優良帳簿対応のシステム改修費は修繕費?資本的支出?電子帳簿保存法と法人税の取扱いを税理士が解説
- 安田 亮
- 2 日前
- 読了時間: 15分
こんにちは!代表の安田です。
電子帳簿保存法の改正により、会計システムや販売管理システムを電子帳簿保存に対応させる会社が増えています。
その中でよく相談を受けるのが、システム改修費の税務処理です。
特に、電子帳簿保存法上の「優良帳簿」に対応するため、既存の会計ソフトや基幹システムをバージョンアップした場合、その費用を修繕費として一括損金算入できるのか、それとも資本的支出として資産計上すべきなのかが問題になります。
結論から言うと、優良帳簿に該当させることを目的として行うシステム改修費は、原則として資本的支出に該当すると考えられます。
理由は、優良帳簿対応は、法令遵守のために必ず行わなければならない最低限の改修ではなく、過少申告加算税5%軽減措置を受けるための機能追加・機能向上と考えられるためです。
一方、消費税の軽減税率制度やインボイス制度への対応のように、法改正により事業遂行上必要となる最低限のシステム修正については、現在の効用を維持するための修正として、修繕費に該当する場合があります。
本日は、優良帳簿とは何か、システム改修費が資本的支出になるケースと修繕費になるケース、軽減税率・インボイス対応との違い、実務上の証憑管理のポイントを解説します。
優良帳簿とは
優良帳簿とは、電子帳簿保存法上、一定の高い保存要件を満たした電子帳簿をいいます。
単に会計ソフトを使って帳簿を作成しているだけでは、優良帳簿にはなりません。
優良帳簿に該当するためには、主に次のような要件を満たす必要があります。
訂正削除履歴が保存されていること
帳簿間の相互関連性が確認できること
取引年月日、取引金額、取引先により検索できること
日付や金額の範囲指定検索ができること
複数の記録項目を組み合わせて検索できること
システム関係書類等を備え付けていること
帳簿を画面や書面に整然かつ明瞭に出力できること
これらの要件を満たし、必要な届出を行うことで、後からその帳簿に関連する過少申告が判明した場合に、過少申告加算税が5%軽減される制度の適用を受けられる可能性があります。
優良帳簿と優良以外の電子帳簿の違い
電子帳簿保存制度では、電子データで保存する帳簿が「優良な電子帳簿」と「優良以外の電子帳簿」に分けられます。
優良以外の電子帳簿であっても、一定の要件を満たせば、帳簿を紙に印刷せず、電子データのまま保存できます。つまり、電子帳簿保存を行なうこと自体は、優良帳簿でなければできないわけではありません。
一方、優良帳簿は、通常の電子帳簿よりも厳しい要件を満たすものです。
その代わり、過少申告加算税5%軽減措置という税務上のメリットがあります。
ここが、システム改修費の税務処理を考えるうえで重要です。
優良帳簿対応は、電子帳簿保存をするために絶対必要な最低限の対応ではなく、より高度な保存要件を満たして税務上の軽減措置を受けるための対応です。
そのため、システム改修費が修繕費ではなく資本的支出と判断されやすくなります。
過少申告加算税5%軽減措置とは
過少申告加算税5%軽減措置とは、優良な電子帳簿として保存している帳簿に記録された事項に関し、後から修正申告や更正があった場合に、一定要件のもと過少申告加算税が5%軽減される制度です。
たとえば、税務調査で申告漏れが見つかった場合、通常であれば過少申告加算税が課されることがあります。
しかし、その申告漏れが優良帳簿に記録された事項に関するもので、制度の要件を満たしている場合には、過少申告加算税が5%軽減される可能性があります。
ただし、制度の適用を受けるためには、優良帳簿の要件を満たすだけでなく、所轄税務署長へ届出書を事前に提出する必要があります。
また、適用を受けようとする税目に係る特例国税関係帳簿について、一定の要件に従って保存している必要があります。会計ソフトを導入しただけ、電子保存しているだけ、という状態では軽減措置は受けられません。
システム改修費の税務処理の基本
法人がソフトウェアやシステムの改修を行なった場合、その支出が修繕費になるのか、資本的支出になるのかを判断する必要があります。
法人税法上、修繕費に該当すれば、原則として支出した事業年度の損金に算入できます。
一方、資本的支出に該当する場合には、既存ソフトウェア等の取得価額に加算するなどして資産計上し、その後、減価償却を通じて損金算入していくことになります。
