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パーシャルスピンオフ税制とは?令和8年度改正で事業ポートフォリオ組替えにも活用しやすく

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 3 日前
  • 読了時間: 8分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正では、パーシャルスピンオフ税制の見直しが行なわれました。従来は、スタートアップ創出を促進する観点から、切り出す事業について「開始から10年以内」などの新事業要件が設けられていましたが、この要件が適用上のハードルになっているとの指摘がありました。


今回の改正では、この新事業要件が廃止され、コア事業に経営資源を集中させるための事業ポートフォリオの組替えにも活用できるよう、制度の使い勝手が改善されています。


経済産業省も、2026年5月22日に「スピンオフの活用に関する手引」を更新し、令和8年度改正のポイントを周知しています。


本日は、公認会計士の視点から、パーシャルスピンオフ税制の概要、改正内容、実務上の注意点を整理します。


1. パーシャルスピンオフ税制とは

パーシャルスピンオフ税制とは、親会社が完全子法人の株式の一部を保有したまま、その子会社株式を株主に現物分配する組織再編について、一定の要件を満たす場合に、再編時の譲渡損益への課税を繰り延べる制度です。


通常、親会社が子会社株式を分配する場合には、税務上、譲渡損益が認識される可能性があります。しかし、産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定を受けるなど、一定の要件を満たすパーシャルスピンオフについては、税制適格として取り扱われ、再編時の譲渡損益に対する課税が繰り延べられます。


この制度のポイントは、親会社が子会社株式をすべて手放すのではなく、20%未満の株式を残すことができる点です。完全に切り離すスピンオフに比べて、段階的な独立や、一定の関係維持を前提とした事業再編に活用しやすい仕組みといえます。


2. 令和8年度改正のポイント

令和8年度改正で特に重要なのは、次の2点です。


(1)新事業要件の廃止

改正前は、パーシャルスピンオフ税制の活用場面として、スタートアップ創出が強く意識されていました。そのため、切り出す事業について「開始から10年以内」などの新事業要件が設けられていました。

しかし、実務上は、この新事業要件が制度利用のネックになっていました。大企業が既存事業の一部を切り出し、事業ポートフォリオを再構築したい場合、新事業要件を満たせないケースが少なくなかったためです。

今回の改正により、新事業要件が廃止され、制度の適用可能性が広がりました。


(2)コア事業への集中を目的とする事業ポートフォリオ組替えにも対応

改正後は、コア事業以外を切り出し、親会社が経営資源を集中すべきコア事業に専念するための事業ポートフォリオ組替えにも活用しやすくなりました。

近年、上場会社には、資本コストや株価を意識した経営、事業ポートフォリオの見直し、低収益事業の整理、経営資源の最適配分が強く求められています。

パーシャルスピンオフ税制の見直しは、こうした企業価値向上に向けた事業再編の選択肢を広げるものといえます。


3. 税制適格となる場合の効果

パーシャルスピンオフが税制適格となる場合、再編時に生じる譲渡損益への課税が繰り延べられます。これは、企業にとって大きなメリットです。事業再編そのものは中長期的な企業価値向上を目的とする場合でも、再編時に多額の税負担が発生すると、実行のハードルが高くなります。


税制適格による課税繰延べが認められれば、企業は税負担を理由に事業再編を先送りするのではなく、事業戦略・資本政策・株主価値向上の観点から、より柔軟にスピンオフを検討しやすくなります。


4. 改正後の主な要件

今回の改正では、事業再編計画認定要件などが見直されています。主なポイントは次のとおりです。


<従業者継続要件>

完全子法人の認定株式分配の直前における従業者のおおむね80%以上が、その完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれている必要があります。

これは、形式的に株式を分配するだけでなく、切り出される事業が実体をもって継続することを求める趣旨と考えられます。


<事業再編計画認定要件>

現物分配法人と完全子法人について、事業の成長発展が見込まれるものとして、一定の要件を満たし、事業再編計画の認定を受ける必要があります。


具体的には、親会社側では経営資源を集中させるコア事業が特定され、その事業が引き続き行われることが見込まれる必要があります。また、子会社側では、主要な事業がコア事業以外のものであり、その事業が子会社で継続されることが見込まれる必要があります。

