【2026年改正】中小企業技術基盤強化税制の繰越控除は増資後も使える?中小企業者の判定時期を解説
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正により、研究開発税制の一つである「中小企業技術基盤強化税制」に、最大3年間の繰越税額控除制度が創設されました。
この制度は、研究開発に多額の費用を支出したものの、法人税額に対する税額控除の上限によって控除しきれなかった金額を、翌事業年度以後に繰り越せるというものです。
ここで気になるのが、税額控除を繰り越している間に、資本金の増加などによって中小企業者に該当しなくなった場合の取扱いです。
結論として、繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度の終了時に中小企業者に該当していれば、翌事業年度以後に中小企業者に該当しなくなった場合でも、一定の要件を満たすことで繰越税額控除を適用できます。
反対に、繰越額の発生年度に中小企業者に該当していなければ、その後に減資等によって中小企業者となったとしても、当初の年度について中小企業技術基盤強化税制を遡って適用することはできません。
本日は、令和8年度税制改正による繰越税額控除制度の仕組み、中小企業者の判定時期、増資・減資があった場合の取扱い、繰越控除の適用要件について解説します。
中小企業技術基盤強化税制とは?
中小企業技術基盤強化税制とは、一定の中小企業者等が試験研究を行なった場合に、その試験研究費の一定割合を法人税額から控除できる制度です。
例えば、新製品の開発や製造技術の改良などに係る一定の試験研究費が対象となります。
この制度を適用すると、試験研究費について通常の損金算入を行なうことに加え、所定の要件に基づいて法人税額から税額控除を受けることができます。
<制度の基本的な仕組み>
項目 | 内容 |
対象 | 青色申告書を提出する一定の中小企業者等 |
対象費用 | 法令上の要件を満たす試験研究費 |
税額控除率 | 基本12%。一定の場合には上乗せ措置あり |
税額控除の上限 | 原則として調整前法人税額の25% |
令和8年度改正 | 最大3年間の繰越税額控除制度を創設 |
今回の改正によって、法人税額が比較的少ない事業年度でも、研究開発投資による税額控除を翌期以後に活用できる余地が生まれました。
2026年改正で最大3年間の繰越税額控除が可能に
中小企業技術基盤強化税制では、試験研究費に一定の税額控除率を乗じて控除額を計算します。
しかし、法人税額に対する控除上限があるため、計算上の税額控除限度額を全額控除できない場合があります。
令和8年度税制改正では、このような控除しきれなかった金額について、翌事業年度以後、最大3年間繰り越せる制度が創設されました。
<計算例>
ある中小企業で次の金額となったとします。
項目 | 金額 |
試験研究費に基づく税額控除限度額 | 300万円 |
その事業年度の税額控除上限額 | 200万円 |
当期に控除できる金額 | 200万円 |
控除しきれなかった金額 | 100万円 |
この場合、控除しきれなかった100万円が「繰越税額控除限度超過額」となります。
改正後は、この100万円について、翌事業年度以後3年間の範囲内で、一定の要件を満たした場合に繰越控除を検討できます。
ただし、繰り越した金額が翌期に無条件で全額控除されるわけではありません。
繰越控除を利用する年度の試験研究費や法人税額などによって、実際に控除できる金額が変わります。
最も重要なのは「中小企業者の判定時期」
今回の改正で特に注意したいのが、繰越税額控除における中小企業者の判定時期です。
中小企業技術基盤強化税制は、基本的に中小企業者等を対象とした制度です。
そのため、繰越税額控除を利用するときに、中小企業者に該当していなければ適用できないのではないかと考えるかもしれません。
しかし、今回の取扱いでは、繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度の終了時に、中小企業者に該当しているかどうかを判定します。
繰越税額控除を実際に利用する事業年度の終了時については、改めて中小企業者に該当することまでは求められていません。