この違いは、当期の法人税額に大きく影響します。
たとえば、数百万円のシステム改修費を修繕費として処理できれば、その期に一括で損金算入できます。しかし、資本的支出に該当する場合には、一括損金算入はできず、耐用年数に応じて償却する必要があります。
そのため、システム改修費については、改修内容を具体的に確認することが重要です。
修繕費になるシステム改修とは
修繕費とは、既存資産の通常の維持管理や、原状回復のための支出をいいます。
ソフトウェアの場合、プログラムの機能上の障害を除去するための修正や、現状の効用を維持するための修正であれば、修繕費に該当する可能性があります。たとえば、次のような支出です。
不具合を修正するためのプログラム修正
エラー解消のためのパッチ適用
既存機能が正常に動作しない場合の修正
法令改正により現行業務を継続するために必要な最低限の修正
セキュリティ上の脆弱性を解消するための修正
システム障害を防ぐための保守対応
これらは、新たな機能を追加するというよりも、現在使っているシステムの効用を維持するための支出と考えられます。そのため、修繕費として損金算入できる可能性があります。
資本的支出になるシステム改修とは
資本的支出とは、既存資産の価値を高めたり、耐久性を増したり、使用可能期間を延長したりする支出をいいます。
ソフトウェアの場合、新たな機能を追加する、機能を向上させる、仕様を大幅に変更するような改修は、資本的支出に該当する可能性が高くなります。たとえば、次のような支出です。
新しい検索機能を追加する
新たなデータ連携機能を追加する
レポート出力機能を大幅に強化する
ワークフロー機能を追加する
電子承認機能を追加する
操作履歴や訂正削除履歴の管理機能を新たに追加する
既存システムを大幅にバージョンアップする
これらは、現状維持ではなく、システムの機能を高める支出です。
そのため、修繕費ではなく資本的支出として資産計上する必要があります。
優良帳簿対応の改修費はなぜ資本的支出なのか
優良帳簿に対応するためのシステム改修費は、原則として資本的支出に該当すると考えられます。
理由は、優良帳簿対応が、通常の法令遵守のために必須の最低限対応ではないためです。
電子帳簿保存制度では、優良帳簿に該当しなくても、優良以外の電子帳簿として保存することができます。
つまり、優良帳簿対応をしなければ帳簿保存ができない、業務を継続できない、というわけではありません。
優良帳簿対応は、過少申告加算税5%軽減措置を受けるため、検索機能や訂正削除履歴などの高度な機能を備える対応です。
これは、既存システムの現状維持というより、新たな機能の追加や機能向上に当たると考えられます。そのため、優良帳簿対応のためのバージョンアップ費用や改修費は、原則として資本的支出に該当します。
軽減税率対応のシステム改修費との違い
ここで比較したいのが、消費税の軽減税率制度への対応です。
消費税の軽減税率制度が始まった際、POSレジシステム、受発注システム、経理システムなどを複数税率に対応させるために改修した会社が多くありました。
このような軽減税率対応のための必要最小限のシステム修正については、修繕費に該当する取扱いが示されています。
なぜなら、軽減税率制度への対応は、法改正後も現在の業務を適正に行ない、消費税の計算を正しく行なうために必要な修正だからです。
つまり、現在使用しているソフトウェアの効用を維持するためのものと考えられます。
一方、優良帳簿対応は、対応しなくても優良以外の電子帳簿として保存する選択肢があります。軽減措置を受けるための機能追加・機能向上という性格が強いため、軽減税率対応とは税務処理が異なります。
インボイス制度対応のシステム改修費
令和5年10月から始まったインボイス制度への対応でも、システム改修費が問題になりました。
インボイス制度では、適格請求書の記載事項、登録番号の管理、税率ごとの消費税額計算、仕入税額控除の判定などに対応するため、販売管理システムや会計システムを改修した会社が多くあります。
インボイス制度対応のシステム改修費についても、軽減税率制度への対応と同様に、法改正に伴い現在の効用を維持するために必要最小限の修正であれば、修繕費として処理できる可能性があります。
ただし、注意点があります。
