設計しないことです。ESG指標や人的資本指標などを基礎として報酬額を算定する場合、現行制度では法人税法上の業績連動給与に該当しない可能性があります。税務上の影響額を事前に試算しておくことが重要です。


次に、財務指標と非財務指標を組み合わせる場合の設計です。たとえば、報酬額の一部を営業利益やROEなどの財務指標に連動させ、別の一部をESG指標に連動させる設計が考えられます。この場合、それぞれの部分について税務上の取扱いを分けて検討する必要があります。


また、非財務指標の客観性も重要です。税務上の損金算入要件とは別に、役員報酬制度としての説明責任を果たすためには、指標の定義、測定方法、評価期間、達成度の判定方法を明確にしておく必要があります。


さらに、株主や投資家への説明も欠かせません。非財務指標を報酬に組み込む場合、その指標が企業価値向上とどのように結びつくのかを説明できるようにする必要があります。


中小企業にも関係する論点か

業績連動給与は、主に上場会社で活用される制度です。そのため、中小企業にとっては直接関係がないように感じるかもしれません。


しかし、役員報酬の損金算入という観点は、中小企業にとっても非常に重要です。

中小企業では、毎月同額の役員報酬である定期同額給与が中心になります。期中に役員報酬を増減させたり、利益が出たからといって役員賞与を支給したりすると、損金算入が認められないケースがあります。


また、近年では中小企業でも、従業員エンゲージメント、環境配慮、地域貢献、女性活躍、健康経営など、非財務的な目標を経営計画に取り入れる会社が増えています。

これらを役員報酬に反映したい場合には、税務上の取扱いを事前に確認しておく必要があります。特に、役員賞与や成果連動型の報酬を検討する場合には、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のどれに該当するのかを慎重に整理することが大切です。


今後の税制改正の可能性

ESGや人的資本経営の重要性が高まる中で、非財務指標を役員報酬に反映するニーズは今後も増えると考えられます。


一方、現行の法人税法上は、業績連動給与の算定基礎となる指標が財務指標や株価関連指標などに限定されているため、非財務指標を用いた報酬制度との間にギャップがあります。

この点については、各業界団体などからも見直しを求める意見が出されています。将来的には、一定の客観性や開示を前提として、非財務指標を業績連動給与の算定基礎に含める方向で税制改正が行われる可能性もあります。


ただし、現時点では、将来の改正を前提に損金算入できるものとして処理することはできません。制度改正の動向を注視しながら、現行法に基づいて慎重に判断する必要があります。


役員報酬制度を設計する際のチェックポイント

役員報酬制度を設計する際には、次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 報酬の種類は固定報酬か、賞与か、株式報酬か

  • 損金算入を前提とする報酬か、損金不算入を許容する報酬か

  • 算定指標は法人税法上認められる指標か

  • 財務指標と非財務指標をどのように組み合わせるか

  • 算定方法が客観的かつ明確に定められているか

  • 支給時期、支給額、算定方法について必要な手続を満たしているか

  • 開示が必要な会社の場合、開示内容と整合しているか

  • 税務上の影響額を事前に試算しているか


役員報酬は、経営インセンティブとして重要である一方、税務調査でも確認されやすい項目です。制度設計の段階から、会社法、金融商品取引法、法人税法、開示実務を横断的に確認することが重要です。


まとめ

ESGやサステナビリティへの関心が高まる中で、非財務指標を役員報酬に取り入れる企業が増えています。非財務指標を活用することは、中長期的な企業価値向上やステークホルダーへの説明という観点から有意義です。


一方で、法人税法上、損金算入が認められる業績連動給与の算定指標は限定されています。現行制度では、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標、一定の売上高指標などが中心であり、ESGなどの非財務指標は原則として対象外と考えられます。


そのため、非財務指標に基づいて算定される役員報酬については、損金不算入となる可能性があります。


役員報酬制度を設計する際には、経営上の目的だけでなく、税務上の損金算入可否を必ず確認することが大切です。財務指標と非財務指標を組み合わせる場合には、それぞれの報酬部分について税務上の取扱いを整理し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。


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