さらに、認定株式分配により、親会社・子会社それぞれの事業について、生産性向上に関する目標達成が見込まれることも求められます。


5. 生産性向上に関する目標も重要

事業再編計画認定要件では、生産性向上に関する目標達成が見込まれることが求められます。


たとえば修正ROICの2%ポイント改善など、一定の指標改善が必要とされています。

その他にも、固定資産回転率や従業員一人当たり付加価値額など、生産性向上を示す指標が用いられることがあります。


ここで重要なのは、パーシャルスピンオフが単なる組織再編ではなく、事業の成長・生産性向上につながる再編であることを説明できるかです。


税制適格を目指す企業は、再編後の事業計画、収益性、資本効率、人員体制、投資計画などを整理し、認定要件を満たす説明資料を準備する必要があります。


6. 事業ポートフォリオ改革との関係

今回の改正により、パーシャルスピンオフ税制は、事業ポートフォリオ改革の実務でより注目される可能性があります。たとえば、次のようなケースで活用が考えられます。

  • 親会社が中核事業に経営資源を集中したい場合

  • 非中核事業を独立させ、成長機会を広げたい場合

  • 事業ごとの資本コスト・収益性を明確にしたい場合

  • 外部資本や市場評価を活用して子会社の成長を促したい場合

  • 親会社と子会社で異なる成長戦略を描きたい場合


事業ポートフォリオ改革では、事業売却、会社分割、子会社上場、完全スピンオフなど複数の選択肢があります。パーシャルスピンオフは、その中間的な選択肢として、親会社が一定の関係を維持しつつ、子会社の独立性を高める手法として位置づけることができます。


7. 実務で注意すべきポイント

(1)税制要件だけでなく、事業戦略との整合性を確認する

税制適格を満たすことは重要ですが、それだけで再編を行うべきではありません。スピンオフ後に、親会社・子会社それぞれがどのように企業価値を高めるのかを明確にする必要があります。


(2)事業再編計画の認定準備を早めに進める

パーシャルスピンオフ税制の適用には、産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定が関係します。認定に必要な資料、スケジュール、社内意思決定を早めに整理しておくことが重要です。


(3)取締役会議事録などの書類整備

経済産業省の手引では、制度適用時に必要な書類に関するQ&Aも更新されており、添付書類の例として、取締役会で決議した際の議事録等が示されています。

そのため、取締役会での議論内容、再編目的、コア事業の特定、子会社事業の継続見込み、生産性向上目標などについて、後から説明できる形で証跡を残すことが重要です。


(4)少数株主・投資家への説明も重要

スピンオフは株主構成や事業構造に大きな影響を与えるため、投資家への説明も重要です。

特に、上場会社がパーシャルスピンオフを行う場合、投資家は次の点に注目します。

  • なぜその事業を切り出すのか

  • 親会社に残るコア事業は何か

  • 子会社の成長戦略は何か

  • 親会社が20%未満の株式を残す理由は何か

  • 再編後の資本効率や株主還元方針はどうなるか

税務メリットだけでなく、企業価値向上のストーリーとして説明することが求められます。


8. 実務チェックリスト

パーシャルスピンオフを検討する企業は、次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 切り出す事業がコア事業以外として整理できるか

  • 親会社に残すコア事業を明確に特定できているか

  • 完全子法人の主要事業が再編後も継続される見込みがあるか

  • 従業者のおおむね80%以上が子会社業務に引き続き従事する見込みがあるか

  • 生産性向上に関する指標改善を説明できるか

  • 修正ROIC、固定資産回転率、従業員一人当たり付加価値額などの指標を試算しているか

  • 事業再編計画の認定に必要な資料を整理しているか

  • 取締役会議事録など、意思決定の証跡を残しているか

  • 投資家向けに、事業ポートフォリオ改革の目的を説明できるか

  • 税務・会計・法務・IRを横断したプロジェクト体制を整えているか


まとめ

令和8年度税制改正により、パーシャルスピンオフ税制は大きく使いやすくなりました。従来ネックとなっていた新事業要件が廃止され、スタートアップ創出だけでなく、コア事業に経営資源を集中するための事業ポートフォリオ組替えにも活用できるようになっています。

税制適格となる場合には、再編時の譲渡損益への課税が繰り延べられるため、企業にとっては事業再編を進めるうえで有力な選択肢となります。


もっとも、制度の適用には、産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定、従業者継続要件、生産性向上目標、取締役会議事録等の書類整備など、慎重な準備が必要です。


パーシャルスピンオフは、単なる税制優遇ではなく、企業価値向上に向けた事業ポートフォリオ改革の手段です。企業は、税務・会計・法務・IRを横断して検討を進め、再編の目的と効果を投資家にも分かりやすく説明できる体制を整えることが重要です。


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