インボイス対応と同時に、新しい分析機能、ワークフロー機能、データ連携機能、承認機能などを追加した場合には、その部分は資本的支出に該当する可能性があります。
インボイス対応だからすべて修繕費、とはいえません。
作業内容を分けて確認することが重要です。
作業指図書で改修範囲を明確にする
システム改修費を修繕費として処理する場合、改修内容が必要最小限であることを説明できる資料が重要です。特に、作業指図書、見積書、請求書、仕様書などで、改修部分を明確にしておく必要があります。
たとえば、消費税の軽減税率対応やインボイス対応のために修正した場合には、その改修が法改正対応に限定されていることを資料で示せるようにしておきましょう。
一方、優良帳簿対応については、検索機能や訂正削除履歴などの新機能追加・機能向上が含まれるため、資本的支出として整理するのが原則です。
ただし、一つの請求書の中に、修繕費部分と資本的支出部分が混在していることがあります。
このような場合には、作業内容ごとに金額を区分できる資料を残しておくことが大切です。
修繕費と資本的支出が混在する場合
システム改修では、修繕費部分と資本的支出部分が同時に発生することがあります。
たとえば、インボイス制度対応のための必要最小限の改修とあわせて、優良帳簿対応の検索機能を追加するケースです。
この場合、インボイス制度対応の必要最小限の修正部分は修繕費、優良帳簿対応の機能追加部分は資本的支出として区分する必要があります。
区分できない場合には、全体が資本的支出と判断されるリスクがあります。
そのため、システム会社へ見積りを依頼する段階で、作業項目ごとの金額を分けてもらうことが重要です。たとえば、次のように区分します。
軽減税率・インボイス対応に必要な修正
既存機能の不具合修正
優良帳簿対応の検索機能追加
訂正削除履歴管理機能の追加
帳簿間連携機能の追加
帳票出力機能の拡張
このように区分しておけば、税務処理の根拠を説明しやすくなります。
資本的支出にした場合の処理
優良帳簿対応のシステム改修費が資本的支出に該当する場合、その支出は原則として既存ソフトウェアの帳簿価額に加算するなどして資産計上します。
その後、ソフトウェアの耐用年数に応じて減価償却を行います。
自社利用ソフトウェアの場合、一般的には5年で償却するケースが多くなります。
ただし、既存ソフトウェアに対する資本的支出として処理する場合、既存ソフトウェアの残存耐用年数や改修内容に応じた処理を確認する必要があります。会計上と税務上で取扱いに差が出ることもあるため、金額が大きい場合には慎重に判断しましょう。
また、中小企業であっても、ソフトウェアの資本的支出を全額一括で損金算入できるわけではありません。少額減価償却資産の特例や一括償却資産の適用可否についても、取得価額や制度要件を確認する必要があります。
クラウド会計ソフトの利用料はどうなるか
最近は、自社でソフトウェアを保有せず、クラウド会計ソフトやSaaS型のシステムを利用する会社も増えています。
この場合、毎月の利用料やサブスクリプション料金は、通常、支払手数料や通信費などとして期間費用処理されることが多いです。
一方、クラウドサービスであっても、個別にカスタマイズ開発を依頼し、その機能を自社専用に利用する場合には、ソフトウェアの取得や資本的支出に該当する可能性があります。
たとえば、優良帳簿対応のために自社専用の検索機能やデータ出力機能を追加開発した場合です。
単なる月額利用料なのか、自社専用の機能開発費なのかで処理が変わります。
契約書や請求書で、利用料、初期設定費、カスタマイズ費、保守費を区分しておきましょう。
税務調査で確認されやすいポイント
システム改修費について税務調査で確認されやすいポイントは次のとおりです。
改修の目的
改修前後の機能比較
見積書の内容
作業指図書の有無
仕様書の内容
請求書の内訳
修繕費として処理した根拠
資本的支出に該当する機能追加が含まれていないか
法改正対応に限定された改修か
優良帳簿対応のための機能追加か
改修費の金額区分が合理的か
固定資産台帳への登録状況
減価償却計算の内容
特に、システム改修費は請求書の摘要が「システム改修費一式」となっていることが多く、後から内容を確認しにくい項目です。
税務調査で説明できるよう、改修時点で資料を残しておくことが重要です。
優良帳簿対応で確認したい実務フロー
優良帳簿対応のためにシステム改修を検討する場合、次の流れで確認するとよいでしょう。