<判定時期の比較>
判定する事業年度 | 中小企業者に該当する必要 |
繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度 | 必要 |
翌事業年度(X+1期) | 不要 |
翌々事業年度(X+2期) | 不要 |
3年後の事業年度(X+3期) | 不要 |
この取扱いは、租税特別措置法関係通達42の4(3)-1「中小企業者であるかどうかの判定の時期」で明らかにされています。
つまり、「繰越額が発生した年度」と「実際に税額控除する年度」は分けて考える必要があるということです。
具体例①:増資によって中小企業者でなくなった場合
次のケースを考えます。
A社は中小企業技術基盤強化税制を適用しており、X期に繰越税額控除限度超過額100万円が発生しました。
その後、事業拡大に伴って増資を行い、X+1期の終了時には中小企業者に該当しなくなりました。
<A社の状況>
事業年度 | 中小企業者の該当性 | 繰越税額控除 |
X期 | 該当する | 控除しきれない100万円が発生 |
X+1期 | 該当しない | 適用可能性あり |
X+2期 | 該当しない | 適用可能性あり |
X+3期 | 該当しない | 適用可能性あり |
この場合、A社はX期の終了時に中小企業者に該当しているため、繰越額の発生年度における要件を満たしています。
そのため、X+1期以後に増資によって中小企業者に該当しなくなったとしても、それだけを理由に、X期に発生した繰越税額控除の適用が否定されるわけではありません。
もちろん、後述する試験研究費の増加要件や税額控除の上限など、繰越適用年度に必要なその他の要件を満たす必要があります。
中小企業者でなくなっても、過去に発生した繰越税額控除限度超過額が直ちに失効するわけではないという点が重要です。
具体例②:後から中小企業者になった場合は?
反対に、X期の終了時には中小企業者に該当していなかったものの、X+1期に減資を行い、中小企業者に該当するようになった場合を考えます。
<B社の状況>
事業年度 | 中小企業者の該当性 | 取扱い |
X期 | 該当しない | 中小企業技術基盤強化税制の対象外 |
X+1期 | 該当する | X期についての繰越額は発生しない |
X+2期 | 該当する | X期に係る繰越控除はできない |
X+3期 | 該当する | X期に係る繰越控除はできない |
この場合、X期に中小企業者でなかったため、そもそもX期について中小企業技術基盤強化税制を適用できません。
したがって、後から中小企業者になったとしても、X期について同税制の繰越税額控除限度超過額が生じることにはなりません。
なお、X期に別の研究開発税制を適用できるか、X+1期以後に新たに中小企業技術基盤強化税制を適用できるかは、それぞれ別の問題です。
ここで重要なのは、中小企業者に該当するようになった年度に、過去の年度の適用資格まで遡って取得できるわけではないという点です。
繰越控除を使う年度には試験研究費の増加要件がある
中小企業者の判定時期に加えて、もう一つ重要なのが、繰越税額控除を実際に利用する事業年度の試験研究費です。
繰越税額控除制度は、適用しようとする事業年度において、「試験研究費の額 > 比較試験研究費の額」となる場合に適用できます。
「比較試験研究費」とは、原則として、前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額を基に算定する平均額です。
つまり、過去の研究開発費の水準と比べて、当期の研究開発費が増加していることが必要になります。
<試験研究費による判定例>
当期の試験研究費 | 比較試験研究費 | 増加要件 |
1,200万円 | 1,000万円 | 満たす |
1,000万円 | 1,000万円 | 満たさない |
900万円 | 1,000万円 | 満たさない |
このように、当期の試験研究費と比較試験研究費が同額であっても、増加要件を満たしません。あくまで「超えていること」が必要です。
また、過去の試験研究費の算定や比較試験研究費の計算には、法令上の定義や調整があるため、実際の申告ではその内容を確認する必要があります。
試験研究費が増加していない年度はどうなる?