まず、優良帳簿対応をする目的を明確にします。
過少申告加算税5%軽減措置を受けるためなのか、単に電子帳簿保存に対応するためなのかを整理します。
次に、現在のシステムがどの要件を満たしていて、どの要件を満たしていないかを確認します。
訂正削除履歴、相互関連性、検索機能、出力機能、システム関係書類の整備状況を確認します。
そのうえで、システム会社へ改修見積りを依頼します。
このとき、優良帳簿対応部分、法改正対応部分、不具合修正部分、保守部分を分けて見積りしてもらいましょう。
最後に、税務処理を検討します。
優良帳簿対応のための機能追加部分は資本的支出、法改正対応の必要最小限修正や不具合修正は修繕費となる可能性があります。
よくある誤解
優良帳簿とシステム改修費について、実務上よくある誤解を整理します。
電子帳簿保存法対応のシステム改修だからすべて修繕費
電子帳簿保存法対応であっても、優良帳簿対応のように新機能追加・機能向上に当たるものは、資本的支出になる可能性があります。
法改正対応なら必ず修繕費
法改正対応でも、必要最小限の修正を超えて新機能を追加した場合には、その部分は資本的支出になります。
請求書がシステム保守費になっていれば修繕費
税務上は、請求書の名目ではなく実際の作業内容で判断します。
優良帳簿にしないと電子保存できない
優良帳簿に該当しなくても、優良以外の電子帳簿として保存できる場合があります。
優良帳簿対応は、電子保存の最低限要件ではなく、加算税軽減措置を受けるための上位対応と理解しましょう。
実務上のチェックポイント
システム改修費を処理する際は、次の点を確認しましょう。
改修の目的は何か
優良帳簿対応のための改修か
法改正対応のための必要最小限の改修か
不具合修正や現状維持のための改修か
新たな機能追加や機能向上があるか
改修前後の機能比較資料があるか
作業指図書で改修範囲が明確か
見積書や請求書で作業内容ごとに金額が区分されているか
修繕費部分と資本的支出部分を分けられるか
資本的支出に該当する場合、固定資産台帳に登録しているか
減価償却計算を適正に行っているか
優良帳簿の届出書提出や保存要件も確認しているか
このチェックを行なうことで、システム改修費の税務処理の誤りを防ぎやすくなります。
まとめ
電子帳簿保存法の改正により、電子帳簿には「優良な電子帳簿」と「優良以外の電子帳簿」という区分があります。
優良帳簿は、訂正削除履歴の保存、帳簿間の相互関連性、検索機能の確保など、一定の要件を満たした電子帳簿です。
必要な届出を行なうことで、後からその帳簿に関連する過少申告が判明した場合に、過少申告加算税が5%軽減される制度の適用を受けられる可能性があります。
この優良帳簿に対応するため、既存システムをバージョンアップしたり、検索機能や訂正削除履歴管理機能を追加したりする場合、そのシステム改修費は、原則として修繕費ではなく資本的支出に該当すると考えられます。
理由は、優良帳簿対応をしなくても、優良以外の電子帳簿として保存する選択肢があり、優良帳簿対応は過少申告加算税5%軽減措置を受けるための新たな機能追加・機能向上と考えられるためです。
一方、消費税の軽減税率制度やインボイス制度への対応のように、法改正後も現在の業務を適正に継続するために必要な最低限のシステム修正については、現在使用しているソフトウェアの効用を維持するためのものとして、修繕費に該当する場合があります。
ただし、法改正対応とあわせて新機能追加や機能向上を行った場合には、その部分は資本的支出として区分する必要があります。
システム改修費の税務処理では、請求書の名目ではなく、実際の作業内容が重要です。
見積書、作業指図書、仕様書、請求書などで、修繕費部分と資本的支出部分を区分できるようにしておきましょう。特に「システム改修費一式」といった請求書だけでは、税務調査で説明が難しくなることがあります。
優良帳簿対応のためのシステム改修を行なう場合は、電子帳簿保存法の要件、過少申告加算税軽減措置の届出、システム機能、法人税上の資本的支出・修繕費の区分をセットで確認することが大切です。
電子帳簿保存法対応やシステム改修費の税務処理で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
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