例えば、X期に繰越税額控除限度超過額が生じたものの、X+1期では試験研究費の増加要件を満たさなかったとします。
この場合、X+1期では繰越税額控除を適用できません。
しかし、X+1期で控除できなかったからといって、直ちに繰越額がすべて失効するわけではありません。
翌々年度以後も、最大3年間の繰越期間内であれば、改めて要件を満たした事業年度に適用を検討できます。
<繰越控除の適用イメージ>
事業年度 | 試験研究費の増加要件 | 繰越控除 |
X期 | ― | 繰越額が発生 |
X+1期 | 満たさない | 適用不可 |
X+2期 | 満たす | 適用可能性あり |
X+3期 | 満たす | 適用可能性あり |
X+4期 | ― | X期分の繰越期間外 |
ここで注意したいのは、控除を利用できなかった年度があっても、3年間という繰越期間が延長されるわけではないことです。
繰越額がいつ発生したのかを管理し、適用可能な期間を確認する必要があります。
一般型の研究開発税制との併用はできない
繰越税額控除制度では、ほかの研究開発税制との適用関係にも注意が必要です。
特に、一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)を適用する事業年度では、中小企業技術基盤強化税制の繰越税額控除を利用できません。
例えば、過去に中小企業技術基盤強化税制による繰越税額控除限度超過額が発生した会社が、その後、中小企業者に該当しなくなった場合を考えます。
この会社が繰越適用年度に一般型を選択する場合、過去の中小企業技術基盤強化税制に係る繰越控除は利用できません。
<適用関係の整理>
繰越適用年度の状況 | 繰越控除 |
一般型を適用しない | その他の要件を満たせば適用可能 |
一般型を適用する | 適用不可 |
試験研究費の増加要件を満たさない | 適用不可 |
中小企業者でなくなった | それだけでは適用不可とならない |
したがって、当期の一般型による税額控除と、過去に発生した繰越税額控除のどちらを利用するか、税務上の有利不利を検討する必要が生じる場合があります。
その際には、当期の税額控除額だけでなく、繰越額の残高や残存期間にも注意が必要です。
中小企業者かどうかの判定には資本金以外の要件もある
中小企業技術基盤強化税制の適用に当たっては、そもそも中小企業者に該当するかどうかを確認する必要があります。
税制上の中小企業者は、原則として資本金または出資金の額が1億円以下の法人を基本としています。
しかし、資本金が1億円以下であれば必ず対象となるわけではありません。
例えば、次のような要件にも注意が必要です。
<主な確認事項>
判定項目 | 内容 |
資本金・出資金 | 原則として1億円以下か |
大規模法人との資本関係 | いわゆる「みなし大企業」に該当しないか |
所得金額 | 適用除外事業者に該当しないか |
青色申告 | 青色申告書を提出しているか |
グループ通算制度 | 通算法人に関する特別な判定が必要か |
例えば、資本金が5,000万円の法人でも、大規模法人による株式保有の状況によっては、税制上の中小企業者に該当しない場合があります。
また、前3事業年度の所得金額の平均が年15億円を超える法人などは、適用除外事業者となります。
今回の繰越税額控除における中小企業者判定も、こうした要件を踏まえて行う必要があります。
特に、増資だけでなく、株主構成の変更などによって中小企業者への該当性が変わる可能性があることに注意しましょう。
繰越税額控除を受けるための申告書添付にも注意
中小企業技術基盤強化税制の繰越控除では、税額計算だけでなく、確定申告書の添付書類も重要です。
国税庁の案内では、繰越税額控除限度超過額が生じた事業年度以後の各事業年度について、所定の明細書を添付することが求められています。
ここで重要なのは、実際に繰越税額控除を利用しない事業年度についても、明細書の添付が必要になる点です。
例えば、X期に繰越額が発生し、X+1期では試験研究費の増加要件を満たさなかった場合でも、繰越額を翌期以後に引き継ぐための明細書を確認する必要があります。
<申告書作成時の確認事項>
項目 | 確認内容 |
繰越額の発生年度 | いつの事業年度に発生したか |
中小企業者の判定 | 発生年度末に要件を満たしたか |
繰越額の残高 | 過年度から正しく引き継いでいるか |
比較試験研究費 | 当期の試験研究費が超えているか |
一般型との関係 | 一般型を適用していないか |
控除上限 | 当期の法人税額に対する上限を確認したか |
申告書への添付 | 所定の明細書を添付したか |
なお、繰越控除を実際に受ける事業年度には、控除対象となる繰越税額控除限度超過額や控除額の計算に関する明細書も必要です。
前期の申告書から繰越額を自動転記しただけで、適用要件の確認が完了するわけではありません。
経理・税務担当者向けチェックリスト
研究開発税制の繰越控除を利用する場合には、次の項目を確認しておくとよいでしょう。
確認項目 | 内容 |
対象制度 | 中小企業技術基盤強化税制か |
青色申告 | 適用に必要な申告要件を満たすか |
発生年度の中小企業者判定 | 年度末に中小企業者に該当したか |
増資・減資 | 判定年度への影響はないか |
株主構成 | みなし大企業に該当しないか |
繰越対象額 | 税額控除上限による未控除額か |
繰越期間 | 3年間の範囲内か |
試験研究費 | 当期の研究費を正しく集計したか |
比較試験研究費 | 当期の試験研究費が上回っているか |
一般型 | 同一年度で併用していないか |
法人税額 | 税額控除の上限を確認したか |
申告書 | 繰越額に関する明細書を継続して添付したか |
特に研究開発を積極的に行なっている企業では、事業の成長に伴って増資や資本政策の変更が行われることがあります。
そのような場合でも、過去に発生した繰越税額控除については、発生年度の判定状況を確認することが重要です。
よくある質問
Q. 中小企業技術基盤強化税制の繰越控除は何年間利用できますか?
A. 令和8年度税制改正により、控除しきれなかった所定の税額控除限度超過額について、翌事業年度以後最大3年間の繰越控除制度が設けられました。ただし、各事業年度における適用要件を満たす必要があります。
Q. 繰越期間中に資本金が1億円を超えた場合はどうなりますか?
A. 繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度の終了時に中小企業者に該当していれば、その後に中小企業者に該当しなくなっても、一定の要件を満たすことで繰越控除を利用できます。
Q. 繰越額が発生した年度は中小企業者でなかったものの、翌期に減資した場合は?
A. 当初の事業年度について中小企業技術基盤強化税制を適用できなかった場合には、後から減資等を行なっても、その年度に同税制の繰越税額控除限度超過額が生じることにはなりません。
Q. 試験研究費が前年と同じ金額でも繰越控除を利用できますか?
A. 試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える必要があります。したがって、前年との比較だけで判断するわけではありません。比較試験研究費の額を適切に計算し、当期の試験研究費がその金額を超えているか確認する必要があります。
Q. 一般型の研究開発税制と繰越控除を同じ年度に適用できますか?
A. できません。一般試験研究費の額に係る税額控除制度を適用する事業年度では、中小企業技術基盤強化税制に係る繰越税額控除制度を適用できません。
Q. 繰越控除を使わない年度でも申告書への明細書添付は必要ですか?
A. 必要です。繰越税額控除限度超過額が生じた事業年度以後、繰越控除を利用しない年度も含めて所定の明細書を添付する必要があります。
まとめ
令和8年度税制改正により、中小企業技術基盤強化税制に最大3年間の繰越税額控除制度が創設されました。
今回の重要なポイントは次のとおりです。
中小企業技術基盤強化税制で控除しきれなかった所定の金額について、最大3年間の繰越控除が可能
中小企業者に該当するかどうかは、繰越額が発生した事業年度の終了時に判定する
その後に増資等で中小企業者に該当しなくなっても、繰越控除を適用できる場合がある
反対に、発生年度に中小企業者でなければ、後から中小企業者になっても遡って適用できない
繰越控除を利用する事業年度には、試験研究費の増加要件を満たす必要がある
一般型の研究開発税制を適用する事業年度では、繰越控除を利用できない
控除を利用しない事業年度も含めて、所定の明細書を継続して添付する必要がある
中小企業者の判定では、資本金だけでなく、大規模法人との資本関係や適用除外事業者への該当性も確認する必要がある
特に重要なのは、「繰越控除を利用する年度に大企業となっているから、過去の中小企業技術基盤強化税制の繰越額を利用できない」とは限らないという点です。
判定するのは、あくまで繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度の終了時です。
一方、繰越控除を利用する年度については、試験研究費の増加要件や一般型との併用制限など、別の要件を満たす必要があります。
研究開発税制の適用に当たっては、試験研究費の集計だけでなく、繰越額の発生年度、中小企業者の判定時期、申告書の継続的な添付管理まで確認することが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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